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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第12章 それぞれのやるべき事
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ヴァージへの依頼

「ヒバリさん、あの人って確か、」


「そうそう、ゼスティラの街で会ったヴァージさんだよ!」


「おー!覚えててくれたンだな!ハッハッハ」


 余程うれしかったのか、バンバンとヒバリの肩を叩く。

ヴァージさん、痛い!力加減と爪!痛いですから!



「ヒバリおにいちゃん、だあれ?」


「んー?」


 少し怖いのか、おずおずと沙里ちゃんの後ろで裾を掴む美李ちゃんが聞いてくる。ピーリィは特に怖くないようで、じーっとヴァージさんを見ていた。



「その、出来たら私達にも説明していただけますか……?」


 すっかり空気となっていたギルド長と補佐さん。

紹介しようとして無視されたらそりゃぁ居心地悪いか。



「知り合いと言うほどの仲じゃないですけど、以前ゼスティラの街で会った程度ですね。だからここで再会してびっくりしてます」


「そーいや、にーちゃンの名前もしらねぇや!」


 ハッハッハとまた豪快に笑う。




 このまま工房の前で立ち話もないとヴァージさんが中に案内してくれた。お茶はこちらで用意させてもらって、緑茶を出すとギルド長もヴァージさんもしげしげとお茶を見ては飲んでいる。



「では改めまして、こちらはガラス加工の名人にしてドワーフ族にもその腕を認められた鍛冶師でもあるヴァージ殿です。帝都では職人のまとめ役も担って頂いております。ヴァージ殿のガラス加工には魔力を付与させる特殊な技巧がありまして、その品は疑似魔石やグラスマジックなどと称されております」


 疑似魔石って……それって凄い事なんじゃ!?


「おう、嬢ちゃン達もよろしくな!」


「こちらは皇帝陛下よりお取り次ぎ頂いたラーク商会の会長、ヒバリ殿と同じく商会のサリ殿、ミリ殿、ピーリィ殿です。主に食材加工の商いをしておりますが、斬新な調理器具や新しい料理の開発によって陛下にもその腕を認められております」


「よろしくお願いします」


 内心かなり驚きつつ俺が頭を下げると、他の3人もそれに倣う。


「ほーう。陛下直々とは驚いた。やっぱおもしれー連中だったか」


「あの、それでヒバリ殿はヴァージ殿とお会いになられた事があったのですか?」


 気になって仕方ないギルド長のテレジアさんと補佐のキュイッシュさんがもう聞いていいでしょ?と言わんばかりに目を向けてきた。



「本当に1度会っただけですよ。ゼスティラの街を散策してる時にピーリィが美李ちゃんと飛び出して行った時に声を掛けられたんです」


「だな。テレジアも知ってると思うが、鳥人族は色々と人族相手にはあぶねーだろ?だから俺がにーちゃンに気を付けて見ててやれって言ったンだよ。無理矢理連れてるわけじゃねーのは見てりゃ分かるからな、あンま油断してっとどうなるか、ってな?」


「……陛下もお力を尽くしておいでですが、まだ安全とは言えません、ね」


「そういうこったな。ああ、ちっとくらい壊してもいいからその辺のもン

見てかまわねーぞ。おーい」


 ヴァージさんが奥へ声を掛けると、犬耳を付けた青年が返事をして工房の案内をしてくれることになった。と言っても俺は交渉があるので、俺以外の3人で隣の部屋から見せてもらうようだ。



「にーちゃンには一応聞いておきたかったんで勝手に人払いさせてもらった。あの鳥人族の嬢ちゃンはどうしたんだ?王国から来たのはわかってンだが、どうせ碌な事じゃねーンだろ?」


「あの、私も口外致しませんのでお聞きしてもよろしいですか?」


 ああ、それで3人を引き離したのか。そういや、ヴァージさんはやたらとピーリィを心配してたっけ。それなら、話してみてもいいかもしれないな。




 それから、ルースさんの事は伏せておいて大体の事情を話した。そして、ピーリィ自身は他の鳥人族のいる場所よりも自分達と一緒がいいと言うので今も一緒に旅をしていると伝えた。


「これは後でピーリィ本人に聞いてみて下さい」


「ンなことしねーよ。仲が良いのはみてりゃーわかる。嬢ちゃンも可哀想だが今は笑ってる、それでいーじゃねーか」


「あの、わだじ……こういった話に、弱ぐて……ぐずっ」


「テレジアは変わらねーなァ」


 キュイッシュさんに布を渡されて目元を拭っている。

キュイッシュさんもヴァージさんも苦笑いだ。



「ま、事情はわかった!この間獣人の国に帰る一団に鳥人族はいないって聞いてたから気になってたンだ。あの嬢ちゃン、ピーリィが帝都にいるってのは知ってたからどうにも気になっちまってな。これでスッキリしたわ」


