68 終わらない宴
それからも、俺たちの宴は続き、船員さんたちにとっかえひっかえもてはやされた“四極”の面々はすっかり疲れ果てていた。コウチとエフテルあたりなんかは姿が見えない。どこかの卓でまだ飲まされているのか、それともその辺に倒れている人間に埋まっているのか。
「もう夜になる、そろそろ解散かね」
シタコ村長が既に潰れている人間も多く見える酒場を見回しながら宣言する。
後片付けはお店がやってくれるだろうので、俺らは帰るだけだ…って、
「ウエカ村長、これからの予定はどうなってるんだ?まさか今日中にアオマキ村に帰る?」
「まさか!流石にもう1日は滞在するよ。でも、明日から定期連絡船は再開する。俺はそれに乗って、アオマキ村に帰るよ」
「おお、そうか。んじゃあ、今日でこの村ともお別れか」
考えてみれば、全然村の中を見て回ったりする暇もなかったな。この酒場と港と、ロンタウの家のくらいしか見る暇はなかった。
「あー、その話なんだけどね。君たち、もう少しこの村に残ってみるのはどうかな」
「え?」
「これは私から説明しようかね。まあ、お願いにはなるんだが」
シタコ村長が口を開く。俺と、俺に引っ付いていたアルカと、綺麗に座っているカーリの目がそちらに向いた。
「うちの専属狩人…、まあ、そこでぐーすか寝ているロンタウなんだが、まだ快気には時間がかかる。その間、この村を守る狩人がいなくてね。少しの間、貸してくれないかとウエカに頼み込んだんだよ」
まあ、別に俺は問題ない。砂漠での狩りは間違いなくこいつらの経験になるし、良い話だとすら思う。だが、懸念事項が1点。
「アオマキ村はどうする?」
「レイ君に頼み込むことにするよ。何、我らが狩人君が頼んでいたとでも言えば一発だろう」
「そ、そうだろうか…」
あまりにレイを軽く考えすぎな気もするが…。
「それに、定期船が復活した今、アオマキ村とヒシガツマ村は1日で行き来できる。何かあっても、戻ってくることはできるよ」
「まあ、それもそうか。分かった、んじゃあ、そうしよう。いいよな?」
俺はアルカとカーリを見る。
アルカとカーリは珍しく口をそろえてこう言った。
「師匠がいるならついてくよ」
「お師匠様についていきますわ」
この反応には喜ぶべきか、引くべきか…。
あとはエフテルとコウチだが、あいつらはどこにいるんだ。
「エフテルー!コウチー!」
呼んでみた。
「あ゛~~~~~」
「た、たすけてくれ…」
船員さんが4、5人重なっているところから、女性の腕が見えた。
もう1方の声は、案外近くから聞こえてきたが?
試しに机の下を覗いてみたら、コウチはロンタウのベッドにされていた。いやどうなればそうなるんだよ。
「随分とロンタウに気に入られたな」
「気に入られたってか、いじられてるっていうか…。まあ、話は聞いていた。俺は、こっちで経験を積むのもありだと思う」
「そうか、良かった。じゃ、もう少しその幸せな重みにつぶされといてくれ」
カーリはどこか冷たい目でコウチを見ている。
ま、女性狩人に潰されて今まで声を上げていなかったんだ。楽しんでいたんだろう。
誤解だ!というコウチの声は、身をよじったロンタウによって封殺された。あれ、窒息死しそうだな。
それはさておき。
「アルカ、エフテルを掘って持って来てくれるか?」
「いいよ」
とてとてと歩いて行ったアルカは、エフテルの上に重なっている船員たちを足で避けながら、エフテルを発掘する。
「む、むさくるしかった…!口直し…」
「うわ、やめろ、擦り付けるな!」
エフテルが俺の体に汗を拭ってくる。
「だめだよお姉ちゃん」
その直後、アルカに首根っこを掴まれて、後ろに引き倒されていた。
「で、話は聞いていたか?」
「なんとなく。ヒシガツマ村の専属狩人代理になればいいんでしょ?」
「まあ、そういう理解で…いいのか?」
ウエカ村長とシタコ村長が頷いている。そういうことで良いようだ。
「うん、いいんじゃない?あたしとしては、いろんな獣とか魔物を狩って、早く昇級したいし。アオマキ村だと危険な魔物いないからね」
