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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第11章 帝国と天人教
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ヒバリと沙里の料理教室 その2

「ちょっと初めに誤解されないように言っておきますね」



 失敗の後に仕切り直しとして始める前に、

ヒバリは全員に伝えなければいけないと思った。



「自分は調理の仕事をしていましたが、正確には料理人ではありません」


 この発言に周囲はざわつく。


「えーっと、自分がやっていたのは"本職じゃない素人が作っても同じ味になるように簡単な作業としての調理"を教えていて、大量生産して店に届ける食材の工房、その工房を大きくした工場の作業者でした。

 なので、今回伝えるレシピも、あくまでも簡単にした基本です。ここからどう極めていくか、どう個性を出すかは各々で頑張ってみて下さい。


 そして料理人ではない人達、自分はそんな人達にも作れるようにレシピを書いてます。材料や調味料や器具はまぁ揃える必要はありますが、何かで代用したりすれば出来ます。

 さっきも言ったように、料理の素人でもレシピと同じようにやれば同じ味が出来るようにしてますから、是非やってみて下さいね!」



 教え始めた時、料理人達の視線で気付いた。


 彼らは"見た事のない調理法"を"卓越した匠の技術"ととらえているのか、単に見せた手順が早すぎて驚いていただけでなく、俺の手元、技術を見て、想像した以上の動きが見られずに呆気に取られていたのだと思えた。

 騎士の剣術のように華麗な舞いが見られると来てみれば、素人の素振りを見せられたようなものだ。和食への期待もそれほど高かったと思えば仕方ないのだろう。


 技術だけで言ったら今では沙里ちゃんの方が断然上なんだけどね。元から家の手伝いをしていたけど、本人の言う通りやっぱりスキル補正が凄いし。


 うーん……やっぱり俺は解説だけにして沙里ちゃんに調理してもらった方が良かったかなぁ?でも本人が嫌がってたしなぁ。



「なんだ、過去に伝えられず失われかけた料理を見せると言うから来てみれば、本人の言うように素人がやっているだけか。そんなものをいくら見ても得るものはない。レシピを渡してさっさと帰ってくれ」


 始まる前に追い出されそうになっていた料理人がまだ残っていて、案の定俺の技術力に突っかかって来た。彼の周りにいた数人も同調するように笑い出した。


 こうなる前に話しておいたんだけど、

どうやら間に合わなかったみたいだ。



 俺の事を馬鹿にされたと分かったピーリィが俺の隣に来て、

その料理人と取り巻きらしき人達を睨む。


「なんだ?お前みたいな子供に用はない。そんな所にいると間違って怪我をするかもしれんぞ?それよりもこんな男は見限って私の所へ来ればもっと素晴らしい技術を教えてやるぞ?獣人相手だと料理とは限らないがな!」


 卑下た笑いを浮かべる取り巻き。その視線はフィーネにも向けられる。

トニアの陰に隠れるフィーネと完全に怒ってしまったピーリィ。


 あー、だからこういう権力に頼るみたいなのは嫌だったんだけどなぁ。そもそも権力で言うなら、なんで姫様が止めに来ないのか?その答えが俺のレーダーマップに映っている訳で。




 廊下からとある一団がそっと入って来た。


 食堂にいる人達は、ヒバリと料理人の諍いに注目していて気付いていない。彼らとすれ違った者は慌てて声も上げずに頭を下げるだけだった。その一団は声を出さないように釘を刺しながら向かってくる。

 徐々に割れる人垣。その一団は騒ぎを起こしている料理人達の真後ろまで到着する。そこでやっと彼らは気付いたのだ。



「俺の娘同然のノーザリスが連れてきた、俺とも親交のあるヒバリ達がなんだって?なぁおい、答えてみてくれねぇか?」


「ッ…ひぃっ!へ、陛下!?」


「これは俺がヒバリに頼んだわけだ。そのヒバリをコケにするってのは、俺に対しての無礼も同じだ。分かるよなぁ?」


「しかもこの者らは獣人の幼子にも非道を行うと言ってましたね。そこもじっくりと話してもらいましょうか」


 陛下の横にいた宰相がスッとリーダー格の料理人の肩に手を掛ける。いや、握りつぶす勢いで服に手が食い込んでいた。蛇に睨まれた蛙…今は黒豹に睨まれた人が、心身共に恐怖に怯えていた。




