第20話 ゴキブリっ娘
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レヴィア様に叩き落とされた自分は、コウサカ様がヒビ入れた水晶と引っ付いたままベッドの上に転がされていた。
「うぅ……ぅ……」
あれは事故で仕方がなかったんだ、そう自分に言い聞かせながらも、身体の力はどんどんと抜けていき、それに比例して生への渇望が増してしいく。そうしてどうする事も出来ず嗚咽を漏らしているとーー
「(君はどうしたいんだい?)」
それは偶に聞こえる魔の精霊水晶の声だった。
「(自分は生きたいであります!)」
「(何故?)」
「(……わからないであります。でも今思うことはそれしかないであります)」
「(じゃあ助けてくれたお礼に君の願いを叶えてあげよう)」
「!?」
水晶が話終わると同時に、身体がぽわぁっと発光しだし、自分の意識は遠のいていった。
ーーー
俺が割ってしまった水晶から謎の煙が大量に湧き出し、俺達は安全の為に部屋から出て扉の前で待機していると、突然扉の隙間から眩いばかりの光が漏れだした。
「!」
「コウ様!」
俺はレヴィアの制止も聞かず勢いよく扉を開け、中を確認する。
「ん?何もなっていな……え!?」
「コウ様下がってください!……え!?」
俺の驚いた声に、レヴィアは何事かと俺の前へと踊り出ると、ベッドに横たわる裸体の女の子を見つけ俺と同じような声を上げる。
「え?なんでこんな所に女の子が?ってかクロウラーは?水晶は?どこいった?」
「……コ、コウ様、何がどうなっているのか理解できないのですが……」
「ですが?」
「そ、その子から、あのクロウラーと同じ反応を感じます……」
衝撃の言葉を聞かされ、俺はベッドに横たわる女の子をまじまじと観察する。
鼻や唇等の顔を含めたパーツは全て小さく、見た目は15~16歳。きめ細かい肌は褐色で、体型はかなり華奢。身長は140くらいでかなり小さいが、レヴィア程ではないにしろその細い身体にしてはかなり大きくハリツヤのある胸をしている。そしてベッドで丸まっている女の子を包み込む程の長い髪は、艶のある美しい白髪をしており、それはまさに二次元から三次元へとやってきた天使のようであった。
「どこからどう見ても、クロウラーっぽさがないんだが……」
「私もにわかには信じられないのですが、確かに感じる気配は一緒です」
「うーん、とりあえずこの子を起こして事情を聞くしかないな……って事でおーい、ちょっと起きてくれー!おーい!……中々起きないな、レヴィア揺すり起こしてくれないか?」
「分かりました、ではーー」
流石に見たことも無い裸体の女の子に触れるほどの度胸は無く、レヴィアに変わりに起こしてもらが、かなり盛大に揺すっており、縦横無尽にバインバインと揺れてしまっている。だがそこまでしても女の子は中々起きず、しばらく揺すってようやく「うーん……」と声を上げ、おもむろに身体を起こした。
「……あ、おはようであります、コウサカ様、レヴィア様……」
目覚めた女の子は不思議に煌めく灰色の大きな瞳をパチクリさせながら、俺達に挨拶をした。
「お、おう、おはよう……これは確定か」
「おはようございます。はい確定ですね」
「ん?何が確認なんでありますか?……あれ?コウサカ様、小さくなったでありますか?」
「クロウラー……自分の身体をよく見てみろ」
「はい?」
クロウラーは訳がわからないと言った表情をしているが、俺の言葉に従い頭を下げる。
「……ん?自分は誰の頭の上に乗っているでありますか?」
「腕を動かしてみろ」
「はい……え!!!!!この人間自分の思った通りに動くであります!いったい誰なのですか?」
「いや……そうじゃないんだが……レヴィア何かあるか?」
「お任せ下さい」
するとクロウラーの目の前に姿見の様なモノが現れ、その姿を映しだすとーー
「……いー。コ・ウ・サ・カ・サ・マ……えぇええぇぇ!!も、もしかして、これは自分でありますか!?」
「そうだ……その反応から察するに、自分でも何故こんな事になっているかわ分かってない感じか」
「そうでありますね……」
「うーん、本人に聞いても分からずじまいか……」
「……いや、そう言えば自分は死にかけてたでありますね?」
「ああ、そうだ。まあ俺のせいでだけどな」
「そうでありました!自分がベッドの上に置かれていた時に、精霊の声が聞こえたであります!」
「なんてだ?」
「確か……助けてくれたお礼に君の願いを叶えよう、だったはずであります」
「ならこれは精霊の力だってことか?」
「その可能性が一番高いかと思われます……それに助けてくれたお礼にっというのも気になります。精霊に無いはず魔力と、黒い魔物の反応もありましたし、今後また同じ精霊水晶があるのなら、最優先で調べる必要がありますね」
「なら今後の方針は、王都をめざしながら魔の精霊水晶を探す方向でって事だな」
「はい、それが良いかと思われます。あとはクロウラーですが、まだ謎だらけで、野放しにする訳にも行かないですし、大きくなってしまいましたが、また異空間収納の中にーー」
