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キッサキハシレ、ツキトワラエ  作者: 葛城 聡
二章 赤坂城赤鬼
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回天の豪剣

 関長生(せきのながたか)が赤坂城に戻る。幕府側の城攻めははじまっていた。

「おっしゃったとおりです。何もかもを上にあげておいて、よかった!」

 橘正遠(たちばなのまさとお)が一方の指揮をしながら、長生に言う。

「状況は?」

 問うと正遠が答える。

「次から次へと、敵兵が上がってきます。まずは弓の斉射でバタバタと倒してやりました。盾を並べて上がってきた次の連中には、石をぶちまけました。恐怖したのか、攻めてこなくなると、宮様と正季(まさすえ)様の隊が奇襲して、今は小康状態です」

 長生は笑って正遠の肩を軽く叩く。よくやった、とねぎらったのだ。すると、各陣を巡回していた楠木正成(くすのきまさしげ)がやってくる。

「長生、帰ったか。 花は咲ける地に移したか?」

 長生は笑って軽く礼をする。正成も笑う。

「長生、大塔宮(おおとうのみや)にずいぶんと暴れていただいた。ちょっとおもしろいので、さらに押し込みたい気がする」

 正成の考えが、長生にはわかった。また笑う。すると、その大塔宮が赤松則祐(あかまつのりすけ)を引き連れてやってきた。

「おう、長生。だいぶ暴れてやったぞ。幕府の連中も肝を冷やしておるようじゃ」

 正成と長生はニヤニヤして、宮を迎える。

「宮様、もうちょっと、武名をあげてしまいませんか?」

 長生の言葉に、正成が吹き出す。大笑いして、宮の方を向いて言う。

「宮様、関長生が帰ってきました。こいつを宮様に仕立てて、あの軍隊に放り込んでみませんか? 以後、大塔宮が立つところ、兵がわれ先に集まるようになるかもしれません」

 大塔宮は正成が言うことの意味がすぐにわからず、少し考える。そして、合点がいく。則祐も気づいた。

「それ、ごっついおもろいでしょ!」

 計画はできた。少しの準備が必要だった。


 寄せ手の総大将である大仏貞直(おさらぎさだなお)は、うんざりしながら夜の闇にうっすらと浮かぶ赤坂城を眺めている。小さな山城であるにもかかわらず、こちらの力攻めをことごとく跳ね返された。初戦の弓の斉射は想定内だった。だが、次の落盤事故のような石での攻撃には驚いた。戦慣れしていない幕府軍の将兵には、想定外の攻撃だった。

 さらに、敵左翼を大塔宮らしききらびやかな甲冑の人物が指揮しており、そこの士気が高い。ならばと右翼を伺うと、身体の大きな荒武者の隊に阻まれる。中軍を突くと、うまく退かれて、左右から挟撃される。

 面倒だから守りを固めると、左右両翼が突出してきて、強烈な打撃を食らう。

 損害を少なく勝とうとすればするほど、損害が増えていた。

「明日は、損害を度外視して力攻めにしてやろうか」

 ブツブツ言いながら、暗闇の斜面を眺めていた。すると、そこに、いくつかの火が灯る。貞直は驚く。

「おいおい」

 貞直が言うころには、灯りが束になって自軍に迫っていた。

「おい、おいっ!」

 もう、数枚の防御の先に、敵将が見えた。きらびやかな軍装で、鮮やかに剣を振るう。誰も抗しえない。

 敵将が陣内にあった馬を奪ってまたがった。まっすぐに貞直の方を見る。

「おいっ!」

 貞直は逃げることにした。大塔宮が自ら軍を率いて奇襲してきたのだ。宮がやることかと思う。だが、現実的に自身の護衛が宮の剣で跳ね飛ばされていた。

 その宮が、馬上から言ってくる。

「大仏貞直! この大塔宮があいさつに来てやったのに、逃げるとは何ごとじゃあ! 逃げるならば、鎌倉の高時(たかとき)の元まで走れ。天下のことは王に復すと伝えい!」

 貞直はただ逃げた。宮の武勇は聞いていた。だが、これは想像を絶していた。大塔宮は魔王の武勇で押し込んできたのだ。

「貞直、流れはもう変わらん。貴様に勝ち目はない。ただ、王に降れ」

 大塔宮はそう言いながらも、群がる兵を斬り飛ばしていた。


 山上から、大塔宮と楠木正成らが関長生による奇襲を眺めていた。

「あ、圧倒的だな」

 大塔宮自身が驚きながら言う。

「でも、敵兵には、宮様にしか見えてないでしょう。もう、宮様に剣を向けるバカはいなくなりますよ」

 赤松則祐が興奮していた。関長生が率いる軍の、壮絶な突破力に驚きと恐怖を感じたのだ。

「明日からは、いつものように左翼に宮様が位置してくださればいい。相手は警戒して前に出れない。さらに、関長生が中央と右翼にも宮様の格好で出張る。相手は混乱して退くようになる。この戦の意味が、価値を持つようになっていく」

 正成がこの奇襲の真の目的を伝えるように言う。

「粘れば粘るほど、世の中は動転する。宮様が輝けば輝くほど、その中心が決まっていく。そういう流れですよね」

 橘正遠が正成の真意を確かめる。

「そうじゃ。ここまで、うまくできてる。そして、最後に本物の関長生を使う」

 正遠も宮も不思議な顔になる。

「どういうことじゃ?」

 問われた正成が笑った。

「まあ、見とれ。あの豪剣が回天の合図になる」


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