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ピーリィと箸

ちょっと短いです。

「うー……」


 それは晩ご飯での事。普段はフォークを使うピーリィだが、

今は箸を使って昼に作ったものと同じうどんを食べていた。



 が、やはり人と若干違う指の作りなのでうまく扱えていない。容器に口を近づけてかき込むのならば出来ても、箸で麺を持ち上げてすするにはどうしても出来ずに唸っていた。

 手入れのしてある長い鉤爪、外一杯に開くと人とは違う指の長さのバランス。持てなくはないが、挟んで持ち上げるにはかなり苦戦している。



 皆が使う箸。ピーリィも同じように食べたかった。


 皆と一緒がよかった。ただ、それだけなのに出来ない事が悔しいと、以前美李ちゃんに愚痴をこぼしていたらしい。それを聞いたのはこの晩ご飯の時だったのだ。




 夜もうどんを食べたいと言ったピーリィに皆も賛成し、今度は天ぷらではなく揚げ玉と油揚げの甘辛煮、つまりはたぬきときつねだ。それだけでは物足りないだろうと、唐揚げと金平ごぼう、温泉卵にとろろ昆布とトッピングを変えて用意してみた。


 ついでに、ピーリィ達が作ったふりかけでおにぎりも用意したらすごく喜んでくれた。そこまではピーリィの機嫌も良かったのだが、今は唸りながら食べている。




「ヒバリさん、お箸って他にはないんでしたっけ?出来れば金属がいいんですけど」


「箸で金属はないなぁ。どうするの?」


「子供の頃に使った矯正用の箸が作れないかなって思ったんです。それをピーリィ用に作れば、何とかなるかもしれません」


「あ!あたしもあれ使ってたよね!」


 沙里ちゃんの話を聞いた美李ちゃんが思い出していたみたいだ。俺は父親からそんなの用意して貰った事ないなぁ。しかもよく見れば、俺って少し箸の持ち方がおかしいみたいだ。な、中指ってそう動かすの……?



「あ、ああなるほどね。それならBBQで使った鉄串ならどうかな?先を潰せば危なくないし、長さも数も結構あるよ。それに絵に描いてもらえたら俺が加工するよ?」


「そっか、まずは絵にしてみますね!」


「ピーリィ、おねえちゃんたちがピーリィのお箸作ってくれるって!あれあればちゃんと持てるようになるんだよ!」


「ほ、ほんと!?」


「ご飯が終わったら始めるからもうちょっとだけ待ってね」


「サリ、ありがとー!」



 もっきゅもっきゅと元気よく食べるのを再開したピーリィを皆で温かく見守りながら、晩ご飯は和やかに過ごしていった。




「さて、さっそくやってみますか」


「これで分かります?」


 1枚の紙に描かれた、知恵の輪を長くしたような2本の棒。


「何となくは分かるから、あとは作りながら調整していこうか。それに、ピーリィの指に合わせないとだから、そこも手探りだしね」



 晩ご飯後に俺と沙里ちゃんとピーリィはダイニングテーブルに残っている。他の3人には先に風呂に行ってもらってるので、今は少し静かだ。


「まずは鉄串が上手く曲げられるかだけど、」


 用意してみた直径5mmは超える鉄串を置く。


「あ、大丈夫です。ほら」


 ふん!と鉄串を持って力を入れた沙里ちゃんがぐにゃぐにゃと曲げる。いや、俺だってただ曲げるだけなら出来るけどさ、何あの針金みたいに軽く曲げる力は!?あ、ステータスの違いか!


