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七番目の黙示録  作者: 凛月
第三章・忌むべき邂逅
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プロローグ

ST.954 『シャンデラ大陸・メリア神聖国聖都スペルライト』


 町を出てから一週間。バスと列車を乗り継いで、ようやく神聖国の首都である、聖都スペルライトに到着した。


「ここに来るのも十四年ぶりか。街並み……全然違うな…」


 プレイヤーによって魔改造されていない街並みは、厳かで統一感がある。

 スペルライトは水と緑が豊かな、大河の近くに興された国の首都だ。中心には女神を祀る大聖堂があって、この街のどこからでも見えるほどの高さを誇っている。

 世界最大、最古の宗教国家の名は伊達じゃない。


「えーと、まずは冒険者組合……道順わからねえ…」


 ゲーム時代と区画が全く違う。まずは地図だけど……今、魔術書はトランクの中に入れている。盗難対策の為……ではない。ただ――


「……無理か」


 竜の一件。原初の魔術を使用してから、魔術書は沈黙している。術具として仕えるし、書かれた情報を見る事はできるけど、魔力を通して視たいページを見ることが出来なくなっていた。

 この状態で、何千ページもある中から地図だけを見つけるのは至難の業だ。二年でかなり付箋を張ったりしたけど、地図のページが何処にあるのか見当もつかない。

 さて、どうやって行こうか……


「あ、組合の場所は変わんないか」


 あれは破壊不能オブジェクト認定されていた。だから場所は変わらないはずだ。だとしたら、大聖堂近くにあるはず――。

 そう思ったが吉日。どこからでも見える大聖堂に向かって一直線に進むと、冒険者組合が見えた。

 冒険者組合。世界各地の主要都市に拠点を置く、完全中立組織だ。

 現在「冒険者」という職は「傭兵」へと名称が変わっている。冒険者組合というのはその名の名残だ。

 組合で発行される身分証は、どの国でも信用性が高いから、登録料は割高だけど、作っておかないと後々面倒だ。

 今は午前十時。登録してから宿探しをしても、時間に余裕がある。昼食にもまだ早いし、先に登録を済ませておこう。

 組合の中は、かなり混雑している。……武器の持ち込みは許可されてるけど、どでかい武器のせいでかなり場所とってるな……地球の役所とは大違いだ。

 目的があるのは身分証登録の窓口。それから傭兵登録だ。

 身分証登録の窓口は、大分奥の方にある。そして全く人がいない。まあ、作るのに五十万リアン必要だから滅多に利用する人がいないだろうし、当然ではある。そして、同じく職員もいない。

 呼び出しのベルを鳴らして、備え付けの椅子に座って職員を待つ。

 来るまで、どうせ数分かかるし、必要なものを取り出しておくか。

 まずは住民票。これ失くしたらパラインにとんぼ返りしないといけないから、毎日確認してたな。

 そして金。一万リアン札五十枚の束を誰にも見られないように一枚一枚数えて……と、あるな。路銀と別にしてたから間違って使うことも無かったし、心配なかったか。


「お待たせしました。っと、子供一人かい?」

「はい。そうです。連れはいません」


 出てきた職員は定年間近らしき男性だった。カートンさんね。


「身分証の発行で間違いないかな?」

「お願いします」


 そこからは、まさに役所の手続き。記入と確認、受け取り。慣れているのかカートンさんの処理速度が滅茶苦茶速い。これは助かる。


「それじゃ、この針を指にさして血をとってもらえるかな。ちょっと付くくらいで大丈夫だから」


 そんなのお安い御用だ。血を流す事には――これ、よくよく考えれば、慣れちゃいけないやつだな。

 そうして、採ったを二枚のカードに押し付けた。生物は皆少なからず魔力を持ってるから、魔術師じゃなくても血には魔力が宿ってる。それで判別できるようになってるみたいだな。


「はい。これで登録完了ね。もう一枚は紛失した時の予備ね。ここではここでは一度目は無料だけど、二回目と別の組合では再登録料がかかるから気を付けてね」

「はい。ありがとうございました」


 たったの三十分で身分証が出来上がった。地球じゃ何日もかかるって言うのに……これも魔力のおかげか。

 そしたら、次は傭兵登録だ。こっちはちょっとだけ人がいる。


「金はあるんだ!登録させてくれ!」

「ですから、未成年は紹介状が無いと登録できないんですってばあ」


 といった揉め事が起きている。受付には新人っぽそうな若い女性、声を荒げてるのは赤髪の少年。安っぽいけど一式装備は整ってるな。ただし、未成年と……。

 未成年の場合、二級以上の傭兵から紹介状を書いてもらわないと登録できない。この制度は未成年の死亡者数が圧倒的に多かったために二年前作られたらしい。俺は運よくオベルクという便利な傭兵と知り合いだから、簡単に手に入れることが出来た。予備として仲間の傭兵に二枚書いてもらったから準備に抜かりはない。

