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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第10章 ノロワール帝国と皇族
118/156

帝都入りと登城と

急ぎで仕上げたのであとで修正するかもしれません。


今回も拙作をお読み頂けたら幸いです。

 宿に泊まった翌朝、陽も昇らぬうちに出発した。


 帝都手前まではトニアさんが御者をすると言うので、

俺は今のうちに済ませたい事を思い浮かべながら袋の補充を作り出す。




「あ、そうか。ルースさんのリクエスト、まだだったな」


 ルースさんへの寿司作りをすっかり忘れていたため、慌てて作ろうとしたけど、別に昼ご飯からと約束はしてないから晩ご飯でもいいんじゃ?と皆に言われてちょっと気持ちを落ち着けた。けど、


「まぁ、それでも作りたいと思ったんだから作っちゃえ!」


 どうせこのあと御者を交代する予定なんだから、それまでに作っておいた方が俺がすっきりするし。皆にもそう言って改めて居住袋へ入る。沙里ちゃんも手伝ってくれるようなのですぐ済んじゃうし。




 作ると決めれば行動は早い。

単に作り慣れてきたって話でもあるが。


 俺が握り各種寿司・いくらの漬け・ちらし・海苔巻き・ガリ、沙里ちゃんが炙りとあら汁の担当だ。寿司酢は簡単だし先に作ろうとしたら、美李ちゃんとピーリィも手伝ってくれるらしい。

 自身の翼で扇ぐピーリィと寿司酢を加えながらご飯を混ぜる美李ちゃん。こちらも覚えてから何回かやってるから手慣れてきたみたいだ。



 4人で一気に済ませたため1時間で出来てしまった。

調子よすぎて漬けネタの予備やだし巻き卵も入れてやったぜ!


 あとは4人でルースさん宛にメッセージを書いて共有袋へ入れておく。

いつも通り皿ごとに別袋に入れて取り出しやすくしておいた。


「よろこんでくれるかなー?」「かなー?」


「大丈夫。ルースさんが食べたがってたんだから、喜ぶに決まってるさ!」


 ルースさんへの共有袋へ入れて閉じると、美李ちゃんとピーリィがじーっとそれを見ていた。さすがに送ってすぐ食べるとは思えないから、感想は後でのお楽しみってことで。


 通話袋もだけど、何か合図が送れたらいいのになぁ。

この課題も何とかクリアしなきゃ!




 早く終わり過ぎたために他の下ごしらえの在庫を作り始めたら、皆もそれを手伝ってくれていた。そこで、沙里ちゃんが日付印を押してくれている時、ふと1つの刻印が目に入った。



 右上に嘴を伸ばして翼を広げる鳥の形をした刻印だ。


 随分前に王都でランブさんに作ってもらったものだ。

何となくブランドっぽいイメージで作ってもらった鳥の刻印。


「これ、ラーク商会の刻印として使えるか」


 まさかこれがここで役に立つ事になるとは……

偶然とはいえ、分からないもんだなぁ。



「えっと、わたしがあのロゴマークを描いた時もこの刻印を元にイメージして描きましたよ?てっきりそういう意味で指示してるんだろうなって思ってましたけど」


 最後は尻つぼみ的に声が小さくなっていく沙里ちゃん。



 えっ!?まじかー……だから構図が同じだったのか……


 袋の食材販売やめて久しいから、刻印があるって事自体忘れてただなんて言えない……いや、今の話からばれてるか。はい、忘れてました。


「ほ、ほら!刻印も無駄にならなくてよかったですよ!」


 ありがとう。物忘れの多いおっさんでごめん……




 沙里ちゃんに慰められつつ全て片付けを終えてからトニアさんの元へ向かった。ここからは御者の交代だ。そして、ここで遂に姫様とトニアさんのカモフラージュ魔法を完全解除する。

 帝都に入る前に済ませないと堂々と帝城へアポを取れないし、そもそも姫様が来たと証明されないと意味がない。



 ただ、俺達の方はどうするかが問題だった。


「召喚勇者だと知られると結果がまったく想像出来ません。元々召喚の儀式に反対であった帝国ですから、保護されるのか恐れて監禁するのか……ただ、いきなり殺される事はありません。これは以前の召喚勇者が”もし自分と同じようにこの世界へ来てしまった者を保護して欲しい。但し、犯罪に手を染めるような者は除外する”と伝え残しているのです」


