回天の豪剣
関長生が赤坂城に戻る。幕府側の城攻めははじまっていた。
「おっしゃったとおりです。何もかもを上にあげておいて、よかった!」
橘正遠が一方の指揮をしながら、長生に言う。
「状況は?」
問うと正遠が答える。
「次から次へと、敵兵が上がってきます。まずは弓の斉射でバタバタと倒してやりました。盾を並べて上がってきた次の連中には、石をぶちまけました。恐怖したのか、攻めてこなくなると、宮様と正季様の隊が奇襲して、今は小康状態です」
長生は笑って正遠の肩を軽く叩く。よくやった、とねぎらったのだ。すると、各陣を巡回していた楠木正成がやってくる。
「長生、帰ったか。 花は咲ける地に移したか?」
長生は笑って軽く礼をする。正成も笑う。
「長生、大塔宮にずいぶんと暴れていただいた。ちょっとおもしろいので、さらに押し込みたい気がする」
正成の考えが、長生にはわかった。また笑う。すると、その大塔宮が赤松則祐を引き連れてやってきた。
「おう、長生。だいぶ暴れてやったぞ。幕府の連中も肝を冷やしておるようじゃ」
正成と長生はニヤニヤして、宮を迎える。
「宮様、もうちょっと、武名をあげてしまいませんか?」
長生の言葉に、正成が吹き出す。大笑いして、宮の方を向いて言う。
「宮様、関長生が帰ってきました。こいつを宮様に仕立てて、あの軍隊に放り込んでみませんか? 以後、大塔宮が立つところ、兵がわれ先に集まるようになるかもしれません」
大塔宮は正成が言うことの意味がすぐにわからず、少し考える。そして、合点がいく。則祐も気づいた。
「それ、ごっついおもろいでしょ!」
計画はできた。少しの準備が必要だった。
寄せ手の総大将である大仏貞直は、うんざりしながら夜の闇にうっすらと浮かぶ赤坂城を眺めている。小さな山城であるにもかかわらず、こちらの力攻めをことごとく跳ね返された。初戦の弓の斉射は想定内だった。だが、次の落盤事故のような石での攻撃には驚いた。戦慣れしていない幕府軍の将兵には、想定外の攻撃だった。
さらに、敵左翼を大塔宮らしききらびやかな甲冑の人物が指揮しており、そこの士気が高い。ならばと右翼を伺うと、身体の大きな荒武者の隊に阻まれる。中軍を突くと、うまく退かれて、左右から挟撃される。
面倒だから守りを固めると、左右両翼が突出してきて、強烈な打撃を食らう。
損害を少なく勝とうとすればするほど、損害が増えていた。
「明日は、損害を度外視して力攻めにしてやろうか」
ブツブツ言いながら、暗闇の斜面を眺めていた。すると、そこに、いくつかの火が灯る。貞直は驚く。
「おいおい」
貞直が言うころには、灯りが束になって自軍に迫っていた。
「おい、おいっ!」
もう、数枚の防御の先に、敵将が見えた。きらびやかな軍装で、鮮やかに剣を振るう。誰も抗しえない。
敵将が陣内にあった馬を奪ってまたがった。まっすぐに貞直の方を見る。
「おいっ!」
貞直は逃げることにした。大塔宮が自ら軍を率いて奇襲してきたのだ。宮がやることかと思う。だが、現実的に自身の護衛が宮の剣で跳ね飛ばされていた。
その宮が、馬上から言ってくる。
「大仏貞直! この大塔宮があいさつに来てやったのに、逃げるとは何ごとじゃあ! 逃げるならば、鎌倉の高時の元まで走れ。天下のことは王に復すと伝えい!」
貞直はただ逃げた。宮の武勇は聞いていた。だが、これは想像を絶していた。大塔宮は魔王の武勇で押し込んできたのだ。
「貞直、流れはもう変わらん。貴様に勝ち目はない。ただ、王に降れ」
大塔宮はそう言いながらも、群がる兵を斬り飛ばしていた。
山上から、大塔宮と楠木正成らが関長生による奇襲を眺めていた。
「あ、圧倒的だな」
大塔宮自身が驚きながら言う。
「でも、敵兵には、宮様にしか見えてないでしょう。もう、宮様に剣を向けるバカはいなくなりますよ」
赤松則祐が興奮していた。関長生が率いる軍の、壮絶な突破力に驚きと恐怖を感じたのだ。
「明日からは、いつものように左翼に宮様が位置してくださればいい。相手は警戒して前に出れない。さらに、関長生が中央と右翼にも宮様の格好で出張る。相手は混乱して退くようになる。この戦の意味が、価値を持つようになっていく」
正成がこの奇襲の真の目的を伝えるように言う。
「粘れば粘るほど、世の中は動転する。宮様が輝けば輝くほど、その中心が決まっていく。そういう流れですよね」
橘正遠が正成の真意を確かめる。
「そうじゃ。ここまで、うまくできてる。そして、最後に本物の関長生を使う」
正遠も宮も不思議な顔になる。
「どういうことじゃ?」
問われた正成が笑った。
「まあ、見とれ。あの豪剣が回天の合図になる」




