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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第10章 ノロワール帝国と皇族
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展望台と巡回騎士

これより第10章となります。

引き続き拙作をお読み頂けたら幸いです。

 古いがメンテのされている石畳の道を馬車が走る。


 ゼスティラの街に入る時もそうだったが、王国の主街道は整備されていると言っても街の外は砂利道だった。それでも雨が降れば水はけがいいし、砂と違って風によって視界を塞ぐほど舞う事はなかった。


 しかし、帝国領の主街道は全てではないが石畳になっているとのことだ。わずかに中央を高くするように弧を描いて水が中央に溜まるのを防いでいて、その両端はきちんと伐採され、いつでも馬車を道から外して止められる広さも確保している。

 道幅だけで10m、さらに両脇に5mずつのスペース。それが主街道だけとはいえ、ほぼ整備されている。帝国の歴史を感じる道だった。




 ヒバリ達がゼスティラの街を東に出たのが13時半。

馬車を走らせてまだ10分と経っていない。



 日を追うごとに日差しの強さが増す快晴の中、主街道の石畳の上を多くの馬車が走っている。時折木陰で休憩している馬車は、まだ若干列を成すゼスティラの街への検問の順番待ちのようだ。



「それにしても、馬車多いなぁ」


「いっぱいだねー」


 街から緩い右カーブをしながら東へ伸びるという主街道には、点々と同じ方向を走る馬車の姿が見える。ゼスティラへ向かう馬車もそれなりにいる。

 御者台に座る俺と、隣には翼が目立たないようローブを着る事を条件に隣に座るピーリィ。2人は、それらを眺めながら馬車を走らせた。




 以前王都から出る時に聞いていた話では、大抵の商人であれば朝には出発し、夕刻までに宿場町に到着するよう調整する。夜間の走行と追いはぎや盗賊のような不逞の輩との遭遇を避けるための安全策だ。

 しかし、帝都まで4日かかると言う主街道で、すでに日没まで5時間もない現在でも多くの馬車が東へ向けて走っていた。



 そして1時間ほど馬車を走らせた後、その疑問はすぐに解消した。


 ゼスティラの街があった場所は蛇の道という山脈の麓に近い。通常の平野部と比べると標高が高い位置にある。街からは大陸中央へ向かう北の主街道と帝都へ向かう東の主街道がある。ヒバリ達が走る東の主街道は広い平原へ向けた緩い下り坂になっているのだ。

 木々も徐々に密度を薄くし、やがて東の地を見渡せる場所に休憩出来るよう整備されたスペースが設けられていた。


 

 御者をしていた俺の視界にはすでにちらっと見えてしまったが、せっかくなので俺達も馬車を止めて展望スペースへ行こうと幌の中の皆に声を掛けて、ちょうど出発した馬車があったので、ゆっくりと空いたスペースに止めた。


「全員で馬車を離れるのはまずいから、半分に分かれて見に行く?」


 ヒバリは、馬を馬車から外して指定の杭に繋ぎながら幌の中に声を掛けた。

ついでに馬のエサと水を用意し、2頭を労う。


「自分が馬車を見ていますので行ってらして下さい」


 トニアさんが軽く片手を上げて答える。


「でしたら私も以前帝都を訪れた際に立ち寄っていますので」


 姫様もそれに続く。


「出来たら立ち寄ったことある2人がいると、見える景色の説明して貰えるから来てほしいんだけどなぁ」


 と言われても、2人以外帝国領初めてだから分からないんだよね。


 あれ?ピーリィはこっちから来たんだっけ?きっと覚えてないか。今までも母親に抱かれて移動してたって言ってたから、どこをどう移動したかを聞くのはやめておこう。




「お話し中の所よろしいかな?」


 斜め後ろからやって来た男2人が、ヒバリ達に声を掛けてきた。しかも、少し前に見たばかりの騎士団の証である鉛色の鎧に片手剣、そして槍を所持している。


 ……ん?声を掛けてきた男性、どこかで見たような?


「あー、覚えてないかもしれませんが、自分は貴方達がゼスティラの街、ここ帝国領へ入る際に副団長と共に案内させて頂いた者の1人ですよ」



 なるほど、接点はあった人物なのか。


 一応鑑定のスキルを発動したけど、鑑定はあくまで名前やステータス、技能、状態や所属、そういった事は調べられる。いや、それだけでも十分便利だが。

 こういった、「○○で会った」なんていう結果は出てこない。そこまで出来たら鑑定を超えた別のものになっちゃうだろうしね。


 要は、スキルに頼り過ぎるなってことかな?