 どうなさるかは3人に任せます。と、姫様は話を締めくくった。



「さて、どうしたものかねぇ……」


 ヒバリは馬車を走らせながら御者台で呟く。


「殺されるようなことにならないなら、嘘つくよりいいんじゃないかなって思いますけど、それは”約束が守られる前提”ですもんねぇ」


 沙里ちゃんが幌から顔を出して言う。


「あと2時間だよね?どうしよっか」


 俺の膝上に座る美李ちゃんも理解しているのか悩んでいる。俺の左隣にはピーリィが座っているが、寄りかかったままうとうとしていた。

 ピーリィとトニアさんに関してはすでにカモフラージュを解いてるからなぁ。いや、正確にはトニアさんの名前と髪色はまだだったっけ。



 王国内では無能に始まりお尋ね者扱いされてきた俺達だし、本当に帝都が安全なのかと言われれば、分からないとしか答えられない。

 特に黒髪は珍しいからすごく目立つって前置きされれば、解除を躊躇うのも当然じゃないかな?実際、越境時に揉め事があったからあの商人は捕縛されたけど、何もなかったら普通に帝国領内で動いていたんだろうし。


「俺としては髪色だけがネックなんだよなぁ。いや、そもそも俺達は髪色しかカモフラージュしてなかったか。うーん……召喚勇者の血縁者の髪色だから目立つ、かぁ」


「そんなに不安なら髪色だけなんだしこのままでいいじゃん!別にそれ以外何も変えてないんだから、染めたって思えば一緒だって!」


 沙里ちゃんの横からユウが顔を出して言った。


 ついでにベラは帝国領での獣人の扱いが酷くないと安心したのか、もう解除して構わないと言うのでしておいた。ユウの意見にそれもそうかと思えたので、結局は日本人組4人は髪色変えたままで行く事になった。




 それから馬車を走らせて、遠くに見えていた城壁が徐々に近づく。結構前から見えていたが、やがて目の前にまで迫る頃には周りの馬車の数もかなり多くなり、必然と馬車の速度も落としている。


「さすが帝都、外壁もでかいなぁ」


 検問に並ぶ列の中で馬車が止まったので、ゆっくりと目の前の外壁を見上げる。高さにして10mどころではない。例えるなら、大型ショッピングモールの建物が横にずーっと続いている感じだ。外壁の上に立つ見回りの兵の顔も良く見えない。


 外壁と呼んだのも、ここが一番外側の壁である名称で、ここの門を潜れば商業区や一般居住区が広がり、その先の中心部へ進むと外壁ほど高くはない内壁がある。ここを潜れば特権階級、所謂貴族などの居住区とそのご用達の商業区となる。それ故、貴族区と呼ばれている。

 さらに奥へ進めば小高い丘のような坂を上り城壁に辿り着く。帝国の城は遠くからも見える丘の上なので分かりやすい。そして城は帝都の一番南にそびえ立つ。その裏側は崖であり海だ。砂浜も船着き場の様な地形もない所なので、空を飛ぶ魔法なり魔道具でも開発されない限りこちら側からの侵略はない。



 帝都の一番南の中心が城と城壁、そしてそこから扇状に広がる内壁、その内壁から若干まとまりがないような入り組んだ道が多い一般の区画と、それを囲むような巨大な外壁には東・北・西の門。


 これがノロワール帝国の帝都パーセルトである。



 なお、一般の区画の並びが乱雑なのは、帝国が発展するたびに以前は外壁だった内壁の周りに増えてしまったためだ。しかし外壁なしでは危険だと、かなり広い土地を先に新たな外壁で囲ってしまい、これで帝国民も安全に暮らせると建設が終わったのが50年前。今ではその土地もすべて建物で埋まってしまったのだ。



