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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第10章 ノロワール帝国と皇族
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馬車の所有権

いつもより遅れてますが、更新は続いてますよ!


今回も拙作をお読み頂けたら幸いです。

「ヒバリさん、商会の看板はいつ馬車に取り付けるのですか?」



 あれから町で1泊して、翌朝から走り続けた夕方。


 徐々に視界に広がってくる大海原の水平線。そして陽が沈み始め、水面が空と同じ朱鷺色に染まり始めて輝いていた。

 これが西向きに海があれば海に陽が沈んでさらに綺麗だっただろうなと御者台から眺めていたら、姫様にそっと声を掛けられたところだ。




「急にどうしたんです?まだ商売は始めないから後でって話になってましたよね。第一、この馬車はサリスさんが用意したものだから勝手に看板掲げても問題でしょ」


「あら、ご存知ありませんでしたか?この馬車、元々ヒバリさん……それとサリさんとミリさん、3人にご用意したものですよ?」


 ……えっ?それ初耳なんですけど!?


 幌の中に振り返った姫様がトニアさんを見て、

視線を受けたトニアさんが平然とそうですねと言って頷く。


「はい。確かにお三方へ”ご用意しました”と伝えております」


「ご用意って、とりあえずこれに乗ってくださいって程度の意味だと思ってました……本当にいいんですか?」


「元々こちらが迷惑をかけてしまったお詫びと思って用意したものです。これでもお三方への対応としては足りないくらいです」



 無理矢理召喚されたことも、冷遇されたことも、そしてこうやって旅に出されたことも。こちらの勝手な都合によるものですから、と姫様が語る。


「確かに色々大変ですけど、こっちに来て旅に出たおかげでこうしてピーリィやルースさん達と出会えたのは良い事だったんですよ。ね?」


 今回も俺の膝の上に座ってうとうとしてたピーリィは、よく分からないけど頭を撫でられて気持ちよさげに脱力していった。返事はなくとも幸せそうな寝顔が答えになってるかな。



「ああ、申し訳ありません。話を戻させて頂いて、これから漁をする町か村を訪問するのですから、それならきちんとラーク商会として買い付けをされた方がよろしいのではないですか? ヒバリさんの話ですと、ゼスティラの商人ギルドの方もおそらくこの辺りで海藻の商談をしに訪れるはずです。それならば、先にどのような海藻が必要になるか教えておけば、後の話も滞りなく進むと思います」


 俺と一緒にピーリィの頭を撫でていた姫様がはっと我に返り、自身の考えを一気に伝えてきた。俺が昆布を欲しがってたから、スムーズにいくように考えてくれてたのか。


「……なるほど。それでラーク商会の名前を残せばより分かりやすいって事ですね!それなら、次の町か村へ入る前に取り付けちゃいますか。


 すみません、チュイルさん!この先の町に入る前に一度休憩を挟みたいんですけど、どこかいい場所はありますか?」



 俺達の馬車の前を走るチュイルさんに声を掛けて、ここから10分ほど先に町から一番近い休憩場があると教えてくれた。

 町や村は夜になると門を閉じ、朝になれば再び開く。閉門までに間に合わなかった者達が野営出来るようにと国の配慮でそうした休憩場は必ず設けてあるそうだ。例外として、越境道には魔物が多い上に自国領とも呼べない場所のために作れないらしい。




「こっちの世界は馬も強いですよねぇ。あっちでは、」


 なんとか夜には海辺の町の手前の休憩場に着き、馬を労うための水と飼葉、そしてブラッシングを手伝っていた。一緒にいるトニアさんに話しかけたが、急に肩をつかまれ中断させられた。


「ヒバリさん。あまり大きな声でそのような事は……ご自分の立場をお忘れですか?」


「えーっと……あっそうか!今は傍にいないけど、チュイルさんとスナフさんがいたんでしたね。やべぇ、油断してました、すみません」


 普段事情を知ってる人しかパーティにいないから気にしてなかったけど、異世界召喚で来ただなんて知られたら何があるか分かったもんじゃない。例えチュイルさん達が信用出来そうでも漏らしていい情報じゃないよねこれ。


