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異世界に行っても袋詰め人生  作者: きつと
第9章 越境の道
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越境の終わり

世間では連休みたいですね……

遊ばれる方は楽しんで、仕事の方は一緒に頑張りましょう!

「……なんか、空気変わりましたね?」


 蛇の道と呼ばれる山から流れる川にあった橋を渡り切ったあと、

ふと感覚が変わった気がして呟いた。




「蛇の道を境に、気候や魔物、それにちょっとした作物なども変化があるのです。原因はあの山としか思えませんが、いまだに調査は進んでいないのです」


 トニアさんが霧に包まれて半分以上が見えない山々を指差して説明してくれた。皆も釣られる様に斜め後ろの山を見る。それにしても、どのくらいの高さなのか……誰も登頂報告がないっていうのが凄い話だな。



 それから2時間ほどかけて時折襲い掛かる魔物を倒しながら先へ進んだ。橋を渡ってからすぐ国境街だと聞いていたが、レーダーマップには魔物の群れがいくつも見えていたのだ。



 その初戦は蛇と蜘蛛だった。


 現れた魔物はアスプと言う全長10mじゃきかない大きな毒蛇、そしてヒュプノスパイダーと言う幻覚を見せる匂いを糸から放つ蜘蛛だ。

 蜘蛛は足を伸ばせば1mを超える上に群れを成す。もし糸を張り巡らされた森で遭遇していたら、気付かぬうちに幻覚に惑わされ捕食されていたかも知れない。そう思うとぞっとする。


 平野部の道から離れないよう十分に注意喚起された。



 戦闘は無理に突っ込まずに遠距離攻撃を主体にして対処している。元々初級魔法とはいえ常人の10倍はある魔力総量にモノを言わせた数で近づかせない。

 俺も蜘蛛や蛇相手ならボウガンが面白いように刺さるので御者台からの射撃戦に加わっていた。まぁ、さすがに調子に乗り過ぎて矢をかなり消費した頃に、それに気付いたトニアさんに説教されたわけだが。


 しょうがないじゃん!俺だって役に立ちたかったんだよ!



 あとで聞いた話では、後続の馬車から見たら俺達の馬車は砲撃兵器のように見えたそうだ。馬足を緩めたといっても走ったままの馬車から岩や火、矢、水と多彩なモノが撃ち込まれる光景をずっと見せられたらそう思われるのも納得だな!


 馬が怯えてたって言うけど、よくよく考えたらうちの馬達はいつも乱れないな……もしかしてこいつらってかなり戦闘慣れしてるのか?


「ま、そんなの考えててもしゃーないか」


「何か言いました?」


 蛇からトニアさんが毒腺を採取し、その処理が終わったものから沙里ちゃんが魔石を回収している。肉の解体に慣れたせいか、特に怖がる様子もなく作業していた。こっちもかなり慣れたもんだ。


「あー、美李ちゃんもだけど、やっぱり蜘蛛から魔石回収は辛そうだなって」


「……無理しなくていいって言ったんですけどねぇ。

わたしだって蜘蛛はこう、まだ気持ち悪くて」


 ピーリィがざくざくと蜘蛛を切り裂く横で、手を出せなくてぷるぷるしてる美李ちゃんがいる。ほんと無理しないでね?


「俺もダメ。食品工場って虫の混入なんて絶対起こせないからさ、とにかく過敏に反応するようにしてたら虫全般が苦手になっちゃってさ……」


「へぇ、そういうのもあるんですね」


「異物混入は会社が潰れる怖さがあるからね」



 なんて沙里ちゃんと会話してると、


「ふえぇーん」


 洗浄魔法を自身の周囲にばらまきながら美李ちゃんが突っ込んできた。

そのまま力なく沙里ちゃんの腰にしがみつく。


「もう、だから無理しちゃだめって言ったのに」


 溜息をついてから、まだしがみついている美李ちゃんの頭を優しく撫でる。

姉に叱られながら撫でられ、その温もりにやっと安心したのか震えが止んだ。


「あともう少しで街だから一緒に頑張ろうね」


 ぽんぽんと美李ちゃんの頭を軽く撫でて、後ろから飛びついてくるピーリィを迎えた。全ての魔物が塵になって消えたのを見届けたトニアさんも馬車に向けて歩き出す。

 俺達も馬車に戻ると、そこには馬車の後ろから足をぶらぶらさせたユウが全身で退屈アピールをしていた。


「出番なくてつまんなーい」


「じゃあせっかくだから火の攻撃魔法覚えてみたら?

