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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第11章 帝国と天人教
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商談と計量器具

「あー……そこまでされますと、こちらとしては非常にやりにくいのですが」


 副ギルド長のタイラットはお辞儀をした後、

俺達全員が臨戦態勢だと気付いて困っていた。



「あれぇ?キミ、ラーク商会の方々には何て伝えたんだい?」


「え?特に何も。受付にて順番が来ましたのでそのままお連れしましたよ?」


 俺達を案内してくれた女性が首を傾げて答える。


「んー?キュイッシュ君、ラーク商会の方が訪れたら、商談があるから優先でお通しておもてなしをと言いましたよね?」


「いえ、ラーク商会の名前とこちらに通すという事しか指示を受けておりません。そもそも、タイラット副長からは何も指示を頂いておりません」


 副長の横にいた秘書らしき獣人女性は淡々と答える。


「私、何も言ってませんでした?」


「ええ」


「おもてなしとか、何もしてないんです?」


「はい。さっき言ったじゃないですか」


 2人の女性からのにべもない対応に、

副長は頭を抱えて俯いてしまった。



 そんな副長を放置して、キュイッシュと呼ばれた秘書さんが俺達をソファを勧め、案内して来た女性はお茶を用意してくれていた。

 姫様と皇女様で1つのソファに座り、その後ろにはトニアさんとパルミエさんが立つ。対面には俺とピーリィと美李ちゃんと沙里ちゃんが座り、後ろにはシャンティさんが立つ。


 お茶には特に異常がない事を鑑定スキルで確認した後、まずは俺が口にして問題ないとアピールしておいた。鑑定さんはこういう時便利なので、俺達パーティには暗黙のルールでの流れだ。



「改めまして、私はギルド長補佐のキュイッシュと申します。狐人族の獣人に御座います。ギルド長よりラーク商会の方々はあまり目立つ行為は好まないとお聞きしておりますので、出来る限り通例から外れないようここまでご案内させて頂きました」


「キュイッシュ君!?キミ、そんな報告してなかったよね!?」


「私は貴方の補佐ではないので。それに、タイラット副長に報告していたら自ら出迎えに行く可能性がありましたので」


「……クッ!我が事ながら否定できませんね!」


 否定できないんだ!?商談相手がこの人って大丈夫か…?

しかも秘書じゃなくて補佐さんからの扱いも結構酷いし。



「そんな事より副長、ラーク商会の方々が対応に困っております」


「おお、そうでしたね!」


 自身の事をそんな事扱いされても全くめげない副長は、

改めてヒバリ達に自己紹介を始めた。


「私はここ、帝都商人ギルド総本部副長のタイラット・バンと申します。この度は我がギルドへ新たな採取・加工、そして販路を開いて下さったラーク商会の方々にお礼を申し上げます。

 お話はカロナードのコレード町長から当ギルドに頂いております。町長もラーク商会の方々に感謝しておりましたよ」


「ラーク商会代表のヒバリです。ああ、もうカロナードから話が届いてたんですね」


「ええ!カロナードの町や商人ギルド、そして冒険者ギルドも新たな事業だと意気込んでおります!そこでご相談なのですが、カロナードの海で取れるコンブを使ったダシでしたか?それが上手く調理出来ずに困っております」



 そうか、確かあの時は皆に料理を振る舞ってどんな食材なのかを理解してもらって、その後で主婦や料理当番に作り方を教えてきたんだっけ。識字率がそれほど高くなかったから口頭で教えてレシピは残してこなかったんだよなぁ。


「そこで、そのダシの作り方、調理法をお売りいただけないでしょうか?我々としましても、美味しいければ美味しいほど価値のある商品になりますので、是非ともお売り頂きたいのです」



