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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第11章 帝国と天人教
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皇族への説明

 今の部屋では防諜対策に不安があると言われ、

俺達は全員で近くの皇子の部屋に案内された。


 そして部屋の四隅に1人ずつ立った騎士が風の防音壁を発動させ、それが1つの空間として部屋全体を覆う。4人が頷き、完成したことを伝えた。


「ビルモントやヴァシュリー、ブリゼにペストリー、それにサリスまでもがヤバイって言ってきたんだ、それなりの対策はさせてもらったぜ」


 ダーラ様…妃と同じソファに腰掛けた陛下が話を切り出す。



 現在この部屋には皇族から4人、宰相、ブリゼとペストリー、ビルモントと侍女2人、第1騎士団の団長と四方を守る4人、それと俺達8人で合計23人と大所帯だ。厳密には扉の外に4人いるが、話をするのは中の人達だけなのでここではカウントしないでおいた。



「陛下、まずは私から。ヒバリ殿の固有スキルはご存知と思いますが、まだ秘匿とされた能力は、この中では1番目に体験させて頂いております。

 今回ヒバリ殿の許可を取らずヴァシュリー殿下にお教えしてしまった件、謝罪させて頂きたい。約束を違えてしまって申し訳なかった」


 ブリゼとペストリーが揃って頭を下げる。

何となくこちらもお辞儀をしてしまった。


「それについては、ワタクシが無理矢理聞き出してしまったのですわ。立場としてブリゼは皇女に従ってしまっただけ。ワタクシこそブリゼとヒバリに謝罪を、」


「あーもうそこはいい!ヒバリが許してくれたってんだろ?ヒバリがもういいって言ってんだから蒸し返すな。さっさと本題にいこうぜ!」


 ブリゼがヴァシュリーがと謝罪の応酬が始まったがすぐに陛下が待ったをかけて話の方向を修正して、さっきから出番を待っている美李ちゃんとピーリィがもういいの?とこちらをチラチラ見てきた。


 もうちょっとだけ待ってね?




「じゃあ改めまして、自分のスキルなので自分で説明させて頂きます。ではまず、先日渡した収納鞄は生き物が入れられませんが―――」


 ここからはきちんと袋の容量や開閉、時間の停止の有無などを条件付け出来る事、時間停止させなければ生き物も入れられる事、それを利用して道中捕らえたドルエス商会の者達を縛って袋の中に監禁して荷を軽くしていた事も話しておいた。

 途中、服などのポケットにも収納機能を付与出来る話で皇女様が食いつき、スキルで作られた袋は打撃や魔法攻撃にも込めた魔力量が尽きない限り耐えられる話では陛下やビルモントら男連中が騒いだ。



「待ってください!まずは居住袋を実際に見て頂きたいんです!他の話はその後でお願いします。さあ、美李ちゃんピーリィ、お願い」


「「はーい!」」


 待ってましたとばかりにたたたーっと壁に駆け寄って、予め立て掛けていいと許可を貰った場所にぴょんと飛んで両端を引っかける。2人が手を離すと、丸められていた皮布の絨毯の様な物が下まで広げられた。


「で、これが普段俺達が住んでいる居住袋です。道中も宿でも、勿論ここで泊まる時も俺達の時だけはこの中で生活していました」


「じゃあ、どうぞ〜」「こっちこっち〜」


 俺が話している最中に居住袋を開けた2人が、皆を中に案内し始めていた。突然壁が開けたと思ったら、そこに家の玄関があったらもう皆の目線も意識もそっちに向いたままだ。もうちょっと説明したかったんだが。


「あー……後は中に入ってからにしましょうか」




 一度入った事のある人は後ろに回ってもらい、俺と美李ちゃんとピーリィの後から陛下、ダーラ妃、宰相、皇子の4人が先に入る。ブリゼとペストリーは遠慮したようだ。当然だが四方を守る騎士達も入っていない。物凄く羨ましそうな目線を送っていたが、今は見なかったことにしておいた。


 順に厩舎、ダイニングキッチン、男女別の部屋、風呂、トイレ、畑、簡易訓練所と案内していく。部屋ごとに別の居住袋を立てかけて繋いでいると説明すると、陛下が関心を持って扉を開けようとしたが開けられず、横で姫様達が開けると悔しそうに見ていた。


