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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第10章 ノロワール帝国と皇族
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漁業町カロナードへの寄り道

「ほう……これがラーク商会の看板ですか」


「その、何と言いましょうか、鳥、でしょうか?」



 翌朝のご飯を食べた後に、初めてラーク商会のシンボルマークを見たチュイルさんとスナフさんが、どう持ち上げたらいいのか言葉を探していた。


「これは俺の故郷の鳥で、それをわざと丸っこくしたんですよ。うちの商会は食べ物を扱う庶民派の予定です。だから、貴族みたいな立派な飾り絵じゃなくていいんです。むしろ、子供たちに親しみを持ってもらいたい意味がありますからこうしたんですよ」



「お、おお!なるほどなるほど。子供らに覚えのいいようにとは、実に斬新ですな!」


「こういう絵柄は見た事がないため、確かに覚えがよさそうですね」


 シンボルマークのコンセプトを伝えたら、やっとどうやって褒めればいいか言葉が出てきてほっとしたように2人が言う。



「これはねー、ヒバリなの!ピィリとおなじとりなの!」


 褒められて機嫌を良くしたピーリィがドヤ顔で説明する。

あくまでその鳥の名前が、だからね?


「さぁて。あまり時間もないですし、そろそろ出発しましょう!」




 とにかく、すぐ先に見える町の門へと馬車を走らせる。今日の御者台はトニアさんだ。俺は商会代表として接するので、さすがに御者をやるわけにはいかないのだ。


 夕べ門番に伝えた通りに早朝に訪れて、軽く検問を受けてすぐに入れてもらった。相手もこちらが商売を持ちかけると知ったためかあまり時間をかけずに通してくれた。

 そうじゃないと漁師はすぐに全員出払ってしまう。帰ってくるのは昼前で、それまでに出来る限り代表と交渉を進めて、戻ってきた漁師らにも伝える。

 その漁師らが戻って来た時に初顔合わせをしていたら時間がかかるので、出発前に何とか滑り込んでスムーズに話を進めたい、と門番を通じて話をしておいたというわけだ。




 漁業町カロナード。


 海辺の中でも一番大きい町だ。この町は近隣の村のまとめ役でもある。町といっても少し前まで村だったそうだ。しかし、今の町長がまとめ役として長となったおかげで町として認められた。

 庁舎もその時に新しく建てられ、今までは浜辺沿いに多かった家はそのままで、政としての機能は新しく建てられた物を中心に組み直された。なので、海沿いは木造、庁舎中心は石造と分かりやすい。



 俺達はすぐに町長のいる庁舎に案内され、

これまたすぐに町長への面会が叶った。


「初めまして。私はこのカロナードの町長を務めているコレードといいます。なんでも巡回騎士様と商人ギルドの肝いりの商談がおありとか。この町だけでなく複数の村も漁に力を入れておりますので是非お話を伺いたい!」


 巡回騎士達に負けないほどの体格の良い中年男性。肌も日焼けで濃く焼けていかにも体育会系な野太い声とぴったりだ。つまり、ちょっと怖い……


 まずは椅子に案内され、町長の後ろに秘書だろう人族の女性が立つ。こちらは町長の正面に俺、隣に姫様とピーリィ(何故か座ると言って聞かなかった)が、後ろにはトニアさんとチュイルさんとスナフさんが並び立つ。

 沙里ちゃんとユウとベラはちょっと離れたテーブルでゆっくり座ってお茶を飲んでいた。話が聞こえる距離だし十分だろう。



 以前にも触れた事があるが、このボートフォート大陸は北側の海は遠浅で大型の海の魔物は少なく漁も盛んだ。しかし、南側は砂地も浅瀬も少なく、少しでも沖に出れば海中からどんな魔物が襲ってくるか分かったものではない。よって、どうしても近場か岩場での漁が中心となってしまう。

 漁も投網か槍、もしくは釣り(蜘蛛系の魔物の糸を使うらしい)がいい所で、あとは岩場の貝を採取するくらいだ。よく言えば大型の船は用意せずに済み、悪く言えばその程度の漁獲高しか望めない。


「例え帝都からも近く陸に上がるような魔物が現れてもすぐに対処して頂けると言っても、ここではせっかくある海からの収益が少ない。我々……近隣浜辺の町村の事ですが、どうにかならんかと歯痒い思いをしておったのです。


 ところが!早馬からの知らせによれば、この海辺での新たな食材を求める声が商人ギルドから上がったと言うではないですか!更に、そちらにおられる巡回騎士様からも同じ内容を告げられ、いよいよ現実味を帯びたおかげで昨夜は寝付けぬほどでしたよ!」


 がっはっは!と大きな口を開けて笑う町長。


 今はきちんと綺麗な姿勢で立っているが、

その笑い方で首から上だけががさつって器用な事してるな……



「えーっと、失礼でなければ、商会と言っても立ち上げたばかりなのでもう少し砕けた話し方にしてもらえるとこちらも気が楽になります。自分はこのラーク商会の代表でヒバリと申します」


