69 怒りの暴腕
あんな歓迎会をしてもらったというのに、翌日、俺たちはアオマキ村に帰っていた。
理由は、コウチの装備更新だ。
昨日狩ったばかりの八方発泡魚の素材を船に積んで、アオマキ村に向かう。
行きの小さな小舟ではなく、大きな貿易船だ。経路も最短経路となる。
「船酔いは大丈夫か?」
「問題ありませんわ。あの木船が悪かっただけですもの」
当初船酔いで死にかけていたカーリは元気だ。
経路も最短だが、船の速度も段違いだ。見る見るうちにヒシガツマ村がある大陸が見えなくなり、ほんの半日程度で次の陸が見えてきた。
「そういえば、こんなに八方発泡魚の皮と鱗があるなら、俺だけじゃなくて、エフテルさんとアルカさんの分も防具を作ったらいいんじゃないか?」
「それは俺も考えたんだが、2人に反対されてしまってな」
「え、なんでだ?」
「借金が増える、だとさ」
「ああ…」
エフテルとアルカの最初に作った鉄の武器と、炎愛猿の防具、さらに炎愛猿の爪で作られたアルカの細剣は、全部俺が費用を立て替えている。
少しずつ返済はしてくれているが、まだまだ数百万単位の借金が残っている。
炎愛猿の防具の費用が払い終わっていないのに、新しい防具なんて買えない、というわけだ。
「ま、それに炎愛猿の防具が八方発泡魚の防具の完全下位互換ってわけでもない。毛皮ベースと鱗ベースでは防げる攻撃の種類も変わるだろう?」
「ああ、なるほどな」
コウチが納得してくれたところで、話に出た姉妹を探す。見かけないが…。
ちょうどウエカ村長が船室から出てきたので、聞いてみる。
「ウエカ村長、エフテルとアルカ見なかったか?」
「ああ、2人とも下で寝てたよ。昨日の疲れが抜けてないんじゃないかな」
「そっか。ありがとう」
まあ、昨日の狩り…いや、それよりも宴会か?の疲労は中々抜けるものでもないか。
船はぐんぐん進んでいく。アオマキ村はもうすぐだ。
§
「よぉ!無事に帰ってきたみてえだな。ま、相棒がついてるんだから、当然か」
港での出迎えは、レイによるものだった。
「ただいま、無事に帰ってきたよ」
「おう、留守は守ってたぜ」
下船した俺は、コツンと軽く拳を合わせて、挨拶を返した。
「ふん、見てよ!これ!あたしら、4級になったんだよ!」
よせばいいのに、エフテルは自らレイに絡んでいく。提示された狩人免許を目を細める見たレイは、こう言った。
「4級だぁ?赤ん坊がやっと自分で立てるようになっただけだろうが。そんなんで威張んなクソガキ」
予想通りの返事。俺のレイへの理解度の高さに自分でも驚いた。
レイとのやり取りもほどほどに、俺たちはすぐに工房に向かうことにする。
港では、船員さんたちが次々と荷物を降ろしたり、逆に積み込んだり、忙しそうなので、邪魔しないように。
相変わらず獣の素材を積んだ荷車は俺が引いている。今回は重いな。
港から工房にはすぐ着いた。ヒシガツマ村と違い、狭い村だ。主要施設がまとまってくれていて助かる。
工房では、いつも通り看板娘兼見習いのハカがカウンターで迎えてくれた。
「よ、元気そダナ。後ろを見れば分かるゾ。八方発泡魚を狩ったのカ」
ハカはもうすぐ1年経つというのに、未だに独特なイントネーションで話すなあ。村長なんて、昔片言だったのがうそのように流暢に喋るというのに。
それはさておき、用件を伝える。
「この素材で、コウチの防具を作りたい」
「だと思ったヨ。早速親方に相談…って、うわァ!親方!」
用件を伝えている最中に実は裏から出てきていた親方は、ハカの後ろで腕を組んでいた。
俺の要望を聞いて、頷いている。
「おかえり。それで、今回は何か特別な要望はないのか?」
前回は、動きやすくとか色々注文を付けたからな。
でも、コウチはエフテルやアルカのような独特な動きをする狩人ではない。特に配慮するべき点はないだろう。
「普通に、作ってもらえれば今回は大丈夫だ。強いて言うなら、コウチは前線を張る狩人だから、防御力重視でっていうところかな」
「そうか。そうか、普通にか。分かった」
裏に引っ込んでいった親方は、少し寂しそうに見えた。無理難題を吹っ掛けられたほうが燃えるタイプなんだな。
「で、素材はまたハカが運んでくれるのか?」
「分かっテテ聞くなよ。前のより重そうジャン。また運んでくれ、旦那」
ま、そうなるだろうな。
