蔑視再び
思っていたよりも進んだのであげてみます。
拙作をお読み頂けたら幸いです。
「ヴァシュリー、いえ、ヴァシュリー殿下」
「あ、あら?何故呼び方を変えたのかしら?サリス??」
「周りの方々も。ヒバリ様を憐れむ、蔑むような目を向けるのを即刻やめてもらいましょう。その感情は私に向けると同じと思ってください」
不気味なほどニコニコと作られた笑顔を貼り付けた姫様が、
皇女様どころかここにいる全員に向けて不快感を露わにした。
そして、それは姫様だけじゃなかった。
「ヒバリはすごいんだから!んーっと……すごいんだから!」
「ヒバリおにいちゃんの袋詰め、ほんとにすごいんだから!」
俺の左右でピーリィと美李ちゃんが吠える。
よし、少し落ち着こうか。頭を撫でておこう。
ベラだけはオロオロした視線を周りに向けるが、その他の皆は一度城で経験済みなのでイラッとした顔が隠せないでいた。ユウは少し違う感じがするが、目が合うと苦笑で返された。
その状況に皇女様が焦ってビルモント団長や侍女2人を見るが、3人とも理解が及ばす首を横に振るだけだった。
「ヴァシュリー殿下。殿下はつい先ほどこうおっしゃいましたね?"どのようなスキルであれ、それを認められない者らを見る目が無い"と。それを弁えていた殿下が、今、ヒバリ様をその様な目で見ますか」
「…………あっ!」
自らの失態に気付いた皇女様が小さな悲鳴に似た声を上げて口元を手で抑える。周りの人達も似たようなばつの悪そうな顔をして目線を落としていた。
「……"固有スキルは一般では収まらない効果を出す"。これもワタクシが言った事ですのに、その可能性すら見ずに答えを出そうとしてしまったのですね。自身の浅慮さが恥ずかしいですわ。ヒバリ、心より謝罪申し上げますわ」
皇女様がゆっくりと頭を下げた。
団長含めて周りが慌てるが、止める者はいなかった。
「でも、やはり袋詰めがどういったスキルなのか分かりませんので、よかったら教えて頂けないかしら?勿論、強制ではなくてよ?」
「構いませんよ。日常で役立つのをお見せしましょう!」
何となく嫌な雰囲気が残っていたので、ちょっとわざとらしい恥ずかしさを抑え込んで立ち上がってみた。さっきの言葉のナイフを思えばどうってことないさ!
「さて、まずはプリンを食べた方達は満足でしょうが、その四方を守る騎士の方達はお腹が空いてませんか?よろしかったらパンケーキかゴルリ麦の軽食を食べてみませんか?」
「ふむ。それが袋詰めと関係があるのでしょう?許可しますから、貴方達も食していいですわ。但し、魔法の維持はなさいね」
皇女様の許可も出たので、4人に甘い物かご飯か希望を聞いて、ワゴンの下段から取り出した透明な小袋に入った物をそれぞれの目の前で開けながら手渡す。
袋を手に取った時は熱を感じずそのまま受け取ったが、その中身が湯気が出るほどの熱さに、口元へ近づける時に初めて気付いて驚いていた。
「これは、作りたてですか?」
「そのパンケーキはこの部屋に呼ばれる前に作っておきました。ビルモント団長も食べてますよ」
パンケーキを食べた1人が聞いてきたので答えると、白騎士の団長も小さく頷く。
「元々はそこの2人が食べていたのだがな。その場に居合わせたため私も頂いたのです。ヴァシュリー様、召し上がってみたいのでしたらヒバリ殿に!私は持っておりません!」
途中から口調が変わったと思ったら、皇女様が団長をじーっと見ていた。
更に侍女2人が食べていたと聞いたら今度はその2人を睨む。
「ヒバリ様!パンケーキの作り方もお教え願えませんか!?」
「それよりもまず、ヴァシュリー様にもパンケーキを!」
「まだあるから大丈夫です。予備の皿はないので、行儀が悪いかもしれませんがそのままで食べて頂きますけど、いいですか?」
「ええ、構いませんわ!……本当に出来立てですのね。失礼して」
女性の甘い物への執念はすごい。3人が3人とも主からの怒りを避けようと伝言リレーのように俺のところまで話が流れてきたな。単に皿を用意してなかったから、欲しがったら後で渡せばいいかと思ったんだけど。第一、毒見もなく直接渡すのも本当はまずいんじゃないの?
