74 砂漠の天然要塞②
ほんの1分歩いた程度でまた広い空間に出た。
こちらには、掘削に使っていたであろう道具や、積み込まれた鉱石類などが散乱している。
そして、中心部に1本だけ灯りが立てられていて、その火に集まるように作業員たちが座っていた。
「おお、おお…!本当に助けが来たのか…!」
「村長が俺たちを見捨てるはずがねえ」
「じっとしているのが正解だったわけだ…!」
全員、声を潜めつつも、歓喜に染まった声で思い思いに話している。やはり先に俺たちだけで物資を届けに来て正解だった。
「はい、皆さん。食料と、水と、燃料…だったかな、です!」
隠密行動の邪魔になるため、わずかばかりの配給にはなるが、配られた物資は全員の生存時間を伸ばすことに寄与するだろう。
どうやら喜んでもらえたようだ。中にはエフテルとアルカを拝んでいる人もいる。
「眼福だ…!」
おいそこのやつだけ拝んでる理由が違うようだな。
「シタコ村長から、あの居座っている七色剣山の討伐依頼を受けてきたんだが、少し状況を話してもらっていいか?」
エフテルとアルカが配給している間に、俺は最初に遭遇した男の話を聞くことにした。
「最初は、ただ通路が崩落しただけだと思ったんだ。そんなことは長くこの仕事をしていればよくあることだし、爆破や掘削で出口までの道を繋ごうとしたんだよ。そしたらびっくり、七色剣山が居座ってるじゃないか。これじゃあ入り口まで戻るのは不可能ってんで、大人しくここで助けを待っていたって感じだな」
「なるほど、じゃあ、やっぱり崩落は七色剣山のせいってわけか」
「恐らくは…。あいつをどかしてさえくれれば、俺たちは自力で脱出できる」
たくましい、男たちだ。
自分の仕事に自信と誇りを持っているのが伝わってくる。
「坑道内での戦闘は不可能だよな?」
「もちろん。俺らも確認したが、あの七色剣山が居座っている空間は、きちんと掘られたものではなくて、七色剣山が無理やり通ったあとが空洞になっているだけだ。あんなところで狩人の炸裂機構なんてぶっ放してみろ、全員落石でペシャンコだ」
「なるほどなあ…」
ロンタウのように急所を高火力でぶち抜ける狩人ならば良いかもしれないが、そうでなければ七色剣山は長期戦になりやすい相手だ。
守りが堅牢なので、持久戦になる。
なおさら坑道の外に引きずり出す必要がでてきたということだ。
「なあ、ロンタウさんじゃなくて大丈夫なのか…?」
誰かが言った。
「確かに、こんな嬢ちゃんたちで勝てるのか…?」
「全員子供だろ?」
「こんなところで死にたくねえよ…」
不安は伝播していく。
長年にわたってこのヒシガツマ村で専属狩人を務めてきたロンタウとは違って、俺たちには実績が少ない。不安になるのも無理はないが、それを本人に言われるのは、正直言って失礼極まりない。今後のモチベーションにも関わってくる。
なんて言い返してやろうか。
そう考えていた時、作業員の中の1人がこう言った。
「大丈夫だ。俺はこの子たちを信じるよ」
しかし当然反論される。
何を根拠に、なんて聞こえた。
その声を上げた男は続ける。
「俺は八方発泡魚のときの船に乗っていた。皆も宴には参加しただろう。この村は、既に1度この“しかく”たちに救われているんだよ。村を救える狩人が、俺たちたったの十数人を救えないはずがねえ」
男の静かな、しかし熱い言葉には言い返せない力がこもっていた。全員が黙る。
「そうか、そうだよな。あのロンタウさんが託した狩人だもんな」
「村長も認めてる、なら、大丈夫か」
「任せたぜ、“しかく”!」
先ほどのネガティブムードはどこへやら。
たった一人の言葉で雰囲気が180度反転した。発言した男がすごいのか、この男たちが単純なのか。
それと、“しかく”“しかく”言われているが、“四極”である。
「よし、みんな、あたしらに任せてよ。さっきはぶち殺してやろうと思ったけど、まあ許してあげる」
「はぁ…“四極”だよ」
エフテルは気持ちを切り替えたようだが、アルカはまだモヤモヤしているようだ。
直接自分たちの評価を聞く機会なんてほぼないからな。
でも、さきほどのように、行動すれば、分かってくれる人は分か ってくれるんだ。
「てかさ、今なら七色剣山寝てるし、全員で脱出できないかな?」
「それは、難しいな。俺たちは少し隠密行動が得意だから通り抜けることができたが、本来獣は睡眠中に獲物が近くを通ったら目を覚ます。自分を基準で作戦を立てるのは良くない」
「な、なるほどぉ…」
難しい表情で頷くエフテル。褒められつつ、諫められたので、喜び半分不満半分といったところか。
「でもまあ、そろそろ行くか。カーリとコウチが心配する」
「あの2人が来たら、あの獣、飛び起きちゃうよ!」
「がっしゃんがっしゃん、ぎゅいんぎゅいん」
エフテルとアルカの言うとおり、隠密行動とは程遠い2人だからな。なんだかアルカの表現が面白くて、笑ってしまった。
「じゃあ、必ず俺たちを助けてくれよ」
地上に戻る準備をする俺たちに、さきほど俺たちを擁護してくれた男が声をかけてくる。
この人も、船の乗組員をしたり、坑道で鉱夫をやったり、忙しい人だ。
「特に、そっちのボインの嬢ちゃん。八方発泡魚戦のラストみたいな活躍、期待してるぜ」
「…」
アルカは恐ろしく冷たい視線でその男を貫き、無言で広場から出ていった。
「あ、あはは…、じゃあ、また!」
エフテルと俺もアルカの後を追うように作業場を後にした。
案外まだまだ余裕そうだが、ずっと日の光を浴びることができないのも辛いだろう。早く助けてあげたいところだ。
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