表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キッサキハシレ、ツキトワラエ  作者: 葛城 聡
二章 赤坂城赤鬼
44/85

【第二章開始】芋と鳩、そして鍋

 今日も月が冴えている。

 天気がいいから、この日は広場でいくつかの鍋を煮た。

(ちから)、もう煮えてるんちゃう? はよう食べようよ」

 子どもらに声をかけられ、石動力(いするぎちから)はもの思いから我に返る。

「そ、そうだな。食べよう」

 そう言って、鍋を囲んだ人々が手を合わす。

「命を育んでくれた空と大地と海に礼。私たちを救ってくれた方々に礼。すべてに感謝し、いただき、明日もみなのために生きましょう」

 彼がそう唱えると、全員が大きな声で言う。

「いただきます!」

 ものすごい勢いでみな食べる。でも、足りなくなることはない。ちゃんと備えたものがある。収穫もある。

「そばも芋もおいしいの!」

「猪肉が入ってると、格別にうまい」

「いや、葱とノビルのおかげじゃ。これは元気になるわ」

 みんな、元気に食べている。豊かになったと力は思う。でも、まだ1年になっていない。


 最初、関長生(せきのながたか)に教わったままに生きた。彼が残してくれた銭でそばの実を買い、手元にある道具を修理した。そばは3カ月で収穫できた。芋を掘り、育て、鳥獣を獲っては、ため込んだ。よく食べ、身体が頑健になった若い男女は、駿河湾方向へ働きに出た。戻ると、少ないながらも、何かができる銭が里にできた。

「春にもう一度、働きに出るよ。でも、その後は、ここで働きたいよ」

 若い女がそう言った。石動力は考えた。

「たぶん、できると思う。何か、売れるものを見つければ」

 みんなで考え、力たちが獲ってきた鳥獣の出汁で煮るそばがきを、街道近くで売ることにした。おもしろいように売れた。

「峠を越えて疲れたところじゃ。あたたかいものを食べたくなるものじゃ」

 知恵を出し、それをつくった年寄りたちが、うれしそうに言った。

 そんなことをしながら、寒い冬を過ごした。寿命に追いつかれた者もいた。

「こんなにあったかく、前を向き、おいしいものを食べて死ねる。ワシは幸せに生きたように思う」

 そう言う年寄りを力は見送った。悲しいのだけど、うれしかった。

 みなが前を向くだけで、これだけ豊かになれる。子どもと年寄りの多い里なのだ。なのに、こんなに食えてしまう。

 自分は何も知らなかった。己が流離(さすら)い、迷う大地が豊かであることを。それをあの背の高い男が教えてくれた。

 春になって、男女2組が夫婦になった。それまで、ずっと仲がいい者たちだった。でも、その背の高い男が、ひと冬越すまでは何もかも耐えろと告げていた。それを守っての祝言だった。何も悪くない。遅くさせて悪かったとさえ、力は思う。

(関長生様、はよう、帰って来てくだされ。ヒナ様は、ツキ殿は、お元気ですか? あのはねっかえりの紫苑(しおん)は、役に立ってますか?)

 いつものキレイな月に、そんなことを力は言ってみる。

「力は、誰と祝言するのじゃ?」

 何もわかってない子どもが、機嫌よく力に言う。

「ワシか? わ……」

 言いかけて、ワシと自称するのは、何か変な気がする。

「わ、私は、残念ながら、まだそういう相手はおらんよ」

 丁寧に言い直す。なんというか、この方が、石動力らしい気がしたのだ。

 子どもらがニヤニヤしてる。

「ヒナ様が、好きなんやろう?」

「ちがう! 紫苑じゃ。力は紫苑と仲良かった!」

 ガキのくせに下品じゃ。教育が必要であると力は思う。

「あのな、そのどちらも、大好きなのは関長生様じゃ。私が敵うわけあるまい」

 そう返す。すると、子どもらも妙に納得する。

「ああ、それはムリじゃ。長生様は神じゃ。長い長い剣を構え、ビュッとしたら、悪者は死ぬんじゃ。あれは、スゴイ。なのに、おいしいもの食わせてくれるんじゃ」

「今日の鍋もおいしいんじゃ。でも、あの日の鍋には敵わん。あれは忘れない」

 子どもらは辛辣だ。でも、その通りだと思う。

「そうじゃ! 石動力は、長生様には何も及ばん。長生様、帰って来てほしいか?」

 子どもらはうれしそうに笑う。

「もちろんじゃ! 長生様に会いたい。剣を教えてもらうんじゃ。ヒナ様とも遊びたい」

 力は大笑いする。それは自分も同じだ。


 ある日、山伏が3名、里にやってきた。だが、月山(つきやま)の里は地図にない土地だった。警戒した石動力は剣を腰にする。当然、腰の後ろには(つぶて)を入れた袋もある。弓のできる男も潜ませている。

「ここは流民の仮住まい。御用あるわけもないはずですが」

 すると、山伏のひとりが言う。

「それぞれに名のある方なのですが、それぞれに芋、鳩、と名乗っての書状がござり、このあたりかと至りました。心当たりは?」

 力は笑ってしまう。

「芋と鳩が同じ何かを告げていれば、私宛でしょう」

 山伏は困る。

「この変な字のような、絵のようなものが同じで……」

 力は見る。それは鍋を模した絵だった。

「どうやら、私宛です。ならば、御一行はご苦労されてここに至ったはず。ゆっくりされては?」

 山伏たちは安堵した。疲れていたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