 いや、扉1つで大人げなさすぎでしょ……



 あまり不機嫌になられても困るので、簡易訓練所で袋の耐久テストをしてもらい、魔法を当てたり剣で斬り付けたりと色々試すことで発散させておいた。

 陛下や宰相ら男連中、何故かダーラ妃は楽しそうに的に当てていた。ただ、ダーラ妃は途中で夫である陛下に袋と的を持たせ、後ろに貫通しない事を身を持って体験させていた。


「おいヒバリ!ホントに大丈夫なんだよな!?怪我はしないよな!?」


「あ、重量とかの衝撃は来るので気を付けてください」


「おいダーラ!聞こえたな!?石や岩はやめろ!だからそれはやめ、」


「あら?何か言ったかしら?」


 ゴッと短い音を立てて頭ほどの石が飛ぶ。

1つ程度では袋は消えないが、ちょっとした衝撃は抜ける。


「だぁ!……お?なんだ、ホントになんともねぇな。すげぇぞこごふぅッ」


 陛下が言い終わる前に先程の倍の大きさの石…いや、あれは岩が陛下へ向かって飛んで行った。身構えていなかった陛下の腹へ、袋越しではあるが直撃していた。ちなみに、袋はまだ消えていない。


「あら、本当に凄いわね。あれなら突き抜けると思っていたわ」


「……お前、試しなんだからもっとやりようがあるだろう?」


 そこら中にある袋クッションの中から起き上がった陛下が、

的から手を離して受け止めないアピールをしてこちらへ戻って来た。


「あなたが遊んでばかりで戻ってこないからです。いい加減話を進めたいのでここから出ますよ。ほら、全員すぐ戻る!」


 パンパンと手を叩いて学校の先生を思わせるダーラ妃の仕草が妙に似合っていた。それに全員が従うのが余計に可笑しかった。




 訓練所で体を動かしてすっきりしたようで、今は居住袋から出てまた話し合いの形に戻った。ただ、美李ちゃんとピーリィは眠そうだったので沙里ちゃんが付き添って風呂に連れて行き、そのまま寝て構わないと

言っておいた。当然皇族側の許可も貰ってある。



「この居住袋はこんな色していますが、袋を作る時であれば色や模様は思い描いたものを付けられます。形も様々な応用が利きます。実はこのローブも実は袋から作りました。そういう模様や形にして、それを紐で

絞ればこの通りです。いざとなればローブを被って致命傷を避けられるわけですね」


 皆もお揃いのローブを取り出して陛下達に見せる。

派手な色でもないし、周りから見たら単にお揃いとしか見えないだろう。


「そういえばヒバリさん…いえ、女性陣には守護する衣(クロスオブガード)という二つ名がつけられていましたね」


 ブリゼさんが思い出したように話したが、詳しい内容を聞かれたので答えると微妙な顔をされてしまった。この二つ名の中だと、俺の扱いは荷物持ち(ポーター)だし、たまに女性のみのパーティだと思われてる場合もあるからなぁ。



「その話はまぁいい。で、これはうちの国の騎士に配備出来るほど作るのは可能なのか?」


「陛下、それを言われると思って先にお話しさせて頂きました。私は断固反対させて頂きます。ヒバリさんはもう何度も魔力欠乏で倒れられております。理由は当然無茶なスキル使用がほとんどです。

 そういった軍事利用を避けるべく、これ以上ヒバリさんに過度の負担を掛けさせない対応を望みます。勝手ながらルースさんにも話を通してあります」 


「……まぁ、そうなるよな。俺も皇帝として言っておいただけだ。召喚された者に無理強いさせたり都合よく利用しないと初代から伝えられているからな。受け入れられなかったからと言ってシルベスタ王国への救援を渋るってことはないからな、安心しろサリス」


「この人もあれだけの性能が簡単に作れるとは思ってないわよ。皇族の血はそこまで腐っていないわ。アンビもヴァシュリーもいいわね?」


「「はい、母上」」


「えーっと、皇族と側仕えの方達には少し作るつもりでしたよ?」


「ヒバリさん、今話がまとまった所でしたのに……」


 トニアさんの残念な人を見る目が痛いが、


「だってこれから王国に行ってくれる人もいるんでしょ?それで手薄になった所を狙われたーなんてなったら怖いじゃないですか。俺としては問題なく解決してくれないと、今のままじゃ安心して暮らせないんですよ」


 陛下は顎に手を当てたまま俺の話を聞いて、

周りの反応を確かめている。一応納得してくれたかな?


