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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第10章 ノロワール帝国と皇族
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押し掛け登城と控えの間

大分空いてしまいましたが、

今回もお読み頂けたら幸いです。

 城内を走るヒバリ達の馬車と2人の騎士の馬。



 ここノロワール帝国の城はそのまま"ノロワール城"と呼ばれている。帝都の南側は海で、その海手前の岬の上に建つ城は、海から見れば崖の上に建っているのがよく分かる。この大陸の南側は荒れた海と水棲の魔物が多く、砂浜もほとんど見当たらない崖だらけなので、海からの侵略行為はよほど巨大か飛行能力を持つ魔物くらいしかありえないと思われる。実際に建立以来海側からの侵略は1度も起きていない。


 城の建つ土地は岬と言っても丘と呼べるほどの広さがあり、敷地面積は横幅が3km奥行きは1.5kmを超える横長だ。城のある場所が一番高く、そこから陸地に向かって緩やかな下りとなってる為、帝都に近づくにつれ真っ先に城が確認出来てしまうほど目立っている。


 城壁の内部にはちょっとした林や畑、人口の池や水路、その水路も各所に橋が設置されていて、崖側以外の城壁の外にも堀が作られている。

 城内の水路は3つの井戸から魔道具によって常に一定量吸い上げられ、敷地内に巡らせた幅2mほどの水路の水を流している。水は最後に城門より外へ流れ、城壁周りの堀を満たし、高低差に逆らわず貴族区や一般区の水路へと流れる。

 これらは、有事の際には出来るだけ多くの都民を受け入れる事と、畑や水があれば備蓄以外にも自給自足で賄えるため、籠城を可能とする設計だった。


 ノロワール城建設時は、この無駄に広い敷地に貴族たちの家が並ぶ計画だったらしいが、その当時の召喚勇者が自身の功績による報酬としてそれを取りやめ現在の形に修正させたらしい。

 そして現在の、城壁の周りに貴族区、そして更に壁がありその先が一般の居住区や商業区となるわけである。




 ヒバリ達がいたのは城内の最東北端の建物。現在、林の脇を南に抜けて西へと進路を変え、畑と使用人宿舎近くの水路を渡った。右手側には城壁の前に大きな建物が見えている。



「もうすぐ城の入り口に到着します!」


 距離にして2kmほど走ったところで先頭を行く騎士が叫ぶ。

大きな石材を組んだ長方形の建物の正面が徐々に見えてきた。


 離れの建物の時にも思ったが、シルベスタ王国に比べてノロワール帝国はガラスを使った窓が結構見られる。そして、城の正面は3階建ての1階部分以外は窓が多い。

 格子状に枠で区切られた1枚1枚のガラスは割られて侵入されないように小さくしているのか、技術力の限界で1枚の大きさがそこまでではないのかは分からない。


 屋上にも見張りの兵が巡回し、その下の3階の中央には演説を行う舞台のようになったルーフバルコニーが見えた。勿論今は警備兵が立っているくらいだ。

 ぱっと見だが、第2騎士団とも第5騎士団ともまったく違う丸みを帯びた鎧を着た者達は、騎士と言うより仕事として見張っている雇われ兵みたいに感じる。ただ、ステータスを鑑定みると、第5騎士団の連中よりも強い。見た目よりも質で雇っているのかもしれない。

 敵愾心を感じさせないせいか、こうしてヒバリ達一行が駆けてきても視線を向ける程度で特に強い警戒心を持たれるわけでもないみたいだ。


 ……まぁ、それでいいのか?とも思ってしまうが、

余程自身らの感覚に自信があるって事なのかね?




