(終)12.活動は人それぞれ
「……あ?」
「取り敢えず落ち着け」
「むり」
島のダンジョン災害処理を完璧に終え、夕方前に戻って来た龍刃。今日は宣言通りツバキを抱く気満々なので、上機嫌。
もういっそ犯罪者予備軍かもしれない。
その前にダンジョン対策本部に用事があり、一旦本部へ。
いつも通り足を踏み入れたら……一斉に集中して来る視線。見られることは今更だが、何やら不安と同情と大部分の恐怖が映る無数の目。
なんだろうと近くの知り合いハンターに目を向けると、数秒程目を泳がせてから口を開いた。
「ゆるねこ氏、麻薬所持で捕まったって」
……っと、云う訳で。
「誰がゆるねこ嵌めた。殺す」
ブチギレである。
「待て待て。ゆるねこ氏は否認してるし、警察も龍刃の彼女って知ってるから……まあお前ならどうにでも出来るだろ」
「そこじゃねえよ。嵌めた奴誰だよ殺す」
「殺すのはやめとけ。怒るのは分かるけど、先ずは揉み消しだろ? な?」
「揉み消して殺す」
「助けてゆるねこ氏ーっ!!」
龍刃の殺害宣言が本気だと分かったのだろう。
例えば他の者が宣言しても、まあまあ落ち着け?な?と宥めていれば苛立ちを落ち着かせた筈。咄嗟に出てしまった言葉として。
しかし龍刃は違う。やると言ったら必ずやる。例外なく。有言実行。伊達に『外道』と認識されていない。一切の容赦が無い。
ひっ……!
限界。と漏れ出した殺気に顔面蒼白で後退る周囲は、改めて日本トプラン――世界ランク唯一の一桁ソロで在る『龍刃』の恐ろしさを身を以て理解。危険過ぎる。
各企業だけでなく各国政府からゴマをすられるのも頷けるそれは、ひとりで国ひとつを蹂躙可能な力。人間兵器。
なんでこんな超危険人物にあんな優しいのんびり彼女ができるんだよ。顔か?顔なのか?
あの良い子なゆるねこ氏が顔で選ぶ訳ないか。え、じゃあ中身?
くそ外道だから中身は無いな。有り得ない。やっぱ洗脳か……
ちょっと待て。麻薬所持って、こいつが薬漬けにしたんじゃ……通報するべきか……?
恐怖による錯乱かもしれない。
あらぬ疑いを掛けてしまう気持ちは当然のことで、同時に薬漬けは違うとも分かっている。しかし、だとしたら龍刃のどこに惹かれたのか……理解が出来ない。
それ程に『外道』と認識されている龍刃は、取り敢えず情報収集をとボードを開く。乱立する『祝!ごみねこ逮捕!』のスレはリアコ勢の仕業だと即断。
とある確信の予想に更に殺気が濃くなる。
「あー……はいはい、なるほどなー。リアコがやらかした訳ねー。完全に理解した。誰だよ特定して殺す」
だめだ、これ。止められない。まじもう手に負えない。バカかよリアコ共。死にてーなら勝手に死ねよ。
あーーーブチギレ龍刃くっそ怖ぇーーー。
この場に居るハンターと職員は全てを放棄した。
そもそも。今、現在。この本部に居る全員が束になって掛かっても勝てないので、最初からほぼ放棄はしていた。言葉での説得しかする気がなかったし、不可能だとも確信していた。
ふつうに、むり。しにたくない。
すっ、すっ。なにやらボードを操作し続ける龍刃は徐々に眉を寄せ始め……
不意――に、何かに小さく反応。それから1分程ボードを凝視し、
「生配信する」
その言葉を残してから『転移』を発動。本部への用事は、既に思考の外である。
張り詰めた空気が緩んだらしく、漸く息がし易くなりその場に蹲るハンター達。背中に滲む嫌な汗には気付かないフリ。
呼吸を落ち着かせてから立ち上がり、「生配信?」と龍刃のチャンネルへ接続する。待機画面。タイトルは『重大発表』――それだけ。
この1分で既に億を越えたリスナーが待機しているので、改めて『龍刃』の影響力に感嘆してしまった。
そんな、世界中から注目されている龍刃は……
「…………あ。始まってんじゃん。よー、お前等元気? 俺は元気じゃねえ」
:だろうな
:彼女大丈夫?
