8-みんなでイタリアン食べよう
「飲み物どうします?」
「俺、グラスワインの白ね、シンジ」
「あっ、じゃあオレはオレンジジュースでお願いしますっ」
「しんちゃん、俺ぁビール! なぁなぁっ! 兄貴は何にする!?」
「ビールで」
「すみません、私も同じものを」
(それにしても大所帯だな)
ドリンクオーダーをとりにきた店員に丁寧にわかりやすく伝えながらシンジは改めて思った。
そこはイタリアンレストランの個室だった。
落ち着いた雰囲気、味もいい人気の店で、珍しく蜩がセッティングしてくれた。
最初は蜩と、彼の恋人の海野凪、シンジと六華というメンバーの予定にしていたのだが。
『なぁなぁ、しんちゃん、兄貴も連れてってい?』
六華のお伺いにシンジは頭を悩ませた。
弁護士と闇金業者支配人を会わせていいものかと。
職業柄、軋轢でも生まれやしないかと。
『うーん、そうだね……』
『よっし、じゃあ決まりな!』
『あ……、うん』
かくして六華の兄の参加が半ば強引に決められた。
「あの……私、今日来てよかったのでしょうか?」
「え!? いや、オレこそよくわかんないまま連れてこられたっていうか!?」
テーブルの端につく最年少、十七歳の凪に向かい側から話しかけているのは、黒埼の恋人だという、細面に銀縁眼鏡をかけた二十九歳の佐倉綾人だ。
せっかくの集まりなので当方の事務員も、という謎のノリで黒埼が連れてきたのである。
(あの人がお兄さんの例の恋人か)
とてもじゃないけど闇金に従事しているようには見えない、真っ当な一般人に見える。
一つだけはっきりわかること、それは、お兄さんが相当な面食いだということだ……。
「料理の方は今日のオススメを大皿でテキトーにって、もう頼んでるから」
隣に座る上司の蜩を、シンジは、珍しく頼もしく思った。
こんなにもちぐはぐな席をまとめる自信、まるでなかった。
「カナカナさん、兄貴にちょっと似てるよな!?」
六華の突飛な発言に、向かい合う当人達は顔を見合わせる。
「どうですかね?」
「どうでしょうね」
今日は事務所が基本休みの土曜日、蜩は完全なるオフバージョンだった。
目つきの鋭さを和らげる伊達眼鏡は外し、ダークスーツ姿の黒埼と同様、服はダークカラーのアイテムで纏められている。
確かに……外見は若干似通っているところがあるかもしれない。
「お兄さん、こちら、職場の上司で蜩と言います」
「どうもはじめまして、黒埼さん。シンジがお世話になっております」
「いえ、こちらこそ弟がシンジさんのお世話になっているようで」
「いえいえ。で、このコは見習いのポチ君です」
「ええ……っ、うう……っ、ポ、ポチです」
「ぶっっ! 犬っころみてぇな名前!」
「黒埼さんのお隣に座られている方は?」
「弟の上司に当たる事務員の佐倉です、蜩さん」
「はぁ!? 俺の上司は兄貴だけだぞ!!」
「六華さんの言う通り、上司だなんて恐れ多いです……はじめまして、佐倉綾人と申します」
とりあえず自己紹介がざっと済んだ。
飲み物が運ばれてきて、シンジは妙な緊張感を拭うため、ぐっとハイネケンを飲む。
「これって合コンみたいじゃない?」
蜩が余計なことを耳打ちしてきたので危うく噎せそうになった。
(やめてくださいよ、本当にもう。でもまぁ、もしも合コンだとしたら、俺は真正面に座ってるヤンチャそうなコを狙いますけどね)
「兄貴のビールうまそぉ、俺にも一口ちょーだい!!」
自分も同じビールを注文したというのに、わざわざ兄のグラスから六華はビールを飲んでいた。
(これは手強いな、今日一日で落とせるかどうか……いやいや、これ、合コンじゃないし)