帝国での初任務?
閑話を挟もうと思いましたが、先に話を進めた方がよいと判断しましたので、当初の予定通りこの章の後に書くことにしました。
では、この章も拙作をお読み頂けたら幸いです。
翌朝少し肌寒さを感じて目が覚めると、俺に掛布団は掛かっていなかった。横には美李ちゃんとピーリィが抱き合って布団にくるまった状態ですやすや眠っている、双子のミノムシがいる。
あれからこのキングサイズのベッドに寝そべってすぐに大き過ぎて落ち着かず、掛布団だけいつもの自分達のを持ってきていた。それからはあっという間に寝てしまったので分からないが、どうやらピーリィがまた俺の上で寝て、そのまま美李ちゃんの所に転がってお互い抱きしめ合って落ち着いたみたいだ。
可愛いなぁ……って、何で勝手に抱きしめようとしてんだ俺!?
こんなの人に見られたら事案だぞ!
「ふぅ、危ないなまったく」
「何が危ないのでしょう?」
「うわぁ!?……ぁ!」
独り言に返事が来ると思ってなくて、突然の掛けられた声に思わず大声を上げてしまった。まだ2人が寝てるのを見て慌てて声を殺すが……ああ、どうやら起こさずに済んだようだ。まだ陽も昇ってないのに起こしちゃわないでよかったぁ。
「びっくりさせないでくださいよ、トニアさん」
声を掛けてきたのはトニアさん。
もう起きてて居住袋から出て来た所だった。
「そんなつもりは無かったのですが、喋っていたので気付いているのかと思っていました。で、何が危なかったのでしょう?」
「あー、いやほら、この2人が布団を巻き付けててちょっと危ないかなーって」
「ほぉ?」
「……って言う事にしといてください」
「わかりました。信頼しておりますのでご安心を」
うん、これ大体読まれてるな。
その信頼を裏切らないよう気を付けよう!
やがて朝日も昇り、全員が起きてきて朝食の準備を始める。ユウとベラは馬の様子を見に行ってくれていた。昨日は乗り捨てる様に駆け出して他人に任せてしまったため心配していたので助かるよほんと。
昨日の賑やかな晩ご飯とは打って変わって、今日は落ち着いた様子で準備が進められ、穏やかな朝日の中で食事を済ませられた。
ただ、その時に部屋の外にいた騎士らは交代まで食事はお預けだと聞いたのでおにぎりをお裾分けしておいたのだが、それがまた火種となってちょっとした騒ぎになったと聞いたのは後での事だった。
朝食後、昨日の応接の間よりも倍以上広い部屋に案内され、奥には衝立で仕切られた空間が用意されていた。そして、レーダーマップを見れば、隣の部屋には多くの人がいるのが分かる。
そう、それは護衛の人以外全員が隷属化された人達だ。
今日の予定はこの人達の隷属開放だった。
「あのー……本当にいいんですか?」
「はい。私も見届ける必要があるでしょう」
「それはまぁ、そうかもしれませんが。他の皆もいいの?かなり暇になると思うんだけど」
解放をする俺以外は正直やることがない。だから初めは他の皆で帝都観光でもして時間潰しとお土産期待してるって言ったんだけど、結局全員がここに付いてきている。
「いいじゃん、あれだけの人数がいるんだから手があっても邪魔にはならないよ?」
「それに、やはり女性がほとんどと聞きますし、同じ女性がいた方が安心して頂けるでしょう。ヒバリさんは女性の扱いに自信がおありなのですか?」
ユウとトニアさんが真っ先に正論を返してくる。そりゃぁそんな自信はないけどさ、皆に悪いかなって思うじゃん?だって、今回の報酬を貰えるのは俺だけだし。
「ベラ達も、他人事じゃない。だから、手伝いたい」
「ああ、そう言う事かぁ……」
ユウとベラは実際にトルキスの町で隷属化される寸前に追い込まれていた経験がある。だから他人事じゃないってわけか。
「ヒバリおにいちゃんだけ頑張ってて、あたしたちは遊んでいいって言われてもなんかやだもん。それなら一緒がいい!」
「ピィリもー!」
「っていうわけです。わたしも同じ女性は多い方がいいと思います」
美李ちゃん、ピーリィ、沙里ちゃんも手伝う方を選んだようだ。
それぞれの理由でこうして全員がここに来ているという状況だ。
そうして雑談をして待っていると、陛下がヴァシュリー殿下と共にやって来た。アンビ皇子は陛下の代わりに宰相と政務を行っているそうだ。
「待たせたな。先に隣の部屋で説明をしておいた。これから数人ずつこの部屋に呼んで来るから、解放してやってくれ。それと、秘匿じゃないなら是非こいつらにも見学させてやって欲しい」