 どうやら、あの少年は制度の改正を知らなかったようだ。

 ……邪魔だなあ。ルールは守れっての…。


「あのー、何かトラブルでも?」

「この姉ちゃんが紹介状無いと登録できねえって言うんだよ!三年前に登録するって言ってたのに!」


 あー……口約束本気にするタイプかこの子……。


「ちなみに君何歳?」

「十三だ!」

「あと二年くらい我慢しろよ……つか、他の人の迷惑だから、ちょっとこっち来い」

「お、おい」

「すみませんお先どうぞ~」

「あ、ありがとうございます」


 駄々こねる子供はめんどくさい。特に十歳越えても聞き分けの無い奴は、ほんっとーにいろいろとめんどくさい。


「んじゃ、お前帰れ」

「はあ!?登録しねえと帰れねえんだよ!」


 引きはがして、さっさと帰らせる予定だったのに……。


「で、何で帰れねえんだ?」

「帰りの金がねえから、傭兵になって稼ぐしかねえんだ」


 典型的なアホだこいつ。


「傭兵じゃなくてもいいじゃねえか。どっかで日雇いでも見つけて帰れよ」

「未成年で日雇いしてくれるとこなんてねぇに決まってんだろが。バカかよお前」


 こいつクソムカつく。でも正論でなにもいえねえ。


「とにかく無理なもんは無理だろ。登録したいなら、どっかで傭兵ひっかけて紹介状書いてもらえ」

「俺に頭下げろってか!?んなことするわけねえだろ!」


 手に終えねえなこいつ。素直に聞いときゃ、探すくらいはしてやったのに。


「だったら、歩いて帰れ。じゃあな」


 そう言って、ちょうど空いた受付に行こうとした途端、腕を掴まれた。


「お前も未成年みたいじゃねえか。紹介状もってんだろ?くれよ」

「めんどくせえガキだなお前。はあ……組合内での暴力御法度ってことも知らねえのか」

「あ?何言って――…」


 魔術で眠らせて、とりあえず床に寝ころばせておこう。

 この世界、この時代で無詠唱の魔術は高度な技だ。しかも、腕を掴まれた状態で術具らしい術具も持っていない。

 だから、端から見れば急に子供が倒れたようにしか見えない。


「頭に血が上りすぎて、倒れたみたいです。お願いできません?」

「え、えーーと、はいえっと、しょ、職員よんできますう!」


 受付にいた新人はあたふたしながら、奥に引っ込んでいった。

 十三でこれか……アンリがどんだけ優秀で、聞き訳が良くて、我慢強かったか改めて実感させられたな。いや、アンリが優秀過ぎるだけか?流石は俺の妻だな。


「君。今魔術を使ったね」


 アンリとの出会いを思い出してるんだ、話しかけないでくれない…か。


「……え?」


 自分の世界に入り込んでいる間に、真後ろから声が聞こえてきた。魔術を感知した……?


「いや、使ってないですけど」


 振り向くとそこには白いローブを目深にかぶった少女が、膝をついている俺を見下ろしていた。


「そうか。じゃあ、私の勘違いだったようだね。でも、少し話がしたい。外で待っているから、登録が終わったら来てほしい」


 そう言って、俺の返事を待たずに出口の方へ歩いて行った。


「なんだったんだ…?」

「はいはい。運ぶからちょっとどいてね」


 新人が呼んだであろう、カートンさんが少年を引きずって運ぶの見ながら、俺は受付へと進んだ。……人間を引きずって運ぶってどうなの?


「あ、あの。さっきは助かりましたあ」

「いや、普通に不愉快だったんで、引きはがしただけです。傭兵登録お願いします。紹介状はこれを」

「はい。お預かりしますねえ」


 メガネにおさげ……そしておっとりした性格。うーん。キャラがたってるな。

 なんて、考えている場合じゃない。さっきの人完全に俺が魔術を使ったのを感知してた……。シャンズもアンリでさえも見抜けない、俺の魔力操作だぞ?気を抜いていたわけでもないのに、どうやって見抜いた?


「もしかして、師匠……なわけないか」

「あのお……登録完了しましたので、お手続きは以上ですぅ。依頼の受付は専用の窓口でお願いしますねえ」

「あ、はい。ありがとうございました」


 何やら説明してたっぽいけど、あの人が気になって、まったく聞いてなかった……まあ、大体オベルクに教えてもらってるから大丈夫だろう。

 これは会いに行くべきか…?でも、もし師匠だったら言葉通り公開処刑されそうだし……いや、師匠でなくても俺の魔力操作を見破れる人間だ。それなりの魔術師に違いない。もしかしたら戦力になるかもしれないし、接触しておいた方がいいな。

