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67/75

67.撮影は恋の中で①

閲覧感謝です

 


 買い物デートから数日後。無事に月奈の観覧許可を頂いたところで、僕たちは都内の撮影スタジオに向かった。


 スタジオの中へ入ると顔馴染みのスタッフさんも多く、メイク前なのに色々な人に挨拶して回っていた。隣に居たはずの月奈は借りてきた猫のようになっていて、彼女かと揶揄ってくる人も多かったけどそれにも反論できないほど緊張しているよう。


 挨拶回りを一度打ち切り、月奈の緊張をほぐしてあげるために楽屋に行くことにした。



「仕方ないよ、僕だって最初はそんな感じだったし。でもスタッフさんで緊張してたらこの後のモデルさんたちは気絶しちゃうよ?」


「だって真琴くんも仕事モードなんだもん…。いつもと雰囲気が違うってゆーか…スタジオもあたしみたいな部外者がうろうろしていいような空気感じゃなかったしぃ……」


「そりゃあスタジオを借りてる時間もある訳だから、なるべく長く撮影時間は取りたいしね。その為には急ピッチで作業するしかないから。挨拶したのも最低限、僕としてはもっと話したい人がいっぱいいるし」


「あれ?そういえば潮谷編集長には会ってないよね。やっぱり来るのは最後の方なの?」


「いやぁ、あの人は…」



 たぶん寝坊してるんじゃないかなぁ。そう言おうとした時、楽屋の扉からノック音が聞こえる。そろそろメイクさんが来る頃だったかなと思い出しながら席を立つと、扉の前に立っていたのは妙齢の美女。


 170cmに近いほどの長身。薄めのメイクは自然と好印象を抱かせ、見た目だけでも物腰が柔らかそうな雰囲気を醸し出している。

 その素性を知らなければ、恋に落ちてしまう人もいるだろう。僕?死んでも嫌だね。



「なんだい、気まずそうな顔をして。まさか私のことを忘れてしまったのか?」


「そんな訳ないじゃないですか。お久しぶりです、潮谷さん。最近はますますご活躍のようで。とりあえず一発殴らせてください」


「それじゃあ私はこれで」


「逃げるなクソ編集者。はぁ、変わりないようで僕は悲しいですよ。もう少しまともな人間になっているかと期待していましたが」


「待て待て、決めつけるのは早計じゃないかな。最近は寝坊も減ったし納期もしっかり守ってるからね?それに仕事量も責任も増えたから、前の私とはひと味違うぜ?」



 そう言ってパチン、とウインクをする潮谷さん。かつてこれほどダサいウインクがあっただろうか。少なくとも僕は知らない。


 しかしこんな軽口を叩けるのも僕と潮谷さんの関係性があってこそ。僕にとっては手の掛かる姉のような存在なのだ。…実姉も中々に手が掛かるけど。


 それはさておき、僕は一人蚊帳の外に置かれている月奈を紹介しなくちゃいけない。無理を言って来させてもらったんだし、さすがに紹介しないというのは道理が通らない。



「こっちがこの間話した僕の友人です。昔から僕のことも潮谷さんのことも知ってくれていたようなので。無茶なお願いを聞いてもらってありがとうございます。月奈も挨拶してもらっていいかな?」


「も、もちろん。えと、柳沢 月奈です。真琴くんとは高校の友だちで、一応モデルのことも知ってて。あ、真琴くんが自分から言ったとかじゃなくてあたしが勝手に気がついただけで…」


「大丈夫、私も彼の事情は把握しているからね。改めて、潮谷 香織だ。これでもスカウトした身として負い目は感じているんだ。全ての責任は私にある。だから月奈ちゃんは気にせず楽しんでくれたまえ」


「あ、ありがとうございます!」



 正直、驚いた。潮谷さんがそんなことを思っていたなんて、今まで微塵も感じさせなかったから。会うたびにダメ人間であることを露呈させただけで、こんなにちゃんとした大人な部分は全く見たことがなかった。……ダメ人間ではあるんだろうけど。


 僕もこれからはほんの少しだけ認識を改めようと思う。仕事のできるダメ人間から、仕事ができてちょっとだけ人間性を尊敬できるダメ人間に。



「それで月奈ちゃん。君は私のことを知ってくれていると言っていたね。どこで知ったんだい?」


「えっと、初めて知ったのは『RiiPs』の創刊号です。書店に寄った時に偶然見つけて。その表紙を見て、こんなにモデルさんと衣装の相性が完璧なことってあるんだって思って。あ、他の雑誌が悪いって言ってる訳じゃないですし、プロでもない奴が何言ってんだって感じですけど…」


「…………驚いたな。あれは初めて私が軸になって挑んだものなんだ。だがいくら良い企画を練ろうと初めて責任を持った私にとって、あれは最悪の出来だったと言わざるを得ない。しかしそうか、しっかりと評価してくれる人がいたんだな………」


「いやいや、あたしなんか全然…!まだクソガキだったあたしにとってあの本は衝撃だったんです。読めば読むほど惹き込まれて、ファッションについてもっと知りたいって思うようになったんです。そういう意味ではほんと、潮谷編集長はあたしにとって神様みたいな存在なんです」



 そうだったんだ。だから『RiiPs』に出ることが多かった僕のことにもすぐに気がついたんだ。月奈が、潮谷さんが作る雑誌のヘビーユーザーだったから。

 なら僕は潮谷さんに感謝しなきゃいけないな。月奈と出会わせてくれたのは潮谷さんのおかげだ。



「真琴くん、こんなに良い彼女そうそう居ないぞ。大事にしてあげなさい」


「潮谷さん、僕言いましたよね?高校の友人だって」


「そうです!彼女なんて畏れ多いですよぉ………」


「は?嘘だろ?こんなとこまで連れてきて彼女じゃないだぁ?真琴くん、後できっちりお話しようか。それと月奈ちゃん、連絡先交換しようか。スタッフ以外知らないKuRaMの裏話を教えてあげようじゃないか」


「え!?いいんですか!?ぜひお願いします!!」




 頼むから食い付かないでくれ、と既に叶わない事を切に願う真琴であった。



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