78 砂漠の天然要塞⑥
「まーだ寝てる」
空洞内では、七色剣山がスヤスヤと眠っていた。
「なら、エフテルがあの頭を貫いてしまえば、それで終わりですわね」
確かに、弱点である頭を攻撃できれば、それで終わりだが、まあそんなにうまくはいかないだろう。
とはいえ、やってみることは悪いことではない。
「よし、エフテル、頼んだ」
「任せて師匠」
エフテルは左腕の射出機にカートリッジを装填。カシュっという小さな音が鳴る。
そして、片目を閉じて狙いを定め…発射した。
爆音とともに発射される針だが、七色剣山は爆音が鳴った瞬間に目を覚まし、甲羅の中に頭をしまった。
いくら針が高速で飛んでいくからと言って、距離があるので、頭が引っ込む方が早い。
「なにあれ!むかつく!!」
「とまあ、あんな感じちょこちょこ引っ込むから長期戦になるんだよ」
次の攻撃が来ないことを確認したのか、ゆっくりと頭を出した七色剣山は、こちらを見て、咆哮した。
「gyaaaaaaaaaa!!!」
「よし、気づかれはしたな。あとは地上まで連れていくだけだ」
七色剣山は、俺たちのいる壁に突進をする。また坑道内が揺れ、落石が起こるが、今俺たちがいる通路はしっかりとしているらしく、揺れるだけで済んだ。
「音でも挑発しますわね」
カーリが回転刃を動かす。ギュイーンという、小型の刃が高速で回転する音が響く。洞窟内なので、なおさら響く。
「うるさーい!」
隣にいるエフテルも思わず文句を言うレベルの五月蝿さだ。
「gueeeeeee!」
七色剣山にとっても不快なのだろう。壁に足をついて、身体を起こした。
そのままこっちまで上がってきてもらえばいい。
「よし、俺たちはもう少し下がるぞ」
七色剣山がこちらを警戒して登ってこないのは、困る。使う離れずの距離で挑発するのだ。
「わたくしは結構この音、好きなんですけども…」
「俺も嫌いではないぞ」
そんな話をしている間に、七色剣山の前足が、通路にかかった。
「よし、じゃあ、あとは逃げるふりだ!」
「おー!」
七色剣山がこちらを見ていることを確認し、走って地上に向かう。
「gyuaaaaaaaa!!!」
怒っている鳴き声と、ドタドタという巨体が走る音が後ろから聞こえる。作戦は成功だ。
「ね、ねえ師匠、疲れてきたんだけど…!」
まあ、走りっぱなしだもんな今日。
「体力不足はまだ治っていませんでしたのね」
マラソン勝負でエフテルをボコボコにした過去を持つカーリは、比較的重厚な防具を付けていても軽やかに走る。
「しゃーないな、ほら、乗れ!」
俺はエフテルを背中に載せ、走る。幸い、七色剣山はそんなに足が速くないので、人ひとりを背負っても十分逃げ切れる。
「にしてもエフテル軽いな~」
「妹より貧相で悪かったね!」
「いててて、別にそんなこと言ってねえだろ暴れるな!捨ててくぞ!」
「ひ~ん」
ウソ泣きしているエフテルを担いだまま、走る。
後ろからは相変わらずドタドタという足音がついてくる。
「お師匠様…!わたくしも足が限界ですわ…!」
「噓つくな!2人は背負えないから!」
とかなんとかやっているうちに、出口が見えてくる。
逆光で見えないが、出口からこちらを覗いているのは、アルカだろうか。
「おーい、うまくおびき出せたぞ!」
声が届いたのだろう、人影は引っ込んだ。
「おらエフテル、降りろ!もうすぐゴールだぞ!」
「ぎゃん!今投げた!?」
さあ、脱出だ。
「お疲れ様、お師匠さん、お嬢、エフテルさん!」
外に出た瞬間、コウチから声をかけられる。
どこから声をかけられたのかと思えば、岩山の上に上っている。
俺たちが地上に出てから、数秒後、興奮した七色剣山も飛び出してきた。
これで全員が広い砂漠に出た。
「まずは1発、どうだぁ!」
コウチが岩山から飛び降りつつ、炸裂機構を作動。
直下にいる七色剣山の甲羅に向かって全力の攻撃をお見舞いする。
「gue」
七色剣山の甲羅には、名前とおり剣山のように鉱石が生えている。コウチの一撃は、その一帯を砕きつつ、内部に衝撃を与えたようだった。
「次は私」
コウチが作った隙を見逃さず、エフテルも炸裂機構を作動させ、首を切断しようと迫る。
しかし、洞窟内でエフテルの針を寝起きで避けられる反応速度を持つ七色剣山だ。アルカの攻撃は空振りに終わり、砂漠の砂に深々と細剣が突き刺さった。
「ちっ」
七色剣山の反撃を避けるために、アルカは細剣から手を放し、その場から飛びのく。
七色剣山は一度状況をリセットするかのようにその場で高速回転をし、敵の接近を拒んだ。
「出会い頭の奇襲は今一つだったかあ…?」
「残念」
アルカは素早く地面に刺さっている細剣を回収しつつ、コウチと少し肩を落とした。
待ち伏せている間に2人で考えた作戦だったのだろう。悪くない連携だったが、相手が悪かった。