:警察何やってんの冤罪だろ
「は? 何。俺の彼女の事分かってますアピール? 何マウントだよ」
:今そういうのいいんだわ
:彼女心配
:配信してないで揉み消し行けよ
:どうせリアコの仕業
:顔バレしちゃったか
「せーかい。情報によると、リアコが彼女のバッグに麻薬放り込んで通報」
:リアコきっしょ
:スレ乱立キチ過ぎ吐いた
:ガチ冤罪じゃん
「リアコすんの勝手だけどよ、冤罪でっち上げるクズに俺が惚れると思ってんの? 今まで何も思わなかったけどまじで無理。キショい。リアコ、グロい。生理的に無理」
:あーあ
:ボロクソメシウマ
:龍刃スレでリアコキチりだして吐きそう
:放置して頂いてた側のくせにな
:話通じないから仕方ないけど、彼女できても放置してたことには責任感じとこうな
「それは正論。俺の落ち度。まじ彼女に申し訳ねえ」
:こーゆーとこは素直
:だから嫌いになれない
:情報源は?
「“上”」
:うえ?
:政府?
:システムか?
:メルヴィンきちゃ
「一応ノーコメント」
:システムて
:彼女何者
:冤罪確定
:メルヴィンまだブロックされてんの不覚にも笑った
:【※速報】龍刃彼女、無罪確定
:真面目な話題は確定してから速報流す職人、安定の信頼感
:システムが情報源ならすぐ解放されるか
:良かった
「って、思うじゃん? 裁判無しの終身刑確定したわ」
:は???
:なんで
:昼逮捕されて即日?
:麻薬所持にしちゃ重すぎ理解不能
:龍刃への人質?
:人質を収監するとかイミフ
「ボードの個人情報、照会出来なかったから『システム』改竄で危険人物認定。終身刑」
:あーあ
:警察バカなん?
:俺でも照会出来ない理由わかる
:ソレしかないんよ
「いや普通に考えてさ。警察が照会出来ねえって、もっと“上”……あーもうハッキリ言うわ。『イグドラシル・システム』の超特別保護下にあるって分かんだろ。改竄出来ねえんだからさ。バカかよ」
:バカすぎワロエナイ
:彼女可哀想すぎ泣いた
:たぶんリアコは数年ぶち込もうとしたんだろうな
:今頃震えてそう
:お前らリアコに良心あると思ってんの?
:リアコアボンはよ
「俺が消す」
:証拠残すなよー
:隠密スキル取得推奨
:でもさ、所持は罪なんだよね
:↑リアコ黙れ
「『所持は罪』って、それで冤罪被せられて俺の彼女人生ぶっ潰されてんだけど。法律は理解してんよ。でも冤罪被害者救えねえならクソじゃん。言っとっけど、彼女『状態異常無効』スキル持ちで麻薬やっても意味ねえから。金だってこの前の『若返りポーション』で、んな端金稼ぐ必要もねえんだわ。あー……くっそムカつく」
:無表情こわ
:ヒュンッてなた
:状態異常無効うらやましぬ
:【※速報】警察・裁判所・刑務所、上へ下への大混乱
:そらそう
:龍刃ブチギレ&システム保護下の重要人物ブタ箱ぶち込めばなー
:どこにもソース無いんだが、速報職人の交友関係どうなってんの?
:転移で脱獄は?
:↑逮捕時は真っ先にスキル無効化アイテムつけられる
:↑把握
:法的手続きや揉み消しは?
「あ?法的手続き? やったわ、クソが。裏でも金積んで揉み消そうとしたわ。そしたら『システム改竄出来る人間を野放しに出来ない』っつわれたんだよ。誰も改竄出来ねえよ。バカかよ。俺の彼女、この世界で唯一『システム』っつう“神様”が顔色窺って気を使ってるお気に入りなんだよ。情報、俺に送られて来た程にな。保護の理由は察しろ」
:堂々と金積もうとしたの言ってんのほんと外道
「はあ? 俺が外道なんて今更じゃん。あーでも、前チームに裏切られた時に死に掛けて拍車掛かった〜ってのもあんじゃね? 知らんけど。――ってな訳で、はい。これ、彼女に冤罪掛けた女の個人情報。配信終了まで表示しとくから好きに使え」
:wwwwww
:不謹慎だけど草
:龍刃が彼女の逮捕知って30分で特定した弁護士バケモンかよ
:いや待てさっき情報源システムっつってたぞ
:あっ……(察し)
:これもしかしてシステムもブチギレ?
