1.わたし、婚約破棄したいです
小さい頃、夢見てた。
例え政略結婚でも旦那様になる人と愛し合えると。
「用事はそれだけですか。」
そう思って
「他にないようでしたらお帰りいただきたいのだが。」
いた頃もありましたね…
お父様から彼宛の手紙を預かったまではよしとします。
ですが届けて即はい、さようならって…久しぶりに会った婚約者の態度ではないですね。
イラつきを通り越して逆に冷静になれます…
ミリーシアはこれ以上ここにいてもお互い不快になるだけだと思い、彼のいう通りすぐさま帰ることにした。
「用事は以上ですので失礼させていただきます。お見送りは結構です。」
「そうですか、手間が省けました。」
そうだった、この方はこういう方だった。
嫌いな女性はとことん突き放す、そういう方だと。
ミリーシアは最初こそムカムカしていたものの、帰路が進むにつれてどんどん悲しみに覆われた。
婚約した時は彼に愛されたかった。
そのうち彼がわたしと距離を置くようになると、今度はただ側にいられればそれだけでと思うようになった。
でも今はそれすらも、叶わない。
ミリーシアは帰るなり、報告も兼ねて父の執務室を訪ねた。
「お父様、お手紙は渡しました。」
「ミリーシアおかえり。…その、どう、だった?」
お父様はわたしが婚約者とうまくいっていないことを知っていて時々、こうやって婚約者に会う用事を作ってくれるのだがいつも同じ。
ミリーシアは無言で首を横に振った。
ミリーシアの父、ミルドクは困ったなぁとため息をついた。
お父様がそう思うのも当然、わたしたちは18になる年に結婚すると婚約する時に決められていた。
そのリミットもあと1年。
こんな状態で結婚してもわたしが大変になるだけだとお父様なりに心配してくれている。
大変というのは彼とうまくいっていないというのもあるが、それ以上にミルドクがミリーシアを心配する別の大きな問題があった。
婚約者の彼には幼少期の頃から悩みの種があった。
それはあらゆる女性からのアプローチ。
高位貴族の嫡男、整った容姿。
お近づきになりたいと望むには十分すぎる程だった。
社交に出るたびに女性に話しかけられたり、付き纏われたりと散々な目に遭っていて家族以外の女性にはいい思いがなかった。
彼は次第に女性に対し厳しく、冷たく接するようになり、『氷の貴公子』と呼ばれるようになった。
それがアセル・カウディーヤ、わたしの婚約者。
アセルは年齢を重ねるごとにつれて容姿の美しさに磨きがかかっていた。
婚約者がいて、冷たくあしらわれても未だに彼の美しさに囚われている令嬢は多くいる。
仮にわたしたちが結婚したとしても、仲睦まじい間柄ではないことは周りから見ても明らかで、彼を誘惑しようとする女性は後を絶えないだろう。
ミリーシアにとってはそれがすごく辛い。
例え、自分がアセルに嫌われていても。
「アセル様は、わたしのことが嫌いとしか思えない。」
「そんなことないと思うよ。現に今まで婚約を続けてきたんだから。それなら婚約破棄くらい、彼ならやりそうなことだよ。」
「そう、なんだけど…」
そうだよね、彼なら婚約破棄くらい簡単に出来そうだけど…
その時、ミリーシアは盲点に気づいた。
どうして今まで気づかなかったんだろう。
嫌いなら婚約破棄すればいい!
いつまでも婚約していること自体がおかしい。
もしかしたら彼が婚約破棄をすることで不条理になることがある…?
それならわたしの方から破棄をすれば丸く収まる…?
自分から婚約破棄をするということがいかに自分にとって辛いことかミリーシアには分かっていた。
“それだけですか”
でももう、
“帰っていただきたい”
辛い思いは、
“手間が省けました”
したくない。
「お父様、わたし、婚約破棄したいです。」
「え、え?急に?どういうことだい、ミリーシア?」
「それは改めて話す!」
ミリーシアはそう言い残して父の執務室をそそくさと出ていった。
こうなったミリーシアがもう止まらないことを知っているし、
部屋に行って弁明したって無理だろうなとミルドクは悟った。
「はぁ、どうしてこうなるんだ。アセルくん、今回ばかりは本当にまずいかもしれないよ…」
ミルドクの寂しい独り言はもちろん、アセルにもミリーシアにも届くことはない。
ミルドクは悩みの種を早く解決してほしいと願った。




