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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第11章 帝国と天人教
144/156

陛下と司祭

今回はヒバリ達はお休みです。


更新遅れておりますが、拙作をお読み頂けたら幸いです。

 ヒバリ達が2度目の帝都へ出掛けた数時間後、

城から1台の馬車が静かに出発した。


 御者を含めて8名。その誰もが城内屈指の実力の持ち主。


 更にその内の2名は、豪奢さは無くとも威圧感を際立たせるいつものマントや服ではなく、ベージュ色の質素なマントに質はいいが装飾の少ない服装をしていた。



 その2名とは、皇帝陛下と宰相である。


 そしてこの馬車は、これから天人教の帝都支部へ向かっている。



 先日の情報では支部の最高責任者であるカランツ司祭が昨日戻って来たらしい。2人が訪問を急いでいるのは、今なら居留守も使えない上にすぐにまたどこかへ出る間も作らせないためだ。


「このタイミングを逃す手はない!」


 そう言って、陛下は即行動に移した。



 昨日のうちに訪問する旨を書状で知らせており、

その返事を待たずに今日押し掛ける様に訪問を実行する。


 そして本人も了承した上で宰相を連れて来ていた。



 帝国最大の天人教施設へ獣人を連れて行く――

教団の教えを考えれば、絶対にありえない蛮行とも言える。


 だが、敢えて連れて行くと陛下は断を下し、

宰相も是が非でもと揚々と受け入れた。



「ベイユ、そろそろ奴のいる教会に着くぞ。覚悟はいいか?」


「付いて行くと答えた時点で覚悟は出来てますよ」


「そうか……頼もしいなベイ!さすが俺の相棒だ!」


「懐かしい呼び名を……はい、ブジェ!油断せず行きましょう!」



 城を抜け出してこっそりと冒険者として活動していた頃の互いの呼び名。

それを持ち出して来た陛下に、宰相も昔の呼び名で返した。


 ブジェントとベイユ、その2人の関係を、

周りの騎士達は眩しそうに、羨ましそうに見守っていた。






「久しいな、カランツ司祭」


「ようこそお越し下さいました。急なご来訪のためおもてなしの準備が間に合わずご満足頂けるか分かりませんが、ご容赦頂きたく存じます」


「いや、気にせんでよい。俺の方が押し掛けただけだ。挨拶はいいからまずは話の出来る部屋を用意してくれ」


「ではこちらへどうぞ」



 馬車は教会の裏手にある関係者用玄関へと着けた。

これも先日に送った書状に記した通りの行動だ。


 そして2人を馬車に残し、6人で司祭の後に続いて建物の中に入って行く。時折信者が道を譲る為に少し隅に寄って会釈をしてくるが、黒豹の獣人のベイユ宰相を見るとぎょっとした顔を向ける者も少なくなかった。


「こんにちは」


「ご、ごきげんよう」


 そういった顔をする者を見かけては、敢えて声を掛けて挨拶をするベイユを見て楽しそうにする皇帝陛下と、訝し気にチラチラ見るグランツ司祭の従者2人は実に対照的だ。




 やがてあまり大きくないが質の良い調度品や白い清潔なテーブルクロスがかけられた応接間へ通され、正面にはグランツ司祭が、その対面には皇帝陛下と宰相が座る。

 従者である神父2人と皇帝陛下らの従者である騎士4人はそれぞれの後ろに立つ。紅茶の用意をと世話係に声を掛けたが2人が断り、騎士の1人が皇帝陛下と宰相に薄い緑色をしたお茶を用意していた。



