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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第10章 ノロワール帝国と皇族
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寄り道の提案

いつもより短いですが、

拙作をお読み頂けたら幸いです。

 朝のドタバタはあったが、今日も快晴の中を軽快に馬車が走る。

陽が昇ってすぐの主街道。涼しく澄んだ朝の空気を感じる。




 昼過ぎに街を出た昨日と違って帝都を目指す馬車は多少増えていた。ただ、ゼスティラから半日も離れていない町なので普段ならば倍以上の馬車が連なるそうだ。


 むしろ宿泊地をずらしたおかげで主街道が適度に空いている。

これなら馬もストレスなく走れて丁度良かったわけだ。



「あ……」


「どうしました?」


 俺がこぼした言葉に姫様が反応する。


「大したことじゃないんですけど、せっかく宿にも風呂があったのに利用しなかったなーって。こっちの風呂も見てみたかったんですけどねぇ」


「次がありますよ」


「それもそうですね」


 まだ出発したばかりだというのに俺の膝枕で寝る美李ちゃんとピーリィの頭を撫でながらのんびり答えた。



 朝の騒動で疲れただろうと、今朝もトニアさんが御者をしてくれている。フォローにはユウが回った。馬車の中はトニアさんとユウ以外全員いる。居住袋の中じゃ勿体無いほど天気がいい。



 それはそれとして。


 ユウのやつ、夕べピーリィを使ってからかった事に文句を言おうとしたのに、ちゃっかり御者台に逃げやがった……御者を覚えて欲しいから馬車の中に来いとも言えないし!




 何事もなく5時間近く移動し、やがて馬車の駐車場が見えてきた。


 この主街道には一定間隔でこういったスペースが作られている。自動車の雪用チェーンの脱着場みたいな感じだ。ここで馬車の点検やパーツ交換、そして休憩場として利用されているそうだ。


「あそこなら見晴らしもいいし、丁度他の馬車もいませんな」


 馬車の後ろについていたチュイルが幌の中に声を掛けてくる。

幌の前も後ろも解放してるので吹き抜ける風が気持ちいい。


「じゃあそこでお昼にしましょう」


「では、先にスナフを向かわせます。おい!場所確保任せたぞ!」


「了解しました!ハッ」


 スナフが1人馬の速度を上げて先へ進む。

俺達は同じ速度のまま休憩場へと向かった。



 ……また言っちゃうけどさ、やっぱりこれ、騎士に護衛されてるようにしか見えないよね?だから他の馬車もあまり寄り付かないだけだよね?




「そういえば、ヒバリさんは展望台であまり驚いてませんでしたね?」


 馬の世話を手伝ってから皆のいる休憩場へ行くと、開けた平原と道の先におそらく休耕している畑とまだ植えて間もない何かの畑が見える。この先に家らしき建物がちらほら見えるから、そこに村があるのだろう。


 そんな景色を眺めていたら沙里ちゃんに聞かれた。


「ああ、うちの田舎だと山から平野を見下ろす展望台はドライブの定番だったんだよ。車で1時間もしないで山も温泉もあったから」


 むしろそれしかないって話だけど。


「見慣れてたんですか。それもすごいですね!」


「いや、田舎なだけだって。まぁ、夜景は綺麗だったと思う」


「いいなぁ……夜景かぁ」


 こっちの世界じゃ電気がないから、夜景と言ったら本当に真っ暗なのかな?

あ、でも魔道具で街灯があるから、実は夜景が綺麗な所もあるのかも?


 ……夜の街を見たのって、宿屋の窓以外だと夜襲をした時だけだったな。

帝都に行ったらそういうのを見る余裕があるといいね。




 休憩所には丸太で出来た椅子と机がいくつか用意されてあり、机にはすでに沙里ちゃんが用意してくれたおにぎりと味噌汁、だし巻き卵、唐揚げが並んでいた。

 元々昼ご飯はかなり少ない量か食べない人が多いこの世界だけど、うちのパーティには食べないという選択肢はないのだ。


「オニギリですな!いやぁ、ありがたい。我らの昼と言えば馬上にて干し肉を齧ってやり過ごす程度なので……たまりませんなぁ」


 周囲を警戒して安全確認をし終えた2人がどこに立ったものかうろうろしていた。目線は机の上から逸らさない。椅子が足らないために座るつもりはないようだ。



「そっち座ってていいですよ。俺は椅子ありますから」


 ゼスティラの街で作ってもらった鉄パイプの枠に箱型収納の袋を被せて折り畳み椅子を仕上げていた。まだ改善の余地はあるけど、まぁ今はこれで座れるからよしとしよう!


「ピィリもこっち座る!」


 一番大きくて丈夫な折り畳み椅子はちょっとピーリィには高過ぎたのだが、よじ登って俺の膝の上に座る。取り出したサイズの小さい折り畳み椅子を出したんだけど……まぁいいか。


 隣に置いたら美李ちゃんが座ったし、結果オーライかな?




