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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第10章 ノロワール帝国と皇族
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白騎士の憂鬱

今回は別視点のため短めです。


拙作をお読み頂けたら幸いです。

 私の名前はビルモント・クロッセン。

ここ、ノロワール帝国の第2騎士団の団長をしている。



 我がクロッセン家は子爵の位を授かっている。私は長男の為、いずれはクロッセン家を父から受け継ぐよう教育を受けてきた。代々騎士団員として国に仕えてきたクロッセン家で第2騎士団団長まで登りつめた者は私が初めての事で、父上もお喜びになられていた。


 主な任務は帝都及び城の巡回警備だ。これは第1騎士団以外は皆この任務を遂行するが、我が第2騎士団にはもう一つの特別な任務がある。

 それが、帝国唯一の皇女であるヴァシュリー・ノロワール様の親衛隊としての任務だ。これは他の任務よりも最優先される為、巡回も皇女のお忍び視察の護衛時に表向きは巡回任務として帝都に下りる事も多い。



 そんな折、ヴァシュリー様よりとある下命を拝する。


 ヴァシュリー様の幼馴染であらせられる、シルベスタ王国第3王女のノーザリス殿下が陛下へ謁見を願い出ていると知らせが入った。それに対してヴァシュリー様は城内の情報をかき集め、結果ノーザリス殿下に不利な状況になりかねないとご判断なされた。

 そこで我が第2騎士団の一部の者で早急に保護せよと命ぜられたのである。私と直属の部下2名、そしてヴァシュリー様の侍女から若い双子の2名が選ばれ、ヴァシュリー様の護衛は副団長を中心に編成しなおした。


 私も部下も剣と槍の武を修め、侍女2人も徒手空拳のかなりの使い手だ。盤石の布陣を組みいざお迎えに上がれば、そこには第5騎士団の者が対応していた。

 各騎士団の団長は白い鎧、副団長は銀の鎧に身を包む習わしがあり、私の鎧も白のそれだ。しかし、今ノーザリス殿下の前に立つ2人は鈍色の鎧。つまり、団長でも副団長でもない。


 そもそも、第5騎士団は城内ではなく城壁と外壁の巡回のはずだ。城内では第3以上の騎士団へ報告し対応を求める規則がある。我々5人が近づくも報告に来る様子がない。

 それどころか、仮にも他国の王女を通常の待合室へと案内し、城内へ2名が急ぎどこかへ走って行った。


「パルミエ、シャンティ。あの2人の行き先を頼む」


 侍女2人にあの者らの動向を探らせ、私達はノーザリス殿下の連れの者を遠目で確認する。どうやらほぼ女性のようだが、1人だけ男がいた。それに何故か子供も2人いる。どう見ても従者としては怪しい。

 そこで私は1度ヴァシュリー様の指示を仰ぎ、そこでその男を試すよう言い渡された。微量の魔草(魔力を秘めた草で、今回用いたのは欲望に素直になりやすくなる効果があるが中毒性はなく、薬として使用される事もある)で興奮させ、殿下に害があるようなら排除、無くとも最低でも男だけを隔離出来ればよい、と言うものだった。




 急ぎ城門前に戻り、ノーザリス殿下にお会いした。

幸い、先程の第5騎士団の者らより1歩早く間に合ったようだ。


 少し遅れて後から駆け付けた第5騎士団の者らの意見は取り合わず、

ノーザリス殿下の従者らと馬車の荷物と身体検査を済ませて城内へ先導する。


 従者とは思えない男への魔草の塗布も成功した。


 主導権を握る事に成功した私は、早速ヴァシュリー様に指示された通り通常公爵家らの御子息御令嬢をお預かりする離れに案内した。

 その際になお食い下がる第5騎士団の者は、扉の前より先に進まない事を条件にしばらくの間立つ事を許した。無論、私の部下2名も傍に立たせた。



 この時点ではまだ私はノーザリス殿下に名乗っていない。

ヴァシュリー様より許されてないからだ。


 もし私が名乗れば、情報を持つ者ならヴァシュリー様の親衛隊だと暴かれてしまう。ヴァシュリー様は今はそれを望んでおられない。

 ノーザリス殿下への不敬の念に駆られながら逃げるように退室してしまった事が余計に重くのしかかる。しかしこれも任務だ。




 ここでまたヴァシュリー様へ報告に向かう。


 少し前に城へ第1巡回騎士団団長のチュイル殿が報告に上がったらしい。ここでノーザリス殿下とその従者代わりの者らの人柄などに害がない事、食材の商いをやっていてゴルリ麦の調理法を習ったので謝礼をしたい事、ゴルリ麦を自身の騎士団の兵糧としたい事を告げたそうだ。