 ハッハッハ!とヴァージさんが笑うと、

先程までの悲しい雰囲気が一気に吹き飛ぶ。


「ンじゃ、次はテレジアとにーちゃンの用件を聞くぜ?」




 今度は俺の番だ。


 まずは、俺が今陛下に珍しい料理の腕を見込まれて城に厄介になっている事、そこで新しい調理器具を製造して欲しいから職人を紹介して欲しいと願った所、今日それが叶ったのを伝える。

 テレジアさんからレードルや匙、目盛り入りの寸胴の件が補足され、それが俺が発端だと知ってヴァージさんは感心していた。矯正箸の話が出て来た時は訳が分からなくて笑ったらしい。使い道分からなけりゃそうだろうなぁ。



 そして今回俺がお願いしたい道具は、


・ハンドミキサー、ブレンダー(魔道具か手動ハンドル


・ピーラー


・アイスクリームディッシャー


・フードカッター(魔道具


・精米機(魔道具


・籾摺り機(魔道具か手動ハンドル

→風量調整の出来る扇風機で、後で籾殻を飛ばす


・タイマー(砂時計に笛を付けた応用簡易魔道具



「うーン……いくつかはすぐ分かったが、後はサッパリだ!俺はガラス加工が一番で金細工はそこそこだからなァ。悪ィがちっと他のモンにも声掛けてみねーとなんとも言えねーって」


「私もです、すみません」


「同じく」


 何とか絵に描いてみたけど、やっぱり分かり辛いか。

俺に画力を求めちゃだめだ。それは分かってた!



 結局、ピーラーはスライサーを使って何とか説明して、アイスクリームディッシャーと手動のハンドミキサーは怪しい部分はあるものの理解してもらえる所まではきた。でも、フードカッターと構造の似た精米機は後でもう一度話し合う事になり、籾摺り機は似たようなものがすでに麦用にあるとの事で、その小型を作ってもらえるよう頼んだ。

 笛付タイマーはすでに砂時計があったので、それに木枠と風の出る魔道具と笛を組み合わせるだけで出来た。回転の機構を理解してもらうためにブレンダーのついでに説明した扇風機も少し似たような魔道具があったので、こちらで使い易いようにプロペラとカバー、そして涼風を送るための水系魔石での冷気が追加出来ないかを説明しただけで済んだ。説明がうまく伝わらず、籾摺り機だけは保留になってしまったが。


 そしてそれらの新しい調理器具を商人ギルドの方で扱わせてもらえないかとテレジアさんと話し合い、元々あった物を改良した方は特に絡むつもりはない事、これから作られる道具はラーク商会の印を入れるので、そこは利益分配の交渉が続いた。




 そして粗方決まった頃、見学をしていた沙里ちゃんがこちらに戻ってきた。



「ヒバリさん、これ見てください!これ、重層じゃないですか!?」


 パタパタと走ってきた沙里ちゃんが白い粉の入った瓶を持って来て俺に見せてくる。鑑定すると、確かに重曹と出た。しかも純度が高く食用にも使えるらしい。



「うちで作ってるもンだが、そいつは磨き粉だぞ?」


「ヴァージさんの所では重曹も作ってるんですか?」


「まーなァ。金細工磨きにはいいからな。ここから北東にチュイルン砂漠ってのがあってな、そこで魔力と相性のいいガラス素材とその磨き粉の材料が採れるンだよ」


「俺の故郷では油掃除や磨き以外にも、不純物のない重曹は食用にも使えるんですよ。飲み物に入れて炭酸、お菓子の膨らし粉に使われてましたね」


「へェー!この磨き粉がか!?そいつァ驚いた。なるほどな、にーちゃンの話はきっとホントなんだろ。陛下もその知識に驚かされてたンだろ?」


「磨き粉は金属の細工品の磨き上げにも使われているのは知っていますが、これを使って料理だなんて……まったく想像出来ません」


 ヴァージさんとテレジアさんは感心しきりで唸っている。これを持ってきた沙里ちゃんは、俺がこれが食用として使えると言うと喜んでいた。


「これでスポンジケーキが出来ますね!帰りに果物と生乳と小麦粉と、」


「いやいや、果物以外は結構在庫あるでしょ。あ、果物はレモンも仕入れておきたいね。重曹とレモンがあれば炭酸ジュース飲めるよ!

