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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第9章 越境の道
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ピーリィの不安

予定より遅れていますが、

拙作をお読み頂けたら幸いです。

 商人ギルドへ行ったあとの午後4時。



 早めにチェックインした宿で、

ピーリィは俺にしがみついて泣いていた。


 彼女は呟くように言う。

もう、俺達と離れたくないと。





 少し時間を戻して……


 市場の買い物と商人ギルドでの登録を済ませた後、騎士団長が手配してくれた宿へ到着した。無事に話は通っていたので2泊分の前金を支払って部屋に案内してもらった。まずは居住袋の中で買ってきた食材の整理を行う。


 そして沙里ちゃんと2人で作業する時間の中で、

ピーリィの様子がおかしかった原因を話してもらった。




 それは、市場で買い物をしていた時に声を掛けてきた火蜥蜴族の男性の言っていた”鳥人族は狙われやすいから気を付けろ”という言葉を、馬車に戻る時に沙里ちゃんが姫様に相談した事だった。


 そこで、このまま一緒にいるならカモフラージュの魔法で隠蔽し、また自由に空を飛ばせてあげられなくなる状態に戻るか、あるいは同族を探して保護してもらう方が種族としては幸せなのではないか?と話し合っていた。

 2人ともピーリィの幸せを考えていたからこその話だったのだが、それはピーリィにとっては全く嬉しくない提案だった。そして、タイミング悪くその話を聞いてしまったピーリィは何も言わず駆けて行ったそうだ。


 その時は大した事ないと思っていたが、それ以降姫様と沙里ちゃんとは目が合っても逸らされた。話しかけようにもすぐにヒバリの所へ飛んで行ってしまう。そしてあの過剰な行動だ。


 さすがにこれはまずい。あの話を聞かれた後の行動があれでは、今のピーリィが何を考えているかは容易に察した。このままではいけないと思い、こうして事情を説明している、と。




「なるほどね。俺達と一緒に居たいからあのアピールラッシュだったわけだ」


「まさかあそこまで必死になると思わなくて……すみません」


「2人もピーリィのために考えてただけなんだからしょうがないさ」


「正直無視されるのはかなりきますよぉ」


 沙里ちゃんが食材をスキル袋への詰め替えをしていた手を止めて溜息をつく。こっちもかなり参っちゃってるみたいだなぁ。


「晩ご飯までまだ時間があるし、俺が話してみるよ」


「こっちはやっておきますからお願いします!」



 俺が沙里ちゃんから離れるのを待っていたピーリィがすぐに飛び付いてきた。

近くにいたのは分かってたけど、そこまで沙里ちゃんを避けてたのか……


 こりゃぁ早いとこ誤解を解いておかないと。




 居住袋を出て宿のベッドに腰掛けると、当然のようにピーリィが隣に座った。

絶対に離れないぞという強い意志を感じる。



「ピーリィ、沙里ちゃんから話を聞いたよ」


 俺の腕にしがみついたままビクッと体が揺れた。


「先に言っておくけど、別にピーリィを追い出したり置いてったりしない。ちゃんと一緒にいる。ほら、ピーリィのお母さんのお墓参りもまた一緒に行こうって約束したでしょ?大丈夫だから」


 そう言って優しく背中をさする。


「……ほんとに?」


「本当に」


「ずっといっしょ、やくそくする?」


「するよ。俺達のいた世界で指切りっていう約束の守り方があってね、それを一緒にやろっか」


「うん」


 お互いに小指(ピーリィの小指は翼に近く小さいのでちょっと大変だったが)を巻き付け、歌うように指切りを行う。


「「―――ゆびきった!」」


「よし、これで約束したよ。だから大丈夫」


「ん……もう、ひとりはやなの。ヒバリといっしょがいいの!」


 指切りが終わった途端安心したのか、

ピーリィの涙腺が一気に決壊した。





 大声で泣きながら俺にしがみつく。

時折呟くように離れないでと言う。


 やがて声は小さくなり、それでもしがみついたままぐずるように泣いていた。そこから、ぽつりぽつりと呟きを続ける。



「マーマは、いつも家なくてごめんねっていってたの。寝るとき、いつもおおきな木のうえで、マーマがぎゅってしてくれたから、それだけでよかったの。

 マーマは故郷には帰れないってまえにいってたけど、マーマといっしょならうれしかったの。でも、悪いひとに捕まったピィリをたすけて、マーマはしんじゃった……

 マーマの故郷、いかなくていい!おなじ種族、探さなくていい!お外、飛べなくていい!マーマしんじゃったとき、ヒバリが一緒でいいっていってくれたの。ピィリはヒバリじゃなきゃやなの。一緒がいいの……キュィ……」