:リアコ終わったな
:勤務先にここのうらる送っといた
:↑しごでき
「で。タイトルの重大発表なんだけど、ハンター引退するわ。以上」
:ふぁ!?
:引退!?ガチで言ってる!?
:リアコしねーーー!!!
:待てお前引退したらランクどうなんの!?
:ランク抜けるだけだよな!?
:ハンター活動もしないとか言わないよな?ガチ勢だもんな?な?
:速報職人出て来ないから瀕死
:引退…引退って、なんだっけ…
:ガチならせめてこのチャンネル残してくれ!
:速報職人まだか!?しっかりしろ速報職人!!
「まあ引退っつっても『龍刃』としての配信やめて、仕事は後継者指名しただけ。そんでも出資関連は続けっから、各企業は安心しろなー。ダンジョンも個人的に潜るし、どっかで逢えるかもな。履歴残んねえように未発見や未登録ダンジョンしか潜んねえけど。あ。買った無人島、会社の名義に変えといたから。売るなりリゾート開発するなり好きにどーぞ。そこ捜しても俺等居ねえし」
:ハンター活動続けるなら安心した
:活動はするけどこの配信最後に表に出ない感じか
:残当
:【※速報】龍刃、ハンター引退
:速報職人生きてた良かった
:【※速報】龍刃引退宣言により各国政府緊急会議
:だから速報職人の交友関係どうなってんだってばよ
:そりゃ世界ランク唯一の一桁ソロの引退は世界規模の影響出るよな
:オレーグもまだソロ宣言してないしな
:引き込みたい国とか
「――ってことで、今から刑務所襲撃して彼女と行方眩ますわ」
:思考斜め上過ぎぃっ!!
:頭オカシイ
:これが龍刃なんだよなあ
:刑務所守り固め始めそう
:安定の龍神様で謎の安堵
:【※速報】関東の各刑務所、付近の警察官配備開始
:即断草
:声明出すまで待ってくれって連絡するのが先だろ
:連絡してるけど無視かミュートしてると予想
:ブチギレ龍刃ならやってそう
:彼女どこに収監されてるか知ってるの?
「収監先?知らね。近場から襲撃する。その序でに犯罪者溢れても知らね」
:東京の治安終わるから待って頼む
:お前も犯罪者になるぞ
「いや、だって『システム』バチギレしてっから。実行しねえと俺が『システム』から殺される。まあ指示される前に襲撃するつもりだったし、名分出来てラッキーっての? ははっ!」
:はは!じゃねえ
:待って本当に待って
:襲撃止めないけど犯罪者溢れさせるのはやめてくれ
:【※速報】各刑務所に自衛隊派遣
:自衛隊きちゃ……
:龍刃、1人で国潰せる人間兵器だからなあ…
:彼女の為に国敵に回してんの解釈一致で推せるんよ(地方から高みの見物)
:龍刃最高!
:クール!
:俺は龍刃を支持する!
:喜んでるのアメリカ人だろ
:アメリカ人ってこういうの好きそう
:日本人だが俺も好き
:中国人の私も好きだよ
:襲撃生配信全裸待機
「重要施設への襲撃の指南になっから襲撃生配信無理。流石に『システム』からペナルティ食らうだろうし、チャンネル残しとけば過去動画で収益上がるしな。幾ら俺が今から犯罪者になるっても、魔物災害起きるんだから皆魔物の弱点の予習復習してえだろ」
:チャンネル残してくれるの助かる
:人生の栄養
:さらっと魔物災害確定されたの恐怖
:今更
「最後にー。俺の彼女に冤罪被せたクソ女、死ね。手前ぇの所為で日本トプラン引退して魔物災害の死者数爆上がりする事責められながら、寿命まで後ろ指指されて存分に苦しんで独り寂しく死ね。――あ。そうだ、忘れてた。この『龍刃』っての、ロープレなんだよねー。僕のブランディング、凄く上手だったでしょ。褒めてーっ」
:!!??!?
:だれだおまえ!!!