俺達は使えば使うほど総量あがるんだからチャンスだよ」


「城でもそうだったけど、教えてくれる人みんな細かい事言い過ぎなんだもん。面倒だったから源じーの訓練に行っちゃった」


「だから使えないのか……でも、体に纏うのは出来てるんだからすぐじゃない?もう理論はいいから感覚で練習しちゃえばいいのに」


 御者台に戻る俺の言葉にがばっと起き上がり、後ろから飛びつかれた。お互い鎧も装着してるから柔らかいものが当たる事故はない。非常に残念だが。


「なになに?そんなんでも覚えられるの!?」


「そりゃあ美李ちゃんやピーリィだって感覚で撃ってるし。

2人はこうなればいいなーって思って魔法使ってるんだよね?」


 なるべくバカにしないように言葉を選んで聞いてみる。別に理論で固めた方が偉いってわけじゃないし、感覚だけだってきちんと発動してれば何も問題はないわけだ。



「うん。こう、集まれーってやって、どーん!ってやるとできるの」


「ピィリも、ずばーってやってるの!」


 手を前に突き出す美李ちゃんと、両手というか翼を広げて片足立ちをするピーリィ。エント戦の時の決めポーズみたいになってるな……


「そっかぁ。ならアタシもやってみよっかな……」


「うん、それがいい……っと、もう少ししたら次の魔物の群れか」


 すぐにユウが俺から離れて隣に立つ。


 でもさすがにまだ見えないだろう。やっとレーダーマップに引っかかったくらいの距離がある。数は13匹……違う、これ人が交戦してるのか!




 橋を渡ってから道は緩やかな右カーブの上りになっていて先が見えない。右を見れば徐々に海が近づき、左を見れば山の麓を越えて徐々に木々が少なくなって、すでに森ではなく林が点在している。


 レーダーマップの範囲を広げて後ろを確認してみた。特に魔物に襲われる事もなく、全部の馬車が横4列で付いてきている。対向車がないから多少横に広がっても問題ないようだ。


 再び視界を前方に移す。今も上り坂なので肉眼では見えないが、魔物と交戦しているのは隊列を組んでいるからどこかの組織のようだ。

 さらに先には人が多くなっているから、きっとそこからが街の入り口かもしれない。つまりは、かなり接敵されてるってことになる。



「まだ見たことない魔物か……フオルンっていうのがが8匹……それと、キュプロプスっていうのが1匹。こいつはちょっと他と違って強そうだなぁ。あとは……ああ、魔物じゃなくて人か」


 独り言のように情報を口にした。

俺としては声に出したつもりはなかったんだけど。


「フオルンはエントの亜種で、かなり格が落ちますね。しかし、キュプロプスはエントよりも強力です。枝や木は無くとも、単眼の巨人で怪力の持ち主です。戦闘に介入致しますか?」


 魔物と聞いてすぐに馬車の前方に控えていたトニアさんがいつもの解説をしてくれた後、姫様と俺に対応を求めてきた。


「マップで見た限りでは、4人パーティがキュプロプスを抑えていますね。周りのフオルンは統率の取れた兵が進行を防いでいる感じですね」


「……そうですか」


 俺の鑑定結果を踏まえて試案する姫様。


 こういう決断は政治が絡む場合が多いから、姫様の判断が一番だろう。一番年上なのは俺なんだけど、さすがにこの世界の貴族や政治なんてまったくわからん!いや、元の世界でも分かるわけないけどね!