 手続きを終え、組合を出ると、端の方でポツンと一人たたずむ、白いローブの人物がいた。あの人で間違いない…よな。


「お待たせしました」

「来たね。お腹は空いている?立ち話もなんだから、何処かお店に入ろう」

「その話長くなりますか……?」

「君次第かな。この後何か用事があるの?」

「宿探しをしないといけないんですけど」

「なら、安心して。宿なら私が紹介するから」


 安心していい物か……。でも、とりあえず師匠じゃないことはわかった。師匠はこんな親切じゃない。


「では、お言葉に甘えます」

「そうか。じゃあ、行こうか」


 純白の白いローブ……ここまで奇麗ってことは、何らかの魔術を使っているか、そういう刻印が施しているか……なんにせよ、高級品だ。

 それに、片手に持ってるトランクケース。軽々持っているけど、どう考えても少女の細腕で持てるものじゃない。身体強化か、魔術か……もしくは高級品か……。

 ……紹介される宿が高級宿だったらどうしようか……。

 なんだかんだ、観察しているうちに、少女は足を止めた。


「ここにしよう。この店はランチが美味しいんだ」


 てっきり高そうなところを紹介されると思っていたけど、よかった、普通のレストランだ。

 店内も聖都でよく見る様式で、居心地も悪くない。流れているBGMも洒落ていて好感が持てる。……竜のブレスで吹き飛んだ店を思い出すなあ。

 奥の方のテーブル席に案内され、例の通りお冷と注文を聞かれる。メニュー表に手を伸ばそうとすると、少女はウキウキとした声で


「日替わりランチセットを二つお願い。紅茶を一つ……君はどうする?」

「あ、じゃあ同じので」


 有無を言わせぬ速さ……まあ、美味しいって事らしいし大丈夫か。好き嫌いもないし、この身体アレルギーとか皆無だし。


「さてと、本題に入ろうか」

「いきなりですね」

「そのために、店に入ったからね」


 少女は目深に被ったローブをとり、顔を……というか耳を見せた。


「私はリーセル。見ての通りエルフだよ。こう見えて、二千年以上生きているから、子ども扱いしないでよね」

「あ、ハルです。よろしくお願いします」

「敬語はいらないよ。堅苦しいのは嫌いなんだ。私みたいに長く生きていると、皆畏まってしまってさ。ゆったりできないんだよね」

「わかった」


 エルフ……の魔術師。なるほど、見破れるわけだ。年の功には勝てない。

 にしても、エルフか……。


「不思議そうな顔をしているね。まあ、エルフはほとんど里からでないからしょうがないか」


 そもそもエルフは個体数が少ない。こうやって人里に出てくる変わり者がいなければ、幻とまで言われるほどだ。


「君は魔力の扱いがすごく上手いね。さぞ高名な師匠に教えてもらったんでしょ」

「そうですね。高名かはわかりませんが……」


 師匠が聖域に戻ったのが二百年前だから、確実に名は廃れている。


「無詠唱で魔術を使えるみたいだね。未成年でそれを身に着けるのは、とても凄いことだよ」

「恐縮です……」

「もしかして、君は『沈黙』の弟子かな?」


 リーセルは確信付き、不敵な笑みを受けべながらそう聞いてきた。だけど……


「えっと…多分違う…かな」

「あれ……そうなんだ。ああ、でもあの人は自分の事あまり話さないし……君の師匠、金髪で私より背が低くて、表情が死んでなかった?」

「あ、はい。全部その通り。完全に一致してる」


 この人、師匠の事知ってんのか……まあ、長命の魔術師界隈で知らないほうがおかしい……か。


「魔弾っていう技も使える?」

「何度も撃ち込まれた」

「魔術の話になると熱くなる?」

「なる。何時間も拘束された……」

「そうか。なら『沈黙』――私の知っている魔術師で間違いないね。五十年程、魔術の手ほどきをしてもらったことがある。君は私の弟弟子という訳だ」

「師匠が弟子を……」


 まあ、千年も旅すれば暇つぶしに弟子をとることもあるか。


「というか、その沈黙ってのは、師匠の二つ名みたいな?」

「そうだね。でも、二つ名というより、名前に近かいかな。なにせ、誰にも名前を教えなかったみたいだから。ハルもそうじゃない?」

「そういえば、師匠としか…」

「それも、縛りの代償なのかもね」


 師匠の縛りを知っている……。という事は、この人天使の血族――いや、第二天使はエルフだし、二千年生きてるってことは、そもそも血が薄まっていないって訳で……情報を理解できるのは当然か。


「さて、そんな君に頼みたいことがあるんだ」

「なんだ?」

「緑の界異。その肉片の調査、および封印または破壊を手伝ってほしい」


 突然舞い降りた本命。願ってもない好機。そして、師匠の弟子。断る理由が見つからない。


「こちらこそ、よろしく」


 俺は遥か歳の離れた姉弟子と固く握手を交わした。

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