77 砂漠の天然要塞⑤
狭い坑道を通って、七色剣山がいる空間まで戻ってきた。
少し懸念していた、七色剣山が暴れたことで空洞への道が崩落しているのではないかということは杞憂だった。むしろ、俺を追いかけて首を突っ込んだことで広がっている。
「さーて、七色剣山ちゃんのご機嫌はいかがかなー?」
エフテルがそっと入口から空洞内をのぞき込む。俺も、一緒に覗き込んだ。
「ラッキー、寝てる…!」
先程侵入者を追い払って、安心したのか、最初にここを通り抜けたときのようにスヤスヤと寝ている。
「今のうちに、壁を登ってしまおう」
「うん」
まずは天井付近を見回す。
落石を気にして上を見上げているときには気が付かなかったが、確かに、壁面の上の方にも直径2、3mの大穴が空いている。
あそこが七色剣山が掘り進めた道だろう。俺は無言で指を差し、一番最初に壁に手をかけたのは木登りも得意だったアルカだ。
「…!」
スルスルっと壁面の凸凹を利用して3mほど上の洞穴まで登り切った。
「ん」
エフテルに背中を突かれる。
まあ、お言葉に甘えて二番手行かせてもらおうかな。
アルカが昇って行ったルートは見ていたので、どこに手をかければ良いかなどは事前に分かっている。
問題は片手しか使えないことだが…というか、この程度の高さなら飛べないか?
「…?」
上で待っているアルカにアイコンタクトを送り、少し助走をつける。一番下の出っ張りに足をかけて、一気に飛ぶ!
「!!、っ!」
なんとか一番上に掴まることができた。アルカが顔を真っ赤にして、引き上げてくれる。
「ありがとう」
「ん」
小声で感謝をし、下にいるエフテルに合図を送る。
エフテルは頷き、ゆっくりと、しかし危なげなく上まで登ってきた。
最後、エフテルの手を掴み、一気に引き上げてやる。
「さんきゅー」
「おう。じゃあ、行くぞ」
最後にちらりと七色剣山を見る。まだ寝ている。疲れているのだろうか、熟睡だ。
「師匠?」
「ああ、ごめん。行く行く」
先に進もうとしていたエフテルに声をかけられて、3人で歩き出す。
流石にあの巨体が掘り進んだ道だ。広いし、しっかりしている。
「この道はどこにつながっているのかなあ」
「さあな。でも、そんな岩山の頂上とかに繋がっているわけではないと思うぞ」
道は平坦だ。ときどき曲がるので、俺たちが入ってきた坑道の入り口とは違う方向に向かっていることは確かだ。
十数分ほど歩いて、やがて出口が見えてくる。
「おお、ここはどこだろう」
エフテルの言うとおり、ここからではカーリもコウチも見えない。
外に出てみると、俺たちはやや小さな岩山から出てきたようだ。
坑道の入り口は大きな岩山にあったので、この小さな岩山と大きな岩山は砂漠の砂の中でつながっているのだろう。
「これじゃあ探しても見つからなかったね」
「そうだな。まさか別の岩山から出てくるとは」
エフテルに頷きつつ、ポーチから救難信号とは違う色の、打ち上げ式の信号弾に着火する。
ボン!と打ちあがった光は小さな太陽のようで、少しずつ小さくなり、消えていった。
「あとはここでコウチとカーリを待とう」
「はーい」
砂漠なので、幸い障害物は少ない。真っ直ぐここに向かってきてくれれば、数分で着くだろう。
「どうやっておびき出す?」
一瞬俺に話かけられたのかと思ったが、違った。エフテルとアルカで会話しているようだった。
「どうって、普通に上からお姉ちゃんが炸裂機構で針を射出するとか。それで仕留められたら楽だし」
「そう簡単にいくかなあ。ってか、あそこまであのでかい亀は登って来れるのかな。落ちた後、そこに留まってるわけだし」
「全長より低い位置にある穴だもん、余裕で登れるでしょ」
「それもそっか」
会話は終わったようで、2人ともポーチから暑さを感じにくくする、クグリン水を飲んでいる。