エフテルのいうことも一理ある。未だにアオマキ村の森では魔物は観測されず、不穏な空気が漂っている。
その点、こちらでは魔物討伐の依頼もちらほら見かけた。手っ取り早く昇級するには、同じ種類の獣や魔物を狩るより、色々なものを狩ったほうが良いとギルドに推奨されている。
「じゃ、4人全員の合意も取れたことだし、そうしようか」
俺は、改めて両村長に向き直る。
「ありがたい!助かるよ。これからよろしく」
シタコ村長の表情が明るくなり、ウエカ村長もにっこり笑った。
「それと、改めて、顔合わせのときは申し訳なかった。“四極”は、ウエカが言うとおり、立派な狩人だったよ」
深々と頭を下げるシタコ村長。まあ、もう誰も気にしていない。
「ま、頭を上げてよ。もう気にしてないし、許したげる…いてッ!」
「調子に乗るな。でも、エフテルのいうとおり、気にしてない」
シタコ村長はほっと胸をなで下ろしたようだ。
「ねえ、そんなにボコスカ殴らないでほしいんだけど!バカになっちゃうじゃん!」
エフテルの抗議には、俺とアルカとカーリが首を傾げた。
「バカになる…?」
既にバカだろ。と事実を言うような冷たい人間はこの場にはいなかった。良かったな。
「実際、どのくらい滞在すればいい?ロンタウが完治するまでか?」
「そうだね、それもだが…半年後に、ヒシガツマ村の大きな祭りがある。せっかくなら、そこまでいて、楽しい思い出と一緒にアオマキ村に帰るのが良いんじゃないかね」
シタコ村長の言葉に、ウエカ村長は頷いている。異議はないようだ。
「了解した。あ、でも、ちょくちょくアオマキ村には戻ることになると思うぞ。コウチの装備更新もだし、武器とか防具関連はアオマキ村の親方にお願いしたい」
「うん、分かる。狩人は、気を許した職人に仕事を依頼するものだからな。己の命を任せる大事な武具だ。妥協は許されない」
知らないうちにロンタウが起き上がっていた。コウチは…気絶している。
「おや、起きていたのかい」
「ああ、シタコ村長。話は全部聞いていた。本来なら代理でも専属狩人を任せるなんてまっぴらごめんだが…ま、コイツらなら良いさ」
誰よりも専属狩人であることに誇りを持っていたロンタウに認められた。
それはきっと、コウチとアルカの最後の一押しのおかげなんだろう。決して褒められた行動ではなかったが、ロンタウの心に触れることができたようだ。
「でも、もう狩りに付いてくるとか言うなよ」
「ああ、言わないよ。指導役、アンタを信じてる。もちろん、このちびっこたちもな」
パシーンと気絶しているコウチの尻がロンタウによって叩かれた。
「あ、そうだ、これからもロンタウの家に滞在しろよ。この村で行った狩りは全部ロンタウに報告しろよな」
専属狩人として、そこは譲れないところなのかな。
「あのロンタウがここまで気を許すとは、侮れないね。私なんて、数年がかりだったというのに」
シタコ村長が笑いながら言う。
「これからよろしくな、“四極”」
ロンタウから差し出された手は、代表してエフテルが握る。
「改めて、ヒシガツマ村へようこそ。歓迎するよ」
シタコ村長の手は、俺が握った。
ウエカ村長が拍手をする。
その拍手は、周りの起きていた人間に伝播し、どんどん拍手が大きくなっていく。その音で目を覚ました人間も、訳も分からず拍手に加わっていく。
「よおし、新たな狩人の歓迎会だー!!」
誰かが叫んだ。
「よっしゃ、まだまだ飲めるぜ!」
「俺は飲めないが…飲むぜ!」
「料理も追加だ!」
次々と船員さんたちが起き上がり、まるでこの宴の始まりに戻ったようだ。
気が付けば、特に今回の狩りに関わらなかった村人たちも酒場に集まってきていた。
正直俺は限界だが、ここで盛り上がらないほどノリが悪いつもりもない。
「じゃ、かんぱーい!」
誰ともわからない者の掛け声で、宴がもう一度始まる。
地獄のような、楽しい時間は続くようだ。
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