斜め後ろに控えていたローブ姿の女性2人が少しだけ前に出て一礼した。
「この2人が魔道具を使って隷属印を取り除く事が出来るんだが、言ったとおり日にいいとこ2人が限界だ。
だから、それをやっちまって倒れる前にヒバリの許可を貰えるなら見せてやって欲しい。それも報酬に入れる、どうだ?」
「参考になるか分かりませんが、師匠も隷属化を嫌っているので大丈夫だと思います。ただ……闇の適合者でないとどうだか」
例の隷属印の破壊は、気付いたら闇魔法としてステータスに現れていた。その名は制約破棄。制約の部分はどこにいったのか分からないが、名前としては破棄の方が重要のようだ。
「それは問題ない。2人とも闇の適合者だ」
「あ、そうなんですか。自分以外だとまだ2人しか見た事ないからちょっと驚きました」
勝手に鑑定してもバレて罪に問われないか分からないから、
今は鑑定スキルを使うのを控えてて分からなかったよ。
「そういやぁ、最近の王国は天人教がかなり幅を利かせてるんだってな。闇は忌むべきものだーだったか?俺から言わせりゃ光と同じで希少ってのによぉ」
「過去の王国も、光と闇の適合者は丁重に扱われていました。私が生まれた頃には既にその考えは薄れていたそうです」
「ふん。その第1王妃が何より怪しいものだがな。まぁいい、とにかく引き受けてくれて感謝する。あの者らをいつまでも縛られたままにしておくのは許せねぇ、早速始めよう!」
陛下が合図をすると、俺達が入って来た方とは反対側の扉を開けて声を掛けた。やがて、5人ずつがやって来たのだが、
「……え?なんで拘束されてるんですか!?」
そう、5人が5人とも後ろ手に縛られ、口には轡をされた状態で連れてこられたのだ。まるで犯罪者か奴隷か。とてもじゃないがこれから自由になれる様には見えなかった。
「これは仕方ねぇんだよ。俺だってこんな風にしてやりたくない!だが、最初に奴等の館で発見された者に解放されると説明した時、舌を噛み切って死なれたんだ。奴等、隷属から解放される時には自害するよう命令してやがったんだッ!」
「……ッ!」
奴等とは大臣の事だろう。そんな簡単に人の命を奪うのか……皆も絶句して口に手を当てたり呆然としていた。目の前の陛下も怒りを露わにしているので、周りがどうしたらいいか対処に困っていた。
「でしたら、なおの事解放を急ぎましょう!何が引き金になるか分からない状況では彼女らの心が休まる事はありません。ヒバリさん、お願いします!」
「そうですわ!1人でも多くを救うには時間との勝負ですわ。父上!」
その中で、いち早く言葉を発した姫様と奮起した皇女が重い空気を吹き飛ばす。皆もさあやるぞ!とそれぞれの手伝いに動き出した。
「始めましょう!俺は衝立の外にいますから、背中の隷属印だけ見える準備が出来たら呼んでください。お願いします!」
準備が出来るとすぐに制約破棄を発動して隷属印を破壊する。時間にして10分位かかるため、一気にできないのがもどかしい。 でもここで焦って失敗したら、文字通り彼女たちの命に関わるため、落ち着いて確実に行うように姫様から注意を受けた。
そうして、徐々に慣れてきた頃には流れ作業の様に冷静に対処が出来るようになっていた。ただ、時折解放された女性の泣き喚く声に意識を持って行かれそうになるが、その度にピーリィが俺の頭を撫でてくれた。
最初の1人が解放されたのを見た陛下は、内部の裏切り者調査に戻って行った。皇女は侍女と共にこちらの女性の世話を手伝ってくれているようだ。
中には正気を保っている人もいて、解放された後に衝立の外で待機していた俺に直接お礼を言ってくる人もいた。お礼を言いたいが男性不信になってしまい、間接的にお礼を言ってくる人もいた。
自分のやっている事に感謝される、
その言葉に助けられながら魔法を行使し続けた。
どれくらい時間が経ったのか。
魔力を絞り出す度に曖昧になっていく感覚に耐えながらも解放していく。30人以上とは聞いていたが、レーダーマップで見た時には今もまだ隣には20人以上が見える。
現在開放出来たのは20人以上。衝立の外にいる時は休憩しているが、ポケットから時計を出して確認すると、どうやら4時間以上は続けていたらしい。
「漸く半分といった所でしょうか。ヒバリさん、一息入れましょう」
「まだ大丈夫ですよ?」
「自身の顔を見てから言ってください。かなりの疲労が出ていますよ」
「う……」