俺は、どうやって引きずり出すかよりも、引きずり出した後のことを考えていた。
結局、それから10分もせずにコウチとカーリはやってきた。
「いや、全然見てた方と検討違いなとこに信号が打ちあがったから、疑いながら来てみたが、この穴を見れば納得するしかないな」
コウチが洞穴の入り口をまじまじと見ながらそう言った。
「案外、この砂漠の下は地下迷路みたいになっているのかもしれませんわね」
「探検したら新しい鉱床とか見つけて、そこを村に教えてお金もらったりできそう」
これぞ捕らぬ狸の皮算用。
さて、全員が集合したので、あとは突入するのみだ。
「全員、準備は良いか?」
コウチが武器を構えつつ、全員の表情を伺う。
ここまで狩りにこぎつけるまで時間がかかったのも初めてだ。全員、フラストレーションを七色剣山にぶつけようとしている。
戦意に満ちた顔をしていた。
「じゃあ、もう今度はわたくしとエフテルで行きましょうか」
「ん、全員で行くんじゃないのか?」
「コウチ。戦うのは地上で、ですわよ。今からここに七色剣山をおびき出すって話だったでしょう。わざわざ全員で七色剣山の気を引きに行く必要はありませんわ」
「そ、そっか。なんか待ってばかりだから焦っちゃうな」
何もしていないと、何かをしたくなる気持ちはすごくわかるぞ。
でも、カーリのいうとおり、これからまた洞穴内に戻って、七色剣山をここに連れてくる必要がある。それは4人で行くほどのことではないだろう。
「でも、そしたらどうしてお嬢とエフテルさんなんだ?」
「エフテルは遠距離攻撃ができるから。わたくしの回転刃は音がうるさいので、気を引けるかと思ったのですわ。どうでしょう、お師匠様」
「うん、良いんじゃないか。ということで、コウチとアルカはここで待ち伏せだな。2人が引き連れてきた七色剣山に思いっきり一撃を加えてやれ」
「了解!」
コウチは槌を肩に背負い、アルカも頷いて細剣に手をかけた。
じゃ俺は洞穴組に同行しようか。
「3回目かあ。あたしばっか行ったり来たり、やんなっちゃうよ」
「あら、お休みを希望でしたら、それでも構いませんことよ。その代わり、依頼料はサボった分差引ますけども」
「別に行きたくないって言ってないでしょ!ったく!」
ぷんすこしながら先に洞穴に進んでいくエフテルと、それを笑いながら追いかけるカーリ。さらにその後ろを俺がついていく。
坑道よりも広い道を、3人で歩く。
「なんかさ、こういう洞窟歩いてると、トラウマが刺激されるわ」
エフテルが天井を見ながら歩く。
俺はなんのことだか分らなかったが、カーリには伝わったようだ。
「あの、天井にゼネラルが張り付いているのを見つけた時の恐怖は今でも忘れられませんわね…」
ああ、あのときの。
確かに雰囲気があのときの洞窟と少し似ているかもしれない。
「あのときのお嬢様の顔、すごかったもんね!」
「わたくしは逆に、あの状況を理解できずに能天気な顔をしていたあなたの方が滑稽だったと思いますわよ」
「はーーー!?なに、喧嘩売ってるの?やんの!?」
「やりませんわよ。今度、狩場じゃないところでの模擬戦ならけて差し上げますわ」
「言ったね、そのときになって逃げないでよね」
「このカーリ、一度受けた勝負からは逃げませんわ」
相変わらず仲の良い2人だ。
まあ、あのときのことをこうして笑い話にできるくらいがちょうどいい。
さて。
「2人とも、そろそろ空洞に出る。心の準備をしておけよ」
かなり好戦的な個体だったので、少し小突いてやれば追っかけてくるだろう。
そして、地上に出てからが本番だ。
坑道内に取り残された作業員を救うために、崩落しやすい坑道内で戦闘するわけにはいかない。
「っしゃ、やるぞー!」
やる気満々なエフテルに続いて、俺たちは洞窟内を進んでいく。
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