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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第10章 ノロワール帝国と皇族
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試されたヒバリ

今回も拙作をお読み頂けたら幸いです。

「えーっと……なんかごめんなさい」


 真剣な話し合いになるはずが、どうにも俺がぶっ壊したようだから、まずは謝っておいた。本当はもうちょっと情報が欲しかったはずだよなぁ。

 緊張して城に来てみたらいい部屋に案内されて歓迎されたのかと緊張の糸が緩んじゃったのかもしれない。ちょっとよくないな。



「……?ヒバリさん、先程近くにいらした時に気になったのですが、何か香りを焚かれましたか?」


「え?何もしてないですけど……何か匂います?」


 トニアさんが近づいて俺の肩、首、背中とふんふん嗅いでいく。


「……ッ!腰、いえ背中辺りに妙な臭いがします。これは、確か毒ではないですが、軽く精神的な作用があったはずです」


 臭いなんてしないと思うんだけどなぁ。ピーリィと美李ちゃんも俺の背中にくっつくが、特にわからないらしい。あ、そっか。こういう時は鑑定スキルで状態を見ればいいのか。



 ……ん?


 状態:良好、高揚感(微)


 高揚感ってことは、気分が高ぶってるってことか?

普段こんなの見た事ないぞ。



「――だそうです。なんですかね、これ」


 って答えた瞬間、姫様がまた変な笑顔をし始めた!


「扉の外で聞いているのは分かっていますッ!

今すぐにこれを説明なさいッ!!!」


 姫様が叫んでから少し間を置いて扉が開けられた。

まぁ、レーダーマップで誰一人部屋の前から動いてないのは知ってたけど。


 白騎士が叱られた子供の用に精彩を欠いた仕草で部屋に入ってくる。

これ、自分が何かしたって言ってるようなものだよね?



「殿下、これはその者の素性がはっきりしなかった為にやむを得なくとった措置でして……」


「私は”恩人”だと申したはず。それに身元は私が保障します。理由は皇帝陛下にお会い出来た際に説明致します。分かりましたね?」


 白騎士以外の4人はそっと視線を逸らした。

まるで自分達は関係ないですよと言っているみたいだ。


「で、毒ではないと分かっていますが、きちんと理由を説明出来ますよね?

もしヒバリさんに何か罪を擦り付けて害しようなどとは、」


「い、いえ!決してそのような事は!ただ、殿下に卑しい目を向けるようであれば別室へ送る理由になると思いまして……その、男と同室はやはり外聞もよろしくありません。そこで身体検査の際に少々、その」


 慌てて手と首を横に振りながら懸命に喋りだした白騎士。ようするに興奮剤みたいな魔法薬アロマを付けられて、その後の行動を試されたってことか。


「あれほど同室を嫌ったのは、策を用いたが隔離出来ず、その後が怖くなって焦っていたわけですね。少々強引だったのが分かりました」


「申し訳御座いません……」


「これで最後です。次は、本当にないと心得なさい」


 そう言いながら俺に歩み寄って手をかざす。

淡い光を手元に発現させ、俺を包んだ。癒しの光だ。


「こういうのも治せるんですね。ありがとうございます」


「魔力を帯びた香草で起こしたものでしたから癒せますよ。

ある程度でしたら臭いも分解出来ます」


 穏やかな笑顔に戻った姫様にお礼を言う。

が、すぐに冷ややかな顔になって白騎士へと向く。


「用はそれだけです。下がりなさい」


「ハッ!失礼致しました!」


 慌てて退出しようとして、まだ侍女達が扉を開いてないためにたたらを踏んでいたが、開いた途端いそいそと廊下へと消えていった。


「わたくしどもは隣に、こちらの2名は扉の前の者と交代してここの警備に付きます。御用の際はいつでもお申し付けください」


 4人は白騎士を追いかける事無く、ひたすら丁寧にお辞儀をして静かに退出していった。やがてパタンと扉が閉じられる。あの無表情の2人の男騎士は、白騎士の後ろにいた2人が引き継いで扉の前から離れていったのを扉越しのレーダーマップで見ていた。




「なんだ、俺のテンションが高かったのって薬のせいだったのか……」


「皆緊張してたのにヒバリだけおかしかったもんね〜。納得だよ」


 ユウや他の皆にも俺が少しおかしいと感じていたのか。

何か言ってくれれば……って、少し程度じゃ分かるわけないか。


「トニアさんよくわかりましたねぇ」


「ベラが普段よりヒバリさんと距離を取っていたので何かおかしいな、と」


 あれ?そういえば、ベラが全然喋ってなかったな!