 あれ?俺としては広まってくれればそれでよかったんだけど、

レシピは買い取り前提だったのか。あ、だから商談なのか。


「えーっと、おれは」


「では、その交渉は自分が担当させて頂きます」


 別に無料でいいですよ、と言おうとしたらお茶のお代わりを淹れに来たトニアさんに遮られてしまった。そして俺の耳元に後ろから顔を寄せて、


(今、ヒバリさん達はラーク商会としてここに来ています。そして商会・商人である以上利潤を追求するものです。むしろ何も儲けを望まない商人は怪しまれるだけですよ)


(あー、慈善事業じゃないんだから、儲けるのは当然…ですね)


(はい。今回は勝手ながら自分が担当させて頂きます)


(すみません、お願いします)



「じゃあ詳しい取引価格はもう少し後で担当と相談するとしてですね、

今日自分達がここに来た用件を聞いて頂けないですか?」


「おお!私としたことが、こちらの用件ばかり押し付けておりましたね!

誠に申し訳ありません。して、どのような?」


「実は、これなんですが……」



 大きめの鞄から取り出したのは、ゼスティラで作ってもらったラーク商会の看板。それが今は、無理矢理剥がされたせいでひび割れ、磨いても落とし切れなかった泥の靴跡が残っていた。


「何ということを……これを行ったのはどなたですか?商人にとって看板は己の顔です。このような仕打ち、商人ギルドを敵にする事がいかに愚かな行為かその身をもって教えねばなりませんね!」


 副長は、わなわなと震える手でラーク商会の看板を手に取る。


「看板、きれいになる?また馬車にくっつく?」


「可愛いお嬢さん、お任せください!私が責任を持って新品同様に修繕致しましょう!」


「安心してください。ああ見えても副長は木細工の腕は確かです。商会の看板であれば尚更きっちりと仕事をしてくれますよ」


 不安げなピーリィだったが、堂々と告げる副長の姿に喜色を浮かべる。

さらに補佐さんからのフォローにはしゃいで俺に抱き着いてきた。


「ありがとうございます。せっかく登録したばかりでこんなことになるとは思っても見なくて……お陰様で商会を再開出来そうです。お代は昆布だしのレシピの際に一緒に相談させてください」


「いえ、これは明らかに故意に壊されたものですし、商会の看板の修繕はギルド会員であれば特殊な事がない限りは無償で行っているのです」


 修理代をやんわりと断った副長は、悲しそうな目で看板を見つめてきた。

そして撫でる様に看板を手に取り、


「それよりも……これはいったいどこの者の仕業なのですか?」


「それに関しては、ワタクシが説明させて頂きますわ」


 俺の対面に座っていたヴァシュリー皇女が俺と副長の会話に割って入って来た。副長達ギルドの面々も姫様と皇女様がやんごとなき身分であるのは理解していたみたいだ。


 まぁ、最初から侍女付きだから勘づくのも当然か。皇女様も侍女2人も派手ではないが庶民には手の出ないいい服着てる時点で隠す気ないとしか思えないしねぇ。




 まずは自身が皇女である事を告げれば、多少驚いていたがすぐに納得していた。帝都で行われた国の式典などで遠くからだが顔を見ていたので、何となくそうではないかと思っていたそうだ。


 そして皇女の口から後ほど公表されると前置きをした上で、今回の2人の大臣の顛末を大まかに語った。近く公爵と侯爵を新たに陞爵・授爵の発表もあるだろう事も話す。

 ノーザリス姫様が紹介された時は皇女様以上に驚かれ、今回の事件に巻き込まれたと聞かされたら副長らは言葉を失っていた。下手をすれば王国との戦争になると想像していたようだが、そういった事態にはならないと言われてほっとしてた。


 ただ、俺達が召喚された者というのは伏せている。今回はラーク商会の立ち上げ補助を報酬として、王国から姫様の移動の足となって同行したと説明していた。



「そうでしたか。ここ最近獣人の方の来訪が少ないと思っておりましたが、どうやら今回の件と関係があったとみて間違いないのでしょうね。

 でしたら、我々はギルドの連絡網を使って隷属化された者がいないか捜索させましょう。保護できた場合は直接城へご報告してよろしいでしょうか?」


「ええ、こちらもすぐに受け入れ出来る体制を整えておきますわ」


「これで行方不明者が1人でも多く見つかるといいですね」


「ノーザリス殿下のお気遣い、誠に感謝を申し上げます」



「ねー、看板はいつなおるの?」


「おっと。私としたことが期限を設けておりませんでしたね。お嬢さん、明日までに看板を直しておきますので、明日また馬車でいらしてください。到着次第すぐに取り付けますよ」