「それに、そろそろ昼時です。ヒバリさんだけではなく、周りの方達にも休憩して頂かないと、いずれ誰かしらが倒れてしまいますよ?」
「はい、分かりました」
多少は自覚していたため反論出来ない。魔力回復は以前より早い上にトルキスの時と違って休憩しながら出来るので、魔力量自体はまだまだいける。
ただ、大量に消費される魔力による酔いと気持ち悪さが徐々に蓄積されている。それを見た姫様による、所謂ドクターストップがかかった。
今まで余裕が無かった為に気付かなかったが、周りを見れば皆はまだ忙しなく動き回っていた。俺のいる反対側にも衝立とベッドと椅子が追加されていて、動けない者や泣き止まない者のケアも行われていた。そのスペースは完全に男性が近づかないように騎士達も振り向かずに遠巻きに見守っている。
途中で見なくなった沙里ちゃんと美李ちゃんは、どうやら食事の準備をしていたようだ。一番近い厨房を借りて雑炊を作って戻って来た。
胃に優しいものをと考えての料理だろう。優しいだしの味が胃に染み渡る。解放されて食欲ある人達も、最初は見た事のある麦粥と違い戸惑っていたようだが、食べ始めれば徐々にそのスピードが上がっていた。おかわりもあると言うと、喜んで貰っていたのでほっとした。
俺達男性陣にも近づかないものの、奥の衝立から出てきている女性達はあからさまに怯える姿も無くなってきていて、見守っていた騎士達も安堵の色を滲ませていた。
実は、昼食を摂っている間にも隣の部屋には保護された人達が連れて来られていた。あと20人位だと思ってたのがまた30人を超えている。
これには報告に来た騎士がしきりに頭を下げていたが、それは「むしろ俺がいるうちでよかった。今のうちに出来るだけ多くを集めて欲しい」と言うと、張り切って飛び出していった。
自惚れかも知れないけど、今俺が出来る事と言えばこれだから、出来ればここに留まっている間だけでも手伝いたい。って、カッコつけたいだけだとしてもいいよね?
食休みしてからはまた再開し、また4時間で20人を解放して、休憩後に更に20人解放したところで夜の21時には今日の解放は終了となった。今はこれ以上いないと言われてもレーダーマップでまだ数人いるのが分かっていたので、皇女様に頼んで連れて来てもらった。
隣にいた全員を解放して、今度こそ今日の解放は終了だ。
今回は合計で67人救出したことになる。
「よくもまぁこれだけの人数を拐かしたものですわね。これが国の頂点の一角を担っていただなんて恥ずかしくて帝国民に顔向け出来ませんわ」
「それもそうだが、その人数をたった1日で解放しちまったヒバリにも驚き過ぎて何が何だか訳が分からねぇ」
はぁ、と溜息をつく皇女と、今日は終了したと伝えられた陛下がわざわざ俺達のいる部屋に来て、まずは全員に感謝を示した。その後またここで夕食の焼き鳥とおにぎりと味噌汁を食べ、食後の雑談で俺の事についての感想が今の言葉だ。
「勇者としては落ちこぼれでも魔力量が多いみたいでして。それに、師匠の教えがいいんですよ。周りの人には恵まれています」
「おおそうだった!ヒバリに付いてた2人もな、見学させてもらったおかげで今までの半分の魔力消費まで効率がよくなったって喜んでたぞ!これも感謝する!」
ああ、そう言えば最後にやたらと興奮してお礼を言われたのはそういう事だったか。俺みたいなおかしなチートがあるわけじゃないのに見てただけで消費半減って、そこまで出来る2人も十分凄いと思うけどなぁ。
「で、だ。報酬の方がどうする?今日1日だけでもこの人数だが、明日も少なからず救出されてここへ運ばれてくるだろ?だからいっそ1人いくらか決めておいた方がいいんじゃねぇか?」
「あの……1人いくらってのは、その、それこそ奴隷を扱うようで正直いい気分じゃないんですが。これから増えようと決められた報酬でいいですよ」
「父上、ワタクシもヒバリと同意見ですわ!報酬を差し上げるのは反対致しませんが、今の言い様は無神経にも程がありますわよ!?ここは母上に報告して、」
「あああああああ!悪かった!俺が悪かったからそれはやめてくれッ!」
自分の旗色が悪いと感じて焦っていた陛下が、皇女の母上の言葉に即座に反応して謝っていた。陛下がこれだけ焦る奥さんって、どんな人なのか気になる!
「ま、まあそうだな、報酬の方は宰相に任せるとして、明日からはここまで大人数にはならんだろう。そこで次の依頼の話をしてもいいか?」
つまり、宰相に丸投げって事ですね?