 ……と言う訳で。ヴァージさん、重曹じゃなくて磨き粉でしたっけ?是非とも売ってください!もしよかったら炭酸ジュースならすぐにこの場で作りますよ」



 早速即金で数kg購入し、後でまた同じ量を買いたいと担当者に伝えて欲しいと交渉を始めると、何故かテレジアさんとキュイッシュさんが揃ってため息をついた。


「ああ、こうやってラーク商会の利権絡みを増やして行かれるのですね。副長が振り回されると言っていたのがよく分かります」


「はい。1つ商談をすると2つ3つと後から増えるんですよ」


 今回は俺達が買った方ですよ?

決して売り込みしてるわけじゃないんだけどなぁ。




「それにしても、ちょっと話しただけですぐタイマー作れちゃうんですね。後で試作してもらって、そこから調整と思ってましたよ」


「ヒバリ殿、ヴァージ殿はガラスを使った魔道具作成においては頂点に立つお方なんですよ。職人からは魔術硝子師と呼ばれております。ガラスに魔力を込めて疑似魔石にすら出来てしまうのですよ?」


「あンまその呼び名は好きじゃねーが、ガラスの魔道具作成に関しちゃ自信があるぜ。陛下とお知り合いってンなら、もしかしたら俺の作品を目にする機会があるかもしンねーなァ。仕掛けがあるから気付くかはわかンねーけどな!」


 変わったガラスって言うと、姫様達と一緒に控室で見せられたやつかな?

鏡もガラスだし、あれは特別な魔道具って言ってた気がする。


「……ああ、もしかしてあのマジックミラーみたいなやつですか?」


「あの鏡は面白かったですね」


 俺の言葉に沙里ちゃんも思い出したみたいで、

あれがヴァージさんの作品なら凄い物だと2人で納得していた。



「……そうか、あれを見たンか。にーちゃン達、俺が思ってたよりもかなり重要人物みてーだな?あれは一般人にはそうそうに見れるもンじゃねェ。まぁ、俺への紹介を陛下から通されるぐれーだから、当然といやぁ当然か」


「あー、やっぱりあれは特別なんですね」


「ヴァージ殿、伝えるのが遅くなりましたが、ヒバリ殿とご一行は隣国のノーザリス殿下と共に旅をして帝都へ参られました。理由は私も知りませんが、越境の際に大勢の獣人達を助け、率いて入国された噂はお聞きですか?」


「そりゃぁ丁度ゼスティラにいたからな、その噂は直接聞いてるぜ……そうか、それがノーザリス姫様とにーちゃン達ってことか!」


 合点がいったと手を打つヴァージさん。

テレジアさんはそれ以上は言わなかった。


「なんともおもしれーことしてンなァ。ま、そんな事より依頼の道具だが3日後に試作をこさえるからちっと待ってくれ。ああ、炭酸てーの飲んでみてーから作ってもらっていいか?」




 それからは見学から戻ってきた美李ちゃんとピーリィも交えて炭酸ジュースの試作をしてみた。初めは重曹入れ過ぎて苦かったり逆に全然炭酸を感じられなかったりと色々試し、ようやく納得のいった物を3人にも飲んでもらった。単純なレモンと砂糖の炭酸ジュースだ。



「かーァ!なんだこれ!?口の中がおもしれーな!」


「ちょ、ちょっと痛いと言いますか、その、なんですかこれ!?」


「しかし、飲んでると癖になりますね!」


「ぴゃぁ!?」



 ……あ、そっか。


 俺達は飲んだことあるけど、考えてみたらピーリィも初めての炭酸だったのか!かなりびっくりしたみたいで横でじたばたしてる。


「無理して飲まなくてもいいんだよ?炭酸は好き嫌いがあるから、ダメだったら俺にちょうだい」


「んー、まだ飲んでみる!」


「そっか。ああ、沙里ちゃんと美李ちゃんはお代わりだったね」


 一度レシピが決まったらあとはその分量を入れて混ぜるだけだからすぐ作れる。あとはレモン以外にも何か色々作ってみたいとこだなぁ。




 なんて考えていたら、


「げぇっぷ!」


 ヴァージさんが大きな口でげっぷをしてた。

ああ、炭酸と言えばこれもお約束だったか。



 マナー的な意味でもちゃんと言っておかないと、炭酸で恥をかく人がいそうだなぁ。もし売る時は注意しないとやばいことになるよねこれ!




3日に1回更新がかなりぎりぎりですね……

これから年末年始で大忙しだけど大丈夫か不安が。

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