73 砂漠の天然要塞①
さて、ここで七色剣山についておさらいをしよう。
七色剣山は、背中に色とりどりの鉱石が生えている大きな亀だ。
腹部分もツルツルした鉱物でできており、高速回転攻撃を繰り出してくる。
唯一の弱点は頭部だが、それは本人も把握しており、滅多に露出しない。
真っ当に攻略するなら、鉱物を破壊できるだけの攻撃力が必要となる。
「ほー、んじゃあ、コウチくんが今回の狩りの要かな?」
エフテルの言うとおり、今回はコウチの攻撃力が打開の一手となるだろう。
俺たちは、坑道の入り口で、ミーティングを行っていた。
「1つ、気になることがあるんだけど」
珍しくアルカがミーティング中に口を開いた。前回の反省が効いているのかな。
「この坑道内って、どのくらい広いの?炸裂機構を使って、全力で戦って、崩落の危険性とかはない?」
「あ、それはお姉ちゃんも思ったよ。万が一崩れちゃったら、あたしらも危ないし、万が一逃げられたとしても、奥にいる人たちは間違いなく死んじゃうよね」
そう、今回背負っているのは自分たちの命だけではない。
10人以上の作業員の命も、この狩りにはかかっている。
「なんとかして、七色剣山を坑道の外までおびき出すことが出来ればいいんだが…」
「まず、今の状況がどうなっているか分からないと、手の打ちようがありませんわね」
コウチもカーリも頭を抱えている。
作戦を立てるにも、情報が少なすぎるということだ。
「あ、じゃあ、見てこよっか」
「うん、そうだね」
エフテルとアルカが言い出す。
「見に行くって、偵察ということですの?」
「うん、そうそう。多分あたしとアルカ、師匠なら七色剣山に見つからずに状況確認してこれるよ」
「俺も?」
自分が勘定に入っていると思わなかったので、思わず聞き返してしまった。
「うん、師匠も。師匠って、実はかなりスペック高いでしょ」
「実はもなにも、別に何も隠していないんだが…」
「いっつも、俺は役に立たないぞみたいな雰囲気だしてるじゃん!あれ噓だよ!知ってる?師匠って、片腕なのに炎愛猿に負けない速度で木々の間を飛び回ったりできるんだよ。最早人間じゃないと思ったよね」
「流石お師匠様、わたくしはどんなことを聞いても驚きませんわよ」
カーリによいしょされるのは慣れてるが、エフテルに言われるのは少しこそばゆいな…。
「確かに、人のことを褒めるくせに、最後には自分もできるけどって小声で毎回言ってる」
「いやそれは言ってねえよ!」
多分心の中でしか言ってないはずだ。え、口に出してないよな?
「まあ、俺らはよく分かってなかったけど、特級狩人って、あのロンタウ姉さんが転げまわって壁にぶつかるような存在なんだろ?それなら人間辞めててもおかしくはないよな」
辞めてません。人間です。
「ということで、あたしら3人で一旦中を見てくるよ。行けるなら、一番奥まで行って、作業員さんたちに携帯食料とか置いてくる。そうすれば、もっと時間的猶予は増えるからね」
「ええ、良い考えですわ。わたくしは、お2人とお師匠様を信じます」
「俺も異論はねえ。むしろ、お願いしたい」
方針は固まったようだ。
まあ、いいだろう。2人だけだと心配だ。別に名前を上げられなかったとしても、俺はついていっただろう。こういうところが過保護だったりするのかな。
ドスンドスンと砂漠の砂の上に重いものが落ちる音がする。見ると、エフテルとアルカが防具やポーチをその場に落としていた。
「少しでも軽くしないとね。音もなっちゃいそうだし」
炎愛猿の毛皮で出来たジャケットも脱ぎ、ぴっちりとしたインナー姿となったことで、ボディラインが露わになった。
「し、刺激が強い…」
目をそらすコウチの気持ちもわかる。
エフテルはともかく、アルカは押しつぶされてなお主張する胸部の破壊力がすごい。エフテルはともかく。
「おいお前ら。今なんか失礼なこと考えてるだろ」
怒りのあまりキャラが変わるエフテルだったが、よくよく見るとエフテルも、中々良い。
出会ったときから、数年が経過しているので、色々なところが成長しているのだ。ずっと一緒にいたから気付かなかったが、臀部なんかはなかなか…。
「おい!今度は邪な視線を感じるぞ!」
どっちにしろ怒るエフテルだった。
§
ひとしきり騒いだ後、俺もある程度身軽になり、3人でいざ坑道へ。
入り口は、人が2人通れるくらいの狭さで、コマンダーもといゼネラル討伐に向かった洞窟なんかとは比べものにならないほど狭い。
だが、七色剣山は5m以上はある。そいつの巣なのだから、今後開けていくのだろう。
アルカ、エフテル、俺の順番で坑道を進んでいく。
「この3人だけになるのも久しぶりな感じだね」
「うん、私は、この3人のころも好きだったよ」
