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そして殺し屋は彫り師になる  作者: Aです


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解体屋

闇に沈みそうな静かな夜。

川にかかる橋の下、むせ返るような鉄の匂いの中で、男は酷く退屈していた。

足元でかすかに動く肉の塊。手足をもがれ、喉を潰された「それ」に、男は大きなあくびを噛み殺しながら話しかける。


「最初はスリルもあったんだよ。どこまで殺さずにバラせるかとかさ。わざと、こういう人の通りそうな場所を選んで隠れてやるのとか」


男の手元で、ナイフが淡々と肉を切り分けていく。


「でもさぁ、もう飽きちゃったんだよね。どれくらい加減すれば死なないか、どう気を付ければ見つからないか、全部判るようになっちゃったし」


男は最後に冷めた視線を落とした。


「じゃあね、お嬢さん」


それが、“解体屋”と呼ばれる殺し屋の日常だった。

痕跡を消すために剃り落とされた頭髪と眉毛が、男の青白い肌をいっそう際立たせている。

指紋もDNAも、何ひとつ証拠は残さない。たとえ相手が女子供であっても、息をするように命を奪ってきた。


流れ着いたこの国は、内紛と政治派閥の過激化で、殺しの依頼が山のようにあった。

不都合な政治家、ライバルの役員、あるいは個人的な怨恨。理由は問わない。

ターゲットを確実に仕留める腕前と、その残虐さから、裏社会で男を知らぬ者はいなかった。


だが、男は飢えていた。

退屈を紛らわせるため、プロの格闘家や、調子に乗った同業者を標的にしたこともある。

わざと逃がして嬲ることも、ギリギリの肉を削ぐことも、とうに遊び尽くした。


どれだけ血を流させても、男の渇きが満たされることはなかった。



ある日、男は街の境界にある地下闘技場へ向かった。

異常なほど強い男が現れた、という噂を耳にしたからだ。


薄暗く、錆びた鉄と汗の臭いが充満する空間。

すり鉢状の観客席からは、獣じみた怒号が響いている。

リングの上では、十歳そこらの少年が戦っていた。

刃物を振り回す男を相手に、少年は素手で立ち回り、圧倒している。

確かに腕はある。だが、男の心を昂ぶらせるほどではなかった。


男の視線は、リングの奥、暗がりに佇むもう一人の影に釘付けになった。

大方、あの少年の師だろう。一目で理解した。

あれは、本物だと。


裏社会の捕食者を数多く見てきた男すら、その影の正体は知らなかった。

表の光にも、裏の闇にも属さない、完全に異質な存在がそこにある。

男の胸に、久しく忘れていた冷たい歓喜がこみ上げた。

自分の知らない領域に、まだこれほどの強者がいる。


リングの上で決着がついた。少年の後ろ蹴りが男の顔をとらえ、沈めたのだ。

あの奥の男と刃を交えるには、まずこの小犬を片付けるのが早そうだ。

メインディッシュの前に、少年の血で場を温めておくのも悪くない。


男がゆっくりとリングの踏み板を上がると、奥の影が微かに動いた。

少年は背後の存在に気が付き、子鹿のように震えている。

その様子を見ていた影がその少年をリングから優しく降ろした。

代わって、その影がロープを飛び越え豪快にリングへ上がった。


男は一瞬、奇妙な落差を覚えた。

目の前に立ったのは、赤みがかった金髪をオールバックにした、革ジャケット姿のおよそ戦場には似合わない風体の男だった。

目元は奇妙なゴーグルで覆われており、表情は窺い知れない。

裏社会の人間が放つ、特有の刺すような殺気や、血の匂いが一切しなかった。


油断、だったのかもしれない。

次の瞬間、男は己の命が「文字通りの意味で」握られたことに気づいた。


ゴーグルの男が、こちらを見た。

ただ、それだけだった。

拳を交えるどころか、まだ互いに構えてすらおらず、間合いも離れている。

なのに、男の身体は、指先ひとつ動かせなくなっていた。


ゴーグルの男の唇が、微かに動いた。何かを静かに、男に向けて語りかけている。

だが、その声は男の耳には一切届かなかった。激しい耳鳴りが全ての音を掻き消していく。


息が詰まる。肺が空気を拒絶し、心臓を直接太い指で握り潰されているような錯覚が脳を支配した。

何千人もの肉を削ぎ落とし、死を司ってきたという自負が、一瞬で消し飛ぶ。動悸だけが耳元で爆音を立て、視界の端が急速に明度を失っていく。


蛇に睨まれた蛙、などという生易しいものではない。いま、このリングの上で、ただの「動かぬ肉の塊」に成り下がっているのは、他でもない自分だった。


伸びてくる手が、どこに触れようとしているのかさえ分からない。

目線すら動かせず、ただ止まった時間の中で、明確な「死」だけが津波のように突き付けられていた。

今の男には、汗1つかく自由がなかった。


だが、その圧倒的な重圧は、唐突に男の身体から離れた。

ゴーグルの男が、興味を失ったように背を向けたのだ。理由は分からなかった。


敗北と呼ぶことすらおこがましい。男はただ、天災の前に立ち尽くした虫ケラに過ぎなかった。


呆然としながら、男は考えた。なぜ自分はまだ生きているのか、と。

それは男にとって、到底「慈悲」とは思えなかった。

本作をお読みいただきありがとうございます。

この物語は全8話の連載作品となります。


なお、本作は「小説家になろう」のガイドラインに基づき、AI利用状況設定を「補助的利用」としています。

作者が執筆した原稿をもとに、「より情景を深めるための表現技法のアイデア」や「推敲のヒント」を生成AIに相談し、それを参考に作者自身の手で文章のブラッシュアップ(書き直し)を行いました。


ストーリーの展開、キャラクター、セリフ、そして実際の本文の執筆にいたるまで、すべて作者自身の決定によるオリジナル作品となります。

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