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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第10章 ノロワール帝国と皇族
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皇帝陛下VS大臣

最近なろうサーバーが不安定のようですね。

無事投降されていますように。


今回も拙作をお読み頂けたら幸いです。

 2人の大臣は初めは通常の会話のように話していたが、

徐々に捲し立てて交互にあれやこれやと騒ぎ出す。



 シルベスタ王国は魔王復活の危機に備えて勇者召喚を行ったと言うのに、いざ召喚に成功するとその者達を囲って魔族や魔物の討伐には及び腰だ。

 挙句、魔族の象徴たる闇の適合者がいても放置し、その者を使って魔族への有効手段を探るべきと勧めた意見はにべもなく却下された。

 そして召喚された者達は騎士団内で縛りつけて子飼いの兵として扱い、それに反発した召喚者らを軟禁しようとしたところを第1王女が救い出したが、無暗に表に立たせるべきではないと現在も国王は反対し、その者らの力を正しく使うという説得に応じない。


 それ以外にも闇の適合者だった者はやはり罪を犯し、1人は処刑したがもう1人はあろうことか第3王女が連れ出し王都から逃走した。

 そのことを重く見た第1王女が即時兵を動かすが、主力部隊は国王が第1王子と共に待ったをかけて足止めされ、第3王女一行を逃がしてしまった。


 このままでは帝都でも何か仕出かすかもしれないので警戒して欲しいと第1王女の使いの者から伝達が来た。



 と、2人は声を荒げる。



「そして今、その第3王女であられるノーザリス殿下の一団がこの城内の離れにいるのです!黒髪の者はいないようですが、どこかで合流するかこの帝都に潜んでいるのでしょう。


「あの人数だけで国境を越えるのはありえませんぞ。油断してはなりません!今すぐ足取りを追って探し出すべきです!」



 皇族の3人と宰相は静かに2人の話を聞いていた。


「その様な話は初めて聞きました。で、皇帝陛下のご指示も仰がずにノーザリス殿下を襲撃した件はどう釈明するおつもりですかな?」


 豹人族である宰相の漆黒の体毛から覗く金色の瞳が2人の大臣を見る。細身の体にゆったりとしたローブで落ち着いた雰囲気のある彼の眼光は鋭い。


「卿には聞いておらん!我らは今、陛下にご決断をされるよう陳情しておるのだ!」


 太っている方が負けじと睨み返す。



 が、


「俺も宰相と同じだ。俺はヴァシュリー以外は絶対に近づくなと言ったよな?それを守らず襲撃した……だと?説明しろ、パーター商務大臣」


 皇帝陛下がテーブルに肘を付いて少し身を乗り出す。


 流石に陛下相手には臆したのか、パーターと呼ばれた太っている男は皇帝陛下が身を乗り出した分だけ後ろに引いた。


「それは勿論、事が起きてからでは遅いからで御座います。帝国を脅かす恐れがあるのでしたら、それを事前に防ぐ手を打つのは上に立つ者として当然の判断です」


「相手は国の王女だ。そんな人物を襲えば、それだけで相手に攻め入る理由を作るとは考えが及ばないのか?」


 隣に座る黒髪のアンビ皇子が問う。


「それだけの大事の件だったので御座います」


「俺の命にも従わないほど、か……そうかそうか」


 皇帝陛下の口元だけ見れば笑っているように見えるが、

その目は明らかに怒りを表していた。


「ヒィ!」


「お、お待ちください陛下!ここ近日の魔物の発生は明らかに異常で御座います!その為に召喚した勇者となる者らを自国のみで秘匿する王国の行動は計りかねます!