陛下はじとーっとした視線を周囲から感じているが、
ここは敢えて見ないふりをして別の話題に持っていくようだ。
「次って言うと、和食の方ですか?」
「それだ!ワショクを城と騎士団の厨房で振る舞って欲しい!」
俺の言葉を助け舟と見たか、陛下がすぐに乗って来た。
やっぱりそっちだったか。まぁ言われてたのはそれしかないけどね。
この話が急ぎになったのは、どうやら今朝部屋の外の見張りをしてくれていた騎士におにぎりと味噌汁を渡したのも関わっているらしい。陛下と宰相はまだ国のトップだから仕方ないとしても、俺達の護衛につくと和食が食べられるとあって、任務の争奪戦が始まってしまったそうだ。
それを鎮めるためにも、まずは城内と騎士団宿舎の料理人達に急いで和食を覚えてもらい、必要な食材の確保にも手を打ちたいと陛下が言う。
「分かりました。じゃあ昼までは和食を広める手伝いをして、昼過ぎはその時までに集まった人達の隷属化の解放をします。ただ、その後は商人ギルドや帝都にも用事があるので自由時間も欲しいです」
「そうだった!商人ギルドにも通達はしてあるから、新しい看板もその時受け取ってくれ。ギルドも看板を汚された件で奴等に賠償と制裁をって騒いでたぜ?」
おお、商人ギルドって結構強気なんだ!
元とはいえ貴族で大臣相手にそれはちょっとびっくりしたぞ。
「ああ、最後にもう1つあった」
あれ?まだ何かあったっけ?姫様も少し首を傾げてる。
んー……俺もちょっと思い出せないなぁ。
「ヒバリの魔法の師匠って人を紹介してもらえないか?」
「師匠って、ルースさんですか?」
「ルース……ん?それは昨日聞いた名前だったよな。この中にその師匠がいるのか?」
陛下が俺達全員を見るけど、この中にルースさんはいませんて。
あ、でも連絡取れるって知られるのはどうだろう?
ちらっと姫様を見ると、同じ事を考えていたのだろう。
「ヒバリさんにお任せします」
「やっぱりそうなりますか……」
んー。陛下ならまぁいいかって思わせるカリスマ性あるんだよなぁ。
ちょっとどうなるか不安もあるけど、そこは聞いてみて判断するか。
「まず確認ですが、これは俺の固有スキルにも関係があるんですが、ここにいる全員は信用出来ると約束出来ますか?」
「もし情報を漏らす奴がいたら、俺が直接厳罰を持って対処すると約束するぞ!それでも不安が払拭されねぇなら、俺とヴァシュリーだけ部屋に残して他は下がらせよう。おい」
こちらの返答も待たずに従士らを全員部屋の外へと出してしまった。
仕方ない、こちらもそれに答えますか。
「ありがとうございます。えーっと、ルースさんとは電話というか無線というか、」
「ヒバリさん、それらはこの世界にはありませんよ」
以前姫様達に説明する時にも言われた事をまた突っ込まれる。
電気や電波がないんだからそれで分かるわけもないんだよねぇ。
「そうでしたね。えーっと、離れた所同士でも会話出来る道具があるんですよ。魔道具みたいなもので、俺達の世界では電話や無線、ケータイなどと呼ばれています。
それを俺が固有スキルと闇魔法の融合で作りだして、それをルースさんに持たせてあるんです。ただいくつか欠点があって、その1つがお互いがその道具を開いている状態じゃないと会話出来ないので、いつもは時間を決めて連絡を取り合っているんです」
手のひらサイズの長方形の袋を取り出す。どこから出した?などと言う突っ込みはない。それ以前に、離れた人と連絡が取りあえる魔道具を作ったと言われて、2人は驚きの表情のまま置かれた袋を凝視していた。
そして携帯袋を開く。それに合わせて顔を近づける2人。
「だから、こうして今開いてもルースさん以外はここに全員いるし、ルースさんも今は、」
『ここにいるので会話が出来る訳じゃのぅ』
「……え?」
なんでこのタイミングでルースさんがいるんだ!?
ばっと周りを見渡すと、1人美李ちゃんだけが笑っていた。
「えへへー、ばれちゃったか。昨日ルースさんと話してたら、明日はずっと繋いでおいてほしいって言われたのでやってました!」
いたずら大成功!と言うようにピースサインを突き出す美李ちゃん。
どうやら知っていたのは美李ちゃんだけだったらしく、他の皆も驚いていた。
だが、本当に驚くのはここからだった。
『久しいのぅ、ブジェント。皇帝の座に就いた祝いの席以来かの?』
「は?俺を名前で呼ぶ奴はそうそう……ルース?……ん!?ルー…ス、ってまままままままさか、スクセルース様の事ですか!?」
「……えっ?皇帝陛下が敬語を使ってる!?」
「ヒバリさん、驚く所そこじゃないです……」
何故か冷静な沙里ちゃんから突っ込みを頂いてた。
まず驚く所ってここで合ってると思うんだけどなぁ?
章の初めと言うのに前後以外真面目な話ばかりになってしまいました。
でも、早くこれを解決しておきたかったのですよ!