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Involuntary  作者: 長和三鷹
3/3

02話

夏休み前に投稿できました!

お待たせして申し訳ないっす!

ではではどうぞ

だんだんと速度を落としていき、最終的には静かな停止と共に、体も少し前のめりに傾いた。シートに叩きつけられるように体が戻された頃には、何人かの乗客が立ち上がり、扉が開くのを待っている。まるで空気の抜けるような音共に開かれたドアを介して、大勢の人の出入りが行われた。


間宮は、いまや普通に乗ることの出来る新幹線に乗って、この日本での大都市を目指していた。

大都市といえば、全ての中心であり、流行などの最新情報はいち早く取得でき、更に一番発展していてお店の多種多様さなど言うまでも無い。ここ最近では新しい建物が建てられると、また注目の的となっている。そんな大都市に行くことは、日本の辺境に住んでいる者にとって、憧れであることが多い。大人になったら、大学は東京のなどと考えている学生も少なくないだろう。それは大人も同じで、行ったことの無い人でも一度は行ってみたいと夢見る場所だ。

しかし、人には例外もいる。


「面倒くさい……」


一人、また動き出した新幹線の窓の縁に頬杖をついて、駅内で行き来する人々を眺める間宮は、そう一言呟いた。

ジーンズに腰下まである長めの半袖プリントTシャツといった、ラフな格好をした彼女は、どう見ても大都市に行くような格好をしていない。化粧も薄く、少しパーマがかった茶髪は一部分だけ後頭部の高めの位置で縛っている。そんな彼女の服装も、しかし、体の美しいラインや整った顔立ちがフォローして、様になっていた。

間宮がこの新幹線に乗っているのは、先程話したように大都市に行くためだ。しかし、あまり遠出が好きではない彼女は、休日などは普通家でのんびりと止まったような一日を過ごすため、これが彼女の自主的な行動ではないことは明らかだった。命令でも無い限り、絶対に向かわないだろう。


間宮の出身地であり、勤務していた警察署は、大都市から遠く離れた南の方の田舎だった。南の方といってもとてつもなく暑い場所などではなく、降水量は少ないがきちんと寒い時期が存在するという中途半端な場所に位置する街だった。そこは確かに大都市には劣るが、電車が通っていないわけでもなし、ましてやスーパーが無いなんて事はない。十分幸せな暮らしが出来るし、不自由があるとしたら少し情報が遅かったり、テレビ番組の放映が少ないことがぐらいだ。決して間宮自身嫌ではなかったし、慣れた土地は好きでもあった。そんな彼女だからこそ、出身地の警察署に勤務し、事件解決のために尽力した。

そして、十三日前に渡された異動命令。「刑事課」から「怪奇事件解明部」に異動しろという命令が下ったまでは良かったのだ。

しかし、よくよく考えてみれば、異動先は「刑事“課”」から「怪奇事件解明“部”」。警察“署”には“課”はあっても“部”はない。そして、怪奇事件解明部の部署は警察“庁“にある。したがって、自動的に故郷から離れなくてはならなくなったのだ。そして警察庁がある場所は、間宮が今正に向かっている所。つまり大都市の中心だった。

結果的に嫌でも故郷を離れ、大都市に行かなくてはならなくなった間宮は、こうして不機嫌な顔をして新幹線に乗っているのだ。


『東京ー。東京ー。』


自分の向かう先のアナウンスが流れ、頬杖をやめて荷物を上から下ろして自分の隣の席に置いた間宮は、見えてくるであろう大都市の建物の群れを目で捉えた。

田舎にはないぎっしりと建てられたビル郡。数えればきりがない。この新幹線に乗っている乗客ほぼ全員が目的は一緒のようで、簡単の吐息を漏らしている者や、はしゃいでいる子供なども大勢居た。それらを頭の片隅で聞いている間宮は、少し目を細める。

