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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第11章 帝国と天人教
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皇帝陛下の街頭演説

 その日、昼過ぎに3台の馬車と騎乗した護衛が30名ほどが城門から出て来た。1台目は派手な装飾はなくとも黒く磨き上げられた車体は陽の光を浴びて輝き、他の2台を圧倒する。


 続く2台も決して作りの悪い物ではなく、その証拠に走る車体の揺れは極力抑えられていた。小気味良い馬の足音と車輪から聞こえる音はまるでリズムを取っているかのようだ。



 その一団を貴族区に住む者達が何事かと家門前へと集まれば、なんと、目が合った者に皇帝陛下が手を振っているではないか!

 慌てて家の主へと伝えに走る者、そのまま呆然と手を振り返す者、陛下!と叫んで懸命に手を振る者と、様々な反応が見られた。


 貴族区を抜けた先では更に沿道に集まる人は増え、その騒ぎは最早パレードに近い。すぐにこれだけの人が集まったのは、事前に陛下直々のお言葉、演説があると告知されていたためだろう。その証拠に、人々は噴水広場に近づくほど増えていった。




 その先頭馬車の中には、皇帝陛下と宰相閣下の姿があると聞き、一目見ようと民衆は騒いでいる。ゆったりと6人が乗れる車中には護衛の騎士も2人。そして壁には人1人分の掛け軸の様なものが立て掛けられていた。


 当然、ヒバリが作った簡易居住袋だ。


 いつものと違いやや小さめの入り口と、8畳間ほどのワンルームの様な室内にちゃぶ台やクッション、それにソファーが配置されヒバリ達が座っていた。正確には、ユウとベラは後に続く証言に立候補した獣人やその護衛の騎士達の乗る馬車に乗っている。



「今は魔物や魔物化した者はいないようですね」


「人が多すぎて鑑定が追いつかないんですけど……」


 レーダーマップを見れば人・人・人。それを全部鑑定していくには無理があるので、トニアさんが怪しい動きをしていると思ったマーカーを指定して俺が鑑定、結果を即座に簡潔に答える。

 個人の意識の前に見えるレーダーマップなので、どれを鑑定すればいいか指示しやすいように、トニアさんは俺の隣にくっ付いて座っている。それに対抗してか、胡坐をかいた俺の足の上にピーリィも座っていた。初めはふんふん言いながら一緒にマップを見ていたが、すぐに飽きてジュースを飲むか俺にもたれかかっている。



「もうちょっとこう、使い易いように改良したいですね」


「これが個人ごとにしか見えない事、鑑定結果はヒバリさんにしか分からない事どの印も同じようにしか見えない事。この辺りでしょうか?それでも十分贅沢を言っていると思いますけどね」


「ああ、確かにそこですね。少しずつ改良出来るかやってみますか」


「異常がないかの探査に支障がない程度でしたらいいと思いますよ。ただ、事前に陛下や他の方にも報告しておかねば、突然変わったら驚くと思われます」


「でしたら、私が伝えて来ましょう」


「いえ!姫様を使いに走らせるような真似はさせられませんッ!」


 慌ててトニアさんが立ち上がろうとするが、

姫様が片手で制して自身が立ち上がる。


「あなたにはあなたの役割があるでしょう?陛下へ直接お話しするのは私の役目です。トニアはこのままヒバリさんと周囲を警戒してなさい」


「も、申し訳ございません」


 論破され大人しく座り直すトニアさんは、気合を入れ直してマップを凝視する。正論であっても自身の中で主を小間使いの様に動かすのに納得していないのだろう。


(でも実際、皇帝陛下に直接話すなんて姫様じゃないと無理でしょ)


 簡易居住袋の玄関で靴を履いた姫様がこちらに軽く手を振って出て行く。

出ると言っても隣だからすぐそこだけど。


 ああ、今度スリッパ型のを作るのもいいかもしれないな。もしブーツを履く人が突然何かあって飛び出すのにすぐ履けるものがあるほうがいいよね。軽くかかともカバー出来てれば走れるはずだな。


「ヒバリさん!ぼーっとしてないで次はあの動かない1人を鑑定してください!」


「あ、はい」


 気合の入ったトニアさんに押されつつ、

噴水広場までは延々これが繰り替えされていった。




「皆の者、突然の事に良く集まってくれた!先に言っておくが、今から言う内容は、すでに帝国全土へと書状にて同じものを持って走らせている。今ここで聞けない者は伝えてやって欲しい!ではこれより、噂の真相と今後の帝国の方針を宣言する!」



