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グラントゥギア 転生聖女放浪編  作者: ジャックス・R・ドンブリ
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第 88 話 

 魔導列車に乗り、わたしたちは旅館に戻った。

「おかえりなさいませ、お客さま、お食事はいかがなさいますか?」

 旅館の建物に入った途端、待機していた今朝の女の子が挨拶してきた。

 口調は落ち着いているが、そのまだぴょんぴょんと跳ねているその色素の薄い金色のツインテールからして慌てて受付から出てきたことは明らかである。

「アンリちゃんでしたっけ、わたくしたちはさっき外で食べてきましたから、もういらないですわ。」

「そうですか...」

 アンリを断り、その横を通り、そのまま部屋へと帰ろうとした時。

「あのう...」

「うん?」

「お二人は、そのう、恋人なんでしょうか?」

 また呼び止められて、何かと思えば恋人かどうかの質問だった、まあ、彼女からしたら男女がこんな旅館の同じ部屋で泊まっているわけだから、そう考えるのは仕方がないけど、旅館のスタッフとして聞くものではないじゃないかな、浮気旅行とかだったらどうすんねん。

「なぜそのようなことを?」

「あっ、いえ、申し訳ございません、そのう、今夜旅館で精霊流舞を行いますが、参加なさいますか?」

「精霊流舞?」

 聞いたことない名前にすこし戸惑った。

「はい、我々スピーア人の神代から伝わる行事で、自らに宿した精霊を解き放ち、野生の精霊を呼び寄せ、彼らと一緒に踊り、原素神に祈りを捧げるという...」

 うーん、一応カルシアの記憶でスピーア人の民俗にそれなり知っているつもりだが、そんな名前の伝統行事聞いたことない。

「あっ、安心してください、原素神に祈りを捧げると言っても、今は全然そんな宗教的な意味がなく、みんな楽しく踊るだけの行事なので、恋人同士なら楽しめるかなと思いまして...」

 わたしが記憶を掘り下げるために眉をひそめたのを宗教関係で迷っていると勘違いしたのか、アンリちゃんは慌てて説明をした。

「恋人、踊る、精霊、祈り、ああ!祝命祭か!」

「祝命祭、ですか?」

 今度はアンリが戸惑う番になったので、説明をしようとしたとき、奥から声を聞こえた。

「祝命祭とはまた久々に聞いた名前ですね。」

「あっ、ローレンさま、それはどういう...」

 ホールの奥から現れたローレンにアンリは尋ねた。

「今こそ精霊流舞と呼ばれていますが、千年ぐらい前までは祝命祭って名前なんです。」

「へえ、知りませんでした。」

「当時のスピーア人はほとんど命神を信仰してましたからね、しかし、大陸統一戦争が起こり、命神の聖女が率いるオンフィア人がスピーア人の土地を征服しました、間もなくして聖王国は崩壊しましたが、それによって生まれた敵意はそう簡単に消えるはずもなく、多くのスピーア人は命神信仰をやめた、その影響で命神に祈りを捧げる祝命祭も名前と形を変えられ、今の精霊流舞となったわけです。」

「そういう理由が、なんかあんまりいい話ではありませんね。」

 結構面白い祭りだったと記憶してるが、まあ、宗教やら戦争やら絡んだら仕方がないことか。

「ところで、お客様よく祝命祭という名前をご存じですね。」

 やばっ、疑われてねえ?これ。

「偶然知っただけですわ。」

「それはご博識ですね、どういうきっかけで知ったのでしょうか?わたくしは学院にいたごろ旧図書館の隅で見つけた本でたまたま知っただけですので、もしかしたら同じ本を読まれていたかもしれません。」

 あんまりにも自然に聞いてくるローレンを見て、ただの雑談で聞いているのか、それともなにか疑って聞いているのかが判断つかなくなった。

「家の書庫にあった本で知りましたわ、どのような名前かは忘れてましたけど、聖王国時代から古典を扱う書庫ですので、別物だと思いますわ。」

「そうですか、名門のご出身ですのね、急にお邪魔して大変申し訳ございません、では失礼いたします。」

 一体なんなんだ?

 訳も分からないままローレンの背中を見送り、わたしたちも参加の返事を保留するという形で部屋に戻った。

「あーあ、疲れた、ちょっとメシ食いに行くだけなのに、なんでこんな疲れない行かんのよ?」

「お疲れ様です。」

 ミューゼは座った途端文句を垂らし始めるわたしの後ろに移動し、マッサージを始めた。

「ミューゼは参加したい?その精霊流舞とやらに。」

「いいえ、わたくしは別に。」

「そう?じゃわたし一人で行ってこようかな~」

 正直疲れたし、こういうわいわい騒ぐようなパリピイベントには興味ないが、ちょっといたずらこころが湧いた。

「え?お嬢さま行かれるのですか?」

「祝命祭ってさ、名前の通り生命を讃える行事なんだよね、だから男女がここで出会って仲良くなってそのまま命の生産に向かうとか結構あるらしいんだよね、さっきの話だと今でもそこんとこは変わらなかったみたいだし...」

 ミューゼの質問をあえて正面から答えず、代わりに祝命祭のうんちくを垂らし始めた。

「ダメです!お嬢さまが行かれるのでしたらわたくしもついていきます!」

「でもさっきは...」

「さっきはさっきです、男と...なんて断じて許しませんわ。」

 後半はかなり小声で言っていたが、真後ろなんてバッチリ聞こえた。

「女ならいいのか?」

「え?な、ええと、それは...」

 無意識に口にしただけなのか、ミューゼは聞かれると思ってないみたいで、最初は驚愕した、けど、すぐに困りだして、答えに詰まった。

 まあ、それもそのはずだ、女もダメって言ったら自分も自分の中のユナもダメになってしまうから。

 さすがにこれ以上困らせるのは可哀想なんで、助け舟を出す。

「ふ、ふはは、冗談だよ、その精霊流舞とやらには出ないよ、疲れたし、どうせこのまま西に向かうなら精霊王国にも行くことになるし、まだまだチャンスはあるから。」

「そうですか、ありがとうございます。」

「ふ、なんでお礼?まあ、いいや、明日のことだが...」

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