やはり思うことは同じようで。


「面倒だなー……」


その独り言と共に、新幹線はゆっくりと停車していった。





□ ■ □ ■ □ ■ 





「おはようございます。」


間宮が挨拶すれば、自然と応えは返ってきた。

二週間の移動期間が終わり、今日からこの警察庁での勤務が始まる。然して緊張もしていない彼女は、入ってすぐにある受付で、挨拶をしているところだった。


「何か御用でしょうか。」

「今日から此処で働くことになった間宮千里です。長官に挨拶をしたいのですが、今大丈夫ですか?」


名前を出したあたりで眉を寄せている受付係の女性は、そのままの表情で間宮に返答した。


「今、長官は出張で出ているのでいません。しかし、新人が来たら、先に部長に会う様に伝える旨を聞いているので、すぐに御自分の配属された部へ向かってください。」


にこりとも笑わず事務的なことだけしか述べない彼女に、間宮は嫌悪感を抱いた。初対面なので尚更その態度が苛立つのだろうが、何とか抑えて笑顔で対応する。


「わかりました。ありがとうございます。」


一礼してから踵を返して、奥にあるエレベーターへと早足で向かう。少し俯き気味の顔は、髪で隠れてはいるものの、今にも舌打ちをしそうなほどに顔が歪んでいた。


「何?あの態度!あれが初対面の人に対する態度かってーの!」


ドアが閉まり早々に大きな声で苛立ちを吐き出す。挙句の果てにはエレベーターの壁を勢い良く叩いている。

しかし、すぐにその怒りを押し込めて、思い出したかのように顔を上げた彼女は、しまったという顔を作っていた。


「……どうしよう……場所聞いてない……」


この後、道に迷ったのは言うまでもない。



彼女が怪奇事件解明部の部室に着いたのは、ここにきて三十分経ったころだった。額に汗を浮かべて、扉の前に立つ。

彼女の頭の中には『遅刻』という漢字二文字の言葉がリピートされていた。

普通、警察内では十分前行動というのが暗黙のルールとなっている。したがって、どれだけ時間ギリギリに来ようが十分前につかなければ怒られても当然なのだ。そして、間宮が指示された朝の時間は、七時半。そして今は七時四十分。十分前行動どころか、十分後行動になっている。


「怒られるかな……?」


初めての仕事場という緊張と、怒られるだろうという恐怖で冷や汗がだらだらと流れていく。詰まりそうな息を何とか吐き出すというのを何度も繰り返し、自分に大丈夫と言い聞かせる。


「よし。」


手汗をスカートで拭って、大きく深呼吸をしてからドアノブに手を置いた。

バクバクと心臓が踊り、喉を鳴らす。


「失礼します。」


ぐっとドアを押したその先は、極普通の大きな部室に数少ないデスクが目に映る。そして、その一番奥。ドアを開けた先の目の前に、長机の場所に男が座っていた。

間宮はその姿に目を見開く。思っていた人物と全然違っていたからだ。部長となると、やはりそれなりの経歴が必要なわけで、どうしても年配の男を想像してしまうものだ。しかし、今間宮の目の前にいる男性はどれだけ見積もっても、三十前半あたりにしか見えなかった。見た目だけならばもっと若く見える。まだ、生き生きとした黒髪は、後ろに流しているが、ワックスを付けた様子も無くふわりとした印象がある。皺も目立つようなものはなく、スーツを着ている姿は警察官とは思えない。

そんな男性はこちらを確認するとにこりと微笑んだ。


「初めまして。君が間宮君だね?私はこの怪奇事件解明部の部長を務める木之元きのもとだ。」


間宮は彼が部長であることを再確認し、驚いていた顔を引き締め、深々と一礼した。


「遅れてすいません!今日から此処で働くことになりました、間宮千里です。今日からよろしくお願いします。」


挨拶をして相手から返事があるまで地面を見続ける。許しの言葉が無ければ頭をあげる気になれなかったのだ。しかし、それに反して深々と一礼している間宮を見ている木之元は微笑を崩さない。


「大丈夫だよ。遅刻したぐらいで怒りはしないから。反省していればいいよ。」


その言葉でやっと顔を上げた間宮は、大きな声で返事を返し、ビシッと直立した。それを見た木之元は更に笑う。


「ははっ。そんなに硬くならなくていいよ。この部はそんなに厳しいわけじゃないから、もっと気楽に気楽に。」

「はあ……」


一気に脱力した気分になった間宮は、呆けた表情のまま周りを見渡す。建物自体が古いせいであまり綺麗とは言いがたいが、ほどよく整理整頓されたデスクは見栄えがよかった。ファイルを詰めた棚や、対談にあたるであろう場所を確保してあったりと、かなり良い部屋だと思われる。前の部署なんかよりも確実に綺麗な部屋だ。


「それでは間宮くん。早速本題に入りたいからこっちの方に来てくれるかな?」


居心地の良さを肌で感じていると、少しの間存在を隅の方に追いやっていた部長からの声で我に返り、一言返事をして言われたとおりに行動をした。先程よりも濃く堀の深い顔が近くなる。


「じゃあ、まず此処最近に起きている怪奇事件のことは知っているね?」


コクリと頷く。

それを確認した木之元は、続けた。


「この部の目的は、名前の通り怪奇事件を解明し事件解決をすることだ。そこまではなんとなく分かっていたと思う。でもね?もう私たちはこの怪奇事件の原因を掴んでいるんだよ。」

「え?……どういうことですか?」

「つまり、怪奇事件は既に解明されてるって訳さ。」


驚きのあまり声が出ない。怪奇事件が解明されている。その言葉の意味する所はつまり、この部はほぼ無意味と言っているようなものであり、またそれがまだ公に知られていないことからそれを隠していると教えたようなものだった。

間宮の心情を知ってか知らずか、木之元はまた微笑を浮かべる。


「きっと、それではこの部が必要ではないのではないかと考えていると思うけど……、決して必要ではないことはない。解明しただけでは、事件解決にはならないしね。」


図星を突かれて少し肩が上がる。もちろん、木之元の言うことは最もだ。目的は、怪奇事件を解明し事件解決をすることであり、解明しただけではまだ目的を達成したわけではない。しかし、それは屁理屈だ。解明してしまえば、後はその対策を考え行動を起こすのみであり、それ以上のことは出来ない。


