茶葉作り、はじめました
ご意見をいただき、ローファンタジーで設定していたタグをハイファンタジーへ変更しました。
今回いくつかの閑話を挟んでから新章へと移りたいと思います。
そんな拙作をお読み頂けたら幸いです。
追記
今回の話は9章第1話の閑話です。これを書き忘れました!
今俺達がいるのは馬車の中に立て掛けた居住袋の中。
入ってすぐのダイニングキッチンに集まった4人。
「さて、この収穫した茶葉を飲めるように加工しよう。
作り方は街で聞いたけど、うまく出来るといいなぁ」
越境を始めてしばらくした頃に野生の茶畑を見つけて収穫した昼過ぎ、木はすぐに美李ちゃんの畑部屋へ植えられている。
10株のうち5株は普通に、残りはちょっと試したくて光の当たりが弱い場所に植えてもらった。こっちはダメそうならすぐ環境を変えるつもりだ。
で、話を戻してキッチンにいるわけだが、
「わたしも覚えてますから頑張りましょう!」
エプロンを付けて腕まくりをする沙里ちゃん。
「おー!あたしもお茶作るの初めて!」
お揃いのエプロンを着けて手を上げる美李ちゃん。
「ピィリも!ピィリも!」
2人と同じ格好で両手をぶんぶん振るピーリィ。
以上が茶葉作りのメンバーだ。
ちなみに、トニアさんは御者、ユウとベラは周囲の警戒と休憩の交代、姫様はトニアさんの相手、といった感じだ。ユウとベラは特にお茶には興味がないらしく、仕留めて来た豚がどう調理されるかの方が気になるらしい。晩ご飯はまだまだ先なのにねぇ。
「まずは紅茶を作ってみて、次は日本茶に挑戦するからね」
「え?ヒバリさんは日本茶作れるんですか!?」
「ちゃんと出来るかは分からないけど、学生の時修学旅行で京都の宇治行って茶葉作り体験やった事あるよ。まぁ、やったのは10年位前になるんだけど……」
中学の頃の修学旅行は地元では当然のごとく京都・奈良・大阪だった。高校でも同じと言われた時は凹んだが、班ごとに自由に予定を組めると聞いてからはせっかくだからと友人らと調べまくって色々行ったんだよなぁ。
事前予約まで取って行った苔の寺で座禅や写経、完全になめてた伏見稲荷の山登り、老舗の喫茶店、ちょうどやってた博物館のミイラ展示……懐かしい。
「――と、まぁ同じと言っても内容はまったく違うから楽しめたんだ。で、その時”お茶の木は大本は同じ”ってのも聞いてたから、きっと出来ると思うよ」
「修学旅行かぁ……」
「ん?沙里ちゃんはどこだったの?」
「中学では広島でした。高校は……行けそうにないですね」
寂しそうに苦笑いをして美李ちゃんの方を見る。
……あ、そうか!
確かここに呼び出されてすでに2か月くらい経ってる。てことは、もし初夏に行ってなければ秋なはず。元の世界と同じ時間の流れが同じなら、その秋が今頃なのか!じゃあ、美李ちゃんの小学校も同じか!?
「ごめん!」
「あ、いえ!別に攻めてるわけじゃないんで!ただ、友達はどうしてるかなって思っちゃって……」
「おともだち……あたしも、会いたい……うぅ」
会話の内容を理解した美李ちゃんの顔が徐々に曇っていく。
「わぁ!ごめんほんとごめん!」
「美李、泣かないで!?」
安易にすぐ会えるみたいな適当な事言えば逆効果だろうし、
とにかく謝るしか出来ない2人。
その横から、ピーリィが美李ちゃんを抱きしめて宥める。
「ピィリもともだちだよ。いっしょにいるよ?」
美李ちゃんはゆっくりピーリィへ顔を向けて、やがて頷く。
「うん、ありがと」
弱々しい力でピーリィにしがみついてしばらくそのままの状態でいて、それを俺と沙里ちゃんは美李ちゃんが落ち着いてくのを見てほっとしていた。
「ピーリィ、すごいな」
「ほんと、びっくりしました」
そっとピーリィの頭を撫でる。
2人に褒められて照れているのか、美李ちゃんを抱きしめる手に力が入ったみたいで、美李ちゃんがきゃーきゃー騒ぎ始めた。
これならもう大丈夫かな?