 話を聞きながら頭を撫でていたら、

最後は泣き疲れて寝てしまった。



 そうだった。俺が一緒に行こうってピーリィを迎え入れたんだったな。

ピーリィはそれほどまでに嬉しかったのか……


 ふと、居住袋の方を見ると、姫様と沙里ちゃんとトニアさんがこっそり覗いていた。しーっと口元に指を立てると、頷いてからそっと居住袋の中に戻っていった。


 しばらくは、せめて起きるまではこのままでいたい。起きた時、ピーリィは一人じゃないっておはようの挨拶をしてあげたい。

 近くにあった毛布をそっと引き寄せてピーリィに掛けて、俺も横になってからまた撫で続けている。




 ……家族と言えば、沙里ちゃんや美李ちゃんは大丈夫なのかな?

今回の騒動でホームシックにならないといいけど。


 まぁあれだ、ピーリィと出会った頃に離婚した母親の夢見て泣いてた俺が言えた立場じゃないんだがね!





「ヒバリ、おきてー。ごはん、できるって言ってるよー?」


 頭上からピーリィの声がする……

あれ?俺、どうしたんだっけ?



 ぼんやりと目を開けると、覗き込むピーリィと目が合った。


「おはよう?」


「おはよ。でも、もうすぐ晩ご飯だよ?コンバンワ、だよ」


 首を横に向けると、真横は宿屋の窓でそこから街灯(火の魔石を使った魔道具らしい)が一定間隔で道を照らし、少し身を起こして見下ろせば行き交う人達の賑やかな光景が見えた。


 どうやら、起こすつもりが起こされたようだ。



「そっか。ピーリィが寝たから俺もそのまま寝たんだった。んで……なんで膝枕してるの?」


 確か俺と一緒にベッドに横になっていたはずなんだが、だんだん頭も起きてきて状況を見れば、俺の頭を抱えて座るピーリィがいた。


「んー?したかったから?」


 疑問を疑問で返された。ピーリィもよく分かってないのか?


「んー、まぁいいや。で、ご飯が出来たって呼ばれたんだよね。じゃあ中に……あ、その前に、」


 きちんと座り直してピーリィと対面する。


「寝る前の話だけど、姫様や沙里ちゃんは決してピーリィを追い出したいわけじゃないからね。どうしたらピーリィが苦しまずに、幸せに暮らせるかを心配してただけなんだ。

 ただ、今のピーリィの気持ちを知らなかったからあんな話が出て来ただけだからね?だから、これからどうしたいかちゃんと2人に伝えてごらん?そうしたら反対されないからさ」


「……うん。サリたち、いつもやさしいよね。ピィリ、ヒバリたちと一緒にいたいってちゃんというよ」


 俺の話をしっかりと理解して、きちんと答える。


 ピーリィもちゃんと成長してるんだなぁ。

出会った頃の片言の話し方が懐かしく感じる。


「分かってくれてよかったよ。

よし、俺達も中に行って準備手伝おう!」


 ピーリィの頭を撫でてそのまま抱き上げてから、

俺達は居住袋の中に入っていった。





 中ではすでにほとんどの準備が終わっていて、後は俺達が来たらお椀や皿によそって並べるだけになっていた。

 そして食べ始める前にピーリィから皆にさっきの話をしておきたいと言って集まってもらった。まぁ、覗き見してた3人はすでに分かっているとは思うけど、やっぱり本人の口からじゃないとね。