「面倒な挨拶は抜きにして、すぐに本題に移らせてもらうぞ。サントノレア公爵とパーター侯爵は知ってるな?」


「はい。外交大臣と商務大臣を務められているお方々ですよね。勿論存じ上げております」


「その2人だが、隷属の魔道具を使っての非道な隷属化と奴隷とした者達を私的使用が発覚したため身柄を拘束、よって両家の廃嫡が決定した」


「まさか……!?そのような事をなさる方々とは思えませんが、皇帝陛下のお言葉ですので、真実なのでしょう。誠に残念な事です」


「ああ、本当に残念だ。これまでの悪行に気付けなかった俺達にも責任はある。奴隷として使役させられていた者達は城の魔導士達の術で解放され、今は城で保護している」


「それはようございました。お抱えの魔導士様は優秀な方が多いのですね」


「無理をさせているが、一刻も早くその者らを拉致した極悪人を締めあげるためだ。落ち着いたら十分に労ってやるつもりだ。

 …で、だ。問題は事を起こした2人なんだが、当然ここの信者だったってのは分かってるよな?」


「ええ、存じております」


「それで、隷属化された者のほとんどが獣人だった。更には司祭も繋がりがあったドルエス商会がその獣人達を運んでたんだわ。しかも、隷属化の魔道具もそいつらが運んでいた。これも物的証拠も状況証拠もある。運んでいたカールという名の従業員も拘束済みだ」


「ああ、ドルエス商会は帝都では商人ギルドも含めて売買取引の権利剥奪及びドルエス商会への強制捜査を行っております。以後取引のないようご注意ください。もし繋がりが残っているようでしたら……」


 特に顔色を変えずに受け答えしていた司祭だが、ベイユ宰相が会話に参加した途端そのポーカーフェイスが崩れる。まあこれは宰相が敢えて牙を見せたりと挑発しているせいなのだが。


「話を戻すぞ。昨日の大臣2人の家宅捜査で、天人教帝都支部…ここだな。ここから金銭援助を受けていたって帳簿が出て来た。これはおかしいよなぁ?本来教会ってのは孤児院と同じで国や有権者から資金援助を"受ける側"だよな?

 ぶっちゃけちまうと、寄付や布施ってのは教会の資金源だ。それがあって運営が成り立つわけだ。それがなんで国の頂点にほど近い大臣が援助を受けるって話になるんだ?」


「帳簿によると月に紅金銭5枚だそうですよ。私だってそんな大金を貰った事はないですねぇ。教会とはそこまで儲かるのですか?何か秘訣でもあるのでしょうかねぇ」



 この国にも孤児院はある。裕福な貴族階級の者が資金援助をして、捨てられた子供たちを集めて最低限の衣食住を賄い、基本的な読み書きと足し算引き算を教え、優秀者は就職先を斡旋するシステムだ。

 国に申請をすれば、国からも援助を受けられる。そうでもしないと、何処かの町村から、あるいは薄暗い路地の片隅などで子が捨てられる現状では子供達を守り自立させる資金は足りないのだ。

 一方、宗教もその土地や種族によって崇められる対象が様々だ。大抵は小さな礼拝堂を持つ程度で、神父や司祭は存在しない。近隣の者らで建物を管理している。故にちょっとした寄付で建物を修繕し、宗教で儲ける事はない。


 だからこそ、2人にそれぞれ大金を渡す天人教の異様さが目立ってしまう。皇帝陛下と宰相は、だからこそここが攻め時と判断して司祭に情報が届く前に押し掛けたのだ。



(あの無能共がッ!あれほど証拠を残すなと言い含めて援助してやったと言うのに、まったくもって腹立たしい!)


 司祭の心中は怒りに荒れ狂っていた。


 しかし、表に出さない様気を付けていても、何かしら異常をきたす。

獣人であるベイユ宰相には、それが感じとれていた。


「おや、どうしました?頭のてっぺんが凄い汗ですよ」


 その一言で、全員が司祭の頭部へ集中する。本来つむじがある場所だが、司祭はてっぺんを中心に頭の半分の髪がない。となれば、当然てっぺんに汗をかけば、頭皮に浮き出る汗が見て取れる。