 本城の正面玄関に直接馬を着けると、2人の騎士が駆け寄って来た。

見た目からして一緒に来た第2騎士団の鎧と同じだから同僚なのだろう。


「団長がお待ちしています。我らがご案内いたしましょう!」


「おお、やはり団長からの指示だったか!ノーザリス殿下、この者らがヴァシュリー様の元までお連れ致しますので、馬車は我々にお任せ下さい!」


 先導していた2人は馬を降りて馬車後ろの幌を開けてそう言い、すぐに侍女達とトニアさんが姫様を降ろしていた。まだ御者台にいた俺とピーリィも皆と一緒に馬車を降りる。


「では、案内頼みましたよ」


「はッ!」


 全員が降りたのを確認した姫様が城内から来た騎士2人に声を掛けると、一糸乱れぬ動きで敬礼をし、再度姿勢を正してから城内へと歩き始めた。



 3mはあろうかという解放されたままの扉を潜ると、天井にも壁にも絵が描かれたエントランスホールが広がった。石畳の床には通路表示として真っ赤な絨毯が正面へと伸びている。

 その先で十字に交差する絨毯。ヒバリ達一行はそのまま真っ直ぐ奥へと進む。100m近く歩いた先には左右に弧を描くように伸びた階段があり、そこから2階へと上がった。


「ここより右手に迎賓と応接のための部屋と、左手に謁見の間、後ろ手に回りますと皇族と許可を頂いた者のみしか入る事の出来ない領域となります。そして、」


「……ヴァシュリー様は、応接間にいらっしゃいますね?」


 侍女の1人、パルミエが答える。


「そうだ。……なるほど、それが団長が話していた能力でしたか」



 俺達は入城して歩いている時、階段を上がる前に一瞬だがレーダーマップにヴァシュリー殿下の反応を見付けていたのだ。そこで俺が感知範囲を広げ、その行動に気付いた皆が右手、方角で言うと東側に青いマーカーを確認していた。


「はい。すでにこのスキルの話を聞いていたのですね……それについては後でヴァシュリー殿下にお話がありますが、まぁいいでしょう。そこにはビルモント団長も一緒ですね。この位置ですと……会議か何かが?」


 ヴァシュリー殿下を含め横一列に4人とその従者らしき2列目。

その対面に4人と同じく2列目に従者らしき人が並ぶ。


「……!うわぁ。俺達、これからそこへ行くんですよね?」


 2人以外の未確認表示のマーカーに鑑定をしてみると、しなきゃよかったと思える結果が見えてしまったわけで。正直そこに行きたくないなぁ。


「で、どなたが?」


 俺が鑑定して知ってしまったと分かっていても、

姫様はあえて案内役の騎士らに聞いていた。


「はッ!皇帝陛下と皇妃様、アンビ殿下、ヴァシュリー殿下、そして宰相のベイユ様、大臣のフェルデン様とメルバ様がおります!」


「その様な場に私を連れて行く、と?」


「はッ!ビルモント団長は"好転の機会である"と言っておりました!」


「……好転と言うからには、私の立ち位置はかなり危ういものであるようですわね。分かりました、その好機、ものにする為に連れて行きなさい」


「はッ!」



 やっぱりその応接間に行くみたいだ。


 よくよく考えたら、シルベスタ王国に召喚された時に会った王族は姫様だけだし、それ以降は冒険者みたいになってた第2王女に少し会ったくらいだ。

 謁見の間なんて行った事ないし、ノロワール帝国に来てからもすぐ軟禁されてヴァシュリー殿下に会っただけ。


「ここでいきなり皇帝陛下達の前に行くのか……国のトップなんて会った事ないから参ったなこりゃ」


「宰相って……確か、総理大臣みたいな立場の人でしたよね?」


 沙里ちゃんもこれから向かう場所の厄介さが分かってきたようで、何とも困った顔をしていた。何度か王様に謁見した事のあるユウもげーっと素直に嫌そうな態度を出してしまっている。


「どの道ヒバリさんらの事も説明するのですから、いつか謁見しなければなりませんでした。それが今になっただけですよ」


 皆不安な顔をしていたら、トニアさんがフォローなんだかそうじゃないんだか微妙な発言をしてた。嫌な事はさっさと終わらせろって事かな?