 噴水広場には元々2mほど高い舞台の様な物があった。以前ピーリィが飛び出してしまった時には、周りの子供もその舞台で遊んでいたので気にならなかったが、この石造りの舞台は元々こうして演説を行うための

ものらしい。

 国は政策や方針を民に伝える義務がある、と当時の召喚勇者が言った事が始まりらしい。こうして皇帝陛下自らが演説をする姿は年始や祭り、今のような報告の時にはよくあることらしい。だからこそ民衆は混乱もせずに自然と広場へと集まって話を聞いているのだろう。



 そこで2人の大臣の悪行が伝えられ、獣人族も人族も好き勝手に人攫いをして私利私欲を満たしていた事、城内で捕らえた後脱走を企てて、挙句に魔物となって襲い掛かって来たので返り討ちにした事が告げられた。

 魔物化に関しては原因が分からないと言われた時には騒然としたが、可能性のある者は鑑定珠で調べれば種族名がおかしくなるという所までは判明したので、全員一度鑑定を受けておくようにと念を押していた。


 そして実際に隷属化され危うく売り飛ばされそうになった獣人達が証人として告白し、それを助けられたがまだ同胞が行方不明なままなので情報提供を願う話には、他の獣人達の顔が悲痛に歪んでいた。

 更に元大臣らに手を貸していたが行方を眩ませた騎士の名前が発表され、その親族にも事情聴取を行うが、決して復讐・報復を起こさないよう注意が促され、このような事に気付かなかったと国のトップとして、また個人として頭を下げて謝罪していた。



 最後に、ここ最近の獣人迫害に関しても明言された。


「残虐な儀式などない限り、宗教の自由は約束する。だが!他者への強引な勧誘、多種族を貶め迫害する行為、これらは今まで以上に厳しく取り締まる。よって、そういった行為の情報提供には謝礼金を出す。但し、もし故意に偽情報を以って相手を貶める行為が判明した場合、その者は更に厳しい罰を与える!皆が手を取り合って暮らせる国を取り戻す事を、ここに宣言する!

 まずは、今いる要職文官が大臣を始め多くが不正を行っていたため投獄した。よって、これから多くの文官を昇進・起用するわけだが、ここに多様な種族を置く。それによって様々な意見が出され、より良い帝国に

する為に力を貸して欲しい。騎士候補も同じだ。体制が整い次第募集をかけるので、皆も頭に入れておいてくれ!今日言った事は後にまとめて掲示板に貼り出すので確認してほしい。俺の話は以上だ!」




 後半は明らかに天人教へ向けた警告のような内容に一時緊張したけど、天人教のいた集団は特に動く事もなく演説を聞いて、解散と同時に教会へと戻って行った。


「これからどう動いて来るかが問題ですかね」


「先程の陛下のお話ですと、街の巡回警備の第5・第4騎士団に多くの獣人を採用するとおっしゃってましたし、これからは街中に獣人が歩き回るでしょう。その状況を見て、もしくはそうなる近い未来を考えてどう対応してくるか……」


「それは私達が考えても仕方ありません。今は不審者がいないか監視の任を全うしましょう」


 トニアさんと意見を交わしていたが、姫様に注意されて慌ててマップの確認に意識を戻した。結局この場でいきなり仕様変更しても混乱するだろうと判断して、まだ改良は試していない。


「あ。もう戻るだけなら、今から改良を試してみればいいのか」


「せめて陛下や連れてきた獣人達が全員馬車に乗り込んだらにしてくださいね?先程からヒバリさんは優先順位を間違えてますよ」


「あ、はい。スミマセン……」


「んぅー、といれー」


 トニアさんと話したり姫様に叱られて騒がしかったからか、ピーリィが起きて目を手で擦りながらトイレへと歩いて行った。丁度気まずい空気がなくなったし任務に戻ろうか!




 帰りも特に不審な動きをする者はおらず、城門を抜けた先で少し様子見の為に30分ほど待機しても後を付けてくるような者は現れなかった。ここで漸く全員の警戒レベルを引き下げた。


「こんなものか。よし、以上をもって解散とする!各自持ち場に戻り、休める者はしっかりと休んで欲しい!獣人の方々も、協力に感謝する」



 騎士達は城門側の宿舎へと引き上げ、獣人達は城の西側にある来客用の館へとそのまま馬車で案内されていく。ユウとベラと合流した俺達は、引き続き陛下の馬車に乗ったまま城の玄関口まで運ばる。降りてからも俺達が宛がわれた部屋まで陛下の後を付いていった。