「明日!?はやーい!おじちゃん、ありがとう!」


「お、おじちゃん……いえ、確かに私は子供もいますし最近少しお腹周りの肉も気になりますがまだ24歳でしてね?」


「ではおじさま、看板修繕はお任せいたします」


「いやいや!何故キュイッシュ君までおじさん呼びなのです!?」



 俺より年下の副長がピーリィにおじさん言われてる……俺はいつまでおにいちゃん呼びし貰えるかなぁ?ああでも結婚すると大人というか老けて見えるって言うし、きっとそういうことだよ副長さん頑張って!


 と、俺が何か口を出せば藪蛇確定なので心の中だけで応援しておいた。

すまない、副長さん。巻き添えを食らうのが怖いんだ!


 なので、


「じゃあ明日に昆布と煮干しのだしの取り方とだしを取った後の利用方法も含めてレシピを作成しておきますね」


「……お、おお!是非とも宜しくお願い致します、ヒバリ殿!それとカロナードで紹介した魚介類も召し上がり方と注意点も、出来ましたらまとめて頂けると非常に助かるのですが。

 ああそうでした、別件になりますが他のものも採取してみたそうですが、これらが食材として使用出来るかも見て頂きたいのです」


 別の話題を出すと副長がすぐに乗って来てくれた。

いや、元々この話をしたかったみたいだ。


「あの町で紹介したって言うと……ウニとわかめと小魚ですかね。貝と魚はほとんど知っていたようですから、多分この辺りだと思います」


「ちょっと私には判別がつかないので、明日荷が届きますからそれを見て頂ければ宜しいかと思います」


 ここの倉庫には一部冷凍と冷蔵の魔道具保冷庫が設置してあるが使用料はかなり高く、生肉や魚を扱う高級店卸し用として使われていた。

 今回は新たな商品にかける期待度の高さから、まずは保冷庫を使ってどういった保存や輸送が必要になるか検証するそうだ。その荷が届くのを前倒しして明日に入荷させるよう手配してくれるので、レシピも試食会も明日行って欲しいと依頼を受けた。




 商談は続き、看板が直ると知った安心感と話に飽きてしまったピーリィは俺に寄りかかって眠ってしまった。俺の後ろにいたシャンティさんがそっと肩掛けをピーリィに掛けてくれたのでお礼を言って、まだ話が続くから皆には自由にしてもらうように言っておいた。


 ほとんどの人が隣にあったテーブルに移り、残ったのは俺と寝てしまったピーリィ、対面には副長さんと補佐さんの4人だけになった。時折トニアさんが様子見を兼ねてお茶のお代わりを聞きに来る。

 俺が副長との話が終わったら、今度はトニアさんがレシピの報酬額の交渉に移るらしいので、交代するタイミングを窺っているんだろう。



「レシピといえば、ちょっと相談したい事があるんですよね」


「勿論、お聞きしましょう」


「ただレシピを作ると言っても、例えば水はコップ1杯ですと書いたところで各家庭や厨房では同じ量ではないですよね?だから、商人ギルドの方で"計量の規格品"を定めて販売してもらいたいんです。

 例えば、これが俺の考えるコップ1杯分で、こちらが5杯分です。これだと液体しか計れないので、こちらの大小スプーンを大匙・小匙と定めておけば、レシピの通り量れて分量は安定します。

 後は調理技術や個人の好みでの味のブレはありますけど、基準となる物さえあれば教えるのも教わるのもかなり楽になるはずなんですよね」



 この世界には重さを量る器具はあっても、それ以外の規格品と言う物は定められていない。麦や酒も大きな量りに乗せての量り売りだし、飲み物は店ごとに使われているグラスで1杯いくらの話だ。