 ……いやいや、それでもこのタイミングで会うのってないよね!?

そういうのはもっと落ち着いた時でいいから!



「皆様はこちらの部屋へどうぞ」


 なんて考えていたら、応接間からかなり離れた場所の部屋に案内された。

どうやらすぐに謁見というわけじゃなさそうだ。


「この部屋から先は皇族とその側近である者らにしか教えられておりません。ですので、他言無用でお願い致します。ここをこうして……どうぞ、なるべく大きな声や音は出さないようお気を付けください」


 案内してくれた騎士が部屋の奥へと進む。そして壁際に並んだ本棚をいじると、その一部の棚が奥へ動いた後に横へスライドして新たな部屋が現れた。

 広いとはいい難い奥の部屋の壁には額縁入りの風景画が掛けてあり、そしてそこへ向けてソファーが備えてあった。案内されるままに姫様を中心にユウとベラとトニアさん以外が座る。



 全員がそれぞれの位置に落ち着いたところで、

やっと案内してくれた騎士が説明を始めてくれた。


「大よそお気付きかと思われますが、この壁の向こうが応接間となっております。そしてこの壁にある絵画は光と風を利用した特殊な魔道具です。

 起動させますと、この絵画の先にある部屋の様子がご覧いただけます。光の魔法で屈折させてこちらからは見える上に風の魔法で音を届かせますが、その逆は出来ないようになっております。ご安心下さい」


「へぇ……マジックミラーみたいなものですか」


「まじっくみらー……?魔法鏡?……ああ、それは良い表現ですね」


 俺が思わず口に出してしまった言葉だったけど、

どういった物か説明したら物凄く納得された。




「では、そろそろ始めさせて頂きましょう」


 隠し扉の側にいた騎士に目配せをし、その人が頷いてから退室して扉を閉めて行った。そして風景の描かれた絵の横を触れて起動させると、徐々に絵が薄れてその先が透けて見え始める。


 やがてはっきりとその先が見えると、テーブルを挟んで左手にヴァシュリー殿下と皇族と思われる若い男性が1人、その向かいの右手には大臣と思われる長い髭の老人と禿かけてよく肥えた中年のおじさん、そして俺達が見る真正面に猫人族……いや、黒の斑点模様があるから豹人族が1人だけ中央に座っていた。


 各陣営ごとに後ろには護衛の騎士が静かに立っている。

その中でも大臣側だけはいらいらと落ち着きがない。



「えぇい!陛下はまだいらっしゃらないのか!?事は急を要するのですぞ!」


「こうしている間にも逆賊らは暗躍しておるのかもしれんのだ!」


 2人がついに苛立ちを口にした。

しかし、正面に座る2人はまったく動じない。


「そもそもその方らが急に押し掛けたのだ。父上にだって身支度の時間くらい当然必要だ。フェルデンもメルバも品を疑われるような言動は慎むがいい」


「しかし!それならばなおの事、アンビ殿下が陛下に代わって我らが動く事に許可を下さればそれで済む話ですぞ!」


「私は皇帝ではない。それは父上でなければ了承しかねる案件だ。相手は国だぞ?そのような浅慮な言い様では増々私には判断を下す事は出来ん」


 ヴァシュリー殿下は黒髪に近い茶髪の縦ロールだが、その隣に座り先程から2人の男を相手にしているアンビ殿下と呼ばれた青年は、俺たち日本人と同じ真っ黒な髪だった。ここからではよく見えないが、腰近くまで伸びたストレートだと思われる。