「ハハハ、気候も徐々に暑くなってきましたのでね、遠出から戻ったばかりで服がまだ多過ぎたようでしてね」


「そうですか。私なんて見ての通りフサフサなので厚着する必要がないので申し訳ありませんなぁ。ああ、勿論体毛の事ですよ?」


 言いながら自身の頭をポンポン叩くベイユ宰相。

こめかみをピクピクさせながらそれを見るカランツ司祭。


 皇帝陛下は笑っているが、両陣営の後ろに立つ従者達にとっては居心地の悪さが増していくばかりで、最早帰りたくて仕方がない。



 その後も攻め手は陛下側で、汗をかきつつも躱し続ける司祭。


 そうした会談は4時間にも及び、言いたい事を言い切った皇帝陛下の合図で解散となった。攻められ続けた司祭は燃え尽きる寸前である。




「じゃあまたな。何かあったらすぐに来るからな」


「こ、こちらこそ大したおもてなしも出来ず申し訳ございません。またのご来訪をお待ちしております」


「そうですか。ではまた私も参りますね」


「は、はい。お待ちしております……」



 こうして"7人"を乗せた馬車が教会の裏から出て行った。それを見送ったカランツ司祭は安堵と疲れで一気に老けたような顔になっていた。


「こうなっては本部へ報告しておかないと、もう私の手に負える段階は過ぎてしまったかもしれませんね……はぁ、気が重い」





「思ったよりもちょろい司祭だったが、それでもでかい失言は無かったか」


「そうですね。この後どういった行動を起こすかに期待しましょう」


「ヒバリに無理して作ってもらったアレが早速役立つってわけか」


「ええ。戻ったら感謝の意を伝えましょう。無理した事でかなり叱られていたそうですから、ここは私達が良い報告をして援護しましょう」


「俺達に出来るのはそれぐらいってこったな。さて、"アイツ"には気張って司祭から色々お土産を拝借して貰おうか」



 1人足りない帰りの馬車。その1人は今、天人教帝国支部の教会内にて、カランツ司祭の私室内で静かに息を潜めていた。



 出発前にヒバリから授かった板目模様の簡易テントやフード、捕獲用の袋を一式。その者に扱えるよう無理を言ってヒバリに追加で作らせた物だ。その男は第1騎士団の中でも屈指の斥候役。彼にヒバリの袋を扱わせればその任務の成功率は抜群に跳ね上がった事だろう。




「じゃあ話もあるし、今夜もサリス達と飯を共にしねぇとだな!」


「そう言って、単に陛下がヒバリ殿らの食事を召し上がりたいだけなのでしょう?」


「なんだ、ベイは食いたくねぇのか。お前らも行くよな?ワショクってのはほんと美味いよなぁ。うちの料理人達も作れる物が増えてるらしいし、あいつらも労ってやらねぇとな」


「そうですね、ヒバリ殿らは当然としても、料理人らも労ってやらねばなりません。それと!私は行かないとは申しておりません!ただ、あまりヒバリ殿に負担を掛け過ぎてはノーザリス殿下に嫌われますよ?」


「あー!てめぇそこでサリスの名前出すのか!お前だって飯食いに行くんだから一緒だろ!?」


「いえいえ、私はお相伴にあずかれたならば幸いに御座いますが、決して先方に無理強いはよくありませんよと申しただけです」


「そうやって1人善人ぶっていっつも俺が悪者だ!」


「陛下、馬車の中で騒がないでください」


「ほらみたことか!こうやって俺だけ――」



 こうして2人の喧騒は城に着くまで続いていた。




 行きとは違って、残った騎士達は2人のやり取りを苦笑いで見守るしか出来なかった。そこには尊敬も羨望もあったものではない。



 しかしこれもまた2人の関係の真の姿であり、それを見守って来た騎士達には馴染の光景でもあった。そして結局はこの2人の関係に憧れてしまう自身らの心に対しても苦笑してしまうのであった。




といったわけで、今回は皇帝陛下と宰相がメインでした。


一度PCがフリーズして消えてしまった時はこちらも真っ白になりました……

こまめな保存、大事ですね!


補足:紅金銭5枚は日本円で500万円相当とご理解下さい。

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