「ふむ。ヒバリの言う事にも一理あるな。戦力が分散したところを狙うってのは常套手段だ。出来るなら何か備えを貰えるとありがたい。

 おおそうだ!危険って言えばよ、ヒバリ、今日は天人教の教会の前を走って来たそうじゃねぇか。しかもあの鳥の幼子を晒したまま行くなんざ喧嘩売ってると思われちまうぞ」


「あれには驚きましたわ。外を見たらあの白のローブが集まる噴水前にいるんですもの。あの子が遠くに見えた時はさすがに肝が冷えましたわ」


「まだこの帝都を把握してないのは分かるがな、敵対する奴等に気付かないのは油断しすぎだ。あの幼子やトニア、それにそこのお嬢ちゃんもいるんだ。次は気を付けろよ?」


 陛下と皇女様に説教されて素直に謝るしかなかった。ピーリィ1人で行動させたのは俺の責任だし、ああいう連中が街を歩いているって考えなかったのは確かに油断し過ぎだ。ここは日本じゃないんだから。



「……あっ!あの、自分の発言をお許しいただけますか?」


「どうしたトニア?いいぞ、言ってみろ」


 ありがとうございます、と陛下にお辞儀をしたトニアさんは一気に話しだした。


「ヒバリさん…いえ、ヒバリさん達3人は王都に居た時は軟禁されていたと報告していますが、買い物もほぼドワーフのいる鍛冶屋の傍辺りのみでした。よくよく思い返してみたら、天人教信者とは接触も認識して見る事も今回が初めてだったのです。

 子供1人に行動させたのは良くありませんが、それは自分達が居住袋を案内していて誰も外に気を配らなかった点も御座います。それを全てヒバリさん1人の責任とするのは納得しかねます!」


「あっ…そうでした。ヒバリさんはすぐに城を追い立てられておりましたし、その後は王都を出るまでシールズ家預かりでしたね。ピーリィも母親が存命の頃は町や人里を避けていた様子でしたし、おそらくは天人教の容姿は知らないでしょう。

 申し訳ありません、また私達はこちらの都合のみで考えてしまったのですね……」


「そう言われると、ワタクシ達の元へ来た時もずっと離れに閉じ込めておりましたわね……初めての帝都の案内を買って出たのに、御者を任せて馬車の中で好き勝手させて頂いておりましたわ。人に説教できる立場ではなかったですわね」


「お、おぅ……?なんだこの流れ?俺も悪いのか?言い過ぎたか!?」


 みるみる元気をなくして沈んでいく姫様と皇女様を前に狼狽える陛下。

いや、別に悪くないんですけどね?子供を1人にしたことは本当なんだし。



「……あら?でもヒバリは教会を存じていましたわね?」


「あれは日本というか地球にも似たようなのが結構ありましたから。ただし、天人教じゃなくて別の宗教ですけど」


「教会?結婚式場で見るやつがあるの?」


 教会と聞いて式場を思い浮かべるユウ。宗教に入ってなけりゃその程度の認識しかないよね。俺だって似たようなものだ。


「それっぽいのがあったんだよ。ユウは王国にいた時に見なかったの?」


「うーん……訓練してるか、実地訓練で遠征に行くときも馬車で寝てたからなぁ。それにボク、その後抜け出して遺跡に行くまで町は補給か宿くらいしか寄ってないし。あ、でも天人教の信者って人達は白いローブを着てるのは知ってるよ!」


 ふーん、と特に関心を持ったわけでもないようだ。

でも信者の特徴はやっぱり知っていたのかぁ。



「とにかくあれだ。分かったのは、ヒバリ達が召喚された者であり、俺達の常識を押し付けるのは間違ってるってわけだな」


「そうですね。ヒバリ殿も次回からは金の十字が描かれた白いローブには十分にお気を付けください。信者全員が悪意ある者とは限りませんが、私の様な獣人は接触しない方がお互いの為ですしね」