ベラが気まずそうにこちらを見て、


「変な香草つけてるから、ベラ、ちょっといやだった。でも、ヒバリが好きな匂いだったら、悪いと思って」


 俺の趣味の匂いだと思ってたのか……

狼人族のベラには猫人族のトニアさんよりきつかったのかも。


「えーっと、嫌な臭いだと思ったら遠慮しないで言ってくれると嬉しいよ。それに俺、食べ物以外に香水とか使わないから、これからはもしそんな臭いがしたら教えてくれると嬉しい」


「わかった。ちゃんと言う!」


 ふんすと聞こえそうなほど鼻息荒く返事してくれた。

まだ知り合って短いから、どうしても遠慮があったんだろうな。




 あの無表情な騎士2人が去り、今度こそ報告と書状を届けにこの場を離れた白騎士を確認できて、やっと一息つくことができた。変に高ぶっていたものが一気に醒めたせいか、気疲れのようなだるさがヒバリの体に広がる。


「ふぅ……」


 空いた椅子に腰かけさせてもらって息を吐く。


「ヒバリさん、申し訳ありません。これでもかなり優遇されているのは分かっていますが、まさかああいった手も使ってくるとは」


 斜め向かいに座る姫様が姿勢を正して頭を下げてきた。


 今いる部屋には長方形のテーブルが1つと、それを囲むように長辺にはギリギリ3人まで座れる長椅子が2つ、短辺に1人掛けの椅子が2つある。

 姫様は上座の1人掛けに、その傍らにはトニアさんが立っている。俺の向かいの長椅子にはユウとベラが。俺の座る長椅子には、姫様側に俺、真ん中に美李ちゃん、反対側に沙里ちゃんが座った。残る1人掛けは空いたままだ。何故なら、ピーリィは相変わらず俺の膝上を陣取ったからだ。


 トニアさんが入れてくれた紅茶を口にしていたら姫様が頭を下げてきたって訳だ。紅茶の入ったカップを気を付けながらピーリィに渡して、それをこくこく飲むピーリィ。俺のカップは一旦ソーサーに戻しておいた。



「いや、姫様のせいじゃないでしょ。それに、別に害のある毒を使われたってわけじゃないし、姫様の事を心配してくれてたってことですよね?」


「ええ。そういう意味では本当に待遇良く対応するつもりのようですね。

但し、全ての者とまではいかないでしょうけど」


「少なくともあの白騎士とその部下はある程度信用してよさげですよね」


「ここでキッチンが使えるようにしてあるのも、毒物などの混入を極力防ぐためのものでしょう。加工前の食材ですと、薬物の匂いは強く残りますので分かりやすいですね

 ただ、先程ヒバリさんに使われた魔草は納得いきませんが。あれは主に子作りの際に補助として用いられるものです。それをここで使ってくるとは露程も思いませんでした。正直失望しております。

 まぁ、ヒバリさんにはあまり効果が無かったようですが、通常の男性でしたらもう少し劣情を催す魔力を秘めた香草なのですよ?」


 ピーリィの紅茶に蜂蜜を入れに近づいたトニアさんも、この待遇にはある程度安堵しているみたいだ。俺もさっきの妙なテンションが消えたせいかちょっと脱力気味だ。


「いつものあれでしょ、魔力が高い分抵抗値も高いってやつじゃないですか?」


 てか、子作りに劣情効果って……

ピーリィと美李ちゃん以外に微妙な空気が……



 嬉しそうにスプーンでかき混ぜるピーリィの手つきが怪しくてちょっとハラハラしながら周りを見たら、俺以外は全員蜂蜜を入れていた。気まずい空気は甘いものを入れて飲み込んでしまおうって感じだ。

 ピーリィはまた入れて貰ってたけど、ちょっと多すぎだな。甘い物の摂り過ぎには気を付けないと。



「っと。話を戻して……とりあえず寝室も2つあるから、夜は皆はそっちで寝てもらえばいいとして、まだ夕方には早いし軽食食べたばかりだし、どうやって時間潰しますかねぇ」


 待遇は良くても結局は軟禁だ。そして、いつ皇帝に謁見出来るかも分からないし、それ以前にあらぬ疑いをかけられてるとも言っていた。これもあいつらの策略なんだろうなぁ。やっぱり先手打たれてたか。

 あれだけ寄り道させちゃったからって言うとまた姫様を凹ませるから言わないけど、やっぱり気になるのは仕方ない。



「待つしかありません。最低でも1週は大人しくしていましょう。あ、せっかくですから、料理の研究や畑などを進める良い機会ではないですか?最近まとまった時間がとれませんでしたからね、自由時間としましょう」


 そういやずっと馬車旅の途中で作業するばかりで、王都を出てからまともに試作とかしてないなぁ。思いついたらパパッとやってたのはあるけど、言われてみればそんな余裕もなかったからなぁ。


 隣で聞いてた沙里ちゃんと美李ちゃんも何をしようか考え始めたみたいだ。洋服やら収穫やら声が漏れている。固有スキルが便利なせいか、姉妹もそれに関する作業は率先してやってるよね。