 その情報を回され確認したヴァシュリー様は、まだ男を信用出来ないから魔草の結果で見極めるので急ぎ確認せよ、と仰られた。


 そして戻ってからは、まず男の隔離と侍女の常駐を試みるも、ノーザリス殿下ににべもなく断れた。更にはチュイル殿より報告のあったゴルリ麦の軽食を振る舞われてしまった。これもその男が作ったらしい。



 再度ヴァシュリー様の元へ報告し、ノーザリス殿下から預かった書状を渡し、とんぼ返りで離れの扉の前に戻った。男につけた魔草の確認だ。


 ……が、ただ騒がしいだけで特にどうこう起こる気配はない。通常であればそろそろ息が荒くなる程度は身体に影響があるはずなのだが、どういうことだ?


 しらばらくして急に静かになった室内。

この時点で嫌な予感しかしない。



 室内では猫人族によって魔草の存在が露呈し、部屋の外で様子を窺っていた我らの存在も感知されていたようで、ノーザリス殿下の怒りの声に慌てて入室を求め謝罪した。

 幸いにもヒバリという男が私に怒りをぶつける事もなく、どうにか殿下にもお許し頂けた。そして、久方ぶりの光の適合者の白光を見る事が叶った。あれこそが殿下がご自身が本物の殿下である確かな証だ。


 いまだ殿下には冷ややかな視線を向けられるが、ひとまず侍女と部下が傍にいても良い返事は得られた。今はこれで十分だろう。

 私は第5騎士団の2人を殿下の護衛から排し、4人に殿下の護衛を任せてヴァシュリー様の元へ報告に向かった。




 そして翌日。


 ヴァシュリー様の顔色が優れない。



 先日殿下より託された書状をヴァシュリー様より皇帝陛下へお渡しした際に、大臣らと何やら揉めていたそうだ。ノーザリス殿下が本物かどうかという話ではなく、少し前から”殿下が自らシルベスタ王国を手中に収めようとしている”などという情報を得たと騒ぐ大臣のお二方だったが、ついにその証拠を掴んだと言うのだ。

 更に、闇の適合者と手を組み、独断で召喚の儀を行ったとの噂もあると、お二方は今すぐ殿下とその従者を捕らえて尋問及び王国への引き渡しをすべきだ、と朝から大臣数名が激しい論議を交わしていたそうだ。



「余り猶予はありませんわね……こうなっては、ワタクシ自らがサリス、いえ、ノーザリス殿下を囲ってしまった方が良さそうですわね……ビルモント、急ぎノーザリス殿下の元へ向かい、御身に危機が迫っている旨を伝え、ワタクシの私室へお連れなさい。但し、周りに感づかれないよう留意しなさい。それと、従者らの情報を少しでも聞き出せたか報告を忘れずになさい?」


「はっ!」


 私と共に侍女の1人も共に退室し、

隣の私室で迎い入れの準備を始めた。


 それを確認し、私は急ぐ素振りを見せないように静かに離れの建物を目指した。あくまで昨日と同じ、ただの訪問であるだけと落ち着いて歩く。





 ビルモントは今日も離れに向かって歩いていた。




 侍女の2人は上手く情報を聞き出しているだろうか?

扉前の部下も、何かこぼれ話を拾っていないだろうか?


 今日もヴァシュリー様に成果を急かされ、更に今回は別の問題も発生しているため、ビルモントは胃の痛い思いで離れに到着した。




 そこで見たのは……



 扉の前では部下2名がオニギリと呼ばれた軽食の他にも、数種類の肉料理が盛り付けられた皿を突いて頬張っている。

 室内を見れば、侍女2人が世話をするどころか餌付けされたようにただただ食べていた。茶のお代わりすら受けている。その姿はもう侍女ではない。ただの客である。




(……どうしてこうなった?)



 ビルモントは開けた扉の前で、胃どころか頭まで痛くなる思いでこの光景を呆然と眺めていた。


(たった2日……いや、1日半で何故こうなるのだ!?)



 開かれた扉の前では、溜息をつく白い鎧の騎士が立っていた。


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