 以上、トニアさんからの説明でした。




「だから帝都の近くに村や町が宿場として多くあるんですか」


 いまだ西門の順番待ちで少しずつしか動かせない馬車。

4列も並べるのだから大分マシだがまだ20台は先だろう。


 大きな門の左右に2列ずつ並び、道の中心は開けており、時折豪華な馬車がその中心の道を走る。きっと貴族ら特権階級のために開けているようだ。


「少しでも帝都に近ければそれだけで商機がありますから」




 少しだけ時間を戻すが、俺達の馬車の周りに2人の騎士はいない。


 俺達は一般の列に並んでいるが、すでにチュイルさんとスナフさんとは別れている。巡回騎士が一緒に並ぶのはおかしいし、何より俺達は目立っての都入りは避けたい。

 2人は急ぎなら道の中央を走り城へ急ぐべきだ!と意見していたが、いまだどこに敵が潜んでいるか分からない状況では城内へ入るまで気を抜くのは危険すぎる、と姫様に言われて渋々引き下がって行った。


「我らはしばらく帝都に留まりますので、何時でも騎士団内巡回部隊へお声掛けを下されば駆けつけますぞ!」



 そうしてやっと2人は先に帝都へと向かってくれた。

俺達はあくまでもラーク商会として検問を受けるためだ。




 トニアさんからの説明と姫様のフォローを聞きながら帝都の話をしていたら、いつの間にかすでに外門前で俺達の番が近づいていた。慌てて姫様とトニアさんを幌の中から居住袋へ避難させた。堂々と名乗り出るのは貴族区からの予定だ。帝都は広いから一般区ではまだ早すぎる。



「よし次!」


 身分証チェックを担当する男性衛兵が大きな声で叫ぶ。

これだけ毎回叫ぶだけでも喉を痛めないか心配をしてしまうほどだ。


「よろしくお願いします。新興したてのラーク商会代表のヒバリです。こちらが冒険者ギルドと商人ギルドの身分証になります。それと同乗者5名の身分証です」


 まず自分の身分証、そして仲間の身分証を順に渡す。別の衛兵が馬車の後ろに回り幌の中を見て、荷物の確認を始めた。前の衛兵も順に身分証と本人を照らし合わせ、簡易鑑定珠にて真偽を確かめて頷く。


「よし、間違いはないな。食材を扱う商会か……帝都で一旗揚げるには苦労も多いだろう。だが、まだまだ狙いどころもある。励めよ!」


「ありがとうございます。この看板が帝都でも広まるよう努力します」


 ぶっきらぼうな男性かと思ったが、まさかエールを送ってもらえるとは思わず、気付けば背筋を伸ばして返事をしていた。




 こうして無事帝都入りをして、大通りを馬車で進む。脇道に入らなければこのまま真っ直ぐ東に進めば、やがて北と東門からの道と交わって、そこを南に進むと貴族らの区画への門へ着くそうだ。

 大通り沿いは石造りの2階建てがびっしりと建ち並び、たまに馬車でも入れる路地がいくつも見える。今回は急ぎ城へ向かうためにすべて素通りだ。西区は商業区でもあるので、ちょっと曲がれば市場や鍛冶屋へ行けるそうだが、今日の所は諦めよう。



 何故なら、居住袋から出て来た姫様とトニアさんの雰囲気が変わっていた。いつのも親しみのあるものから、この世界に召喚されて初めて会った日のような、張り詰めたものがある。



 ああ、やっぱりこの人は姫なんだなぁ。巻き込まれた俺達の都合に合わせて色々行ったけど、本当は早くここに来たかったんだよね?

 実の姉が暴走して、兄と両親が抵抗中って……改めて考えれば、そりゃ心配でしょうがないだろうし。せめてここからは真っ直ぐ目的を果たせるように協力しなくちゃ。




 2人の雰囲気に引っ張られて逸る気持ちをを抑えつつ馬車を走らせる。大通りと言っても道は渋滞に近くスピードは出せない。いや、元々街中ではそんなにスピードを出していいわけじゃないので、これが普通なのだろう。


「あー、道はここを通るしかないのかなぁ?」


 引っ張りはしないが手綱を握る手に力が入る。


「馬が混乱しますからその様に扱うのはやめたほうがよろしいです。それと、ここまで来たら焦っても仕方ありません。その原因となる私達が言うのも申し訳ありません」


 幌から顔を出す姫様とトニアさん。

他のメンバーも少し不安げにこちらを見ていた。


「すみません、もうすぐだと思うとどにも……えーっと、誰か飲み物もらえるかな?少し落ち着けたいから冷たいと助かるよ」


 冷たい果実水をもらってゆっくりと飲む。


 今御者台には俺1人だ。ラーク商会としてなら誰か隣にいてもいいが、ここからは従者っぽくいこうと言って男の俺1人が座っている。ピーリィも座りたがったが、今は大事な時だと理解してくれて渋々幌の中にいる。それでも一番前でチラチラこちらを見ていた。