 だからさっきの姫様は会話も小声だったのか……


 俺はてっきりピーリィを起こさないようにしてると思って姫様に合わせてただけだったわ。2人がいない時でよかったよ。



 その巡回騎士2人は、先に街の門番に話を付けに行っている。


 すでに閉門時間は過ぎているが、門番と話すのは問題ない。なので、明日は朝から町に入る事、海産物を探しているので漁をする者とそれを売る者に当てがないか情報収集に走ってくれている。ありがたいことだ。



「で、先程の馬が強いとはどういう事でしょう?」


 少しぼーっとしてたら、トニアさんが話を戻してくれた。

どうやら、俺にとっては少しだったがかなりぼーっとしていたようだ。



「俺の所じゃ馬は5時間どころか半日近くもずっと走り続けるなんて出来ません。ああ、これまでも水飲みと食事の休憩はありましたけど、あの短い時間だけでまたずっとあの速さで走り続けたら馬が潰れてしまいますよ」


 馬車ってもっとカッポカッポしたのがちょっと速くなる程度だと思ってたもんなぁ。元々馬の大きさが1.5倍くらいあるし、走りも力強いから速い速い!

 以前なんちゃら牧場で園内を馬車で回るってのに乗った時は時速20kmも出てなかった。それでも幌付きの荷車を引く事を考えればそれぐらいだろう。


 でも!


 この世界の馬車と言うか馬って、平気で時速40kmくらい出すんだよなぁ。自動車の安全運転と同じ感覚で景色が流れた時はびっくりしたし御者って風圧も含めて何か飛んで来たら危ないってびびったし!

 実際には馬車には風の魔道具で風圧を和らげる仕様が当たり前のように付いてるって後で聞いて、どおりで思ったほど風来ないなぁって呑気に考えてたわ。


 同じように馬の頭防具にも風圧を軽減する魔道具が組み込まれてるらしい。これらの魔力補充は属性適合のあるトニアさん・沙里ちゃん・ピーリィが受け持っている。


 そりゃぁ闇しか適合の無い俺は余計知らないわけだ!

あれってただの防具だと思ってたもんなぁ。



「軍馬……あのお二方が騎乗されてる馬でしたら、今の倍は速いでしょうね。自分達が乗っているのはあくまでも移動用の馬達ですから。まぁ、かなり良い馬だと言う事には異論がありません」


 そう言ってトニアさんは優しく2頭と撫でる。


「ほんと、君達はよく頑張ってくれてるよ。後でちゃんと野菜も持ってくるからな!」


「普通、馬車旅の途中で馬に飼葉以外を与える人はいませんよ。この2頭もそのおかげで気力も高いのかもしれませんね」


 俺達なら食材はたっぷり余裕があるし、生野菜も好きなの知ってて飼葉だけってのは味気ないと思ってよく食べさせてるんだよね。

 おかげさまで俺は”野菜をくれる人”と認識されてる可能性が高い。だって、俺の顔を見るとたまに涎が垂れ始めるんだもん。パブロフの犬か!いや、馬か。




「ヒバリ殿!明日は朝から漁が出来るよう取り付けてきましたぞ!これは明日の食事が楽しみですなぁ」


「それと、魚の卸売りの代表とも話し合いの場を設けてくれるそうです。こちらも朝、我々と同行して実際に漁を見学したいとのことです」



 晩ご飯の準備を進めていたら、煙に気付いたのか猛スピードで2人が帰って来た。ちゃんとこちらに砂埃が立たないよう手前でスピードを緩めて来てくれたけど、絶対晩ご飯の準備が始まったら帰るって決めてたでしょ?


 どうにも行く先々で色んな人?を餌付けしてる気がする……

でも自重するつもりはない。食いたい物を作るだけ!