 そうして騒ぎを起こした料理人達は捕縛・連行されいった。まだ落ち着かない食堂内で陛下が大きな声で喋り出す。


「突然割り込んですまなかったな!昨日の告知でかなりの人数が参加すると聞いて、何か問題が起こらないか気になって来てみればこれだ。まぁこれ以上馬鹿がいないことを祈る。


 改めて言うが、教わるのに身分も種族も関係ない。それは、ノーザリスやヒバリらが望んだことだ。俺も先祖の料理が帝国に広まってくれたら嬉しい。だから皆もしっかり覚えて多くの者に伝えて欲しい。


 また馬鹿が現れるとも限らんから俺達も部屋の隅で見守っているが、俺達の事は気にせず教わってくれ。ああ、味見ならいつでも受け付けているから、じゃんじゃん持ってきていいぞ!ヒバリも、分かったな!」



 上の者がしっかり締める所を締めてくれてほっとしてたら、単に自分達が食べたいから来たってことか!隅とか言って、俺達から余り離れてないし、すぐ近寄れる位置で無茶苦茶催促してるじゃん!




 頼んだぞ!と念を押しながらいそいそと奥の席に着く集団は放っておいて、

もう一度料理教室を再開するために材料を準備し直してレシピを配った。


 皆がレシピを見ている間、


「ヒバリさん、ピーリィも皆も、よく耐えてくれました。皇帝陛下がいらっしゃるのが見えたので、ここは帝国内ですし陛下に執り成して頂きました。特にフィーネさんには、辛い目に遭ったばかりにまた不快な思いをさせてしまって申し訳ありません」


「い、いえ。自分はそんなに……その子の方が、大変だったでしょ?あなた、強いのね」


「ヒバリをわるくいうのはゆるさないの!」


 フンスとまだ怒りの治まらないピーリィが地団駄を踏んで腕の羽をバタバタさせていた。横に置いていたレシピの紙が飛んでしまって、周りにいた騎士さん達が慌てて拾い集めている。


「ピーリィ、待って!紙が飛んじゃってるから!」


 何とか捕まえると、ふーふー言いながら抱き着いてきた。そのままぎゅーっと抱きしめ返すと、やがて落ち着いたのかそのまま動かないでくっついている。


「本当に、好かれているのね」


 それを見ていたフィーネさんが珍しいものを見たみたいに驚いている。帝国内では獣人差別が少ないって聞いてたし、ゼスティラの街でもそうだったと思うけど。


「自分はいつも作物を売りにこの国に通ってたけど、仲良く話せる人族は、あまりいなかったの。後は気持ち悪い目で体を見てくる男がいただけ」


 獣人の国と帝国を行き来する行商を夫婦でやっていた時に襲われて隷属されられ、気が付いたらこの帝都にいたらしい。残った家族がどうなったか、同じく捕らわれた旦那と村に残して来た子供は無事でいるのか。


 獣人の男性は捕らえられるとすぐに労働力として売りさばかれていたという話は聞いている。帝国側も懸命に探し出しているようだが、ほとんどが帝都の外に売られて連れ出されているので、戻すには時間がかかっているようだ。

 フィーネさんもその説明を受けているので、今は無事に夫が帰って来てくれるのを祈る事しか出来ないのがもどかしい、と零す。



 俺とピーリィを見て、自身の夫と子供を思い出しちゃってたのか。

帝国の人達には頑張って欲しいし、俺も無事を祈るくらいしか出来ないな。


「……あ、そうか。じゃあここでしっかり料理覚えてもらって、家族に美味しい物を食べさせてあげたいってわけですね!」


「はい。自分にできる事、それならできるかなと」


「よし、ピーリィ。料理教室を再開しよう!豆腐はちょっと大変だから、ゆっくり教えた後で炊飯だな。フィーネさん、炊飯を覚えればおにぎりはもう出来たも同然ですからね、トニアさんと組んで覚えてしまいましょう!」


 ぎゅっとしがみついていたピーリィに元気よく声を掛けると、

ピーリィもやっと気持ちの切り替えが出来たみたいでやる気になってくれていた。




 今度はレシピを配ってその手順に従ってゆっくりと作業を見せ、工程ごとに質問を受け付けてそれらに答え終ってから次の工程に移る。

 そして出来上がった豆腐の使い道としてまずは昆布だしを使った味噌汁を教えた。昆布に関しては、ゼスティラの商人ギルドがこれから流通が広まるのを伝え、後は小魚を使った煮干しも教えておいた。幾人か頭とワタをきちんと取らずに作った者はいたが、すぐに皆慣れていった。