「お?おお!よろしいのであれば、こちらも……おう、よろしく頼む!」


 ちらっと秘書さんの方を振り返って、軽く頷いたのを確認してからほっとしたように町長が少し肩の力を抜いてくれたようだ。まぁ俺の方はある程度は癖みたいなものだから気にしないでもらった。



「さっそくですが、俺達が商人ギルドに持ち掛けた海産物は見ましたか?」


「いや、まだだ。ただ、草であるとは聞いている」


「じゃあ実物をここに出しますね」


 了承をもらってから鞄の中の昆布、せっかくなのでそれ以外の海藻や貝、そしてウニを出してみる。魚と違って同じものがありそうなヤツだけ優先してみた。


 ウニを出した時は少し引かれたけど。


「これが商人ギルドに持ち掛けた品です。特にこの昆布ですね。これを乾燥させて、だしと呼ばれる旨味のあるスープが作れます」


 町長は、ウニ以外は臆することなくじっくりと触って調べる。


「どの草も海の中で見た事がある……しかし、硬いだけであまりうまいとは思わなかったがなぁ。ただ、食べる習慣のある村もある。ただこのトゲのは……何故食べようと思ったのか聞きたいほどだ。毒はないのか?」


 やっと最後にウニに触る。


「まだ漁が終わるまで時間あるんですよね?」


「うむ。あと2時間……いや、3時間後の昼までは漁をする。そこで皆に浜辺に残ってもらうよう通達はしてあるぞ。近くの村からも村長と漁師代表もその頃集まるよう声を掛けてあるので安心してほしい!」


 ああ、この浜辺だけじゃないのか。これは相当入れ込んでくれてるって分かるなぁ。海の魔物の件もあるし、危ない事はしないようにしっかり伝えておかないと!


「あ、だったら昼ご飯とまではいきませんがを浜辺でこの食材の試食会をしてもいいですか?どうやって作るか、味がどうなのかが分かる方が納得するでしょ?」


「そいつぁいい!どっちが強いかも殴り合えば分かる。食材ならそれを食えば分かる……実に分かりやすい!ただ、50や60人では済まないが用意出来るのか?」


 資金も道具も食材も人手も。

言ってはいないが、暗にそう伝えているのは分かる。


「そこはうちのラーク商会に任せてください。ああ、出来れば納得がいったら軽くでいいので漁に出させてください。どれが欲しい食材か実際に漁場で説明します」


「色々美味いと分かれば、うちの連中はいい働きをするぞ!その時はこちらも任せてくれ!ああ、出来れば……その、先に自分達が食べてみたいのだが」


「ああはい。じゃあ一緒に浜辺に行って、出来次第先に食べてみてください」


 尻つぼみで声も体も小さくなる町長。二つ返事ですぐに姿勢を戻して獰猛な笑顔を向けてくる。さっそく場所移動しようと全員立ち上がった所で、


「あーっと!我らも護衛として付き添うので、勿論、その……」


 すぐ後ろからチュイルさんが言う。


「勿論全員分用意しますって。安心してください」


「ですなぁ!ですよなぁ!」


 そんな巡回騎士様の反応が面白かったのか、町長どころかずっと澄ました顔を崩さなかった秘書さんが後ろを向いて肩を震わせていた。おかげで更に場の空気が軽くなったからいいけどね!




 お恥ずかしいと頭を掻くチュイルさんを先頭に庁舎を後にして、町長が乗った馬の後を馬車でついて行く形で出発した。町長は馬車だと準備も速度も自由度も面倒だからいつもこのスタイルだそうだ。

 漁師として育ち、気付けば親方、さらに気付けば町長にと担がれてきたので、いくら礼儀作法を詰め込まれてもどこかで自由に今まで通りでいたいとこうして単身で動き回るらしい。


 うちの馬車に同乗した秘書さんが愚痴をこぼしていた。


「あ、別に町長に内密にしなくて結構ですよ?いつも直接同じ事を言わせて頂いてますのでご安心を」


 ……えっと、ご苦労様です。




 浜辺での準備は素早かった。


 元々俺達は調理するテーブルを用意してる間に町長が近所に声を掛けてテーブルを出し合って適当に並べてもらったのだ。あとはスープを入れる皿とスプーンもお願い出来たおかげで、俺達は自分達の所だけセッティングするだけだった。


 調理の方も俺と沙里ちゃんを中心に、味噌汁は大きな寸胴で、新たにご飯を炊いている。ウニの方は美李ちゃんの消毒魔法をかけながら取り出した物を皿に並べる。

 後はついでに刺身の漬けやカルパッチョ、海藻サラダと貝のバター焼きや酒蒸しを作っていく。いくらと川海苔はちょっとこの辺りで取れないのでやめておいた。




 やがて匂いに釣られたように、道や家からは近所の人やおそらく近隣の村から呼ばれた人々が、海からはふんどし姿の漁師達が小舟や岩場から続々と集まってくる。



「……あれ?なんか、人数多くないですか!?」


 聞いていた倍はいるよね?100人超えてるんじゃ!?


「ん……?お、おお!どうやら住民らも気になって集まってしまったようだ!

