無職、園芸師に転職!? 勇者パーティにバカにされました
「ユウマよ。そなたには王宮庭園を修復する大役を任せる」
王様の言葉がまだ耳に残っている。
……いや“大役”って言い方してるけど、要するにガーデニングだよな?
俺、異世界転生したのに職業が 無職 → 草むしり → 庭師 ってどういうキャリアパスだよ。
早速、庭園に集められた庭師や兵士たちが俺を見つめる。
「これが……庭を壊した張本人か」
「ユウマ様、お願いします!」
「いや俺が壊したんじゃないって!!」
土を耕し、苗を植え、花を並べる――地味で泥臭い作業が始まった。
雑草を引っこ抜いていた頃より、むしろ労力は数倍。
「はぁ……腰にくる……。勇者っぽいバトルどこ行ったんだよ……」
そんなとき、煌びやかな鎧に身を包んだ一団が現れた。
「ふん、これが噂の“草むしり勇者”か」
勇者パーティだった。剣聖、聖女、魔法使いといったチート揃い。
剣聖が鼻で笑う。
「勇者どころか、ただの庭師じゃないか」
聖女も肩をすくめた。
「神から祝福を受けた私たちと違って……泥にまみれた“無職”なんて哀れね」
ぐっ……!
心に刺さる。だが俺は土にまみれた手を見て、奥歯を噛みしめた。
「俺は……無職だ。でも、この庭を戻すのは俺にしかできない!」
そう言って再び鍬を振るった。
「見ろよ、泥だらけで鍬振ってるぞ」
剣聖が仲間に笑いかける。
「勇者どころか農夫だな。いや農夫以下か?」
魔法使いも鼻で笑った。
「私なら庭園くらい一瞬で幻術で飾れるのに。効率が悪い」
聖女はわざとらしくため息をついた。
「人々の祈りを受ける私たちと違って……ただ土をいじるだけなんて、なんて惨めなのかしら」
……くそ。全部図星だから反論できねぇ。
だが、俺の周りに集まったのは草むしり隊の子供たちだった。
「ユウマさま! 私たちも手伝う!」
「穴掘るの得意だよ!」
「お水も撒くー!」
ちびっ子たちは手足を泥だらけにして、苗を植え始めた。
衛兵や庭師たちもその姿に感化され、次々に作業に加わっていく。
気づけば庭園は大騒ぎの修復イベント状態に。
「こっち肥料足りないぞー!」
「バケツリレーだ!」
「花壇、形崩れてるぞ!」
勇者パーティはそんな光景を冷ややかに眺めていた。
「群衆の慰めを糧にするとは……やはり“無職”は無職だな」
だが俺は額の汗を拭い、鍬を突き立てながら叫んだ。
「無職でもいい! 俺は俺にできることをやるだけだ!!」
その声に子供たちが「ユウマ!ユウマ!」と合唱し、庭園に再び笑い声が響いた。
勇者パーティは依然として俺たちを見下したままだった。
剣聖は腕を組み、鼻で笑う。
「やれやれ。俺たちは魔王を斬る準備をしているというのに……こっちは土遊びか」
魔法使いは杖を軽く振り、空に花火のような幻影を浮かべた。
「ほら、これで十分華やかだろ? 時間をかけて草を植え替えるなんて馬鹿らしい」
聖女も高らかに宣言する。
「神の奇跡ならば、一瞬で花を咲かせることもできる。無職の泥仕事と比べれば……」
……ああ、わかってる。俺のやってることは勇者っぽくもなければ、華やかでもない。
ただの地味で泥臭い作業だ。
でも――。
「おじちゃん! 芽が出た!」
子供の一人が叫んだ。
見ると、植えたばかりの苗が光を帯びて、ほんの数秒で小さな蕾をつけた。
「な……なんだこれ!?」
庭師が目を丸くし、周囲の人々もざわめく。
「早すぎる……普通はこんなすぐ芽吹かない!」
「まるで大地そのものが応えているようだ……!」
俺の腰袋に差していた聖草が淡く光っていた。
どうやらあの“草むしりの副産物”が、この庭の成長を促しているらしい。
勇者たちは一瞬だけ言葉を失った。
だがすぐに、剣聖が鼻を鳴らす。
「……小手先の奇跡だ。だが所詮は無職」
……そうか?
俺は泥だらけの手を見つめながら、少しだけ笑った。
「無職でも……草と土は応えてくれるんだよ」
「見ろ! 花が咲いたぞ!」
「新芽も伸びてる!」
庭師や兵士たちが次々と歓声を上げる。
子供たちの植えた苗が、聖草の力に反応するように一斉に芽吹き、王宮庭園を鮮やかに彩っていく。
たった一日で、花壇は十年分の成長を取り戻したかのようだった。
「すごい……これがユウマ様の力……」
「ただの草むしりが、庭園を蘇らせるなんて……!」
人々は口々に感嘆し、広場は拍手で包まれた。
王様も目を細めてうなずく。
「……見事だ。これならば王宮の庭も再び誇れる。やはりそなたは――草むしり勇者ユウマよ」
「いやだから勇者はやめろって!!!」
だが、その様子を見ていた勇者パーティの顔色は曇っていた。
剣聖は奥歯を噛みしめ、低く唸る。
「……馬鹿な。無職の分際で、民からこれほどの称賛を……?」
魔法使いも苛立ちを隠せずに杖を握りしめた。
「ただの偶然にすぎない……そうよね?」
聖女の微笑みも引きつっていた。
「神の奇跡ではなく、泥にまみれた無職の手に……民が感謝している……?」
俺は泥だらけのまま鍬を突き立て、息を切らしながらも笑った。
「俺は無職だ。でも、この庭を戻せたのは確かに俺たちの草むしりだ」
王都中の拍手と声援。
勇者パーティの瞳に宿るのは動揺と苛立ち。
……こうして俺と“本物の勇者”たちとの間に、新たな火種が生まれたのだった。
勇者ざまぁ!