 さすがに煮干し自体の製造だけは他で教えないと一般家庭では難しそうなので、これも商人ギルドに行った時に要相談だ、と心のメモ長に書き込んでおいた。


 それ以外にも油で揚げて厚揚げや油揚げを使った揚げ出し豆腐にお稲荷さん、崩して白和え、最後に薬味を乗せた冷奴。


「このように、味噌や醤油は和食ではよく使われるので、是非用意してみて下さい。同じようにだしも和食では重要です。今日見せた昆布や煮干しの他にも干した茸を使う事があります。海の物以外でもまだありますが、今回はここまでにしましょう。

 では次は炊飯に移りますよー。豆腐はここまでになるので、一旦休憩を挟んで豆腐の試食をしちゃって下さい。食べ方はそれぞれ好きに使ってみて下さいね!じゃあ30分休憩です!」


 フィーネさんにも豆腐を教えているが、周りには料理人も使用人も騎士も女性だけで囲んでいる。休憩になって沙里ちゃんが色々教えているみたいだ。



 俺は俺で豆腐で何か一品と思って、ちょっと刺激が欲しくて辛口の麻婆豆腐にしてみた。横にいたピーリィも食べたいと言ったので、半分は余り辛くしないで作っておく。


「最後に刻みネギとごま油を回し入れて出来上がりっ、と」


 丼によそっておいたご飯に麻婆を乗せて、

スプーンを添えてピーリィに渡す。


「いただきまーす!」


 すでに椅子に座っていたピーリィは、手を合わせて挨拶をするとスプーンに掬って口に放り込む。ぱくっと音が聞こえそうな仕草と美味しそうな顔になんとも癒される姿だった。



 そんな俺の前にはスパイスの匂いに釣られてか、奥の席に座っていたはずの陛下らが麻婆豆腐を覗き込んでいた。一応それ和食じゃないんですけどね?


「ほぅ。では母国の隣国の料理と言うわけか。しかも辛くて美味いな!挽肉は噛みごたえがないから普段食わなかったが、満遍なく肉があるのはいいな!」


「このコメとの相性も抜群ですね!体毛の多い私には汗をかく料理は刺激があっていいですね。体に良さそうな効果です」


 あれ?猫って汗かかないんじゃなかったっけ?

獣人だとそこは違うのかな?まぁいいや。



 案の定催促され、陛下らは全員辛口を選んだのでお椀によそって手渡す。てか、4人もいたら辛口の方終わっちゃったよ。仕方なく俺もピーリィと同じ甘口を食べるか。


「ヒバリさーん。皆さんも麻婆豆腐食べてみたいって言ってるんですけど、いいですか?」


「あ、はい。いいですよー」


 自分のを用意しようとしてたら女性陣に声を掛けられそのまま全部渡してしまった。しょうがない、新しく作るかぁ。


「あと10分で休憩終わりですよね。次は何を準備しますか?」


 手伝ってくれている料理人と騎士が休憩後の指示を仰いできたので応対してると、案の定休憩時間は終わってしまった。


 俺の、麻婆豆腐……



 後半の炊飯はレシピを配った後は1度しっかり全工程を見せ、魔道コンロがある数のグループ数に分けて行った。失敗してもいいからやらせてみたのだ。

 初めは焦がすグループが続出したが、グループ内にいる料理人がコツを掴んでからは教えられるくらい上達してくれたので、そこからは大きく失敗する事は無くなった。


 俺の隣にいる女性グループも二手に分かれて炊飯をしている。ここも他と同じように徐々に慣れて来て、4回目には全員がほぼ習得していた。


 全員がほぼできるようになってから、ここでやっと精米と洗米を教えた。これはそう難しくないから後回しにしたのだ。初めにゴルリ麦だと言って見せた精米済みの白い米を見た時は不思議がっていて、その精米方法を教えると楽しそうに筒の中の玄米を棒で突いていた。


「余り真っ白になるまでやらなくていいですからね!茶色い玄米の状態は栄養も多いんです。食感と味の為に白くしているので、全部取るより少し残した方が体にもいいんですよ」


