第一章 1 始まり
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「そなたは三日と数時間長く母の胎内に居すぎたのだよ」
それがアルフの母の口癖だった。
その間に北家の血を引く銀髪の妃が男子を産んでしまい、世継ぎの母、第一妃という称号を奪ってしまったのだ。
三日後に生まれた彼、アルフは、南家の血を引く母に、第二妃という称号しかもたらせなかった。
「子種をいただいたのは、ぜったいに妾のほうが早かったのじゃ。
それを、あの北の痩せ女狐め、何か怪しげな薬でも使ったに相違ない」
何度も聞かされてうんざりした顔のアルフを母はかき抱き、自分に似た黒髪の頭を、立ち上がったばかりの柔らかな小さな耳を愛撫した。
「アルフよ、あの生白い女の息子などに決して負けるでないぞ。
世継ぎの母よ、第一妃よと持て囃され、北家が全盛じゃが、今に見ておれ。きっとこの母が良いようにしてあげる。二人で必ず南家を盛り立てて見せようぞ」
生まれる前から、始まっていた競争。
初手におくれを取ったアルフは、以来、常に兄と引き比べられ、赤子のうちからどっちの耳が先に立っただの、しゃべり始めただのと、競い合う二人の妃の争いの焦点となってきたのだった。
幼い心に、刷り込まれたトラウマ。
兄、銀のセイレンは、妖狐の一族を支配する翠狐帝の皇太子の第一子。
いずれ帝の位に昇る父の、大事な世継ぎの皇子であり、弟のアルフはそのスペアでしかないのだ。
皇太子であり、元帥でもある父は、戦にかまけてほとんど館に戻ることなく、見捨てられたような二人の妃は、皇家につながる互いの生家を後ろ盾に、熾烈な権力争いを繰り広げていたのだった。