 宰相さんは部下への指示や済ませておきたい事後処理があるので一旦離れ、後でこちらに合流すると言っていた。これはまた晩ご飯をこっちで食べていくって事なんだろうなぁ。


 部屋に入りトニアさんと俺がお茶の用意を、沙里ちゃんと美李ちゃんとピーリィが団子とポテトチップスをテーブルに置いていた。一応晩ご飯前だから量は少なめにしたみたいだ。



 緑茶を飲んだ陛下もやっと落ち着けたようで、

深い息を吐いてからゆっくりと話し出した。


「ふう。皆の協力もあって無事に演説を終えられた。改めて感謝する」


「陛下のお力になれたのなら幸いです」


「慌ただしくて済まんが、獣人らを国に送る話だが、出発は予定通り明後日になった。この第一陣が無事に到着出来るかどうかは非常に重要だ。もし襲撃があるとすればこの第1陣だろう。俺の方でも護衛は用意するが、ユウとベラにも頼らせてもらう事になる。それでも同行してもらえるか?」


「構わない、ですよ!ベラが行くならボクもついてくだけ」


「はい。ベラも、同胞守るため、一緒に帰りたい、です!」


「そうか。では、明日は同行する騎士らを紹介する。予定は開けといてくれ。それと……サリスらともよく話し合っておくんだぞ」



 ああそうか。


 ここでユウとベラとは別行動になるのか。やっと馴染んできたと思ったから、なんだか寂しいなぁ。ちょっと出かけてまたすぐ合流出来る程度に考えてたけど、後で地図を見せてもらえるなら見ておきたいな。


 あ!それよりも2人にも色々準備してあげなきゃ!

……いやでも、周りに他の人がいると使いづらいかもしれないか。



「ヒバリ、どしたの?」


「ん?ああ、ちょっと考え事をね。ほら、2人が離れるならルースさんに送ったみたいなセットを用意しようかなーって。でも周りの目があると使いづらいかもしれないしさ」


「む。作ってもらえるなら欲しい!お風呂やトイレは重要だよ!」


「ユウ、見つからないように使うの、できる?」


「うっ……でも、あると便利だしなぁ」


 やっぱり人目を気にしたら使いづらいよなぁ。

取りあえず送るまでは使うの我慢しておくとか?



「ああ、風呂が使えるか悩んでるのか?ヒバリの居住袋はどう考えてもマズいが、風呂やクッションなら俺が貸出許可した魔道具って事にしたらどうだ?俺の名を使えば下手な事にはならん。それに、貴重な魔道具を使って送ったとあれば、相手も悪く思わねぇしな。盗むバカも現れんだろ」


「私もおじ様に賛成なのですが……そうなるとヒバリさんは明日中にかなり多めに作らねばなりません。無理をせずに完遂出来ますか?」


「んー……今夜も含めれば大丈夫じゃないですかね?大きな居住袋を作るわけじゃないから、こつこつ作ればいけますよ」


「よし!ならばユウとベラが使う物以外は後に買い取るので、ヒバリには無理をさせるが制作を依頼する。風呂は男女別の浴槽を、水と火の魔石と衝立はこちらで用意しよう。それと―――」


 ここで陛下と姫様と俺とユウとベラの5人で打ち合わせをして、その間に他の皆は晩ご飯の準備をしてもらうよう頼んで、各自が行動に移す。




 あ、当然陛下はここで食べていくそうだ。

やっぱりね、そうだと思ってましたよ。



 そして、また他の皇族の方々も後ほど集うそうです。ほんと、城の料理人達の仕事を取り上げるのはほどほどにして下さいね?変な恨みを買うのはいやですからね?


 なんて思っていたら、実は俺達と一緒のご飯には毎回1人ずつ交代で料理人が参加していたらしい。それなら沙里ちゃんにレシピの書き出しをお願いしてみようかなぁ?



 などとちょっと別な事を考えながら、

俺は自分の担当である作成依頼の書き出しをしていった。




 ……あ。


 結局レーダーマップの改良出来なかったな。

これも後で忘れないうちに頑張ってみますかね!



 まだ仕事が忙しいのでぎりぎり書いている状況なので、おかしなところがあったらご指摘頂けると助かります。しかも仕事中はVRMMOモノを書いてみたいなぁなどと考えている始末。いえ、勿論家では袋詰めを書いてますよ?


23日は働ける喜びに感謝する日ですね!(違

ブックマーク数やPを見ると拙作には非常に勿体無いと思いつつもありがたいなぁと改めて見て思いました。


そんな拙作を引き続きお読み頂けたら幸いです!

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