マリ温泉2
ブックマーク、評価ありがとうございます!
励みになります!
男湯から出ると、外では「浴衣」を着たメティーナが待っていた。メティーナは私に気づくと透明の瓶に入ったクリーム色の液体を持ってきた。
「待たせたな。」
「いえ、私も今出てきたところですわ。それよりも、クリス様、こちらはフルーツ牛乳でございます!温泉に入った後のフルーツ牛乳は格別なのですよ?一緒にいただきましょう!」
ふむ、これはフルーツ牛乳とやららしい。普段の牛乳にフルーツの味が付いているものだろうか。
…それにしてもメティーナは美しい。
温泉で温まったからだろうか、顔が赤く火照っており、とても12歳だとは思えない色っぽさを出している。さらにこの「浴衣」だ。彼女の侍女マリーによって隙なく着付けられているというに、普段の服とは違い胸元が少しあいているため、直視できない。
…まだそこにあるものは育っていないが。
○*・.○*・.○*・.○*・.○*・.○*・.○*・.○*.
あ、クリス様が出ていらっしゃった。
…出てくるのがゆっくりだったし、長風呂をしたのだろうか。
なんというか、そう、色気がダダ漏れなのだ。
ここは男性と一緒に来るべき場所ではなかった。
浴衣だって、いつもの服より胸元が開いているから、胸がないのが気になるし。
…そう、私胸ないんです。
お母様はぼいんなのに。
いやいや、私はまだ12歳だ。
大丈夫、3年後くらいには大きくなっているはず!
フルーツ牛乳を飲み終わった後、縁側で2人で涼んでいる時だった。
「温泉というものは心が休まる良いものだな。」
「はい、わたくしは帝都から戻った時は入り浸っておりました。温泉にサウナがございましたでしょう?あそこに入ると代謝が良くなるのです。わたくし、そのおかげで少し痩せたんですの。」
「ほう、そういうものか。
…メティーナ、私がこのフォーサイス公爵領に来たのは訳がある。
メティーナ、君に私の婚約者となってもらいたい。」
薄々はわかっていた。
第1皇子様の学園入学前の1年間、こんな大事な時期に何の理由もなくただ約束したから来たなどと一介の臣下の娘との約束だけで来れるわけがない。この滞在は、皇帝と皇妃様が後押しをされて実現したのだ。そして、それほど重要なことといえば、まだ決まっていない未来の皇妃のことだ。まだ正式に発表されてはいないが、おそらく、絶対に、皇太子に任命されるのはクリス様だ。その妻になるものは、そう、皇妃となるのだ。
そんなに責任のある立場に私をと望んでくれるクリス様や皇帝陛下、皇妃様にはとても感謝したい。でも、私はヘスフィラルに婚約を破棄されたことの心の整理がついたばかりなのだ。またすぐに婚約とは、あまりにも早過ぎる。せめて、1年程心の準備をさせていただきたい。それに、弱冠12歳で婚約を破棄された令嬢よりももっと他に良い条件の令嬢がいるだろう。
「クリス様、わたくし、そのようなお申し出をいただき、とても嬉しく思いますわ。しかし、わたくしまだ婚約を破棄されたばかりですし、もっと他に良いお方がおられると思いますわ。」
もし、クリス様の隣に他の女がいたら、と想像すると、胸が痛くなる。でも、次の皇帝となる彼には完璧な方と結婚してもらわなければならない。
「メティーナ、私は…」
その時だった。
目の前から光る何かが凄いスピードで飛んできて、私はすぐにそれが魔術だと分かり、クリス様を伏せさせた。しかし、何個も何個も次々と魔術が放出されてくる。後ろでバタンッと音がする。縁側の前の板の戸が閉められたのだった。他には出口がない。私とクリス様とマリー、3人だけで締め出されたということだ。唯一魔法を使えるクリス様の執事リュシアン様は丁度席を外していた。内側から締め出されたということは、内通者がいたことを示している。これは完全に私の責任だ。自分が犯した失敗は自分で責任を取る。私は縁側の下に降り、クリス様の前に立ちはだかった。
「っメティーナ!やめろ!!戻れ!」
クリス様が叫んでいる。しかし、私は…
「戻りません!わたくしは臣下です!臣下は皇族を守るもの!ここにわたくしの愛剣がなく、戦うすべがないならこの身を盾にするまで!」
「っっ、お嬢様!!」
いきなりマリーが飛び出して私を突き飛ばす。
ちょうど私が立っていた場所に穴が開いていた。
マリーは自分も飛ばされてしまい、頭を打って気を失ってしまったようだ。
領地団が扉を突き破った。
もう大丈夫。
クリス様がこっちに走ってくるのが見える。
「クリス様!
来世ではわたくしを妻にしてくださいませ!」
これが私の本当の、おもいだ。
「メティーナ!!!!!!」
私の体を鋭いものが貫いた。
傷口が熱い。
当たりどころが悪かったようだ。
もう助からない。
傷口から尋常じゃないほどの血が流れていく。
私の体が揺れる。
誰かに抱きとめられた。
この温かみはクリス様。
私が辛い時、抱きしめてくれた。
思えばヘスフィラルに抱いていた思いは恋ではなかったのだ。
…だって、クリス様に抱いている思いとは全く違うのだから。
私は安らかに目を閉じ、視界は真っ黒に染まった。
○*・.○*・.○*・.○*・.○*・.○*・.○*・.○*・
メティーナの体が私にもたれかかる。
だめだ、メティーナ、死ぬな!