「では、私達はフオルン討伐の手助けがいるか聞き、介入の許可が出ましたら実行いたしましょう。キュプロプスはその4人が抑えられているのでしたら、兵の手が空けば問題なく討伐出来るでしょう。

 彼らの手柄を横取りするようなことは避けておくべきですね。しかし、危ういようでしたら迷わず介入します。よろしいですか?」



 一度合図を出して馬車を止めて、後続に状況を伝えた。森も途切れて魔物の群れもその前方だけということもあって少々気が緩んでいるようなので、俺達は戦闘に入るので警戒は各自で頑張れと少し突き放した言い方をした。パウダには事前にそういう態度をとると伝えてあるが、特に護衛の少ない後ろ半分の人族の集団は慌てて装備を点検していた。


「まさか越境中に装備を外すような者がいるとは……」


 その慌てぶりにパウダが呆れてしまったようだ。

獣人族側は気を引き締めた程度で特に変わりはない。


 うーん……例え魔物に襲われても自己責任だって、

あの商人を捕縛した後に言ったんだけどなぁ。




 やがて緩い右カーブの上り坂が終わった。


 そしてその先の中心に立つ巨人と、エントより小さめだがそれでもなお巨木な魔物が、街からかなり離れた場所で街の兵や冒険者達と戦線を維持している様子が見えた。


「じゃあ俺達は行ってきます。少し距離を開けて後からついてきて下さい。周りに魔物はいないみたいですが、後ろの連中も含めて警戒をお願いします」


「貴方達もお気を付けて!では!」




 止めていた馬車が再び動き出す。やがて近づく戦闘区域を前に、馬車から飛び出した姫様以外の全員が巨人の左側に蠢くフオルンの後ろへ到着した。


 が、まだ攻撃は行わずにその向こうの兵を見る。あちらも突然現れた俺達に一瞬戸惑うがすぐに敵ではない可能性を視野に入れたようで攻撃されなかった。


「我々は王国側から越境してきた者です!もしよろしければ戦闘に介入し

魔物の排除に努めますがいかがなさいますか!?」


 まずは俺の方から事情と戦闘行動の承認を求めた。


 すると、1人の騎士が馬で俺達の対峙するフオルン側へ向かって来て、盾兵に守られた位置から返答した。


「私はのロワール帝国南国境街ゼスティラの護衛騎士団副隊長、ペストリーだ!貴公はあの後方に見える隊の代表か?魔物の殲滅に協力するのであれば喜んで申し出を受けよう!」


 兜をかぶっていてよく見えないが、おそらく顔の整った姿勢の良い男の返答を聞き、安心して討伐に乗り出す。


「了承いただき有り難うございます!では、後ろを待たせるわけにもいきませんので、早速行動させていただきます。フオルンは私達にお任せを!」


 いくよ、と皆に声をかけて各自行動を開始する。


 俺達の前にいるフオルンは4匹。そのうち3匹をボウガンで撃ち、意識をこちらに向けた。あとはエントと同じ3チームに分かれ、それぞれが1匹を攻撃して分断する。



 ただ、エントと同じ感覚でやってしまったせいか……


 トニアさんは流星錘で枝や地から襲う根を縛り上げようとしたが、勢い余ってそのままバキバキと折っていた。ベラが短槍で根元を突き崩すと体勢を維持出来ず倒れてしまい、そこを兵達の槍が脳天に殺到し、力尽きた。


 それを見たユウはすぐさま突進を開始した。


「んだらぁ!!!」


 例の品のない掛け声とともに根元から掬い上げる様に盾を跳ね上げ、5m以上宙に浮いた後落ちて来たフオルンに、その盾先で狙いを定めて上空へと突進した。


 ……いや、あれ突進というか昇○拳じゃね?


 炎を纏ったユウがフオルンの体を突き破って上昇し、綺麗に魔物の上に着地した。その後ろ姿はかなり凛々しい。


「わたし、出番なかったです」


 用意していた火球を解除した沙里ちゃんがこっちをみて苦笑い。俺も亜種って聞いたから強いもんだと思ってたんだけど……誰かが怪我するよりはいっか。



 なお、美李ちゃんとピーリィのチームは見た時にはもう終わっていた。一応ドーンと叩く音は聞こえたんだけど、その後があっという間すぎてね?見てなかったのがバレて2人が頬を膨らませて不機嫌に……



 敵の手数が減ったおかげで兵達も攻勢に周り、残りのフオルンもじわじわと倒されていった。そして、冒険者パーティへの支援も始まり、30分もしないうちに全ての魔物は討伐されて戦闘が終了した。



 いやー、暗くなり始めたからどうなるかと思ったけど、これで安心して街に入れるか!