「もうちょっとだからね」


「うん……」




 やがて貴族区へと到着し、まずはトニアさんと俺が従者として衛兵に取り次ぎをお願いする。さすがに信用出来ないと門前払いを受けそうな所で姫様が出てきて、簡易鑑定珠を持ってくるよう言い渡す。


 そこまで言われれば衛兵も焦る。そして何より、以前に帝都を訪れた事のあるノーザリス姫を見た事のある者が本物だと騒ぎ出した。

 こうなれば後は一応念のためと姫様、そして俺達全員も鑑定珠に触れて身分を明らかにしておき、まずは城へ使いが走らされた。



 衛兵が来客の待合室へと誘うが、姫様は自身の馬車でいいと断る。

そして待つ事1時間弱……ついに、登城が認められたと報告があった。




 使いが戻ってから10分後、白い鎧を纏った騎士とその部下数名が騎乗して現れた。そして俺達の馬車を先導してそのまま城へと進む。

 正直緊張で貴族区は豪華そうだな程度しか記憶にない。ただ、前の騎士と速度を合わせて馬車を走らせ、前後左右に寄り添う騎士達にぶつからないように気遣うので手一杯だった。


 到着した城門では何も調べずに、ただ門の衛兵らが敬礼して見送るのみ。先頭の騎士が軽く頷いただけだ。そして途中で右へと曲がってしばらくついて行くと、馬車を止める場所を指定された。馬車を外して固定し馬を繋ぐ。馬の世話は騎士らがやってくれるらしい。


 俺達は必要な荷物は鞄に仕舞って、すぐには腐らないような食材は馬車の中に出したままにした。一応商会として通って来た身で何も荷物がないのはおかしいからだ。

 居住袋は俺の鞄の中だ。風呂敷っぽく食材をくるんで一緒に入れてある。武器など装備類は馬車に置いておくよう言われたので、大人しく従う。ただ、ローブは服扱いなので大丈夫だった。



 ……実際は色んなポケットや鞄に武器とか色々入ってるんだけど、これってばれたらやばいよなぁ。ああ、悪い事してるみたいですっごく緊張してきた!


 


 隊長格っぽい白鎧の騎士に案内されて、離れの様な建物の2階の部屋に辿り着く。二重になった扉の先には、ここで生活が出来るんじゃないかというほど色々充実していた。暖炉に窓の先のテラス、開けられた扉の奥にはキッチンの様なものも見える。


 これ、ここで生活出来るんじゃないか?

と言うほど充実した設備があった。



「へぇ〜待合室もすごい豪華ですね。あ、すみません田舎者なんで」


 この中で真っ先に部屋の中を見て回ろうとした気恥ずかしさで思わず謝ってしまった……他の皆はまだ入ってすぐの所でキョロキョロしている。


 部屋に飛び込んだのは俺だけか!

皆はこの部屋見てテンション上がらないのかなぁ?






 などと思っていたのも束の間、白鎧の騎士が口を開く。



「申し訳ないが、しばらくここに留まって頂く。

貴公らの目的がつまびらかになるまで部屋を出る事は許されないと心得よ!」


 ……えっ?


「貴殿らにはシルベスタ王国転覆を目論む一派との疑いが掛けられており、その調査・審議が済むまでは大人しくして、下さると……いえ、大人しくしていることだッ!」


 苦し気に言い放つ騎士と、それに対して無表情の部下達。

そして、静かに扉が閉じられガチャンと施錠される音がした。




「……何やら、色々と事情があるようですね」


「案内されている時にすでに方向が怪しかったのである程度読めていましたが、まさか軟禁……いえ、ここは離れでしょうから監禁と変わりませんね。とは言え、牢に入れられるよりは遥かに良い待遇でしょう」



 あまりにも突然の出来事に言葉を失ってしまった俺達……いや、正確には2人以外。その焦った様子もなく会話する姫様とトニアさんを見てやっと頭が動き出した。




「つまり、俺達は帝国側に敵として見られてるって事ですか!?」



 あーもう、意味分からん!


 誰か詳しく説明してくれッ!!!





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