「よし!改めて紅茶作りを始めよう!」
おー!と今度は全員で掛け声をあげて作業へ気持ちを切り替える。
うん、皆引き摺ってないみたいだな。よかった。
さっそく作業に入る。
まずは茶葉の重さを量って、テーブルクロスみたいに広げた布の上に茶葉を広げてから俺とピーリィで持ち上げては落とし、沙里ちゃんのドライヤーの魔法と美李ちゃんの水魔法での水分除去を少しずつ弱めに使ってもらう。
椅子の上に立ってきゃっきゃ頭上から茶葉を落とすピーリィ。俺も魔法の影響のない場所にずれて一緒に持ち上げては落とす。途中で重さを量り直し、初めの半分になったら次の作業に移る。
「よし、こんなもんかな?じゃあ次はテーブルの上で茶葉をこう、掌で揉んでいくよー。ここでは美李ちゃんのスキルで醗酵を進めてもらうからお願いね?あ、羽が茶葉で汚れちゃうからピーリィはこの袋を手に付けてからだよ。ん、これで大丈夫。沙里ちゃんも魔法お疲れさま」
「はーい!」「もむもむー」「はい、もういいんですね」
ここで揉むことで茶葉が丸まるから、擂り潰さない程度の力で茶葉を傷つけて丸めていく。美李ちゃんにはスキルを使って貰ってるので、途中で茶葉を混ぜかえしては休ませて乾き過ぎていたら霧吹きで軽く湿らせて、大きい物は美李ちゃんが念入りにと、30分ほど繰り返した。
全体の茶葉の色が茶色になり、ここで霧吹きで湿度を上げておいた袋を4つ用意して、分けて入れておく。どの味がいいか醗酵時間を4つに分けて試してみるつもりだ。
特に美李ちゃんのスキルを使ってるから、茶葉工房で教わった時間は当てにならないんだよなぁ。もう色々試すしかない。
普通なら乾燥だけで1日、揉んで醗酵させるだけで5〜6時間はかかると言われた。俺達の反則技だと醗酵前で2時間かかってない。あとは醗酵も2〜3時間と言われたが、きっと半分以下だろう。いや、もっと短いかも?
ここに15分ごとに時間を書いた4つの袋。
今回は最大1時間の醗酵でやってみよう!
時計で時間を確認しながら他の仕込みで時間をつぶし、15分おきに袋を開けてはテーブルに広げて沙里ちゃんに乾燥してもらう。今回は完全に乾燥させて完成だから、美李ちゃんにも水操作で協力してもらって、途中でピーリィがかき混ぜてはじわじわと仕上げていった。
あー……乾燥させてる時に茶葉のいい匂いが漂って来て、
すっごい飲みたくなるなこれ。ほんとたまらん。
ちなみに、その後の晩ご飯が終わってから出来立ての茶葉を使って飲んでみたら、1時間醗酵させたものは醗酵の味が強すぎて俺にはダメだった……
あれだ、中国茶の黒茶を思い出した。
代表的なのはプーアル茶か。醗酵させ過ぎだな。
皆の意見も聞いたけど、やっぱり15分か30分醗酵させたものが人気だった。特に鼻のいいベラは1時間のものは淹れる前から即座に逃げた。むしろ15分も醗酵いらないんじゃないか?次回は10分単位で3袋に分けてやってみよう!
余談だが、
紅茶の試飲後に日本茶の作成も試してみたら…失敗した。
原因は美李ちゃんの醗酵能力が強すぎて、茶葉が茶色くなる前に止められずに紅茶にまで醗酵してしまったためだ。
日本茶は醗酵を少なくするために、一度水分を半分に減らした後は茶葉を蒸してから揉んでいくんだが、それでも美李ちゃんのスキルが上だったようだ。スキルなめてたわ。
「ぅー……」
その結論が出た時、美李ちゃんがいじけてしまった。
「ほら!日本茶の時はちょっと醗酵させるだけの作り方だからしょうがないって。それに、紅茶の方はみんな美味しいって喜んでたでしょ?勿論俺も美李ちゃんに、手伝ってくれた皆にも感謝してるよ」
日本茶としては失敗だったが、中国茶のようなものが出来上がったのはむしろ怪我の功名ってやつだろう。烏龍茶と思えば俺はこれが一番の成功だと思ってるくらいだし!
おかげで3種類の茶葉が作れるからありがとう、と宥めてからお礼を言って、ようやく機嫌を直してくれた。俺の見通しが甘かっただけって言ってもダメだったけど、謝るより喜んだ事を伝えた方がいいんだな。勉強になったわ。
「日本茶はまた次回試そう!今日は紅茶と烏龍茶が出来ただけでも大満足だよ。3人とも、またよろしくね!」
なんだかんだで皆もお茶づくりを楽しんでくれた事が嬉しかったし、ピーリィが気遣ったり慰めたりとお姉さんっぽい行動をしていたという成長に感心……いや、素直に驚いた。
次は茶の木が育って収穫できたら、かな?
でも美李ちゃんが気合入れてすぐ育ちそうだよな。
俺が眠っても魔法を切らさず外の気配が分かるからと、
全員和室で寝転がっている中で1人にやけていたら隣のピーリィが首を傾げていた。
「ヒバリ、わらってるー」
「あー……えっと、お茶の木が育ったらまた茶葉作りたいなーって思ったら楽しみでさ」
見られてた気恥ずかしさでちょっと言い淀んだけど、
思っていたことを正直に伝えた。
「あたしがめーいっぱい育てるから待っててね!」
「うん。美李ちゃんの畑は凄いから楽しみにしてる」
寝転がっているまま上を向いて答えるとこちらに手を伸ばしていたので、ハイタッチみたいに手を合わせら、ピーリィも参加して3人で手を合わせた。いえーいと頭上で声がしてから再び布団に収まり直す。
「じゃあ2人とも、今日の夜番お願いします。お先にお休みなさい」
「ゆっくり休まれてください」
「任せて。交代で休むから、大丈夫」
トニアさんとベラの返事を聞いて、
俺はこのまま眠気に逆らわず意識を落としていくのだった。