「メティーナ、メティーナ、目を覚ませ!メティーナ!
私は君を妻にすると決めたんだ!メティーナ!
勝手に死んだら許さないぞ!起きろ!」
メティーナの体はどんどん冷たくなっていく。
「メティーナ様っっ」
「め、メティーナ様っっ!」
「お嬢様?お嬢様!お嬢様!どうなされたというのです?お嬢様!!!!お嬢様…っっうっうっ。お守りできず!!!!申し訳ございませんっっ!!!!うあぁぁぁっっ!」
(汝、このメティーナを助ける力を求む者か?)
そんな、都合のいいことがあるものか?
…何でも良い、メティーナを助けられるのなら。
(ほう、そうか。もしそれが黒魔法でも?)
黒魔法?
あれはもうとっくに消滅しているはずでは…?
あ、私が授けられたのなら復活してしまうのか。
あれは何歳の時だったか。
「クリス様、なぜ人は黒魔法に頼ってまで永遠の生を求めるのでしょう?」
「さあ、そんなことはわからないな。」
「わたくしは、絶対に嫌です。
永遠の生を持つということは、人生の1日1日を大切に、大事に過ごせなくなるではありませんか。人は、限られた生だからこそ、毎日を大切に、大事に営んで行くのだと思います。私にとって、これまでの10年間、毎日が大切な思い出です。この大事な思い出を穢したくはありません。」
はっとさせられた。
あの頃メティーナは10歳だった。
私は10歳のメティーナに何を教えられているのだ。
情けない。
本当に、メティーナには敵わない。
(で、どうなのだ?)
黒魔法なら、望まぬ。
(なぜだ?メティーナを生き返らせるのだぞ?)
黒魔法は、永遠の生をもたらすものだろう?
普通の人間には戻れぬ。
なにより、メティーナが望んでおらぬからな。
(ふむ。よし、そなたに聖魔法を授けよう。)
…は?
聖魔法だと?
(む?そなた、まだ精霊と契約しておらぬのか。
聖魔法は聖属性じゃからな。
聖属性はその個人が持っている属性を補強して生み出すのじゃ。
だからの、まず適当に契約せねばな。)
私はあらゆる情報に錯乱している。
…何でも良い、はやくメティーナを、助けてやりたいのだ。
(そうじゃな、死んでしまっては意味がないからの、
ふむ、そなたの属性は火に草に水か。今時珍しいのお、3属性とは。
…よし、火はライオン、草は馬、水はシャチじゃな。
よし、出でよ!)
この場にライオンと馬とシャチが出てきた。
しかし、この三体は明らかにただの動物ではなく、圧倒的な存在感を放っている、まさに精霊だった。それも上位の。
メティーナの状態に悲しんでいた皆が腰を抜かしている。
(よし、魔力道を繋ぐか。
…ふむ、これで良いじゃろう。)
これは凄い。
体力がどんどん削られて行く。
(名前は後でつけてやれ。)
わかりました。
(次は聖魔法のドラゴンか。)
どっドラゴンですか!?
(何を言っておる?
聖魔法の精霊はドラゴンしか存在しないであろう?)
そ、そうなのか。
うっ、いきなり頭が激しく痛む。
(そなたは今、人の1日の比でない体力を既に使っている。このまま、今から治癒魔法を使えば、最悪死ぬであろう。少なくとも数日意識を失う。それでも良いか?良いなら呪文を教えてやろう。)
構わない。やらないでメティーナが死んでしまうよりましだ。
(…そうか。ならば、呪文は…)
呪文が頭に直接書かれるような感じがする
「最大級の精霊の治癒」
「なっっ、」
ずっと放心状態のように見え、いきなり精霊が三体現れ契約がなされて、それからドラゴンが現れてまた契約し、苦しみだした私がいきなり魔法を、しかも使えるものは現在存在しない上位の治癒魔法を使いだしたら驚くなんてものじゃないだろう。
メティーナの体が、私の属性、火の赤、草の緑、水の青、聖の金の光に包まれて行く。
それより、私に力を授けてくれた、あなたはいったい…?
(いずれ分かる日が来よう。今はとりあえず生き抜け。そなたは自分が思っているより重症だ。メティーナが守ったはいいがもちろん襲撃によってメティーナ程ではないが重症だったからな。)
そして、私の意識はブラックアウトした。
今回は少し長めでした。
ご覧いただきありがとうございました。
さて、ここで魔術の話を。
この世界では、術者は精霊と契約し、その精霊が作り出す魔力を使って魔術を行使します。
また、精霊が作った魔力を人間に渡す道のことを魔力道といいます。
人間が魔力を持っていないわけではなく、ただ量が少なすぎて使えないという話です。
自身の魔力は生活魔法ぐらいにしか使えません。
平民も魔力を持っています。
基本的に生活魔法しか使えません。
平民には精霊と契約する適性がないからです。
稀に適性を持っている平民がいますが、それは貴族の隠し子だったり、貧乏な家の貴族の娘が裕福な商人に嫁ぎ、生まれた子だったりするので、基本的に平民は適性を持っていません。