「はは、やはり覚えておりませんでしたか」


 男性騎士が苦笑いをしながら兜を取っていた頭を掻く。

もう1人の男性騎士が後ろから拳で軽く肩を叩いて笑っていた。



 すると、俺の横から元気な声が響く。


「ピィリわかるよ!ばしゃいきすぎて、もどろうとしたら、てをふってくれたの!」


 そう言って、身振り手振りでその時の状況を説明してくれた。


「おお!お嬢ちゃんは覚えてくれていたか!ほら、なぁ?」


 肩を叩かれていたお返しにバンバン背中を叩き笑顔になった男性騎士に、

今度はもう1人の騎士が苦笑いをする番になったようだ。


「おっと、自己紹介がまだでしたな。自分はチュイル、現在は巡回騎士団第1班班長としてとして帝国の南西部を回っている者です」


 ピーリィと面識のあった、こげ茶の髪にタレ目で皺と顎ひげのある40代の男性騎士が姿勢を正して言う。1年ほど前に娘が生まれたばかりでなかなか家に帰れない状況にやきもきしているせいか子供を見ると頬が緩む、ともう1人の騎士が補足してきた。


「自分はスナフ、チュイル班長と同じく巡回騎士であります」


 そんなチュイルの個人情報を暴露したスナフは短い自己紹介だった。彼は整った顔立ちに金色に近い長い茶髪を後ろに結った爽やかイケメンさんだ。俺より年上の30代でも全然それを感じさせないし、終始にこやかな顔を崩さない。


 散々揶揄われたチュイルがそこで挨拶を終わらせない。


「こいつも今年結婚したばかりでな。長年傍にいた幼馴染と結ばれたというわけだ。お嬢さん方、こいつが口説きに来たら即逃げてくださいよ?」


「班長、人聞きの悪い事は言わないでください。自分は妻一筋ですよ」


 そう言い切るスナフに女性陣から軽い歓声が上がった。

くっそー、イケメンで幼馴染に一途とかかっこよすぎだろ!



 こちらも2人の紹介前に全員が顔を出していたので、俺から順に自己紹介をさせてもらった。姫様の時にちょっとチュイルさんが緊張した気がする……これはブリゼさんから聞いてるな?


 トニアさんに視線を送ると軽く頷いたから間違いない。

ってことは、もしかしたら護衛に寄越したのかも。



「では、先ほどの話の続きをよろしいですかな?馬車の方は我々で見ておきますので、どうぞ皆さんでこの帝国の地をご覧になって来て下さい。ここは我が国でも有数の名所ですので、逃す手はありませんぞ?」


「それに、こういうのは皆で見たって思い出を作るべきです。仲間との思い出はかけがえのない宝物となってずっと心の中であり続けますよ」


 チュイルさんの言葉にスナフさんが続く。



 なんだろう……このむず痒い感じ。最近ドス黒い悪意に晒される事が多かったからか2人が眩しいよ!本当に善意と信じていいんだよね!?



 俺が謎ダメージを食らっている間に話はまとまり、

2人に馬車を任せて全員で展望台へ行くことが決まっていた。


 元々ゼスティラの街を出発した時間が遅かったせいでこの展望台で馬車を止める人はまばらだ。時間によっては馬車を止めるスペースの空き待ちで多少列が出来るって言うから、俺達にとっては空いててラッキーだな。




 その駐車場から少し高台になっている展望台へと坂を上り、

やがてベンチのように横に並んだ切り株と柵が設置された場所へ辿り着く。


 そこには、手前の坂の様な山の斜面とそこに緩やかな右カーブの道が模様のように描かれ、遠くの平野部には点々と村や町が道沿いに立ち並ぶ。更にここからでは遠すぎて小高い山程度にしか見えないが、帝都までもが見る事が出来た。丁度主街道の伸びる先と海岸線の伸びる先が交差した辺りなので分かりやすい。


 と言ってもかなり離れているから何となく分かる程度だが。



「「「うわぁ!」」」


 一番最初に到着した沙里ちゃん、美李ちゃん、ピーリィが声を上げる。

続いて俺達残りのメンバーも柵の前に着いて、感嘆の声を上げた。


「馬車から少し見えてたけど、この展望台はまたいい場所ですねぇ。今日がいい天気でよかった!」


 俺の感想にユウがうんうん頷いて隣に並ぶ。


「ここからなら地図も作りやすそうだなぁ。ボクは絵が下手だから無理だけどね!……あ。ベラはここに見覚えある?」


 ユウが看板にある砂漠を指差す。


「ある……ような気がする。けど、ベラはわからない」


「そっかぁ。あ!この看板に地名が書いてある!獣人の国は砂漠の先だって!でもこの地図だと砂漠を突っ切らなくていいんだ……もうちょっとだからね。絶対ベラを家に帰すからね!」


「うん……ユウ、ありがとう」


 そうか、ユウは王国には連れ去られて来たって言ってたんだよな。

それももうすぐ家に帰れると思えば感慨深いんだろうな。



 そんな横では姫様とトニアさんが先に到着した3人に帝国領を説明している。右手側の海、中央の平原、左手の森とその先の険しい山と大陸最大の湖。そして帝国領の東には湖より大きな砂漠。

 海はギリギリ、山は見えるが湖は流石に見えない。帝都以上に離れてるんじゃしょうがない。むしろ、湖の隣にあるという山は見えるのだから、それがどれだけ高いのかと驚くくらいだ。当然砂漠はまったく見えないし、後ろの蛇の道山脈のてっぺんも相変わらず見えない。



