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狐の皇子  作者: 葉月秋子


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「兄上様の守護獣は銀でございましょう」



 アルフはぐったりと疲れ果てて南宮へ戻ってきた。

 大きな影のように、ローワンが付き従う。


 兄が見事にオーラを視覚化したと言われて、追いつかなければと頑張りすぎてしまったのだ。

 アルフのオーラは、まだ、色のない陽炎のようなものだった。



「あっ!」


 大きな花篭をかかえた小間使いの少女が、花に視界をふさがれてアルフに気づかず、ぶつかりそうになってあわてて腰をかがめた。


「やあ、ネネ」


 小間使いの白いシンプルなドレスに、真っ白いエプロンのネネは、アルフに声をかけられて、ぱっと頬を染めた。


 母の女官たちの名などいちいち(たとえ覚えていても)呼ばないが、小馬の事件で親しくなったネネは別だ。

(それに、僕と同じくらいの子は、ここではネネしかいないんだし)


 子供の嫌いな母は、アルフと共に一般の学科を学ぶ『御学友』たちを南宮に招くことはしない。

 母の下で働く女官も、下働きも、みな、母より年上か、ブスだ。

 ネネのような少女が母に仕えるのは、めずらしい事だった。


(本宮の父上の女官たちは、若くてきれいな人が多いのに。

 いつも一緒に暮らすなら、きれいな人と一緒のほうが絶対いいのになぁ)


 女心などまだわからぬアルフは、母上は変わっている、と思うだけだった。



 ネネは少しやせてしまったようだ。

 このドレスでは鎖骨は見えないけれど、目の下に隈が出来て、顔色が悪い。


(小間使いって、きっと大変な仕事なんだな。

 母上はきついから、叱られることも多いんだろう)


 疲れ果てていたアルフは、深く考えずにそう思った。


 早く休みたくてそのまま通り過ぎ、ふと思い出して、振り返った。


「そうだ、ネネ、この間、リーフと牧へ行ったんだ。

 いい馬と悪い馬の見分け方を教えてもらったよ」


(そして新しい練習用の小馬を選んでもらったのだ)


 今度の小馬は、走りが安定していて、大胆。

 うまく教えれば、低い障害を跳ぶこともできると言われた、自慢の小馬なのだ。

(母上の前ではあのきれいな駄馬に乗り、練習はこんどの小馬でする)

 今度の小馬は、決して手放すまいと、アルフは固く決心していた。


 ネネは嬉しそうに笑った。


 その笑いがあまりにも弱々しかったのに、別れてしばらく歩いてから気づいた。

(そうか、ネネも誘って行けばよかった)


 毎日年増とブスに囲まれて働いているんだ。

 連れて行ってやれば、叔父にも会えたし、喜んだろうに。

 僕はいつも、考えが足りないんだ。


 くたびれた上にしょげてしまって、アルフは足を引きずりながら住まいへ戻っていった。


 

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