第22話 大食い
ほどなくして俺達はキャノックへ着き、町へ入るために検問所への列へ並んでいた。
「やっぱ物や人が集まるだけに検問所なんてあるんだな」
「そうですね、私達の町では憲兵が立っているだけで、普通に入って行けますからね。でも余程の事が無ければ町へは入れますし、賄賂を渡せば誰でも入れるので、どうかなとは思いますが」
「まあ、それは何処の世界でも一緒だな」
他の人に聞こえないように、小声で話しているとーー
「お、自分たちの番でありますよ!」
そうして俺達は人相の悪い憲兵の前へと通された。
「お前たちが何処から来たかと、目的を言え」
「レヴィーアからで、依頼で王都へ向かっています」
人相の悪い憲兵は「ふむ……」と言いながらレヴィアとクナの身体を舐め回すかのように見たとおもうとーー
「身体検査を行う、別室に行け。お前の方はもういい、通行料を置いて町に入っておけ」
まるで俺を邪魔者扱いするように、憲兵は顎で先にいけとやるとーー
「これを」
そう言ってレヴィアはダルドさんから貰ったブレスレットを見せた。
「ん?なんだそれは……こ、これは!ど、どうぞどうぞ、お通り下さい。検査も要りませんので!」
先程まで偉そうにしていた憲兵は手の平を返すように、コロッと態度を変え、深々とお辞儀をしながら俺達を町の中へと誘導した。
「凄いなこのブレスレットの効力は。でもなんで初めから見せなかったんだ?」
「コウ様にどのような町か見せておきたかったのです。流石にあれ以上憲兵の言うことを聞いていたら、本当にナニをされていたか分かりませんでしたから、早々に見せましたが」
「……一応聞くけど、あのままレヴィアとクナが連れていかれてたらどうなってた?」
「十中八九、身体をまさぐられていたでしょう。そう言う被害が有るのも聞きますしね」
「……ちょっとぶん殴ってくる」
想像しただけでイライラするのに、それを実際にしようとした憲兵に対し、俺の怒りが一瞬にしてはち切れそうになってしまう。
「コ、コウ様!お、落ちついて下さい!被害はありませんでしたし、それにいざとなれば私が吹き飛ばしていたので大丈夫です」
「そうでありますよ、レヴィア様は強いんでありますから、コウサカ様が心配しなくてもちょちょいのちょいであります」
「それもそうだな……すまない取り乱して」
「い、いえ!コウ様が心配してくださるのですから、これ以上嬉しい事はありません!」
「わかった……でも次からは事前に教えてほしいな、本当に心臓に悪いから」
「は、はい!」
俺がこんな行動に出ると思っていなかったのか、一瞬焦っていたレヴィアだが、直ぐに顔を赤らめながら返事をしてくれた。そして俺達は食料を買いに町の中心部まで移動する。
「わぁー人がいっぱいであります!」
もう夜の色が濃くなっており、色とりどりの灯りをつけながら、色々な店が開いている。食料品や露店等も開いているのだが、ごった返している客はそれとは別のモノを買いに物色しているようだった。
「クナはあまり見ないでおこうな……」
「なんででありますか?あんなに楽しそうに女の人達があんな格好でバインバインしてるのにでありますか?」
「そ、そうなんだけど……あまりクナのような子には見て欲しくないというか……」
「大丈夫でありますよ。コウサカ様のおかげであれが何かは分かっているでありますから」
「ちょ!それは!俺は一度も行った事は無いからな!」
「店の前まで行ったけど、怖くなって帰ってきたのは分かっているでありますよ」
「おいーーー!!」
恥ずかし過去を、普通に話してくれるクナの口を抑え、チラッとレヴィアの方を見ると、何故か自分の胸を鷲掴みにして上下に揺らしていた。
「コウ様はこんな感じも好きなのですか?」
「……」
「コウ様?」
「……はい、大好きです……」
「なるほど、では是非次回に活かしたいとおもいます」
「……楽しみにしてます」
自分の気持ちに嘘はつけずに正直に言うと、それはそれは嬉しそうにレヴィアが、食料品店へと入っていくのだった。