「おーい!このセンマイってのはいつまでやればいいんだ?全然にごりが抜けねんだよ」


「洗米は数回で、後は水ですすぐだけでいいです!それと、力づくで洗ってはダメですよ!ニホンでは"米を研ぐ"と言われていて、あくまで表面を研ぐだけなんですよ。

 ほら、騎士の皆さんなら剣の手入れで研ぐ時に、剣が脆くなるまで薄く研ぐなんてしないですよね?それと同じで表面をきれいにするだけでいいんですよ」


 なるほどなぁ、と感心しているのは陛下の声か。

ちらっと見れば、炊きたてのご飯に塩を振って食べていた。


「陛下、玉子かけご飯という食べ方を教わって来ました。生の卵などと腹下しの元などと侮っていましたが、これはコメとの相性が素晴らしいです!」


「でかした!じゃあ俺もさっそく――」



 くっ!俺はまだ何も食べてないのに!



 そうやって炊飯の後に精米と洗米を教えて、あとは各自でおさらいとばかりに米を炊く。そしてこれが合うんじゃないかというおかずを用意して、自由に食べていた。


「ゴルリ麦と大豆、沢山用意してもらっておいてよかったですね」


 横のコンロで米を炊きながら沙里ちゃんが話しかけてきた。他と匂いが違うのは、沙里ちゃんが炊き込みご飯にしていたからだ。


「ほんとだよね。こんな人数来ると思ってなかったから、昨日材料の用意を断らなくて本当に良かったよ」


 釜の中身は、最近寿司が続いたので余ったアラを使って、醤油と生姜と昆布で炊いているそうだ。魚と醤油のいい匂いがしてくる。アラは一度焼いているせいか、香ばしい匂いがたまらない。



 そんないい匂いを出していれば、


「これはまた違うコメなのか?美味そうな匂いがすごいぞ!」


「魚ですね?魚の匂いがしますね!」


 この国のトップ達、もう少し遠慮してくれないかなぁ?

あ、でも食材提供はあちら持ちだから文句言えない!?



「ああそうだ。オニギリは見てすぐ分かるから料理人達も覚えてくれたんだが、スシの方はどうやってんだ?あのコメは甘いよな?それも教えておいてくれ!」


「おっと、酢飯忘れてましたね。丁度炊きたてが残ってるので今教えましょう。優先で教えておきたい料理人を集めてもらえますか?」


「任せてください!」


 宰相さんがすぐに数人の名前を呼んで集める。

俺は砂糖と酢と塩の準備、そしてピーリィに手伝いを頼んだ。



 ピーリィはいつも酢飯を作る時に自身の羽と気流魔法で扇いでくれるのだ。調味料を混ぜて、大きな桶の中で米を切る様に混ぜ、それをピーリィが扇いで冷ます。

 1度見ればやり方は簡単なので、それぞれ料理人達も助手を集めて試していた。要点も説明したし、こちらは大丈夫そうだ。レシピを広めるのも彼らに任せていいと陛下にも言葉を頂いた。




「ふう。こんなものですかね?」


「おう。大義であった!ホントにいい仕事をしてくれた。報酬は期待してくれ!じゃあ後はこのたきこみごはんってのはオニギリにして貰っていいよな?」



 ほらやっぱり俺は炊き込みご飯も食べられないじゃん!

渡さないわけにはいかないけど、このままだと悔しいな……


「あ、そうだ。ダーラ様にも届けて頂けるんですよね?でしたら全部おにぎりにして、それぞれの分に分けて入れておきますね!」


「お、おう。そうだな、アイツにも持って行かんとな!ハハハ」


「ですよねー!ハハハ」


 絶対持って行く気なかったでしょ?

姫様と親しい間柄の方だし絶対持って行かせますよ!


「じゃあこちらは陛下に、こちらはダーラ様に……あ、先程案内していただいた騎士さんにお願いすればいいですかね?」


「自分ですか?はい。必ずお届いたします。では、」


 近くにいた騎士さんを捕まえて早速届けに行ってもらった。陛下が名残惜しそうに見ながら自身も戻って行く。まだ食堂にはいっぱいご飯あるから分けてもらえばいいのに。




「片付けが終わるころには日が暮れそうだなぁ。あれ?ユウとベラって戻って来た?」


「夕ご飯には戻るって言ってたし、直接部屋に行くんじゃないですか?」


「ああ、それもそっか。じゃあさくっと片付けて、俺達も戻ろう」


「はい!」


 俺と沙里ちゃんで洗い物をして、美李ちゃんが消毒魔法をかけて、ピーリィが次々とワゴンの中にある収納袋へ入れていく。4人もいれば片付けは15分ほどですぐに終わってしまった。