 沙里ちゃんと2人でせっせと晩ご飯を作っていく。チュイルさんとスナフさんはすでにテーブル準備を済ませて直立不動だ。いや、目線だけは俺達の手元をロックオンしている。



「ご飯できたー?」


 てててーっと幌から出て来た美李ちゃんが俺に抱き着く。


「もうちょっと……お?美李ちゃん茶葉作ってた?すっごくいい匂い」


「うん!紅茶はあたしとベラさんで、お茶がピーリィとユウさん!」


 ピーリィも文字通り飛びついて来て、後からユウとベラも幌から出て来た。2人は特に慌てずゆっくりだ。


「ボク達も頑張ったよ〜。あ、沙里!あとで乾燥みてくれる?」


「はーい」


「おなか、すいた……」


 ベラが随分疲れた顔してると思ったけど、単に腹減ったからか。

じゃあ4人が頑張ってくれた分こっちも仕上げ頑張りますか!




 晩ご飯はおにぎりと、麻婆豆腐に回鍋肉、それと口をさっぱりするために酸辣湯を用意してみた。ご飯に合うおかずの中華だ。


 残念ながら、酸辣湯は好みが分かれちゃったが。


 あれ、ラー油や酢を追加するのが面白いのになぁ。酸っぱい物ってスープに使われることが少ないから慣れてないだけだと思う。現に初めは顔を顰めていたスナフさんが一番飲んでたし。

 逆にチュイルさんは辛い物が気に入ったのか、麻婆豆腐にラー油どばどば入れてたせいで汗をかきながら頬張ってた。途中でご飯を茶碗に入れてその上に麻婆豆腐をかける丼を教えたら加速させてしまった。後でお尻痛くなっても知らないからね?





 食後は2人が交代で夜番をしてくれると言うので、

そのお礼として夜食のおにぎりを包んで渡しておいた。


 で、今は俺と沙里ちゃんだけ居住袋の中に入って片付け中。


「あ、ヒバリさん」


「何ー?」


 片付けと明日の漁?の準備をしていたら、パタパタとスリッパの音を立てて沙里ちゃんが戻って来た。


「ルースさんから必ず伝えるようにって、メモを書いたので渡しておきますね。口頭じゃ不安だからって、私がメモを取ったんですよ」


 やりとりを思い出した沙里ちゃんが笑う。

え、何そのメモ?真剣なのか笑いを取るものか分からないぞ……


「何々……」



『ヒバリへ


 明日、海の物を獲ると聞いたぞ。


 それが済んだ後の飯は必ずスシにするのじゃ!


 なお、ワシが食べたいものは――――』



 ……後は延々と食べたい寿司ネタが続いてるだけだった。

挨拶も近況も特にない。ただのスシリクエストメモだった。


 てか、醤油はいいとしてもガリとアラ汁も欲しがるとかどんだけ気に入ったんだか。わさび(と言っても西洋わさびだが)は別につけろってのがちょっと分からないけどいらないわけじゃない、と。



「ぇー……確かにこれは手紙じゃなくてメモ、だねぇ」


「はい」


 俺の表情の変化が面白かったとクスクス笑う沙里ちゃん。わざわざメモって言うから構えてたんだし、そりゃぁがっくりもするでしょうよ。


「1人でこれだけ食べるのか……ああ、何回かに分ければちょうどいい量かも。いつも3食送ってるけど、別の袋に取っておいて間でつまむのかな?」


「多分そうでしょうね〜。さて、洗い物終わったので、茶葉の乾燥見てきますね!」


「了解。それが終わったら……いや、女性陣はもうお風呂済ませちゃってね。2人ずつで順番に入ればチュイルさん達も怪しまないでしょ」


 お先に、と言って居住袋の外へ出て風呂の順番を伝えに行った。



 あの2人が近くにいるから、全員で居住袋の中に入るわけにはいかないんだよなぁ。馬車旅なのに野営がめんどくさいって、どんだけ恵まれてるんだか。

 そういや、最近じゃ馬達も居住袋の馬小屋の中に入りたがるんだよな。2頭とも気に入ってくれてるようだからいいんだけど、それならもうちょっと広くしてあげたいかも。





 それからはまずはユウとベラが風呂へ向かうのを見送って、

俺はいつもの補充と明日の海用の袋の作成を始めた。


「さて、ルースさんご希望の寿司のためにも色々準備しちゃいますかね!」



 腕捲りをして気合を入れる。

まぁ、袋を作るのに腕捲り自体に特に意味はないけどね!



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