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7-おうちごはんしよう

 シンジの部屋で海鮮鍋をつつく約束をしていた週末。


 仕事で夜の九時過ぎまで六華は事務所にいた。


 債務整理や返済延滞、借金問題で信用情報に傷ありのブラックリスト掲載済みなる標的に「借金一本化勧誘」を一通り連絡し終えると、その回答をパソコンに打ち込み、支配人の兄と事務員に「終わり! お先に! 兄貴また明後日!」と告げて駆け足で退社した。


 タクシーを拾って、シンジの住むマンション手前で降りると、コンビニに寄り道する。


 ちなみに六華のコンビニ滞在時間は毎回長い。


「チクショー、おにぎり種類多すぎて選べねぇ、助けてくれ」


 他の客に聞こえるくらいの独り言をぶちかます。


「は? これ新商品か!? いつ出たんだよ、聞いてねぇ!!」

「す、すみません」


 偶々そばにいた、棚を整理していた店員を困らせる始末だ。


「グラタンかドリアかラザニアか……チクショー……あ、今日鍋だったか」


 鍋だということをうっかり忘れかけて濃い目の食品を買いそうになる始末だ。


「プリンかエクレアかシュークリームか……コノヤロー……惑わせやがって」


 六華はコンビニ内を無駄に巡回し、ホットスナックをジロジロ、最終的におにぎりやスイーツではなく白と赤のワインを購入し、レジ袋をがさごそ言わせて店を出た。


 夜風に首を(すぼ)めて歩きながら電話をかける。


「おう、しんちゃん、もう着くぞ」





「お疲れ様、黒埼君」

「おう、俺、誰よりもお疲れ様!!」

「はい、取り皿」

「おう、取り皿」

「まずはビールだよね?」

「さすがしんちゃん、伊達(だて)に俺より長生きしてねぇな、それ正解」


 それぞれロング缶を持った二人はカチンと乾杯の音色を鳴らした。


「やっべぇ、どうすりゃいい、どれから食えばいい」

「味付け、塩ベースだけどよかった?」

「それ大正解よ、しんちゃん」

「カキとアサリと海老と……この辺に豆腐ね、あと白菜と春菊」

「やべぇよ、しんちゃん、全部好き過ぎてパニくって食えん状況よ、今」

「キノコ類は苦手だって聞いてたから入れてない」

「そ、ヤラシー話、キノコ系無理……って、俺、いつ言った?」

「蕎麦屋で。俺の上司の蜩さんも一緒にいた時に、ね」


 取り皿とお箸を持ったまま、まだビールしか口に入れていない六華は、ローテーブルを挟んで正面に座るシンジをまじまじと見つめた。


(マジ半端ねぇな、しんちゃんは)


「うはぁ、うまい」

「よかった」

「うわ!」

「え、なに、変なものでも入ってた?」

「アサリにちっちぇカニはいってる!」

「時々あるよね」

「アサリ、カニ食うのかよ? こんなちっちぇかわいいカニを? 結構えぐいことすんのな、アサリ」

「食べてるんじゃなくて、寄生してるんじゃないのかな、カニが」

「ちっちぇカニの方がアサリに寄生? それもそれでえぐいな、よっし、どっちも食おっと」


 あっという間に六華は一本目の缶ビールを開け、次も速やかに開け、その次もぐいぐい飲み干した。


「しんちゃんとうまいモン食って酒飲んで、これ、正しく人生の絶頂じゃね?」


 食事中に横になったお行儀悪い六華にシンジは笑った。


「黒埼君が買ってきてくれたワイン、開けようか」

「おう、俺がコルクをポンしてやる!」

「これコルクじゃなくてスクリューキャップだけどね」


 六華のテンションは飲酒前後でも大して変わらない。

 ずっとハイを保っている。

 あらかた具材を食べきり、締めとして投入されたラーメンを一気食いしている。


 一方、シンジはというと。

 自宅ということもあって安心感があり、食べより飲みに集中していたかと思うと、徐々に口数が減っていって。

 二本目の赤ワインはほぼ一人で空けてしまった。


「食った、ガチで食った、ちっちぇカニも二匹食った」


 ほぼ一人でラーメンを平らげた六華、ちゃんと「ごちそうさま」をし、とりあえず食器をカチャカチャ重ねて、またごろんと横になった。

 すると。

 向かい側に座っていたシンジがローテーブルを迂回してすぐそばに。


「くろさきくん」


(あ、しんちゃん、酔ってんな)


 ほろ酔い気分の六華が床に寝たまま見上げていたら、シンジは、褐色の頬を撫でてきた。


「しんちゃん、酔ってんだろ」

「どうかなぁ」


 酔っているくせに、その白い指先は冷たい。

 顔も赤くなるわけでもない、白いままだ。

 ふやけた口調と眼差しで判断できる。


 そして触り癖がある。

 六華の頭を撫でたり、服越しに肩や腕を擦ったり。


「ねぇ、ぼたんみせてよ、くろさきくん」


 絡んできたり。


「だりぃ」

「いまみせてよ」


 店だったら無視するが、ここはシンジの部屋なので。

 初対面直後にしてパンツ一丁で過ごした場所でもあるので。


 身を起こした六華は上半身の服を脱いだ。

 特に寒くはない、鍋料理で温まっていたし、暖房も効いている。


 白い指先が褐色肌に刻まれた枯れない牡丹をなぞった。

 体温のくすぶる六華の首筋に額を押しつけて、しばし、シンジは鮮やかな華を撫でていた。


「……くろさきくん……」


 ローテーブル上の鍋からはまだ細い湯気が上っている。


 満たされた腹を(うらや)むようにシンジの性的なものも満たされたがっているのか……。


「しんちゃん、酔ってんだろ」

「よってないよ」

「嘘つけ」

「よってないってば」


 冬になりかけの夜長、ほろ酔い六華は酔っ払いシンジとの不毛な会話を戯れに意味もなく続けるのだった。





「食器も出しっぱなし、しかも、もう昼……?」


 昨夜、無断でベッドを借りていた六華は大欠伸をして「俺ぁまだ寝る」と寝返りを打った。


 正午に床の上で目覚め、またしても失われている記憶に狼狽(ろうばい)しているシンジを余所(よそ)に毛布に(くる)まる。


「あの、黒埼君、昨日って……?」

「……んが」

「うそ、もう寝たの? まさか、さっきの寝言だった……?」


 酔っ払いシンジの唇は六華の牡丹に飽くことなく延々ととまりっぱなし、どうにも夜通し蜜を吸われ過ぎたらしい……。



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