「……まぁ、気にしてないからいいか」
ジャイアントビーの蜜とバターを挟んだパンケーキを小さな口でパクついてる皇女様は、小動物のようで和む光景だな。
おにぎりの方はビルモント団長がチュイルさんの事を話してるみたいだ。どうやったらこうなるのかという声も聞こえる。そこはチュイルさんに教えてあるので、そっちから聞いてほしいから聞こえなかったフリしよう。
「……あら、ごめんなさい。食べるのに夢中になってしまったわね。これもとても美味しかったわ。感謝します。
それで、ええと……そうそう!袋詰めの固有スキルの話でしたわね。この透き通った不思議な手触りの袋は見た事ありません。これがヒバリがスキルで作り出したのですわね?」
「はい、そうです」
「そして保温効果がある、と」
「ちょっと……いえ、保温効果じゃないですね。袋を作る時に条件を付けられるのですが、袋を閉じた時に時間経過を無くす事も出来ます。但し、生き物は時間経過の無い袋には入れられません」
「と、時の止まる袋……ですの!?」
バッとパンケーキの食べ終わった袋を掴み、まじまじと見ては弄りだす。
開閉権限は仲間内のみにしてるから、当然閉じる事は出来ないが。
「商人として乗り切ろうとしてる自分にはぴったりなスキルって事ですよ。食材を腐らせず、鮮度そのままに運べるんですからね。ありがたいスキルです」
「それはまた……物流を根本から覆しそうなスキルですわね」
「ですから、派手に使うつもりはありませんよ。他の商会から命を狙われたらいやですしね」
「ううむ……チュイル殿が推してきた理由にはこれがあったのですな」
「あ、チュイルさんには明かしてません。ゴルリ麦の調理法だけですよ」
唸っていたビルモント団長には誤解の無いようすぐに訂正させてもらった。元々軍備用として渡すつもりもなかったし、皇女様を信用したから明かしたわけで。
「このスキルの事はここだけで留めておきなさい。分かりましたね?」
「はっ!」
「それに俺の意思でこうして……いつでも消せるんですよ」
小さい袋を目の前で作り、それをテーブルに置いてから消す。これで手が触れていなくても消す事が出来ると証明して見せた。俺の意思一つでどうとでもなるぞ、とアピールしたわけだ。
しばらくは俺がその場で作った袋を周りの人達がいじっていた。開閉条件を設定してないから誰でも扱える袋にしておいたので、中にお茶を入れてみたりと試している。こぼして火傷しないようには声かけたほうがいいかな?でもトニアさんが付き添っているからきっと大丈夫だろう。
状況を見守りつつそんな事を考えていたら、
席に戻る時に沙里ちゃんが声を掛けてきた。
「ヒバリさんて、周りに人がいても余り緊張しないで喋りますよねぇ。わたしには無理です」
「そりゃ毎日朝礼で5〜60人の前で喋ってたんだし、この人数の前なら別に大丈夫だよ。慣れれば何とかなるって。
それでもこの世界の礼儀作法なんて知らないから、王様とか偉い人達の前じゃ怖いけどね。何がミスになるか分からないもんなぁ」
「わたしから見たら誰の前でも怖いですってば」
未だに袋をいじって遊んでいる皇女様達と使い方を説明する美李ちゃんとピーリィを眺め、まだ待たされそうなのでそのまま沙里ちゃんと話していた。
やがて鑑定珠を持った兵が入室し、早速皇女様の前に置く。
その準備してる間ぼーっとしていたら、隣にユウが近づいてきた。
「えーっとさ、その……初めてこの世界に来た時さ、ヒバリたち3人がひどい扱い受けるの見えてたんだ。だけど、ボクは何も出来なかった……違うなぁ、何もしなかった。ごめんなさい」
ユウはあの時の再現見せられて、改めてどういう状況だったか思い出して罪悪感が再起したそうだ。元々、俺達3人が役立たずだと言われて近づく人がいなくなった時、他の召喚された人達もほとんどが憐れんだ目をしていた。
蔑んだ目を向けたのはセージという奴とそこに群がっていた数人だった。その周りには同じ目をした貴族らしき人達も集まっていたのを覚えてる。
「突然呼び出されたらまず自分の身が心配なのは当然だよ。立場が逆だったら俺だって同じ事してたよ。うん、間違いないな」
「……うん、ありがと」