俺はガラガラと荷車を引いて、工房の中に運び入れた。
そこで、親方に直接訊ねる。
「出来上がりまではどれくらいの期間が必要だ?」
「だいたい2週間もあれば良い。普通だなんて言えないほど、とびきり出来がいいのを作ってやる」
「お願いする」
親方の気合は十分のようだ。あとは、職人に任せるだけだな。
「じゃ、ヒシガツマ村に戻ろうか」
俺が言うと、エフテルはげんなりとした様子で、
「このためだけに帰ってくるんだったら、コウチくんと師匠だけでよかったじゃん…」
と言った。
まあ、そのとおりだが、アルカとカーリは何も言わずともついてきたし、それに疑問を持たずについてきたのはお前だぞ。
「んじゃあ、せっかくならもう少しゆっくりするか?」
コウチが言うが、俺は早く船に乗り込んだほうが良いと思っていた。
「俺は早くヒシガツマ村に行った方が良いと思うぞ。何故って、そろそろレイに村長が俺たちがあっちに滞在することを説明してるころだろうから」
俺が説明すると、全員が納得した顔をした。
ので、すぐに港に向かう。
が、遅かった。
「おい相棒。半年もこの村を離れる挙句、俺様をこの村の専属狩人にしようだなんて、誰の許可を取ってそんなこと言ってんだ?」
船の前でお怒りモードのレイが仁王立ちしていた。
「あちゃー」
エフテルが小声で呟いた。
「いっつも怒ってるよね、あの人」
アルカがエフテルに囁く。
「狩人は血の気が多い方が多数ですからね。特に、暴腕なんて2つ名がついた狩人ですから、なおさらですわ」
「まあ、ここで話を付けといた方が良いだろうな。もしこっそりヒシガツマ村に言ってたら、乗り込んできてただろ多分」
弟子たちが好き勝手に言っている。
「レイ。村長から聞いたのか」
「ああ、そうだ。そういうのは、直接頼むべきもんじゃねえのか?」
「そのとおりだな、悪かったよ。レイなら大丈夫かと思ったんだが、確かに親しき中にも礼儀ありだったな。申し訳ない」
俺は頭を下げる。
「べ、別に頭を下げてほしいわけじゃねえ。俺たちは相棒だ。相棒の頼みなら、聞いてやるのも吝かではねえ。ただ、俺は筋を通してもらいたかっただけだ!」
レイはぷいっと顔を背ける。
「ちょれぇ~~~、っぶぅ!」
カーリがエフテルの口を抑えてくれた。
確かにエフテルが言う事は一理あるが、今は黙っていてもらおう。
「悪いな。あっちの村で色んな種類の獣や魔物を狩って、早くこいつらを一人前にするためなんだ」
「ああ分かってる。俺らも昔、よく遠征したもんなァ…」
駆け出しのころは、色んな狩場で色々なものを狩ったもんだ。
きっとレイもそのころのことを思い出しているのだろう。
「よし、しゃーねえ。この村のことは俺様が引き受けてやっから、お前らはさっさと昇級しろ。そんで、早く相棒を開放しろ」
“四極”のメンバーそれぞれが一人前になって、解散したら、レイとまたコンビを組むということになっている。
まあ、実際はまだまだ解散の予定はないのだが。
「じゃあ、頼んだぞ相棒」
こういうときばかりレイを頼って、自分の要求だけを通している。申し訳ないことをしている自覚はあるが、レイの希望には応えられないので、許してほしい。
でもまあ、もしホントにコイツらが全員独り立ちして、“四極”の最終目標を達成したら、そのときは狩人じゃなくとも、レイの狩りのサポートなんかをしてもいいかもしれないな。それが罪滅ぼしだ。
「任せろ相棒」
レイはギザギザの歯を見せながらニヤリと笑った。
俺はレイとすれ違いざまにハイタッチをし、港に停泊していた連絡船に乗り込む。
「師匠ってさ、悪女だよね」
「女ではないけど、ちょっと分かるぞ」
エフテルとコウチが失礼な会話をしている。
「お師匠様になら、騙されても構いませんわよ!」
「あんまアホなこと言ってんじゃないぞ」
連絡船は、俺たちを待っていたかのようなタイミングで、出港した。
明日からは、今度こそヒシガツマ村での狩りが始まる。
砂漠ならではの獣や、アオマキ村では狩ることができない魔物などが待ち受けているだろう。
「楽しみだな」
「え?なにが?」
「いや、なんでもないよ」
怪訝な表情を浮かべるエフテルを見て、少し笑い、揺れる波を見る。
これからのこの4人の成長が、楽しみだ。
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