「そ、そうなんだ。じゃあ、沙里ちゃんが曲げてピーリィの指に合うように調整してもらって、俺は先を潰して怪我しないようにしとこうかな?」


「あっ……すみません、1本無駄にしちゃいましたね」


 もはや伸ばしてもガタガタになってしまう串を申し訳なさそうにテーブルに置いた。しょうがない、こいつは犠牲になったのだ。勿体無いから沙里ちゃんにJの形にしてもらって、焼豚とか作った時に使えるよう整えてもらった。


 そっか、あの程度の鉄棒はああなっちゃうのかぁ。



 力の差と先を潰す以外やる事のなくなった俺は、ついでに箸にするには細い鉄串を使って、沙里ちゃんの作る矯正用箸を真似て作ってみた。人差し指と中指を通す輪を位置調整しながら作り、もう片方の棒には薬指と親指を添える台座の様な形を作る。


(おお、本来はこうやって持つのか……普段家に1人だったし、外でも誰も突っ込んでくれなかったしなぁ)


 ふんふんと1人納得してからそっと仕舞っておく。テーブルの向かいに並んで座っている2人は、せっせと箸を持たせては調整していた。20分は経った頃に納得したらしく、まずは俺が受け取ってヤスリで先を潰す。


 そして、洗ってから試しに使ってみようと小さいお椀にかけうどんを入れて渡した頃、風呂から上がった3人もこちらにやってきた。



「おー!ついにできたんだね!」


「私も箸はまだきちんと扱えないので、もし可能なら作ってくださいますか?」


「出来ましたら自分も」


 ピーリィは自慢気に皆に箸を見せて、

いよいようどんを前にキリッと表情を引き締めた。


「いただきます!」


 そこはいただきます、になるのか。

なんだかんだで礼儀正しく育ったね!


 そーっと箸をお椀に入れ、うどんをそっと掴む。

太い麺の1本を、箸が掴んで離さない。


「で、できた……できたーーー!」


 麺を掴んだままぶるぶる震えるからテーブルに汁が飛びまくるけど、

今はそんな事よりやっとまともに箸が使えた喜びで震えるピーリィを

皆が声を掛けた。


「やったね!これならいつでもお箸使えるね!」


「よかったぁ。うまく出来てほっとしました」


「うふふ。私もそうやって出来るようにならないと」


「箸とはきちんと持つとやはり綺麗ですね」



 皆に褒められて照れながらうどんを食べるピーリィに癒され、それをユウとベラ、それにルースさんにケータイ袋で報告するピーリィを横目に先程試しに作った人族用矯正箸の雛型を出してみた。


「こんな感じで作ってみたんですけど、2人もこのサイズで作ってみます?」


「ヒバリさんいつの間に作ってたんですか……しかもわたしが作ったのより形が綺麗なのが悔しいですね」


 沙里ちゃんがむーっと睨んでくる。いや、器用さは俺が上みたいだけど、力じゃまったく敵わないんだからそこは勘弁してください!


「で、2人もいります?」


「「是非!」」


「じゃあ2人の分はわたしが作ります!これを見ながら絶対綺麗に作って見せますからね!」


 あーうん。どのみち俺じゃあの太さは加工出来ないから沙里ちゃんに任せるしかないんだけどね?それはもういいか。



 その夜は箸が使えたのが余程嬉しかったのか、風呂に乱入しても箸の話を、寝る前にもまた箸を持ってにまにましていた。流石に危ないから箸は仕舞ってから寝かせたけど。





 で、翌日の朝。



 姫様に用事があると伝えに来た騎士さんが不思議そうに箸を見て、これが箸をきちんと持つための矯正用だと教えて持たせてみたら大いに喜ばれた。


 沙里ちゃんが作った予備を1つ渡すと歓喜して部屋を飛び出し、周りに自慢していったそうだ。当然そうなると噂として広がり、




「ヒバリ!俺にもあのハシを作れ!」


 はい。この国の頂点であらせられる皇帝陛下が釣れました。




 まぁ、多分そうなるかなぁとは思ってたけど、

まさか朝の数時間後に飛び込んでくるのは予想外だった……





 結局は雛型を作って渡して、それからはそちらで量産して個人ごとに勝手に調整してくれと言う事で落ち着いた。さすがに全員分なんて俺も沙里ちゃんも対応しきれないし、それに材料だってありません!



 これ以上BBQの鉄串を減らすのは勿体無いからね!




ピーリィにはきちんと箸を持たせてあげたかったのです!

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