ーーー
いかにもな人相をした冒険者風の2人組が、遠目にレヴィア達を見て何かを相談しているようだった。
「おいさっきの眼鏡の女見たか?」
「ああ、あれはかなりの上玉だ。隣にいた褐色の女もかなりのもんだったな」
「隣に男もいたが、見た感じはかなりの優男そうだし、今日はアイツらだな」
「ククク、女は抱けるし金も入る。まさに俺達の天職だな」
2人組の男は話が終わると、気づかれないように、ゆっくりと一般人に紛れ、レヴィア達の後をついていった。
ーーー
「これで食料の補給は完了です。後はどうしますか?食事だけでもしますか?」
「腹も減ったしそうしようか、食べたら直ぐに町を出るか」
「了解です」
「クナは何か食べたい物はあるか?」
「自分は雑食でありますから、なんでもいいであります」
「……皆雑食だ」
相談した結果、この町で1番美味しと評判の店へと向かった。
「流石に人が多いな。まあ、とりあえず入って見るか」
「そうですね」
中へ入ると店内は予想よりかなり広く、人の多さの割には直ぐにテーブルへと着くことができた。
「うーん悩むな……」
壁にかけられたメニューを見るのだが、これがまだ数の多いこと多いこと、しかも料理の名前が聞いたことの無い物ばかりで、どんな料理かも想像出来ないしまつになってしまっていた。
「悩まれるようでしたら、あの〈自慢の定食〉を頼んで見てはいかがでしょうか?」
「お、丁度いいのがあるじゃないか、じゃ俺は定食にする。レヴィアとクナはどうするんだ?」
「自分もコウサカ様と同じでいいであります!」
「私も同じもので」
そうして店員さんを呼び、今日のオススメを頼み、10分程待つと料理が運ばれてきた。
「当店自慢の定食でございます。熱いうちにお召し上がりください。もし残されても、希望があればお持ち帰り出来るように包ましていただきますので、なんなりとお申し付けください」
そうしてテーブルに次々とサラダやパン、スープ等が置かれていき、最後にテーブルの真ん中へ、フードファイターも真っ青な程大きく分厚いステーキが山積みに置かれた。
「おーこれこそ肉料理だな」
「凄いであります!いい匂いであります!」
「こ、これは、かなりの量ですね」
「残しても、持って帰れるし、気楽に食おうぜ。ではいただきます!」
かなりの空腹だった為、飲むように食べていく俺とクナ。そしてレヴィアは女の子らしくちょびちょびと可愛く食べていくのだが、食事開始から10分程で俺に限界がきてしまう。
「もう食えん!」
「私ももう無理です」
食道までもが、肉で埋める程食べたつもりなのだが、盛られた肉はまだ半分以上残っているのだがーー
「あれ?もう食べないでありますか?自分が食べてもいいでありますか?」
「まだ食べれるのですか……」
「後は任せた、クナ」
自分は雑食であります!と言っていたわりには、美味しそうに、バクバクと食べていくクナに全てを任せ、俺は食後にフルーツジュースを頼みまったりとする事にした。
「……」
「……」
遠慮していたのか俺達が皿から手を引くと、先程の倍以上の速さで、次々と肉を口に放り込んでいき、ものの10分程で全てを食べ尽くした。
「美味しかったであります!最高であります!自分は今日から肉食であります!」
「そ、そうか、それはよかった」
「では行きましょうか」
「了解であります!」
「あ、俺はトイレに行ってくるから先に出といてくれ」
「わかりました、私達は店の前でまっています」
しかし俺がトイレに行って帰ってくると、店の前にレヴィア達はいなかった。
「おーい!レヴィアー!クナー!おーい!」
試しに大声で名前を読んでみるが反応はなかった。しばらく待ってもなかなか現れないため、段々と心配になってきた俺は、店の前に座り込んでいた酔っ払いにダメ元で「すいません!」と声をかけ事情を話すとーー
「あぁ……そういえば……なんだっけ?」
「胸の大きい女性ですよ!」
「そうだそうだ……ええっと……なんかツレが突然いなくなったとかで……「くなー!」って叫びながら……あっちかあっちに走っていったような……」