 相変わらずスナフさんが静かに、しかし一番大量に胃袋に収めていく。あのスリムな体のどこにあれだけ入るんだ!?チュイルさんは豪快に食べているけど、味の感想を言いながらだから見た目ほど量は食べてないんだよなぁ。


「これが噂に聞いた海藻の力ですか……これも是非我が部隊でも使いたい!流通はすでに商人ギルドとなると、早くて1か月後辺りでしょうなぁ」


 だし巻き卵と味噌汁を口にして、改めてだしというものに興味を持ったようだ。しかも商人ギルドに持ち掛けた事まで知ってるとは。



「帝都前に海沿いの道に出るんですよね?だったらその時に海に寄ってみたらいかがでしょう」


 ごちそうさまでした、と手を合わせた姫様が提案した。


「いやしかし、貴方達に寄り道をさせてしまうわけには……」


「私達の馬車は通常より馬も荷車も丈夫なおかげで予定より1日早く進めそうです。その1日を海に当ててもよいでしょう」


 悩むチュイルさんが唸る。

その横でスナフさんが静かに食べ続ける。


「4日かかる予定が3日で着きそうなんでしょ?だったら俺も海に行きたいですね。魚と海藻はもっと欲しいです!」



 トニアさんからフォローを入れるようにそっと告げられらたから、それならと素直に海の幸が欲しいと言ってみる。もしかしたら別の食材もあるかも知れないじゃないか!


 別に、姫様の使命を忘れたわけじゃないよ?



「と、言うわけですね。お二方にお時間があればこのまま同行して頂けたらありがたいのですが?」


「……分かりました。お言葉に甘えさせて頂きます」



 てなわけで、ちょっとだけルート変更が決まった。


 予定としては、今日は出来る限り進んでから宿場町にて1泊。翌日多少は漁業の村まで進み、その村か近くの町で1泊。あとは魚介類を買うなり獲るなりして、そのまま帝都又はその手前で1泊して帝都で会見の手続きをする。


 この最後の会見手続きがすぐに済むか、そもそも重鎮か皇家の人に会えるのかが今は読めない。だから焦らずに行きましょう、と姫様は言う。

 自分の家族の身が危ないと分かっているからこそ、焦らずにいようと自分に言い聞かせている、と少し弱った笑顔で姫様が言う。



「よし!じゃあ海で色々獲れたら美味しいもの作るので楽しみにしてて下さいね!辛味噌あるしエビチリもいいなぁ……あ、それなら麻婆豆腐もいいな!前回の点心じゃなくて、今回はちゃんと中華三昧いけるか」


 俺に出来る事と言ったら、姫様達が食べた事ない美味しいご飯を作るくらいだ。なら、それを一生懸命頑張ろうじゃないの!



「ヒバリさん達の食事に慣れすぎたら、元の生活に戻るのが少し怖くなりますね……私、大丈夫でしょうか?」


「それは自分も不安があります。出来ましたら料理人らに手ほどきをして頂きたいです」


「あら、それはいいですね!どうです、ヒバリさん?きちんと依頼料もお支払いいたしますよ?」


 努めて明るい話題を上げる姫様とトニアさん。

そこにチート家事スキルの沙里ちゃんも加わり賑やかになる。


「それならわたし、空いた時間にレシピ集を書きますよ!ヒバリさんからもっと色々教わってみたいから丁度いいです!」


「字を書くならあたしも手伝うよ!なんってったって、ヒバリお兄ちゃんより字がきれいだもんね!」


 美李ちゃん、それは言わない約束だよ……

結局字の書き癖が抜けなくて一向に綺麗に書けなくてなぁ。


「だいじょうぶ。ヒバリはつくるの!ピィリはたべるの!」


 ピーリィに”それぞれ役割があるのよ”と慰められた。

てか、ちゃっかり食べる役を宣言してるし。




 2人の騎士を置き去りにしていつもの賑やかな俺達パーティの会話が続く。くだらないやり取りが多くても、その時間が楽しい。


 それでも予定が決まった事でテキパキと片付けて出発準備もしている。これも自然に役割分担して行動出来る辺りが、俺達が一緒に旅を始めてから1か月以上の絆が見えるようでなんだか嬉しい。


「さぁ、さっそく出発しましょう!今日はあと6時間は進みたいので、チュイルさんとスナフさんは交代が出来ないから、休憩したい時は遠慮せず言ってくださいね!」


「あ、それならボクとベラは馬に乗れるから交代出来るよ!」


「ベラも、馬、任せて」


 そっか。御者をしたことがなかっただけで、乗馬自体は出来るんだ。聞けば、ユウは王国に居た頃の訓練で、ユウは生まれ育った村では鞍なしで乗っていたそうだ。それなら2人が疲れた時はお願いしてみよう。




 朝はゆっくり休ませてもらったので、今度は俺が御者台に座る。当然の様にピーリィが隣に……いや、膝上に座った。隣には美李ちゃんが来たので譲ったらしい。


 さっきもずっと膝上にいたけど、まだこの状態を続けるのね?え?美李ちゃんも座りたいから交代制?なんで座られる俺に何も聞かずに話がまとまっていくの?



 まぁ、いいか。なんだか慣れてきたし。



 忘れ物がないか確認してから皆も馬車に乗り込み、

それを見てから馬に軽く鞭を入れて走らせる。




 よし、一気に海まで行こうじゃないの! 



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