 そこへ闇の適合者を連れて帝都へ入り、その説明もしないのはやましい事があるやもしれません。取り急ぎノーザリス殿下に問いただす必要があった事はご理解くださいませ!」


「じゃあお前は俺の命を無視しても構わないと考えるわけだな?サントノレア外務大臣。そうかそうか、お前もか」


「いえ、決してそういうわけでは……ッ」


 陛下に睨まれて喋れなくなったパーター商務大臣の代わりに、すぐさま長い髭で細身のサントノレア外務大臣が口を挟むが、こちらも睨まれて徐々に勢いが消えていく。



「まぁ、いい。いや、他国の王族を襲った罪はよくねぇが、今は別の話をしようじゃねぇか。ここまでの茶番、清聴感謝する」


 皇帝陛下がちらりと壁にある風景画、

つまり、控室にいる俺達の方を見て言った。


「さぁ、ここからが本番だ。覚悟はいいか?」


 ニタァっとまるで悪役のように笑う皇帝陛下を見て、これから始まる本番とやらに、まるで映画を観ているような錯覚に陥った事に後で気付くのだった。




「まず、お前らシルベスタ王国の情報にやけに詳しすぎだ」


「そ、それは伝達に来た使いの者から詳しく事情を問いただしたからで御座います」


「ほぉ。じゃあその使いが来た日時と話し合った場所を言え。その使いの容姿や名前もだ。そんな重要な案件をこっちに報告してねぇんだ、当然場所を選んだんだろ?」


「帝都内ではありますが、詳しくは……そう、記録を取っておりませんでしたので、」


「ああ、帝都内か。場所は?一般居住区か貴族区……まさか城内に入れてねぇよなぁ?」


「は、はい!貴族区内で御座います!」


「そうであったな!」


「そうかそうか。よし、じゃあ貴族区の管轄から鑑定珠から情報を調べるから名前を言え」


「……え?」


「名前はですな、偽名だった可能性もありますゆえ、」


「お前は偽名を使う相手の情報を鵜呑みにしたってのか?一国の大臣が、か?」


「で、ですがシルベスタ王国の王族のみが使う封蝋がなされておりましたので、疑いようが御座いません!」


「よし、その書簡も持ってこい。」


「……あっ!いえ、その、使いの者が持ち帰って、そう!持ち帰ってしまったので手元には御座いません」


「我らも預かりたかったのですが、どうしても持ち帰らねばならぬと命を受けたと言われて仕方なく!」


「ほぉ……俺に見せないで返したって事か。そいつも許せるものじゃねぇなぁ。で、名前と場所はどうしたよ?偽名だったとしても名は残したんだろ?それで鑑定珠を通らせたんだろ?」


「それは……」


 1つ逃れたと少し持ち直した2人はなお続く皇帝陛下の追及に、

徐々にその顔に噴き出た汗をハンカチで拭うのに忙しくなっていく。


「先に言っておこうか。国中にある簡易鑑定珠はな、皇家の持つこの世界に数個しかない鑑定珠の原典と言われる物で情報を共有出来るようになっている。しかも簡易と違って原典は相手の情報をより多く引き出せる。

 つまりだ、お前らがどんなに隠そうとも誰が通ったか鑑定珠から記録を引き出せるんだよ。これは皇家が譲り受けた際に血族にのみ伝えられた真実だ。当然、これをお前らに話すって意味も分かるよなぁ?」



 後で聞いた話だが、当然ながら簡易鑑定珠を通さずに国や街に入れる事は犯罪で、それは貴族や地位の高い者であればあるほど罰則は重くなると帝国では定められているそうだ。


 名前や日時を言えば誰と通じているか調べられ、鑑定珠を通さず入れたと言えば重罪が確定する。2人はどう答えていいかさらに汗の量がが増えるばかりだった。




 5分か10分か……


 あえて何も言わずに正面を見据える皇帝陛下。

対するは汗を拭くばかりで俯く大臣2人。


「いやぁ、すまんなお前ら」


 急に柔らかい口調で話しかける陛下に、

2人は「へ?」と顔を上げる。


「実はな、もう調べはついてんだわ」



 姫様が途中で預かった手紙は、実は帝国に仇なす内容が含まれていたとヴァシュリー殿下が言っていたが、陛下はこれを怪しみ鑑定珠で調べてみると、この封書に触れた者の魔力の残滓が出たと言う。

 それは、ちょうどヒバリ達が捕まえたドルエス商会の帝都支部に勤めていたカールという者だったそうだ。


 それが判明した時丁度ゼスティラの街からカールを護送して来たブリゼ騎士団長らが登城しており、これ幸いと尋問を行った。そして、隷属の魔道具の件も追及され、大臣2人にも奴隷を売った事も明かされた。


 これにより2人の邸宅にも強制調査を決行する事となり、姫様達を襲撃するために子飼いの騎士団の半数以上をそちらに移動させた隙にブリゼ団長率いるゼスティラとの混成騎士団で攻め入り、つい先程までここで

得た情報の精査をしていたらしい。


 皇帝陛下の到着が遅れたのはその為だった、

と楽しそうに2人に語っていた。



 それって、俺達は囮にされてたって事だよね?