話している間に準備が終わった鑑定珠を3人が順番に触れて、嘘が無い事を証明してみせた。ちょっとほっとした。
「協力感謝しますわ。では、まだ時間もありますし難しい話はここまでにしましょう!貴方達も風魔法は止めて結構よ、ありがとう」
少し気圧が変わったような感覚を受け、どうやら風魔法は解除したようだ。それからまたお茶のお代わりや扉の外と中の見張りが交代したりと空気も緩くなった。
「……そう、分かりましたわ」
鑑定珠を片付ける時に1人の騎士が皇女様に報告をしていた。
そして姫様とトニアさんに顔を向けて頷き合う。
「今は安全になったようなので説明しますわね。実はヒバリに袋のスキルを作って頂いた際に、トニアから近くから人の気配がすると言われたの。鑑定珠を持って来た者に尋ねたら、ワタクシと面会したいと第5騎士団の者が1階に待機していたらしいわ。
しかもその者らは、広間の調度品を見るふりをして、ワタクシたちから一番近い場所から動かなかったそうです。恐らく盗聴系の魔法か魔道具を持っていたのでしょう。
ですので、当たり障りのない程度の情報以上の質問は留めておきましたの。そして話は終わったと言った途端、その者らは時間がかかりそうだから後日窺うと言って帰ったそうよ」
「滅茶苦茶分かりやすいですね……」
思わず口に出してしまった。たしか、あの能面みたいな無表情の騎士達が所属してる騎士団だったかな?やっぱりあれは要注意、か。
「ヒバリさん、今後の為に伝えておきますが、そもそもこの離れの建物にはヴァシュリー殿下と第2騎士団の関係者以外立ち入り制限をしているのです。もし関係の無い者が近づいた場合は、最大限警戒して下さい」
「……そう言う事ですか。分かりました。皆も気付いたら声かけてね!」
気を引き締めて頷き合っていると、
皇女様が不思議そうな顔をしていた。
「何故ヒバリを中心に声を掛けるのです?年齢と性別ですの?」
「いえ、ヒバリ様の単純な戦闘力で言えばこの中で最弱です。ですが、闇魔法と袋スキルは諜報と隠密に関してはこの上なく相性が良いのです」
姫様が言い出した内容は、皇女様が信用出来たら明かすと言っていた件。これを言ったのだからもう皇女様は大丈夫と判断したのだろうと、こちらのメンバー全員が認識を新たにした。
そして姫様はさらりと言ったが、俺が最弱だという事実は、やっぱり心のナイフとして痛かった。今日何度目かのナイフか分からない。つらい。
「あの、ヒバリ様……ええと、申し訳ありません」
「いえ、事実ですので……」
「そ、それで、ビルモントとヴァシュリーにれーだーまっぷを見せて差し上げて頂きたいのですが……」
レーダーマップと言われても意味が分からないだろうし、
落ち込んだ心を奮い立たせて説明をした。
俺の魔力許可印を付ける事、相手の魔力に直接触れて俺に登録させて貰う事、そして半透明の円形であるレーダーマップは俺が発動し続けている限り表示される事。
そして、この魔法は魔力反応があるものをマーカーとして表示するもので、知っている上に安全なものは青、敵視したものや魔物は赤、分からないもしくはヒバリが登録していないものはオレンジで表している事も説明し終えた。
いざ試そうと、まずはビルモント団長が名乗りを上げた。許可印を付ける時に痛みがあると思ったのか強張ったが、トンと指で触れただけで終わったと言われて、触れた場所を皆で色々見たり触ったりしていた。
「じゃあ、レーダーマップを使います……目の前に黒い円と青とオレンジのマーカーが見えますか?円の大きさや見える位置はある程度見る人が念じたままに変えられますよ。
でもこれは上から見たものになるので、ここみたいに2階だと1階の反応と重なっちゃうんですよね。一応近いほどマーカーが大きくなってますけど」
「……お、おぉ!これは……なるほど、ヒバリ殿を中心にした探知魔法と言うわけですか。この方向に感じるといった程度の探知魔法はあるが、視覚で表すものなど聞いたことが無い!これは迂闊に漏らすわけにはいかないでしょう」
次は皇女様だ。同じように許可印を付けると、すでに発動済みのレーダーマップが目の前に映りだした事に驚きの声を上げた。
「トニアはこれを見て気付いたのですね?これは分かりやすいですわ」
目の前に映るレーダーマップに触ろうと手を前に伸ばす姿はちょっと面白い。