「とまあ、全員今ので分かってもらえた通り、甲羅への攻撃はほぼ通らない。コウチの炸裂機構でダメなら、もう誰もこのチームでは有効打を与えられる者はいないだろう」
強いて言えば、カーリの回転刃なら少しずつ切断できるかもしれないが、そのためには長時間密着する必要があるので、実質不可能だ。
「あとは、今の回転攻撃を多用してくるから、接近するときは注意してくれ!」
と、全員に注意したが、どうやって倒そうか。
基本的にはやはり弱点である頭を攻撃することになるのだが、あの反応速度でひっこめられると、それも厳しい。
「とりあえず、攻撃できるところを攻撃するしかありませんわね!」
カーリが飛び出し、回転攻撃をいつでも避けられるように離れ気味に前足に回転刃を押し付ける。
露出している4足も硬い皮に覆われてはいるが、それでも攻撃が通らないほどではない。
ガリガリという音の後、肉まで到達した刃が血を噴出させる。
慌てて足を引っ込めた七色剣山だったが、前足を引っ込めてしまっては突進も回転も出来ない。
全ての手足を甲羅の中にしまい込み、完全に防御態勢に入ってしまった。
「手が出せないじゃん!」
「お互い攻撃ができねえな」
エフテルとコウチが言うとおり、このままではお見合いが続くだけだ。
「お姉ちゃん!」
アルカが珍しく声を上げた。
「どうしたの、妹よ」
「引っ込んでる頭に正面から針を打ち込めそうじゃない?」
「あー、そうかも、やってみる!」
エフテルは七色剣山の正面に移動し、カートリッジを装填した射出機を引っ込んでいる七色剣山の頭に向ける…が、エフテルはすぐに腕を下げ、回避行動を取った。
先程までエフテルがいたところに、七色剣山の巨体が突撃する。
「アルカ!狙おうとすると目が合うよ!無理!」
引っ込んでいる頭狙うために真っ正面に立てば、当然引っ込んでいる七色剣山に気取られる。流石に無抵抗ではない。
「でも、手足が出たなら、また攻撃のチャンスですわ!」
先程傷つけた前足に向かって回転刃を振り下ろすカーリだったが、七色剣山は学習したのか、素早く足を引っ込め、残りの3本の足を使って回転攻撃を繰り出した。
「きゃあッ!」
直撃はしなかったが、回転刃が回避攻撃に弾かれ、吹き飛ばされてしまった。
「お嬢、平気か!?」
「ええ、尻餅をついただけですわ」
コウチがカーリに駆け寄り、手を貸していた。
「ッ!!そっちの2人、危ない!!」
エフテルの叫び声で咄嗟に身構えたカーリとコウチ。
なんと七色剣山は2人に向かって、背中の鉱石をエフテルの針のように射出した。
「くっ!」
カーリは地面に飛び込んで回避し、
「オラァ!!」
コウチは槌で打ち返した。
「師匠!こんな攻撃聞いてないけど!」
「お、俺も初めて見たんだ…いつもはレイと甲羅ごと叩き割っていたから…」
「この規格外チームめ!」
戦い方が違うと、獣も当然違う行動を取る。
まして、交戦経験が少ない獣はなおさらだ。
これは俺の反省点だな…。
「となると、甲羅に籠っている七色剣山には攻撃手段があるのか…」
しかも遠距離攻撃。
さて、この“四極”では俺たちのように甲羅を叩き割ることはできない。であれば、どうやって対抗するべきか…。
近寄れば回転攻撃で弾き飛ばされ、正面に位置取れば突進攻撃が来る。かといって様子見していると背中の鉱石が飛んでくる。
坑道からおびき出すことができたのであれば、少なくとも作業員は助かる。最悪、討伐できなくてもそれだけでもいいのか…?
「師匠、なーんか弱気なこと考えてるでしょ!」
知らないうちに隣に立っていたエフテルに背中を叩かれる。
「まあ、見ててよ。あんなデカい亀くらい、なんとかできなきゃこの先やっていけないっしょ」
エフテルのいうとおりだ。
ここで躓くようでは、まだまだ昇級など先のことだろう。
どうしても俺は、教え子の身を一番に考えてしまう。
一度失敗している以上、どうしても慎重になってしまう。
それでも、時には自発性を信じることも必要なんだ。
「アルカ、爆破!」
「はい」
アルカがポーチから爆弾を取り出し、投げる。
どこに投げるのかと思えば、七色剣山をおびき出した穴が空いている岩山だった。
爆発の勢いで、岩山が少し崩れ、入口が塞がる。
これで七色剣山は巣に戻ることができなくなったというわけか。
「お嬢様、作戦会議!一時撤退!」
「え、ええ、分かりましたわ!」
「了解!」
七色剣山を放置して、全員で走り出す。
幸い、甲羅に籠ったまま追ってくることはない。
俺たちはそのまま、七色剣山の様子を伺えるギリギリのポジションで作戦会議をすることになった。
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