まぁ、相手が弱かったからよかったけど……



「そうしたら、でるわでるわ。挙句ホントにお前らが主人登録された性奴隷までも出てきやがった……何の為に隷属の魔道具を国が隔離してんだか分からんよなぁ、えぇおい?

 この初代勇者の血を引く皇族は、特に忌避してるって知っててやったんだよなぁ?いい度胸じゃねぇか」


 2人はもはや何も言えないで震えている。



 このノロワール帝国は、過去に行われた勇者召喚で初めてこの世界に呼ばれた勇者の血を引くらしい。


 それよりも、勇者召喚っていったい何回行われたのか、そっちの方が気になってしまった。確か、シルベスタ王国も前代の召喚勇者が興した国だって聞いていた。

 でもそれが前代であって初代ではなかったと聞けば、じゃあ自分達は何代目なのかって気になるよね?


 それと、その鑑定珠の原典ってのはどうやら俺のスキルである鑑定と近いのかもしれない。それなら簡単に誰に隷属されているかも読めるし、俺のレーダーマップで登録する時のように誰の魔力かも特定出来るんだろうな。




 様々な罪状が挙げられる中でぼーっと自身の思考に引っ張られていたが、皇帝陛下が間を空けた事で再びそちらに意識を向けた。


「お前ら、天人教に入信してるんだよな?いや、ある程度の宗教の自由は認められている。だが、ドルエス商会も天人教信者だと調べはついている。奴隷も犯罪奴隷じゃなく、獣人がほとんどだったしな。これも当然許せる話じゃないが……

 天人教は前から嫌な臭いがしてたが、保護した奴隷達の中には天人教信者が主になっているのがほとんどだったわけだ。こうなるとまぁ怪しいなんてもんじゃないよなぁ?

 しかもお前ら、天人教からかなり金を貰ってるって証拠も出てきてるって話だ。この辺りも当然追及するから覚悟しとけよ。


 ……よし、そこの後ろに立っている奴等も一緒に連れて行けッ!」


 皇帝陛下が最後に声を大きくしてそう言うと、扉を開けて多数の騎士が皇族の対面にいる者らを次々に拘束して連れ出していった。 



「あの方向は、地下牢のようですね」


 どこに連れて行かれるのかレーダーマップの範囲を広げて追っていると、それに気付いた侍女のパルミエさんがすぐに思い当たったようで答えてくれた。




「よし、こんなもんだろ」


 皇帝陛下が首を左右に振ってコキコキと鳴らす。


「さぁ、ノーザリスとその他の者ら。こっちに来てお互いの情報をすり合わせるぞ。余計な邪魔は入れさせんから安心していいぞ!」


 先程までの眉間に皺を寄せた鬼の形相から一転して、まるで孫を見るような破顔した笑顔でこちらの魔道具の絵へ向けて言ってきた。


「もう、父上は久しいノーザリス殿下のお顔を見たくてうるさ過ぎましたわ」


「先の襲撃の件でもすぐに飛び出しそうでしたからねぇ。我らが抑えば策が崩れる所でしたよ?父上、もう少し自重なさってください」


 娘と息子に突っ込まれて不貞腐れた顔をする皇帝陛下が映る。

それを見た姫様が苦笑しながら急ぎましょうと皆を促したのだった。



「小さな頃から実の娘と同様に可愛がって頂きまして、ヴァシュリー殿下と姉妹になれとそれは父上を困らせ、皇后様に叱られておりました。久しくお会いしておりませんので、懐かしく思います」


 控室の隠し扉を抜けて部屋から出る時、姫様が笑顔で語る。まるでもう1人の父親に会いに行くような気持なのかな?と、思いながら聞いていた。





 ……まぁ、実際に会ったら感動の再開ってやつは少ししか見られなかったわけで。いや、見ている余裕はちょっと無かったなぁ。



 だって、紹介された俺を見た一言目が、



「貴様にノーザリスは渡さんッ!」



 いや、そもそも誰が嫁にくれと言いに来たって?

それは姫様にも失礼でしょうが!



「……そういう事を言うおじ様は嫌いです」


「なぁ!?ま、待ってくれ!別にただ反対しているわけじゃないんだ!仮にも一国の姫が嫁ぐ先としての考えがあってだな、」



 泣きそうな顔になった皇帝陛下が必死に食らいつく。

姫様は顔を横に向けて目を合わせようとしない。





 だから、今はそんな話をする時じゃないでしょ?


 と、このやりとりを見ながらため息をつくヒバリ達だった。



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