「ねー、ヒバリはいっしょにねないの?」


「ん?」


 ピーリィが紅茶の飲み終わったカップを置いて、

こちらを見上げながら服を引っ張って聞いてくる。


「さっき、みんな”は”っていったよ?」


 ああ、さっき俺が言った事が気になったのか。それにしても、ちゃんと理解して聞いてくるまで成長したってのは感慨深いかも。


「えーっと、さっきの白い鎧の人が言ってたのは、男の俺が1人混ざるのは外聞……えっと、周りから見たらよくないからやめてほしいって言ってたんだよ。だから俺はこの居間で寝るけど、すぐ隣だし大丈夫だよ」


 それだけ理解力が成長したピーリィなら分かってくれると思って優しく説明したけど、結果はぷーっと頬を膨らませてお怒りになられてしまった。


「なんでだめなの!?いままで、ずーっといっしょだもん。じゃあピィリもここでねる!」


 うーん……あとはどう説明したらいいんだ?

ちらっと横の姫様に助けを求めるために目を向けてみた。


 分かってますとでも言いたげに頷き、


「ピーリィ、皆がそこの寝室で寝ようとするからおかしくなるのです。

いつもの居住袋の中でしたら一緒ですよね?」


「……あー!そっか!!!」


 ガバッと顔を上げて驚くピーリィ。


 いや、そうじゃなくて……


「ヒバリさん、音遮断の結界をお願いします。……コホン。少しでも安全策を考えるなら居住袋の中が一番です。今のヒバリさんでしたら居住袋を閉じてもれーだーまっぷで外の確認が出来ますよね?」


 言われるままに音遮断を発動して続きを促して出て来た話が真っ当な理由だった。素直に寝室で寝る方が何があるか分からない、か。


「見た限り凄くよさそうなベッドだったから、たまには皆そんな所で寝ればいいのに、って思ったんだけどなぁ」


「沙里さんの縫って下さった寝具もかなり質が良いですよ?私はあのワシツと言う部屋も気に入っています」


「だよねー。僕も靴が脱げる方が楽でいいや」


 ユウの意見にうんうんとベラも頷いていた。ベラは故郷の家でも室内は裸足だったそうだ。人族に捕まっていた時も裸足だったらしいが、ユウに助け出されて冒険者となった以降は寝る時以外脱げずに面倒だったが、居住袋で過ごすようになって快適だと喜んでいた。




 結局多数決で寝床は居住袋の中案が可決された。

そもそも、俺以外全員賛成だったしな!



「まぁその話は置いといて、」


「置いておくと言うより決定ですが」


 即行で突っ込むトニアさんも置いといて。


「さっきまでの話に戻りますが、この軟禁状態……待ち時間はどうしますかねぇ。

沙里ちゃんと美李ちゃんは裁縫や畑だっけ?」


「はい。せっかくだから今のうちに替えの服とか揃えたいですね。

まだユウさんやベラさんのは全然足りないですし」


「あたしは畑をもうちょっと広げたいかなぁ?何も作ってない場所あるし。あ、ヒバリお兄ちゃん、居住袋は日向に置いといて!あと、もっとお茶の木増やせるけどどうするー?」


「もう茶の木増やせるのか!いいね、増やしちゃおう。それと、暗くしておいた茶の木も収穫して加工しなきゃか……俺はあとなにしようかな」


 なんだ、考えてみると結構やることあるなぁ。



 ユウとベラは改めて採寸すると沙里ちゃんに言われて3人で居住袋の中へ入って行った。美李ちゃんもピーリィと2人で畑仕事に入って行く。


「私達はここに留まっておきますね。誰もいなくなってしまったら怪しまれてしまいますし、ここでゆっくりさせて頂きます」


「ヒバリさん、後でここで食事される分の食材をまとめ書きしておいて下さい。さすがに何もない所から次々食材を出されてはそれこそ怪しまれてしまいます。仕舞っておく分に関しては頼めませんので、水増しはしないようお願い致します」



 あー……いつも通り拡張袋から取り出して好き勝手に食べるって訳にはいかないか。魔道具の冷蔵庫も置いてあるし、取り敢えず数日分で贅沢し過ぎない程度をリストアップしときますかね。




 残った紅茶を飲み干し、席を立つ。カップの片付けはトニアさんがしてくれると言うのでお願いして、美李ちゃんとピーリィに呼ばれた畑へ向かう為に居住袋に向かう。


「えーっと、挽肉と豆腐の加工と、醤油と味噌の仕込みと、茶葉の加工して……塩はまだいいとして、昆布を粉にしてだしの素みたいなのも作りたいな。ああ、あととろろ昆布もいけるか?」


 考え出すときりがないけど、せっかく出来た時間を有効に使うとしますかね。勿論何があるか分からないから油断も出来ない状況だけど、それでもやれる事はやっておこう!






 さぁて。


 なんだかやっとエンジンがかかってきた気がするぞ。


 久々にヒバリ食品加工所の稼働としますか!



 あ、今はラーク商会食品加工部門って言った方がいいかな?




 なんて事を考えながら、ヒバリは居住袋の中に入って行った。



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