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空白のトキ  作者: よし
3/3

23歳~亮太side~


*********



会社にもやっと慣れてきて、今日も同僚数人と軽く飲みにいって。

夜も更け閑散となりつつも、酔っ払いやキャッチなんかが行き交う駅前。

もうすぐ11月ということもあり、夜は大分肌寒い。俺はスーツのパンツに手を突っ込んだ。


「?」


駅前にしゃがみこむ物体を発見。

酔っ払いかな。


そいつは一人しゃがみこんだまま動かなくて。

辺りを見回しても連れらしい奴はいないし。

見た感じまだ若そうで。


その小さな姿が、何処かあいつに似てるような気がして…。


あー俺ってば変わってない!

変わらなきゃって思ってるのに!


でも気になり出してしまったら仕方ない。

俺はゆっくりとそのしゃがみこむ男に近付いていって。


「あの、大丈夫ですか?」


「…ぇ、あ…すみませ…」


のろのろと顔を上げたそいつは、俺の顔を見た瞬間目を見開いて。

俺も、動けなくなって。


「悪い!コンビニ並んでて…さ…」


聞き覚えのある声がして、その方に顔をやる。

ミネラルウォーターを持った俊の幼馴染みが立ってて。中田佳祐って言ったっけ。


「斎、藤…」


斎藤は俺の名字。

亮太と呼ぶのは俊くらいだったから。


「久しぶり…」


俺の声は、少し震えていたかもしれない。


「悪酔いしたんでしょ?俺のアパートすぐそこだから。よければ来なよ。」


「いや、大丈、夫、だから…ぅっ…」


言いながら口を押さえる俊に俺は、昔と変わってないななんて思ったりして。


「中田も一緒に。お茶くらい出せるし。」









「どうぞ。そんなに綺麗じゃないけど」


ドアを開けて二人を招き入れる。


とりあえず俊をトイレに直行させて。

中田も一緒に入って俊の背を擦ってあげたようで。


出てきたら俊は俺のベッドにそっと寝かせた。


「突然悪いな…」


中田(佳祐)が頭を掻きながら言う。


「いや、誘ったの俺だし。中田は気にしないでよ。」


「なんか今日すげえ飲んでさ。」


二人で俊の方に目をやると、静かに寝息をたてていた。


「なあ、斎藤。」


「ん?」


「なんで、別れようって思ったんだよ。」


中田は真剣な目をしていて。

俺の頭に4年前の夜が蘇る。


あの日。

あの夜。


「なあ、なんで」


―別れよっか―


「…それは」

「俊、あれから誰とも付き合ってないぞ。」


え?


「今はやっと普通に笑ったりできるようになったけど、あいつがどんだけ苦しんだかお前知らねえだろ。」


何言って、


「こいつは、俊は…!」

「やめろよっ!!」


いきなり響いた俊の声。

見ると俊は上体を起こしていて。

布団をギュッと握っていて。


「佳祐…も、大丈、夫だか、ら…。亮太も…ごめ、ね…」


力なく言った俊は、全然上手く笑えてなくて。


俺から先に離れていったのは

俊、お前だろ…?


「ごめん、中田、二人にして。」

「え?」


「ちゃんと送ってくから。」


「…わかった」


「えっ…佳祐…?!」


また明日な、と俊に微笑んでから、中田は部屋から出ていった。

急に静かになる。


「あ、えと…俺も帰…」


ベッドから立ち上がろうとした俊を、俺は再びベッドの上に押し倒した。


「いっ…りょ、た…?」


不安そうな俊の声。


「俺、知らない」

「え…?」


「俺の前から居なくなってからの俊のこと、俺知らないよ。」


シャワーを浴びて。

イライラする自分を落ち着かせて。

出てきて謝ろうと思ったら、もう俊はいなくなっていて。


「連絡もとれなくなって、大学に行っても会えないし、バイト終わって帰ったらお前の荷物がなくなってて…」


俊の両手首を掴む手に少し力が入る。


「鍵、ポストに入ってた時、俺がどんな気持ちだったか分かんのかよ…?」


携帯の番号も変わってて。

どこにいるかも分からなくて。

いつか戻ってきてくれるって信じて待ってた俺が。

ポストに入れられた鍵。


もう終わりだと。

告げられた瞬間。


「俊は、不安だって何度も言ってた。」


「その度に別れるって、俺は何度も言われた。」


俊の目から、涙が溢れた。


「不安なのは!お前だけじゃないって!なんでわかんなかったんだよ!」


俊は明るくて。

誰からも好かれていて。

幼馴染みの中田は俺より俊のこと知ってるし。


あの夜、バイト先の友達との飲み会の途中、俊と中田が二人で店に入って来るのが見えた。

何も言われてないのに。

酒が入っていた俺は、なんだか無性に苛ついて。

飲み会を途中で抜けた。


「俊に別れたいって言われても俺が傷付かないとでも思ってたのかよ。」


「りょ…」


「けど俺は俊がよかったから、好きだったから、その度にちゃんと言ってきただろ…」


不安なのはさ、俊だけじゃなかったんだよ。

俺だって中田のことすごく気になってたし。

いつか中田に俊を取られるんじゃないかって。


「なんでだよ…」


「なんであの時、お前の気持ち言ってくれなかったんだよ…」


―別れよっか―


本心なんかじゃなかった。

俺も、ちゃんと答えて欲しかったんだよ。

お前が俺に望んでいたように。


「別れたくないって…なんで言ってくれなかったんだよ…」


―俊、あれから誰とも付き合ってないぞ―


なんで。


―今はやっと普通に笑ったりできるようになったけど―


一言で良かったのに。

俺のこと少しでも想ってくれてたのなら、


―あいつがどんだけ苦しんだかお前知らねえだろ―


なんで俺に伝えてくれなかったんだよ。


「す…き…」


え…?


「りょ…た、のこと…すきだった、から…」


涙を流しながら、それでも俺を見つめる俊。


「りょう、たが、俺のこと、いらなくなっ、たら…邪魔に、なりたく…なかっ、たから…」


俺の下で震える、小さな身体。


「好き、だよ…!ごめ…今、も…りょ、た、が…好き、な…んんっ」


もう、我慢できなかった。


「りょ…ふぁっ…んっ…」


俊の唇を奪う。

貪るように。

混ざりあった唾液が、俊の顎を伝って落ちた。


「はぁ…亮太、俺のこと、いらなくなってない…?」


「んな訳ないよ」



この4年間。

俊を忘れられたことなんてなかった。


「俊は、俺と離れたい?」


俺は俊の頬に触れる。


「…や、やだ!亮太と離れたくない!」


ギュッと、俺の首にしがみつくように腕を回す俊。

俊の素直な気持ちと、その温もりがなんだかすごく幸せで。


「また一緒に暮らそっか」



空白の時は埋まらないけど。

俺たちはきっと、今から誰よりも密な時間を過ごしていくから。





おわり


お久しぶりです、木村よしです。


最後まで読んでくださった方、ありがとうございます!


今回は初のBLものでして、次は女の子同士か近親相姦ものを…と目論んでいます(笑)


切ない→ハピエンを目指して書いてみました。

切ないって難しいですね…。


一言でもなんでも良いので(それこそ「読んだよ」だけでも)、何かご感想などを頂けると本当に嬉しいです。必ず返信させて頂きます!よろしくお願いいたします。


ではでは

「空白のトキ」を読んでくださって本当にありがとうございます。

これからも木村よしとよしの作品たちを暖かく見守って下さい!



木村よし

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