:きっっっしょ!!!
:とりはだやっばきっしょ
:むりむりむりむり
:何その笑顔まじ心臓に悪い
:俺達の龍刃を返せ(血涙)
:顔面国宝過ぎてキショい
:アイドル系ハンターよりアイドルな笑顔やめろ
:キラッッッキラエフェクト標準装備やめてクレメンス
:目ぇ潰れそうなんでロープレ戻ってむり
:彼女ちゃんこれ知ってて付き合ったの?寛容過ぎて涙出る
:コレに甘えられて普通に甘やかしてるだろう彼女ちゃん、実質人類最強説
:これなら甘えん坊っての納得してしまう…きっも…
:むり吐いたむり顔が良いむり
:かおがいい
:すきです。かおが。
:最後の最後に性癖歪まされた許さない
「あっはははは! あー……ハァ。今の皆の顔、見たかったなー。――ん。それじゃあ彼女迎えに行くねー。20分後に配信終了の設定しとくから、最後に馴れ合っときなよ。じゃーね、今まで楽しかった。魔物災害、頑張って生き抜いてねー。アホな皆が大好きだよー」
:こいつ最後にとんでもねえ爆弾落として行きやがったぞ
:このキャラっつか本性?で配信してほしいむりかおがいい
:最初からコレでやられてたら今頃破産してた課金待ったナシ
:外道はロープレ?本性?
:本性だろ。ロープレであの外道さは不可能
:顔面国宝天然外道愛した
:んあー!龍刃最高!
:で、最後にこの暴露である
:これもブランディング?だったらうますぎて引く
:やっぱ成功する奴って頭のネジどっか外れてんだな…
:おい冷静になれおまいら。これ最後の配信だぞ
:あ…寂しいけど乙っしたー
:あ…これ最後か…今迄ありがとな
:最後に良いもん見れた。おつー
:どこかで会えたら組んでくれ
:龍刃と組む事を目標にハンター活動してました。俺も引退します。
:龍刃引退で後追い引退する人多そう
:性格は別として憧れてる人多いもんな
:魔物災害の死者数まじで爆上がりじゃん
:直接リアコの処理やめただけ英断
:よく堪えたな
:ブチギレシステムが何かやんじゃね
:より地獄の方に譲ったかー
:処理されてた方がマシ説
:【※速報】神ID、結界アイテム即決価格で大量出品
:神ID!!!
:こんな時にありがとな神ID
:神IDも魔物災害無事に乗り越えてくれ
:見てる。システムによる購入制限で、持ち運び用はハンタ一からランダム選定だと
:設置型は重要施設と避難所でのみ使用可能らしい
:自宅シェルター義務の国はシステムが調整するって
:全員引きこもったら魔物飽和するもんな
:残当
:外国も学校とか避難所にするんだっけ?
:するとこはしてるけど自宅シェルター選ぶっしょ
:それはそう
:スライム討伐専門居なくなるの鬱
:ほんそれ
:彼女ちゃん、今までほんと助かってたありがとう
:彼女ちゃんと繋がってる私、大勝利!心の癒やし!