その、出来れば皆にも振る舞ってやってもらえると……」


 すでに自分は食べ終わった姿をじーっと見られていたせいで居心地が悪い状況に気付いた町長が慌てて懇願してくる。


「はぁ。追加で作りますよ。その代わり、味に満足したなら絶対に説得してみせてくださいね?」


「おお!これだけの美味さが自分達の手で取れるのだ、そこは任せてくれ!これは誰もが喜ぶ味だ。乾燥加工と消毒がちと問題だが、これも自分が解決するよう商人ギルドと相談するから安心して欲しい!」




 そこからは久々の調理場戦場だった。



 初めは食材の説明をしてから試食会をするって話を町長が叫ぶも、「自分だけ先に食べてずるい!」と大ブーイング。別に町長が嫌われているというわけではなく、親しみやすいのだろうと窺える。


「分かった!まずはこちらのラーク商会の方々に準備をして頂いている試食会から行う!ああ、漁師に限らず振る舞ってくださるそうだから、必ず礼を言うのだぞ!では、列を作って順に受け取ってくれ!」



 こうして喧嘩もなく即座に列を作って順にカルパッチョ・刺身の漬け・ウニの醤油かけ・ご飯のワンプレートと味噌汁を順に受け取って行く。腹一杯食べられる量ではないが、それでも1食分にはなるだろう。


 やがて残り20人くらいになり、ワンプレートの準備も終わってすでに味噌汁以外は片付け始めている。町の人々は各々受け取ったらすぐに食べているので、食べ終わった者が皿や味噌汁を入れていたカップを洗ったりどこの家の食器か分けるのを手伝っている。

 俺達は交代で食べていたので、味噌汁も注ぎ終わればあとはテーブルを含めて全部片付けるだけだ。そこは申し訳ないが皆にお願いしておいた。




「さて、そろそろいいですかね?」


「そうですな。皆!今朝話した通りの食材が今の飯だ!味は納得したか?」


 町長が立ち上がって叫ぶと、おおー!と野太い声が上がる。


「これからはこの草も獲物になる。それと、商人ギルドと組んで乾燥の加工やウニと呼ばれるあのトゲのも取って加工する!これからは忙しくなるぞ。異議あるものは今のうちに言って欲しい!」


 1人の漁師が手を上げて立つ。


「草を採るつっても、魔物が現れたらどうすんだ?」


「それは冒険者ギルドとも相談する手はずになっている。だが、草を採るのは岩場の近くだけだ。正直今までの漁からそう変わらないぞ?それなら今まで通り俺達だけでも出来ると思っている!ただ、安全策として交代で冒険者らに常駐もしくは討伐を依頼するつもりだ」


「わかった!それなら、俺も賛成だ!」


 手を上げた漁師が納得したようで座る。


 近くでは「漁と変わらない場所なら」と口々に安堵の声が聞こえた。

もっと深い場所に連れていかれると思っていたのだろう。




 その後は反対意見も無く、実際にどれを採ればいいのか代表者と海に出たり、陸では昆布の日干しを沙里ちゃん達が教えていた。乾燥の魔法は流石に誰も使える人がいない。でも日干しで十分なのだから、洗濯物みたいにやれば何も問題ない。

 生の魚介類だけは消毒魔法が必要だった。でもこちらは水の適合者であればほとんどの者が使えるとの話なので、どうにか各町村で1人以上は確保できると安堵していた。


 主婦たちにだしの取り方と刺身やカルパッチョといった調理方法を教えたら、醤油と味噌を増やさなければ!と町長の元へ詰め寄って行くのを見送った。

 今回はこの世界での市販の物を使ったから、そこは各自で手に入れて頑張ってくれとしか言いようがないよね!



 こうして昼過ぎまで話し合いが長引いてしまったが、俺達が帝都を目指していると知っているチュイルさんの声でまとめに入り、13時過ぎにはカロナードの町を出発することが出来た。

 これ以上延ばされてたら今日中に帝都手前まで行けたかどうか。どうせ利益は俺達にはないんだから、あとは商人ギルドが頑張ってくれたらいいんだ!





 さて、ここから8時間はかかるとなると、結局野営になりそうだ。

もういっそもっと手前で町に入って宿で泊まりたいなぁ。


「今から6時間近く走った後で入れる町で宿を取ってしまいましょう。今日は皆さん疲れてると思いますので、しっかりと癒したのちに帝都入りを果たした方がよろしいと思います」


 確かに、トニアさんと姫様以外は急な炊き出しでちょっと疲れ気味だ。

2人は疲れてる所を表に出さないだけで同じだと思うし。


「よし、そうしましょう!トニアさん、」


「了解しました」


 さすがに聞こえていたらしく、返事が被されてきた。


「じゃあチュイルさん、スナフさん!この後ですね――」



 こうして、5時間走った辺りで門を閉められる可能性を考えて近くの宿場町に飛び込んで宿を取った。帝都からは半端に離れているせいか、金額も安く店主に喜ばれたわけで。



 とにかく、明日はついに帝都だ!


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