酔っ払いのおっちゃんはレヴィアが走っていったであろう方向を教えてくれるのだが、左右に指をむけるため、全く分からないしまつ。少し考え一か八かで、一番初めに指さした方へと向かうことにした。
全速力で走りまくり、町中を駆け巡ること10分。中心部から離れた、人通りの少ない場所を探していると、どこからともなく男の悲鳴が聞こてくる。まさかっと思い、声のする方へ向かうとーー
「い、命だけは!な、なんでもしますので、お願いします!」
レヴィアとクナが、地面から顔だけを出した男2人の前に立っていた。
「レヴィア!クナ!」
「コ、コウ様!」
「急に居なくなったから本当に心配したぞ」
「本当に申し訳ありません」
「いったいどうしたんだ?」
「はい、実はーー」
と事の顛末を教えてくれた。先に出たレヴィア達が店の前で待っていると、2人組の男に声をかけられ、初めのうちは無視していたのだが、途中から無理矢理手を引っ張る等をしてきて、こんな所を俺に見られたらブチ切れると思い、自分で処理する為に、人通りの少ない所へ移動すると、男達が突然後ろから襲いかかってきたとの事。
「それでこの有り様ってわけか」
「はい。ただ妙に手馴れている様子だったので、少し気になる事があって、彼らの持ち物を調べたんです」
そう言って出してきたのは、ロープ・目隠し・口枷そして、謎の黒い錠剤のような物だった。
「なんだこれ?」
「わかりません。こいつらに聞いても知らないの一点張りなんですが、この錠剤には微量ですが魔力が含まれていて、怪しいの一言なんです」
「確かに知らない物を持っている時点で怪しさMAXだな。それで気になる事って?」
「はい。ここ最近失踪人を探す依頼が増えていて、その大半がこの町の周辺で起こっているんです」
「なるほど、それで犯人もしくは、失踪に関与する奴らではないかと思ったんだな」
「その通りです」
一通りの話を聞き終わり、俺は埋められている男達の周りを歩きながら質問をした。
「おい」
「「は、はい!」」
「レヴィア達に何をしようとしたんだ?」
「い、いや、その……」
「……」
「俺達の話を聞いていたと思うが、最近の失踪事件はお前ちが関係しているのか?」
「「……」」
「あの黒い錠剤はなんだ」
「「……」」
「お前ら、死ぬか答えるかの二択しか残っていないぞ?まぁ、2人もいらないから、1人は死んでもらうからな!」
殺気を含んだ声を男達に浴びせながら、地面へと拳を撃ち込むと、小さなクレーターが出来上がった。
「「は、話します!」」
「おい!俺からだぞ!」
「いや!俺だ!」
「五月蝿い。お前からでいい」
一喝すると、醜い争いを始めた2人は途端に黙り込み、指名された男がオドオドしながらも話始める。
「そ、その俺達は旅とかでこの町に来た奴らを攫って、売っていたんだ」
「誰に」
「そ、それがよく分からないんだ。会う度に人が変わっていて、この仕事を始める切っ掛けを作ったのも、その内の1人が飲み屋で持ちかけて来たんだ」
「……黒い錠剤は」
「何が入っているか分からない。しかしあれを飲ますと急に大人しくなって、言うことを聞くようになるんだ。ただ効果は4日程だから、気をつけて使えと毎回アイツらに言われる」
「……それで、攫った人達は何処に連れていかれる」
レヴィアとクナに同じ事をしようとしたのかと思い、この男の顔を踏み潰しそになってしまうが、グッと堪えて平静を装いながら質問を続けた。
「どこに運ばれて行くかは知らないんだ。4日に1度くるんだが、毎回王都の方角に帰ってた」
「4日に1度って事は、その間に攫った人達はどうしてる」
「お、俺達が借りている町外れの小屋にーー」
「おい!そこまで言う必要ないだ……」
止めに入った男の顔を踏み気絶をさせ、もう一人の男の顔を見た。
「は、話します!それで場所はーー」
男が従順に小屋の場所を教えてくれたので、お礼とばかりに優しく気絶させ、俺達は直ぐにその小屋へと向かうのであった。