:↑うらやましぬ
:実は彼女氏の人気えげつなかったよな
:本部周辺で活動してるガチ勢の中にも隠れファンいたっていうね
:彼女さんが龍刃に手籠めにされた…って号泣してたガチ勢見たことある
:号泣は草
:龍刃曰く「ガチ勢ホイホイ」
:的確過ぎて真顔
:ねえねえ、知ってる?龍刃スレと乱立スレのリアコ、全員黙ってるの
:くさすぎ
:まあ数少ない良識あるリアコは巻き込まれて可哀想とは思うけど
:良識ある人はリアコしない
:それな。やって疑似恋愛
:そもそも龍刃、アイドル系ハンターじゃないから恋愛禁止じゃねーのよ
:ほんそれ
:リアコきっしょグロすぎ
「遅いよ。奏向くん」
「あれ? 泣いてると思って、慰める言葉いっぱい考えてたのに」
日本政府から警察の声明を待ってほしいとの嘆願メッセージ。『神ID=ゆるねこ』と察している各国のハンターからの宥めるメッセージ。加えて、世界ランク唯一の一桁ソロ『龍刃』が引退する事での世界規模の混乱や余波を防ぎたい各国からのメッセージ。
全て無視。
宣言通りに近場の刑務所を襲撃した龍刃は、一応の手加減はしたらしい。重傷者は多数出したものの死者はゼロ。
先日買い取った持ち運び用『結界』アイテムが早速役に立った。銃すら効かなかったので、結界の効果に満足している。
そうでなくとも『完全回復』スキルにより問題は無かっただろうが。痛いだけで。
『飛行』も使い短時間で移動した龍刃は、みっつ目の刑務所で探し人を発見。安堵。
「奏向くんなら迎えに来てくれるって信じてたから。泣く必要ある?」
「うっ……もうほんっと大好き! 結婚して!」
「良いよ」
「っ――まじでか!? やっぱナシとか無しだからね!?」
「うん。良いよ。配信者引退する程に私の事好きみたいだし。たぶん、襲撃で公務執行妨害と重傷者も多数出しちゃったんだよね? そうさせた私も責任取るよ。お揃いだね。『犯罪者』」
「こんな嬉しい負のお揃いってある? やば、夢?白昼夢? うぅ……すき……あいした」
ツバキの思考も中々にオカシイのだが、龍刃にとっては嬉しい事には変わりない。天にも昇るような感覚がとても心地良い。
背後から聞こえる痛みに苦しむ者達の声なんて、まるで耳に入っていないかのように。笑顔でツバキを抱き上げた龍刃は壁を破壊し、『飛行』を発動して先ずはツバキの家へ。
家の中にあるもの全てをアイテムボックスに収納してから、次は龍刃の家へ。こちらも全て回収し、……さて。
「どこ行こうか」
「無人島、折角お掃除したのにね」
「楽しかったからいいよ。んー……やっぱり、別の無人島が良いかな。他にも候補あったし」
「不法占拠になっちゃうよ」
「もう僕達『犯罪者』だから罪状増えても良くない? 日本には武力で僕に勝てる組織いないーって、今日証明されたし」
「最終兵器彼氏?」
「ふたりきりとか超幸せ。一緒に生きてくれる?」
「前向きに検討します」
「はい決まり。愛の逃避行、楽しもうね!」
「やっぱ変な子だなー。この子」
「ツバキも中々に変だよ」
くすくす笑う龍刃は無邪気な子供のような笑顔で、やはり“なにか”が大きく歪んでいると確信してしまう。家庭環境……なのだろう。
そう考えたツバキは、ふと。そういえば家族の話を聞いた事が無いなと思い、しかし何かを訊くことはしない。
自分のように毒親かもしれないし、単純に他界したのかもしれない。話したくなったら話すだろうし、知れる時は知れる。
『龍宮寺 奏向』の今を知っていれば満足。
「取り敢えず第二候補だった無人島行こっか。『飛行』スキル……は、ぶっつけ本番はちょっと心配だから背中乗って」
「重かったら言ってね」
「えぇー。元日本トプランの僕を何だと思ってるの」
「アッシーくん」
「世代じゃないのに何で知ってるのさ」
「奏向くんはどうして知ってるの?」
「漫画」
「同じく。お邪魔します」
「どーぞ。……いつも思ってたけど、ツバキって軽過ぎるよね。もっとご飯食べて」
「普通に50近くあるんだが」
「普通って60とか70じゃないの!?」
「オタクなのにハンター脳過ぎて面白いんだけど。筋肉少ないからね、私」
「いや女の子って男より脂肪付き易いじゃん! 胸もお尻も男よりあるから、ずっと男と同じくらいかと思ってた」
「そういうところがモテるんだろうね。因みに、奏向くんの体重は?」
「80〜83で調整してる」
「潰されそう」
「僕の愛に?」
「早く行く」
「はーいっ。空気抵抗あるから、ほんとしっかり捕まってて。落ちないように」