 それが料理となると一切の基準がない。レードルも鍋もある程度同じ大きさ別にはなっていてもかなり容量はバラバラだ。どれも手作りで元の世界の様に大量生産された既製品と違うのだから当然だ。

 ましてや小型の量りなどあっても一般家庭が手を出せる値段ではない。手に入るとしたら精々天秤ばかりがギリギリで、家庭で料理する時ただ調味料を入れるのに態々天秤ばかりを使う人など面倒でやる人はほぼいないと思う。俺だったらいやだし。


 そこで俺は料理する時にまず基準となる計量道具を用意していた。


 1Lの容器は俺の作る袋の標準サイズが当て嵌まるので、それを基準として1/5サイズの200mlの容器もすぐに出来た。本来の1カップは180mlだが、そこまで細かくすると色々と面倒なのでやめておいた。

 匙は沙里ちゃんと相談しながらの確かこの大きさだったはずと言う代物だが、これは妥協と言うかもうこっちで決める以外どうしようもない。

 レードルは100ml・200ml・500ml・1Lの4種類を基準として作ってもらい、同じサイズを複数予備も確保してある。以前王国にいた時に焼肉のたれなど液体も販売していたので、今もずっと使っている。



「味の均一化ですか……通常ですと店は店ごとに独自の味を売りにして商売を行うわけですが、これは全く正反対の発想なのですね。非常に興味深いです」


「ただの計量器具ですから安価で販売出来ますね。一般家庭にレシピを公開して売り出すには伝わりやすいと思います。あくまで商人ギルド基準扱いになりますが、まずは認定刻印をつけて普及させてみてはいかがですか?レシピと合わせて販売すればすぐに広まるでしょう」


 タイラット副長も補佐のキュイッシュさんも好感触のようだ。ただ単に高級な店よりも一般家庭や民衆料理店に広めたい俺の考えは、大勢を対象とした巨大なマーケットを即座に築く戦略に、商人としての高い手腕と捉えられてしまったみたいだ。


 いや、別に貴族とか相手にするより気楽食べられる場所に広まって欲しかっただけなんだけど……何より、広まればそれだけ自分で取りに行かなくても簡単に安く手に入れられるって言うのが一番の目的なんだけどなぁ。




 その後に細かい予定やトニアさんによるレシピの値段の交渉をして本日の商談は終了した。最後に俺が使っている計量器具一式を副長に渡すと、早速鍛冶師と交渉して同一規格の大量生産を依頼する為に部下に指示を出していた。



 あれよあれよという間に計量器具の製造と販売が決定してしまった。


 あれだ、商人の行動力ってすごいな。俺は製造工場で務めてたわけだけど、確か商品開発や営業部の人達はこんな感じだった気がする。まぁこの人達に任せておけば悪いようにはならないだろうしいいか。

 ただ、トニアさんが交渉してたレシピの買い取りに計量器具のアイデア使用料も加わってえらい金額が提示されてた事は……今は考えないでおこう!




 こうして俺達は明日もここに訪れる約束をして、

商人ギルドを後にして市場に買い物に向かった。



 最近減ってばかりだった食糧庫を目いっぱいにするぞ!



 ……って、皇女様いるから居住袋も大容量の収納袋も使えないんじゃ!?やばいどうしよう?でもこの機会に買い込まないとまたいきなり何か作れと言われても困るしなぁ。

 今まで職場では在庫を絞る事ばかりしていたのに、今では時間停止に馬鹿みたいに大量に入る袋のおかげで、在庫が少なくなると何故か溜め込んでおかないと!っていう危機感が。ほら、どうせ劣化しないしいいよね?




 とりあえずは姫様に相談しておいた方がいいか。

何とか大量に買い込める解決策を探してみよう!




何とか3日おきの更新に間に合ってますね!


次回も拙作をお読み頂けたら幸いです。

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