 この国の宰相クラスでも気を遣うのか……結局天人教ってどういう宗教なのかね?よく考えたら獣人を嫌うって程度にしか知らないや。



「天人教か?そうだなぁ……俺が生まれる前には、いや、もっと前にはあったみたいだが、詳しい起源は残されてないな。ただ、当初は"特別魔力がなくとも栄えてきた人族は、その知識を使って他種族を導く義務がある"みたいな事言ってたらしいな。

 今も獣人達に好意的な信者ってのはこの教えに賛同して入信した奴等だな。ただ、徐々に人族が偉いって刷り込まれてやがては多種族を見下す奴等の出来上がりってわけだ」


「初めから敵対心を持っているわけでもなく、人によっては恩を受けた場合もあるので手を出しにくい場面も多々あるようですね」


「今回馬鹿やらかしてた2人の家は取り潰しが決まった。案の定かなりの悪事の証拠が出て来てな、その中に天人教から金を受け取っていた事実も含まれてるんだわ」


「そこで明日、私と陛下で天人教の教会に状況説明と事情聴取へ向かう事にしました。幸い昨日帝都支部の最高責任者である司祭が戻ったと知らせを受けていますから絶好の機会でしょう。逃げられる前に手を打ちます」


「えっ?お2人自ら出向くんですか!?」


「まぁ表向きは俺から命を受けた騎士団って事にして、俺とコイツはこっそり乗り込むがな。直接姿を見せちまったら帝国が天人教を懇意にしてると捕らえかねられん。だが、騎士団が乗り込む姿を見せて何かあると匂わせるのも必要だってことだ」


「そこで先程の話に戻るのですが……陛下の安全のためにヒバリ殿に身を守る道具をお作り頂けないかと。争いになったとしても負けはしませんが、万が一と言う事が御座いますので」


「乗り込むのは明日でしたっけ?じゃあ簡単なローブは作るとして……後は大き目なポケットや内側にもポケットのある服を用意して頂ければやっておきますよ。

 あ、居住袋みたいな大きいのは勘弁してください。これはもっと後になりますが、小屋程度の広さならいくつか作っておきますが、中の道具はそちらで用意してください。

 それと、訓練所で試して頂いた通り、袋は限界を超えると壊れて中身を吐き出してしまいますからそこも注意して使ってくださいね?」


「わかりました。まず、明日着ていく服は今こちらに持ってこさせましょう。任せます」


 宰相さんが横を向き、パルミエさんがお辞儀をして退出して行く。その間に色や模様の希望を聞いてメモを取って優先順位を決めて、届けられた服に収納を付与して使い方を教えた。

 これで少なくとも武器等色々隠し持てる分不測の事態に即座に対応出来ると喜んでいた。残りの袋は明日の朝ってことで、どうやら受け取りついでに俺達の所で朝ご飯を食べていきたいらしい。


 あまり頻繁にこっちにこられると、城の料理人達に申し訳ないんだけどなぁ。後で誰かに相談してフォローをお願いしよう。作っても食べてもらえないなんてされたら……そんなの凹むでしょ。




 そのまま今日はお開きとなって、

防音結界も解かれ各自部屋へと戻って行く。



 俺達も立てかけてあった居住袋を回収して、3人を中に入れたままあてがわれた部屋へと戻って行った。皆は居住袋の中で風呂に入ってそのまま寝てくれと言ってから、俺はせっせと袋作りを開始した。



「まぁサイズが違う程度だからローブはすぐとして、面倒だから収納鞄も作っておこう。簡易小屋代わりの居住袋は……今日で全部は無理だなぁ。


 とにかく、さっさとやっちゃいますかね!」



 前に魔力の使い過ぎで倒れて心配させた経験を教訓に、今回はベッドの上で作業を開始した。今日は美李ちゃんもピーリィも居住袋の中で寝ているので、今は広いベッドに俺1人だ。


 作ったローブや保存用、コップ型、6畳間程度の居住袋、トイレ用、収納鞄……を作った辺りで意識を失った、と思う。




 ああ、またやっちゃったなぁ。

明日は誰に怒られるのか、怖いなぁ。



 なんて暢気に考えながら気を失うようにベッドに突っ伏して眠りに落ちるヒバリだったが、翌朝は……まぁ、全員に怒られていたわけで。



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