アオマキ村に来たばかりのときは、コウチとカーリが別の村に長期出張していて、免許もなかった2人の指導から始まったんだった。
「あ、アルカ。お姉ちゃんね、師匠にあたしらのこと全部話すって約束しちゃった」
「…また勝手に。でも、師匠なら、うん、良いかな」
そういえば、アオマキ村で、借金をするときに妙な空気になったり、そのあと2人が俺のことを話しているのを立ち聞きしてしまったりもした。
変に街のことに詳しかったり、お金に目がなかったり。そういうことの理由を、教えてもらえるということだ。
「ずっと気になってたからな。楽しみにしてるよ」
「お、いいのかな?聞いちゃったら、後戻りできないよ?」
「ずっと一緒にいるんだろ?もう後戻りも何もないんじゃないか?」
俺がそう言うと、アルカが、
「え、なにそれ、どういうこと?」
と目を輝かせながら言った。
「ほら、お前らのお願いを1つずつ聞くっていうことがあっただろ。そのときのエフテルのお願いがそれだったんだよ」
「おお、お姉ちゃんナイスだね」
「でしょ?これで益々安心ってわけ」
一体どんな話が飛び出すのか、それは分からないがどんな話をされても驚きはするかもしれないが、2人のことを嫌いはしないだろう。
「さて、おしゃべりはここまでだな。見えてきたぞ」
細い坑道をしばらく歩くと、一気に広い空洞に出た。
そしてその空間の中央では、様々な色の鉱石が生えた甲羅を持つ大きな亀、七色剣山が眠っている。
「ああ、なるほど…」
てっきりこの広い空間は、ここで鉱石を掘っていたのかと思っていた。しかし、よく観察してみると、崩落したように散らばった岩と、少し塞がった細い道が見えた。
元々はここも細い道が続いていたんだろうが、どこからかやってきた七色剣山によって広げられた空間なのだろう。
巣の真下に通路を掘ってしまったせいで、上から落ちてきたとか、そういうことかもしれない。
「ちょうど寝てるし、今がチャンスだね」
「アルカの言うとおりだな。今のうちにここを抜けて、そこの道に入ろう」
入り口は少し埋まっているが、通れないほどではない。
「ここは調べなくていいの?」
ここ、とはこの空洞のことだろう。
「帰りに調べよう。どうせ往復することになる」
「了解」
早速俺たちは移動を開始する。
寝ていてくれているならば、起こさないように、音を立てずに移動する。
抜き足差し足忍び足。20mほどの距離を歩き、崩落した道に到着。
こういうところで音を立ててしまい、起こしてしまうのがお約束だが、特にそんなこともなく、3人で広い空間を通りぬけることができた。流石、隠密行動が得意らしい2人だ。
「師匠、あたしらのどっちか…ってか、あたしがしくじると思ってたでしょ」
「いやそこまでは思ってないよ」
「そこまでってなに!?」
俺たちは再び狭い道を歩いて行く。
所々から鉱石が露出しているのが見える。色とりどりの鉱石が壁や天井から生えているのは幻想的だ。
しかし、長くいるとなれば別だろう。
と、壁面を眺めていると、火を灯す台座のようなものが一定間隔で取り付けられていることに気が付いた。
「ここに火を付ければ明るくなるな」
「ん、そだね。点ける?」
アルカが松明を台座に近づけようとしたとき、奥の方から声を潜めた注意が聞こえた。
「やめろっ。空気がなくなるのが早まるし、何より奴に気づかれてしまうっ…!」
どうやら俺たちの救出対象である作業員の1人のようだ。
「アルカ、火をつけるのはやめよう」
「了解」
アルカが松明を下げると、暗闇の中で照らされた男は、ほっと胸をなでおろしたようだ。
「君たちは…なんだったか…し、し、なんとかって名前の狩人だったな…」
「“四極”だ。助けにきた…と言いたいところだが、今は偵察と、あなたたちの確認に来ただけだ。申し訳ない」
「いや、救出しようと動いてくれているのが分かっただけでもありがたい…。こちらから声が聞こえたのも、幻聴だという者がいるくらいでな」
なるほど、俺たちの話声が奥まで聞こえたから、代表して様子を見に来たというわけか。
「声が聞こえたってことは、結構近くにいるのか?」
俺の疑問に、作業員の男が答える。
「ああ、もう少し進めば、俺たちの作業場がある。そこで皆休んでるよ」
「じゃ、早く行って、励ましてあげよ!」
エフテルらしい提案だ。
だが、俺もそれに賛成だ。希望を持ってもらいたい。
反対にさっきまでとは打って変わり、大人しくなったアルカが松明をエフテルに渡していた。先頭を代われということだろう。
作業員の男を先頭に、松明を持ったエフテル、俺、アルカの順で進んでいく。
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