「国の中枢を担うお二方がその様な姿を国民が見たら不安を煽ってしまいますわ。もうすぐ父上がいらっしゃいますからお茶を飲んで落ち着いて待ちましょう」


「アンビ殿下もヴァシュリー殿下も事の大きさをご理解されておられない……」


「まったくです。早く陛下にお伝えし、すぐにでも対応せねばどれほどの被害がでるか分かりませんぞ……」


 ヴァシュリー殿下の合図で横で待機していた侍女らが新たに紅茶を淹れ直し、2人の男はそれを口にして溜息をつく。




 およそ5分後。


「失礼致します!皇帝陛下がお着きになられました!」


 扉の外から張りのある声がして、

応接間内の扉前に控えていた騎士らが扉を開いた。



 そこには分厚い赤いマントを纏った男がいた。


 身長は2m近くの大柄でがっちりとした体、短い金髪で髭はなく、歴戦の猛者を思わせる鋭い眼光が部屋の中を見渡す。途中で絵画を見た時だけ口角を上げてちらりと白い歯がのぞくが、それも一瞬の事だった。



「待たせたな。何の取り付けも無く呼んだのはお前らの方だ。当然文句はないよなぁ?」


「は、はい!勿論御座いません!」


「ええ、ええ!当然ですとも!」


 先ほどまでの苛立ちと高圧的な態度はどこへやら、皇帝陛下の一言目でその場を完全に掌握してしまっていた。アンビ殿下とヴァシュリー殿下は変わらず佇んているが。





「……なんか、皇帝陛下ってかなりこう、野性味と言うかその、猛者と言ったらいいんですか?まさか、好戦的ってわけじゃないんですよね?」


 シルベスタ王国にとっての兄だとか父と言われているノロワール帝国の皇帝陛下なのだから、てっきり物凄く堅苦しい話し方なんだろうなと勝手に想像していたら、現れたのは"漢"の方の意味でおとこだった……


「陛下はお変わりありませんね。安心致しました」


 にこにこと皇帝を眺める姫様。



 俺達パーティの中では姫様とトニアさん以外は呆気に取られて、俺以外まともに会話していなかった。俺だって独り言みたいに思わず聞いちゃっただけで、感想が漏れたようなものだし。



「ベラのいた集落の、部族長と、同じニオイ感じる……」



 ……1人だけ違う感想の人いたわ。


 なんか、ベラだけ恋する乙女みたいな目をしてるんだけど!?こいつはさすがに予想外だったな!そもそも、ベラが男性に興味を示したのって初めて見たぞ。魔道具越しじゃ匂いが届かないはずだから、雰囲気って意味なのかな?



「へぇ〜。ベラもそういう顔するんだね〜乙女だね〜」


 ユウがベラの肩に手を回してうりうりといじる。

周りに人がいた事を思い出したベラは照れて俯いてしまった。


「皇帝陛下は獣人達の暮らす東の国、ニューグロー共和国と懇意にしておりますので、ベラさんも国に戻られても皇帝陛下が外遊に訪れるでしょうし、今後もご尊顔を拝する機会があると思いますよ」



 勝手に拳と拳で語り合うのを想像しちゃったよ。

しかもあながち間違ってなさそうなのがまた怖いなぁ。



 他の皆も失礼にならない程度に皇帝陛下や皇子様?の事を話していた。

額縁の向こう側では大臣2人が汗を拭きながら皇帝陛下に相槌を打っている。


 やがて、皇帝陛下の挨拶とも言える世間話が終わったとみえて、大臣らが話を切り出していた。明るい表情を引っ込めた皇帝陛下は厳つい顔を前面に出すが、大臣らは話を続けていた。


 そこで怖気づかないのは流石は国の重鎮というだけの事はある、のだろう。実際に目を合わせて睨まれたら、俺ならきっとまともには喋れないだろうな、と魔道具越しにその横顔を眺めていた。




「さぁ、あちらも世間話は終わりのようですから、事の成り行きを見守りましょう」


 姫様が周りに声を掛け、皆が空気を読んで静かになる。





 そして……


 ついに、大臣らが今回の騒動の理由を語りだした。




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