「こうして見ると、帝都の方へ向かうほど町や村がいっぱいあるんですね」


 看板を眺めていた沙里ちゃんが帝都を指差し、そこから主街道沿いに左に(西)指を動かして、そこに書かれた町名などを見ていた。


「はい。帝都が近いほど宿代が高くなっていきます。大体半日で帝都へ着ける範囲に10を超す町があるはずです」


「そんなに!?」


 俺も看板を見るが、どうやらこれは新しい情報に更新されるのは遅いらしく、主要の街以外はあまり信用出来るものでもないらしい。あくまで目安ってことだ。




「そろそろ出発しないとまずくないですか?」


 沙里ちゃんの言葉に辺りを見渡す。すでに展望台には俺達以外は20人もいないくらいになっていた。確か着いた時はこの倍近くいたはず……確かにこれはやばいかも。


「……って、騎士さん達待たせたままだった!皆、戻ろう!」


 俺の背中に飛び乗って来たピーリィを抱え、転ばない程度に早足で坂を下った。途中で美李ちゃんも加わって、何故か俺が一番疲れる体勢になったおかげで、馬車に着く頃には1人へばっていた。


「「ごめんなさい……」」


「少し、休めば大丈夫だから」


 馬車の後ろに腰掛け、左右で謝る2人の頭を撫でる。



「皆さん慌ただしく駆け寄って来られるわ子供2人を抱えてるわで何事かと思いましたぞ。無事なら良いのですがね」


 馬車に到着する前に異常事態と勘違いされて、槍を構えて駆けつけてくる2人にすぐに皆で説明して誤解を解くと、物凄くほっとした後に呆れられてしまったのだ。


 一国の王女を含めた集団がきゃーきゃー駆け下りてくれば、そりゃあ驚くよね。ただのかけっこでほんとすみません……




「御者は自分がいたしますので、ヒバリさんは少し休んで下さい。

今からでしたら夜までには村か町に着きますのでご安心を」


「我々も帝都を経由して北を回る任務ですので、帝都まではご同行をお許し頂きたい。よろしいですかな?」


「はい。短い期間ですが、よろしくお願いします!」



 先ほど心配を掛けさせてしまった気まずさはあったものの、2人には晩ご飯をご馳走するということで手を打ってもらった。

 どうやら俺達が食品で商売する事と獣人達にバーベキューを振る舞った事を知っていたらしく、物凄い期待した目をしてた。皆どういう風に報告したんだろう……?期待は裏切らないよう美味しく作るけどね!



「では出発しますよ」


 トニアさんが片手に持った鞭をペチンと馬に軽く入れて馬車を発進させる。そしてチュイルとスナフは、重そうな鎧をものともしないほど軽々と鐙に片足を乗せたと思った次の瞬間には飛ぶように騎乗し、俺達の馬車の前後について護衛するように走らせた。



 護衛するようって言うか、これもう完全に護衛じゃん!

救いとしては旗や目立つ鎧じゃないってことか。


「もっとこう、さりげなく着いて来る事は出来なかったのかなぁ?」


「仕方ありません。あまり目立つのは避けたいですが、帝国所属の騎士が付く利点は多いでしょうし、好きにさせましょう」


 そう言うものの、姫様は困ったと顔が語っている。


「町に着く前に彼らには一度確認しましょう。同行者と見られると怪しまれる可能性が高いです。それは避ける方がよいでしょう」


 前方から御者をするトニアさんがそっと幌の中の俺達に声を掛けてきた。よそ見運転である。まぁ、見通しも良く前について行く馬がいるせいであまり制御もいらず、勝手に走ってくれる頼もしい2頭だから余裕なのだろう。


 俺が御者する時もたまに何もしてなくてもちゃんと道沿いに走ってくれたから、その辺はよく分かるわ。


「……手綱を離すのはあまりよい行動ではありませんよ?」


「……失礼いたしました」


 姫様に注意され、すっとトニアさんが顔を引っ込めた。



 ……俺もやらないように気を付けよっと。





 こうして帝国領初めての馬車旅は、日が暮れた少し後には最初の宿場町に到着し、事前の打ち合わせ通りに2人の騎士とは道すがら仲良くなった風を装って同じ宿へ誘われた、という設定にしてもらった。



 町に入る前に話しておかなければそのまま行くつもりだったらしい。ほんっと打ち合わせしといてよかった!ここまで来て即悪目立ちは勘弁してください!



 珍しく風呂があるらしいし、たまには宿の風呂を使ってみようかなぁ


 などとぼーっと考えながらヒバリは皆の後に続いて宿へ入って行くのだった。



追伸。


分からない方は気になさらず、スルーしてください。

ただの業務連絡みたいなものですので!




あれから4本中3本が繋がったそうです。

動く可能性はないそうですが……


皆さんもお気を付けください!

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