「『空気抵抗』アイテム、ドロップ頼みました」
「その用意周到なとこ好き」
愉快、愉快。
胸元に回ったツバキの手が『空気抵抗』アイテムを起動させた事を確認した龍刃は、そのまま『飛行』を発動し窓から飛び出す。
視界の下の方に見えた、自分達に気付いていない機動隊。緊迫した様子の彼等には、一切の感情を動かすこともなく。
大好きなツバキとふたりきりで過ごせる地へ、心踊らせながら向かうのだった。
「配信者、引退して良かったの?」
「うん? 別に、暇潰し序での小銭稼ぎだったから良いよ。これからもダンジョンには潜るし」
「ガチ勢だね」
「とーぜん。ツバキはスライム宜しくね」
「あ。今から行く島にもダンジョンあるんだ」
「手っ取り早く稼げるから。スタンピード起きてるだろうから、キャンピングカーに『結界』張って籠城してて」
「うん。お願いします」
「魔物災害も僕が“掃除”するから安心してね。あ、でも。スライムはお願い。僕が横で見とくから」
「わかった。『自動結界』あるから、スタンピードも平気なんだけどね」
「僕がツバキを守りたいの」
「そっか。じゃあ、お願い」
「はーいっ。頑張るから今日抱かせて!」
「良いよ」
「、っ――ぶな……落ちそうになった。超嬉しい。明日ダウンさせる」
「期待しとく」
「なんでそんな可愛いこと言うの!? ぎゅってしたい! 今!すっごくぎゅってしたい!」
「“足”なんだから安全運転」
「ちょっと待ってやばい今新しい扉開きそうになったむり助けて愛した」
「性癖心配」
「あはは! だから、ツバキが僕を狂わせるんだってば!」
愉快、愉快。笑う龍刃に思わず笑ってしまったツバキは、
この頭がオカシイ奏向くんとならふたりきりでも愉しいだろうな。
漠然と。そう確信。
しかし生活が安定したらユンランやレイラを招待して、ゆるキャンやバーベキュー。のんびり癒やされる天体観測は外せない。他の……“龍刃”と仲が良いガチ勢も招待するのも良いかもしれない。
しかしその時は、龍刃が不機嫌になることも確信している。そう確信出来る程の執着と愛を受けているので、当然の発想。
それでもモラハラ夫にさせるつもりは無く、変に文句を言うのならツバキを脅迫材料に抗議は却下するだけ。
しっかりと尻に敷く為に。
夫婦円満の秘訣である。
end.
閲覧ありがとうございます。
気に入ったら↓の☆をぽちっとする序でに、リアクションやブクマお願いしますー。
こんなガバガバ設定&駆け足な話にお付き合い下さった忍耐強い皆さんに拍手を送りたい作者です。どうも。
読んで頂きありがとうございました。
衝動的に書き始め衝動的に終わらせたのですが、少しでも暇潰しになったのなら幸いです。
本当に唐突に最終話が降りて来たので、だらだら続けるよりもスパッと終わらせました。
12話と短めなのでローファンタジー玄人には楽しめたかは分かりませんが、「こんな観点もあるのかー」と軽くふわっと読んで頂けたなら満足。
一応ダンジョンものの皮を被ったヒューマンドラマっぽい恋愛ものなので、寛大な心の甘め評価で頼む。
この後。
無人島キャンピングカー生活満喫するし、その島の未発見ダンジョンで主人公ちゃんは相変わらずスライム討伐専門。
龍刃は2階層から下を乱獲でこちらも相変わらず自分が愉しむ為だけにハンター活動続けます。
大好きな奥さんとふたりきりで生活出来て幸せ。
冤罪被せたリアコですが。
職場解雇され家族友人から責められ、世界中からの誹謗中傷で自殺するけど『システム』がそれを許さず障害残る身体で五体不満足になっても寿命まで生かされるよ。
『システム』による“見せしめ”でリアコの様子リアルタイム配信されたりね。
他のリアコ達震え上がってたら面白い。
「人権侵害だ!」と団体が声を上げても意味は無く、寧ろペナルティ下される。
神は理不尽なので。
怖い話ですよね。
主人公ちゃんは引き続き『神ID』としてスキルカード売るから、ガチ勢達は安堵して変わらず金で殴り続けます。
お金いっぱい……こわい……
改めて。
ここまで読んで下さってありがとうございましたー!
感謝感激アメフラシm(_ _)m
これにて完結ですが、何か小ネタ的なものが降りてきたら更新しに来ますね。
たのしかった!
※宣伝※
お暇でしたら代表作の『庇護目的ハーレム作品が苦手な女オタク〜』も読んで頂ければ小一時間踊ります。
嘘です筋肉痛怖いので五体投地に留めます。
注意書きで無理なら読まないでね!
ではまた、いつか。