「では、後はその事件解決をするだけではないのですか?」

「それが簡単じゃないんだよ。」


木之元の苦笑に間宮は首を傾げる。


「そんなに難しいことなのですか?」


その質問に木之元は更に苦い顔をして見せた。そして、次の瞬間、意を決したように顔を引き締め間宮を見上げる。その顔に間宮も姿勢を整えた。


「これは他言無用でお願いしたいけどいいかな?」

「はい。」


それに満足そうな顔をした木之元は、引き出しから一センチくらいの紙束を机の上においた。間宮もそれを覗き込み、怪奇事件の資料ということを認識すると部長に目を向けた。


「これは怪奇事件の資料……ですよね?」

「ああ。この者たち自身には共通点はなく、年齢も経歴も家族構成も、皆ばらばら。ただ一つだけ、証言での共通点がある。それが「なぜ、犯罪を犯したのかわからない」だ。」


それは怪奇事件をあらわすにあたって、基本的で一番重要な部分だった。間宮でもそれははっきり覚えている。


「年齢の幅は、九歳から六十後半まで。住んでいる地域もばらばら。そんな人たちが、全て同じ証言をするのは明らかにおかしい。時期も起きた場所もばらばらの犯行を裏で操作している人物がいると考えるのもありだが、これだけ証言が同じだと警察も必ず疑うに決まっている。そんな大幅の年齢の人を誑かすほどの頭の持ち主が、こんなことを指示するはずがない。よってこれもダメ。じゃあ、一体何なのか。その答えはある一人の少年の証言が決め手となった。」


そこまで言って、一枚の紙をまた取り出す。それを間宮に渡した木之元は『上から二十四行目』と指示。間宮は言われた通り、横に記された行の番号を頼りに二十四行目を読んだ。


『九歳、礎野村逞が「僕の中に誰かが、何かがいる」と証言した。』


間宮はまたしても首を傾げた。


「これが決め手になったんですか?」


どう見てもこれは決め手にならない。中に何かがいると言われたって犯行の理由が分からないというのと同じで、信じられるわけがない。しかし、木之元は間宮のその考えを否定するようににこりと笑みをつくり肯定の意を示す。


「ああ。今までにない証言でね。最初は取り合わなかったんだけど、その時には既に捜査は難航してて手詰まりだったから、その証言を信じてみることにしたんだ。そして、探りを深めた結果、少年の中に居る“何か”が何なのかがはっきりした。」


間宮はごくりと喉を鳴らす。

人の中に居る“何か”なんて私には検討もつかない。そう考えると、自然と緊張が走った。


「何だったんですか?」

「それは……」


そこまで木之元が言ったところで、それを遮るようにドアが開いた。

少し荒々しく開かれたそのドアの方に目を向ければ、一人の男性警官が立っている。その後ろにも付き添いのように連れ立ってきていた男性警官。そして、少し目立たないが、しかし異彩を放つ、その男性警官との間に挟まれた一人の少年が目に飛び込んできて思わず目を剥いた。

間宮は訳が分からず、その男性警官と少年を見比べている。そんな間宮を置いて話は進められた。


「やっと来たか。」

「お待たせしてしまって申し訳ありません。ただいまそちらに連れて行きます。」


緊張気味に言ってのけた男性警官は、後ろをちらりと肩越しから確認すると、木之元たちのところへと歩いてくる。それについてくるように少年と後ろの男性警官は室内に足を踏み入れた。

徐々に現れてくる少年の姿に、目が離せない。

少年は目隠しをしていた。黒の帯が鼻に掛からない程度に結ばれている。足は自由だが、手は手錠のような、少し形状の違った金属が取り付けられていて絶対に外れないようになっているらしかった。そこから伸びる一本の鎖を後ろに付き従うように歩いていた男性警官が握っている。まるで、危険人物扱いのようだ。しかし、見るからに少年はどう見たって小学生くらい。体も細々とし、危険のようには見えない。時々垣間見える胸元も骨の線が少しだけ見えていた。それに反して髪はさらさらそうな綺麗な黒髪で、それが肩甲骨あたりまで伸びている。パッと見、女の子なのだが、間宮は胸が無いことを確認して少年と判断した。

少年はゆっくりと男性警官の後ろを付いて行く。間宮の横を通り木之元のところまで行くと、間宮にも体を見せるように男性警官は体を間宮と木之元の間に向けて直立する。それに続いて少年も鎖を持つ男性警官も同じ方向を見つめた。


「間宮くん。先程の話はまた今度にしよう。今日の本題はこれだよ。」


そう言って少年を指差した。

その言い方に間宮は眉を寄せる。まるで物扱いだ。


「では、これより間宮千里に命を下す。」


突然ことながらも、きちんと姿勢を正して、次の言葉を待った。

しかし、次の言葉で二つの声が重なった。


「君はこれと一緒に一週間過ごしてもらう。」


「「はあ?」」







少年出せましたよw

でも、まだ少年話してないので、次の話は少年と間宮の掛け合いを書けるといいなと思っています。

少年の性格は多分すぐ分かると思います。

ただ王道系の誰かを守りたいっていう感じじゃないですけど。


まあ、今日はこのへんにして…また次回も読んでください。


感想、質問等々受け付けてます。

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