皆も同じような事してたなぁ。いや、俺も初めて使った時はやったけどね。
「消費魔力を増やすと……このように探知範囲を広げられます。それと、自分のもう一つの固有スキルを覚えてますか?」
「ええ、鑑定でしたわね?でもこれは民の中でも多数持つものがいて、主に商人として成功すると言われてますわ」
「鑑定……まさかっ!?」
皇女様は分からなかったようだが、ビルモント団長はすぐに思い至ったみたいだ。
「はい。レーダーマップに映るマーカーを鑑定で調べる事が出来ます。だから、実は団長の名前も初めて会った時に鑑定で確認してレーダーマップに登録してました。すみません。
それに、自分に付けた魔草も、自分を鑑定して状態以上から更に詳しく鑑定したから分かったんです。この鑑定も普通のスキルじゃなくて固有スキルなんですよ」
「はぁ……何と言いますか、規格外にもほどがある。トニア殿がおっしゃった、戦闘以外でのヒバリ殿の有用性が高過ぎて我々の手に余る能力ですよ」
呆れた顔したビルモント団長に、何故か美李ちゃんとピーリィがドヤ顔で返していた。君達、色々説明してた時まったく聞いてなかったのにそこだけは反応するのね。
「じゃあそろそろ許可印を解除しますね」
「待って!これはそのままだと何か体に影響があるのかしら?」
「いえ。レーダーマップを発動してると自分が魔力を消費するだけで、発動しようがしまいが許可印があるってだけですね」
「強いて挙げるなら、ヒバリ様の能力の露呈の可能性が問題ですね。ヒバリ様、魔法の事を公にしてしまい、度重なる勝手、申し訳ありませんでした」
「姫様はヒバリ様を下に見られた事によほど我慢出来かねたご様子。ご理解下さいませ」
これである程度理解してくれたと思って許可印を消そうとしたら、皇女様から待ったがかかり、それに対して姫様からも待ったがかかり、さらにトニアさんが突っ込みを入れる、と言えばいいのかな?結局よく分からないぞ……
「つまり、ワタクシ共がこれを漏らさなければ構わないということですわね!ええ、約束しますわ!みなも分かりましたわね?」
「でしたら私もそのままにして頂きたい。この屋敷を警護するにあたって、他の者が近づいているかすぐに確認出来るのはありがたい。いかがだろう?」
言いふらさないならいいんじゃないかなぁ?許可印ならいつでも消せるし。
姫様の方を向くと、考えが読まれたらしく頷いてた。
「ここを出るまでの間でしたら私も賛成します」
「出るまでと言うか、感知範囲を出たらマップは見えなくなりますけどね」
俺を中心に発動するから当然の事なんだけど言っておかないとね。
「そろそろ戻りましょう。本当はサリス達と一緒に晩餐といきたい所ですが、まだ城内が整っておりませんの。そんな場所へサリスを連れて行く訳には参りません。ですが、近いうちに何とかしてみせますわ!」
「今日もこのまま侍女2人はこちらに置いていきますので、色々と申しつけて下さい。お前達も、任せたぞ」
ビルモント団長は侍女と見張りについていた騎士らに念を押して、皇女様と共にこの部屋から、そして離れから出て行った。ちらっと時計を見たら18時前。この世界ではすでに晩ご飯の時間は過ぎていた。
「晩ご飯かぁ……まだそんなにお腹空いてないけど、作ってるうちに空くかな?今日は何にするか希望ある?」
「もう袋詰めの話したんだから、ボクは寿司を推したいね!さっぱりした物が食べたい!」
ユウの声を皮切りに、皆があれやこれやと希望を言い始めた。侍女2人は聞いたことのあるものとない料理名が飛び交う会話に、どれを教えてもらうべきか慌ててメモを取っていた。
「さぁ皆さん、後は部屋に戻ってからにしましょう」
姫様の言葉で皆ぞろぞろと退出していく。
1つ進んだ達成感も少しあるけど、何よりここに味方になってくれそうな人がいた安心感がじわっと湧いてきた。まだ気を抜いてはいけないのだろうけど、今は美味しいご飯を作って食べてしっかり休んで、いつでも動けるようにしておこう!
そんなことを考えながら、
俺も今日の晩ご飯を決める会話の中に入っていった。
とうとうお盆戦線真っ只中が目の前に。
俺、このお盆を乗り切ったらすぐに1話だけでも投稿するんだ……