 ……あ。



 一つ問題があったわ。



「すみません!あの例のカール達どうしましょう!?護衛騎士団の副隊長さんにすぐ引き取ってもらうなら袋から出さないとですよね?」


 慌てて馬車に戻って姫様に相談したら、


「馬車ごとにこちらが入って行って、そこから連れ出す形にしておけば大丈夫ですよ。その後に馬車の検分もして頂けば問題ありません」


「あ、そうですか。じゃあ副隊長さんが帰る前に伝えてきますね!」


 そう踵を返して向かおうとして呼び止められ、

馬車ごと向かって姫様も同行すると言ってそれに従った。


 ついでに後続の馬車にも合図を出してこっちに来てもらう。

その間に副隊長との話を済ませるために近くまで馬車を運んだ。




「改めて礼を言おう。あいにくと現在隊長ら主力部隊が出向していてな。私と数名以外がまだあの魔物ら相手では力及ばぬ集まりであったのだ。おかげで誰一人欠ける事無く乗り切れた。感謝する。

 しかし、貴公らは強いな……奇抜な動きもだが、獣人との連携に魔法に多彩な者ばかりではないか。どうだ?この国に仕官するつもりはないか?」


 馬を降りて兜を取った副隊長はやっぱりイケメンだった。

地位も名誉も顔もさらさら金髪も持ってなさるか!


 ……それはおいといて、



「俺……えっと、自分達は商人ですので。今まで通り楽しく商売が出来ればそれで十分ですよ。それより、罪人を引き取って頂きたいのです」


「ふむ、罪人とは?」


「これまでの経緯は私からお伝えいたしましょう」



 改めて俺と斜め後ろにいた姫様の自己紹介(もちろんサリス名義で)をしてから越境中の出来事を語りだす。隷属の魔道具や獣人迫害の話が出た時には憤る顔を見せたが、後続が追いつき俺達と親しく会話しているのみてすぐに落ち着きを取り戻していた。




「……申し訳ないが、そうなるとすぐに街に入れる事は出来ない」


「え?何故ですか?」


「実は先ほどの魔物戦闘で街中が乱れていてな、まずは沈静化させねばならない。そして主力部隊がいない状態で罪人を引き渡されても、ドルエス商会ともなれば対応にいささか不安が残る。

 そこで、翌日の昼までには隊長らが帰ってくるので、その時に改めて入国手続きをさせてもらえないだろうか?無論警備の兵も回すが、正直貴公らの強さと比べてはあてには出来んだろう」


「いえ。帝国からの抑止力として兵を置いていただけるなら、こちらは街の外でも構いません。ただ、出来るだけ外壁のそばで野営地を許可して頂けると助かります」


「当然だ。では場所はあのあたりで……おい、誰かついてこい」


 後ろの兵に声をかけた副隊長が馬に跨り、俺達も馬車に乗って外壁の傍まで進めた。後ろの連中も全員付いてくるように言ったので、60台を超える馬車が列を成してそれに続く。




 見通しのいい平原、すぐ横には街の外壁。


 一番街寄りは人族の例の商人の馬車だ。その集団を衛兵と残りの人族が囲む形で配置して、その隣に俺達の馬車、さらに隣に獣人達の馬車20台ほどが陣取った。


 さすがにあのカールという商人の馬車は信用ならないから、衛兵の目の届く所に置きたかった。それと、獣人達には申し訳ないが、街の門から一番離れる位置になってしまっても今回の人族とは距離を置いた。それはパウダを初めとした各馬車にも納得してもらえたのでよかった。




「まさか街に入れないとは思わなかったけど、ここなら安全に野営出来そうでよかったよ」


「そうですね〜。でもその前に……大きな仕事が待ってるみたいですよ?」


 馬車を止めて馬の世話をしながら沙里ちゃんと話していたら、ふと何かに気付いた沙里ちゃんが苦笑いで指差す。俺もその方向へ顔を向けてみた。




 そこには、子供を中心とした獣人達が期待の眼差しで俺達を見ている。その全員の目が語っている。



”美味しいごはんはまだですか?” と……



 そう、俺たちの戦いはこれからだ!



※まだ終わりません

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