「ヒバリさん、お疲れ様でした」


「料理、無事に覚えられました。ありがとうございます」


 姫様とトニアさんに続いてフィーネさんもこちらに戻って来た。

女性グループの方も片付けが終わって解散になったようだ。


「一緒にいる人達にも教えます。ここ、使っていいと言って貰えました」


「陛下に許可を頂きました。道具も食材も提供して頂けるそうです」


 フィーナさんが笑顔でそう言って、

姫様が内容をフォローしてくれた。



 おお!さすが陛下、懐が大きい所を見せてくれるなぁ。

これはあとで何か特別に和食を差し入れに行こう!




 それから、フィーネさんは仲良くなった女性達とお喋りを楽しんで、

彼女らに部屋まで送って行ってもらうと言って去っていった。


 俺達も今回参加した人達に次回も楽しみだと声を掛けられながら、そろそろ部屋に戻ると言って退出した。戻る時にまた別の騎士が付いて部屋まで連れて行ってもらったので迷う事は無かった。

 途中で眠くてふらふらしていたピーリィは俺が背負ってそのまま寝させている。色々手伝ってもらったし、今はゆっくり寝させておこう。



「お?ユウとベラはもう戻ってるみたいですね」


 レーダーマップの反応を見る限り、部屋にはすでに2人がいた。

やっぱりあっちの方が早かったか。


「あ、ほんとだ。じゃあご飯の準備急がないとですね」


 沙里ちゃんも斜め上を見ているから、

レーダーマップで確認したんだろう。


「じゃあ先にいってるね!」


「あ、美李!待ちなさい!」


 もう目の前だと言うのに美李ちゃんが駆け出して部屋に飛び込んで行った。走っちゃだめだと言ったのももう忘れているみたいだ。慌てて呼び止めながらも自身は走らないように気を付けている沙里ちゃんは競歩状態でちょっと笑ってしまった。



「ほら美李ちゃん、廊下は走っちゃダメでしょ?もしピーリィが見たら真似して走っちゃ……え?」


 開け放たれた扉から部屋の中を覗き込むと、


「あ、ヤバ……待って!今はダメ!」


 ユウの言葉は間に合わず、部屋の中を見てしまった。


 風呂上りなのかユウもベラも髪が濡れていた。ベラは部屋着として渡された薄手の長袖シャツに動きやすいスウェットパンツ。何かを片付けていたようだった。



 問題はユウで……


 こちらは下着姿に半袖シャツを羽織っただけだった。


 つまり、ユウも何かを片付けていて、こちらにお尻を、ショーツを突き出す形でしゃがんでいたのだ。いつものポニーテールを解いているので、髪でお尻を隠しているがちらりと見えるショーツに思わず視線が固定されてしまった。


 なんでそんな恰好してるんだ?



 バタン!



 ぼーっと見ていた俺の目の前で、沙里ちゃんが部屋の内側から勢いよく扉を閉めていく姿がちらっと見えた。風圧と音でハッと我に返った俺が振り向くと、


「事故ですから仕方ないですよ」


「それにしてはやけにじっくり見ていた気がします」


「いやほんとに事故ですって!あと驚いていただけです!」


「ぴゅぁ〜……?もうごはんー?」



 それから、ピーリィを抱えたトニアさんと姫様は部屋に入れて貰っていた。

俺だけが廊下で待機している。それを苦笑して見ていた騎士さんが、


「男が1人だけだと、色々と苦労されているようですね」


 と、同情してくれた。



 すぐに入れると思ったら全然入れてくれないので、

仕方なく騎士さんに話し相手をして貰って時間を潰した。




 あ。考えてみたら、こうして男だけで会話するのって久しぶりかも知れない。

そう思うとなんだか悪くないな!よし、ここはつまみでも出して、


「ヒバリさん、もう入って来ていいですよ」



 出したところで呼ばれてしまった……



 ここで戻すのもアレだし、出した食べ物は騎士さんにそのまま全部あげて、俺も部屋の中に入って行った。渡された騎士さんは、これから来る同僚と頂きますとお礼を言いながら見送っていた。



 さて、と。

 

どうしてあんな状況だったのか、きちんと理由を聞かないと!




 それにしても……


 今日は食いっぱぐれってやつばかりだなぁ。腹減った。





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