「―――だから、ピィリはヒバリたちと一緒がいいの!ここがいいの!」


 最後はちょっと感情的になってしまったが、ピーリィはちゃんと自分の気持ちを伝えた。伝えきった。よく頑張ったね。



「そうでしたか。私達はこれからピーリィが辛い目に遭うかもと思い、勝手に話を進めようとしてしまいました。申し訳ありません」


 そう言って姫様が頭を下げる。続いて、


「わたしも、空を自由に飛べないのはいやだろうなって……ごめんね、ピーリィ。わたしも一緒に居たいよ」


 沙里ちゃんも頭を下げて、改めて一緒がいいと告げる。


「あたしも、ピーリィと一緒がいい!おねえちゃん達、勝手にそういうことしちゃだめなんだからね!」


 ピーリィの話を大人しく聞いていた美李ちゃんだったが、2人が謝った事で美李ちゃんがピーリィの姉だと言わんばかりにピーリィの後ろに回り込んで、ぎゅっと抱きしめていた。



 ちなみに、トニアさんとユウとベラは静観していた。トニアさんは落ち着いた顔を、ユウは優しげな顔を、ベラは少し驚いた顔をしている。


「さぁ、ピーリィの話はこれで終わり!晩ご飯を食べて、そのあとで今後の予定を話し合いたいんだ。じゃあみんなで手伝ってまずはご飯にしよう!」


 軽くパンと手を叩いて話を〆て、

俺達はいつものように動き出す。



 そして、いつものように賑やかな食事が始まった。





 あとで聞いた話だが、この皆で集まった話し合いはルースさんへの通話も繋いでいたらしい。食後に俺も通話に参加した時、ピーリィの成長に感慨深そうなルースさんの話しっぷりに俺も激しく同意した。



 ルースさんはピーリィの母親を知っていたんだから、俺よりも更に思うところがあるだろうな。俺が酒飲めたら付き合ってあげたいくらいだ。



 ……まぁ、下戸なんですけどね。




 食後の片付けは任せてほしいと姉妹に言われてしまったので、俺はルースさんとと通話をして、皆にお茶が配られたところで今日の家族会議が始まった。


 家族会議?まぁいいか、家族会議で。



「えーっと、今日は商会として登録したんだけど、どんな商売をするかって実はまだちゃんと決めてないんだよね」


「食材の卸売りじゃないんですか?」


 沙里ちゃんが手を上げて言う。

いや別に手を上げなくてもいいんだけど。


「はーい!屋台もいいと思う!」


 美李ちゃんも姉に倣って手を上げて言う。


「はんばーぐ、いいと思う!」


 ピーリィも以下略。

手を上げてから発言する流れが出来ちゃったなこれ。



「屋台か……飲食店って意味でもそれもいいね。あ、それなら野営の時もそうだったけど、街の外でバーベキューしてた時も道具が足りなかったんだよね。

 だから、あとでキャンプセットみたいな道具を作れば屋台もやりやすいんじゃないかな?俺もコップをもっと改良したいし」


「そうなりますと、ここでは2日の滞在ですので今は案を練って、実際に道具の依頼は帝都に着いてからがよろしいと思います」


「そうですね。どうせ帝都では面会するにしてもすぐ出来るか分からないし、話が出来たとしてもすぐに進展するかもまだ分からないんですよね」


「はい。私が面会している間に色々と出来ると思いますよ」



 そこからはどんな道具が欲しいか、沙里ちゃんが紙に絵を描き、それに美李ちゃん達があーだこーだと意見を言って、沙里ちゃんが絵を修正してる。



 俺も自分がやりたい事を書き出してまとめておかないとな!





 ……ん?


 よく考えてみれば、帝都に着いてからって姫様とトニアさんは王族としての使命で皇族へ面会を求めるんだから、王都に着いてからは2人とはそれでお別れって事もあるんじゃないか?


 それに、ユウとベラも帝国領のさらに東にある獣人達の自治領へ行くって言ってたはず。てことは、この先一緒にいるかどうかは分からない、か。 


 俺達も帝都に着いてからこの先どうするのか考えるべきなのかもしれない。ピーリィと遠藤姉妹はおそらく俺と一緒にいるだろうから、この4人の今後を聞いてから、改めて4人で話し合わないとだなぁ。



 なんか、ピーリィが寂しがっていた気持ちが俺にも湧き上がってきてる気がする。ちょっと気分が沈みそうだから、今は皆と道具の話し合いにだけ気持ちを向けておこう。



 先送りだろうけど今考えてもしょうがないからね!





 こうして風呂の時間までああでもないこうでもないと、皆で意見を出しあって、欲しい物作りたい物をまとめていった。



体調と休日には気を配りたいですねぇ


次回はおそらく3日後になるかと思います。

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