とレヴィアと話していると、クロウラーが急にバッと張りのある果実を揺らしながら勢いよく立ち上がりーー
「じ、自分はついて行くのであります!」
「……確かに着いてきてくれるのはありがたいが、事情が事情なだけに、王都に着けばこの先どうなるかもわからないんだぞ?もし逃げる気があるなら今のうちかもしれないんだぞ」
「コ、コウ様、それは」
「すまんレヴィア。敵意のない者に、これ以上の仕打ちは俺にはできない。それにこうやって人間の姿になったんだがら、後は常識を覚えるだけだろ?」
「確かにそうですが……」
珍しく俺の言葉に反対し、どうも納得出来ないレヴィアは、俯き何かを考えるような素振りを見せると。
「……では、こう致しましょう。クロウラーもついて行きたいと言っていますし、暫くは行動を共にし、ある程度の事がわかり、害が無いのなら自由にさせる、と言うのはどうでしょうか?もちろん王都への報告もしません、これが私が出来る最大の譲歩です」
「レヴィアはこう言っているがクロウラーはどうだ?」
「自分は着いていけるならなんでもいいであります!」
「そうか、なら決定だな。後は服と名前だな」
「自分はこのままでいいでありますよ?」
クロウラーは眉を上げて瞳を大きくしながら首を傾げて言っているのだが、これが正直言ってかなり可愛く、はいそうですかと言いそうになるが、それをぐっと堪えてーー
「ま、まぁ名前は後ででいいが、服は今すぐにでも着ような。レヴィア、まだお店とか開いてるかな?」
「今から閉まりだす店が多いですが、急げば間に合うかもしれません、私走って見てきます」
そう言ってレヴィアはすぐさまローブを羽織り、俺達を置いて出て行ってしまった。
「……」
「……」
「な、なあ」
「どうしたでありますか?」
「とりあえず、毛布でも羽織っておいてくれないか?目のやり場に困るんだ……」
そう言って俺が毛布を手渡そうとすると、クロウラーは「あぁ、これでありますか?」と言いながら自分の胸をこれみよがしにグニグニと揉みしだき、俺の視線はそこに釘付けになってしまう。
「本当にコウサカ様はコレが好きでありまね」
「……本当に?なぁクロウラーは俺の事を何処まで知っているんだ?」
「全部であります」
その言葉に俺の額に汗が吹き出す。
「ぜ、全部とは、ど、どういうことかな?」
「えっとでありますね……転生する時に女神様とエッチしたとか、転生する前は童貞で格闘技をしていたとかであります!どこか間違ってたでありますか?」
「い、いやバッチグーだ……」
片手で顔抑えながら、もう片方の手でサムズアップをすると、クロウラーは嬉しかったのか子供のようにピョンピョンと飛び跳ねながら、若々しいハリのある胸を揺らす。
恐らくクロウラーは俺の全てを知っている。初めてのおねしょ、初めて買ったエッチな本、どんなプレイがしたいか、人には言えない様なこと事まで全て。この純粋そうなクロウラーの事だ、他人に聞かれれば洗いざらい何でも話してしまうだろう。ここで何としても止めなければ俺は夜も不安で眠れなくなってしまう。だからここは何としてでもーー
「クロウラー!」
「は、はいであります、」
「俺のことは誰に何を聞かれても、ぜっ!たい!に!「よく分かりません」で通してくれ!いいな?」
「は、はい、それは構わないでありますが、レヴィア様にもですか?」
「!」
意外とあっさり承諾するクロウラーだが、中々いいところを突いてきて、俺は言葉に詰まってしまう。
「……良い、言って良いぞ」
「なんだか凄く嫌そうでありますが、大丈夫でありますか?」
「俺の全てを知っているなら分かっているだろ?他人は全て敵だと思っているが、好きな人は別だ。好きな人に隠し事なんてすること自体、身体がソワソワして落ち着かなくなる。だから聞かれれば言ってくれていいし、俺もそんな機会があれば言う!嘘と隠し事はいけない!分かったか?」
「はいであります!」
「ありがとう!……でだ、一番気になっていたところなんだが、クロウラーは俺の記憶があるだけなのか、もしくは俺の分身なのかどっちなんだ?」
「えーっと……分身かどうかはわからないでありますが、自分的には自分という存在にコウサカ様の記憶が追加された感じでありますね」
「なるほど……了解した」
そしてしばらくした後にいつも通りのレヴィアが帰ってきた。
「ゼェゼェ……ただいま……戻りました……」
今にも倒れそうなレヴィアをお姫様抱っこして、ベッドへと寝かせた。
「お疲れ様、ゆっくり休んでくれ」
そう言ってベッドから離れようとすると、レヴィアが服の袖を掴んで来たので振り返ると、そのままベッドへ誘導されギュッと胸に埋もれるほど抱きつかれてしまう。1~2分その状態が続くと、レヴィアがカッと目を見開きクロウラーの目の前に異空間収納を開いて、ポンっと1つの麻袋を出した。
「ふぅ……チャージ完了です!それは貴方の服です。何着か買ってきましたが、サイズが合わないかもしれないので、その時は置いておいてください」
「は、はい!ありがとうであります!」
謎の状態のまま待たされたクロウラーに、今なお自分の胸に俺を埋めているレヴィアが服を渡すと、それは嬉しそうにはしゃぐのであった。




