297 グランギニョル①
「別に十分早いと思うけどなあ」
街に向かう馬車の中でエフテルは窓から外を眺めながら呟いた。
「俺も早いと思うぜ。こっからラワモリ村までだったら街道も整備されてないからもっとかかるんだぞ?」
その呟きを拾ったコウチとエフテルが雑談を続ける。
「それはラワモリ村が遠すぎるだけじゃない?」
「間違いなくそれはあるな」
エフテルとコウチの雑談をアルカは目を閉じて聞いているようだ。
今回はチームごとに分かれた3つの馬車で(ロンタウは豊穣の奏と)移動しているため、ここには“黒星”しかいない。
御者はカーリがしてくれている。
「ここは是非わたくしめにお任せください」
とカーリが言ったのは、屋外であれば素振りなどができるからだ。実際カーリの座っている御者席には作ったばかりの回転刀が置かれている。少しでも握って馴染ませようという努力が感じられるが、逆に根を詰めているようにも思えて心配でもあった。
「おーい、お師匠さん。聞いてたか?」
「いや全く聞いていなかった」
知らんうちに話題がこちらに向いていたらしい。
「なんの話をしていたんだ?」
「シリアルキラーの話だぜ」
おお、思ったより真面目な話をしていた。
その話が耳に入らないとなると、俺も相当気が散っているな。
「そんで?どんな話をしてたんだ?」
「シリアルキラーの見た目の話だったぜ」
見た目。
なんだっけな、人型なんだよな。
「かわいい顔してたらどうする?ってさ。コウチくん倒せないんじゃない?って話をしてたんだよ」
「そうそう、そんで、いや魔獣なんだから顔なんてないだろ!なあ、お師匠さん?って話をしてたんだ」
思ったより雑談だった。
「ふーん。アルカはどう思う?」
さっきから黙っていたアルカに声をかけてみる。
「別に。顔で人を判断しないし」
「じゃあ例えば俺と同じ顔をしていたら?」
「殺すね。偽物死すべし」
頼りになる彼女だ…。
「でもまあ、実際コウチが正しいんじゃないか?複数の狩人を吸収してるから人型だって話だし、顔はない、あるいは整った顔をしていることはないだろ」
「嫉妬しなくて大丈夫だよ」
エフテルがピトッとくっついてくる。
「何に嫉妬する余地があるんだよ!」
これから街で高危険度の狩りを行うというのにもうシリアルキラーのことを考えている。危険度6など最早狩ることができるという自信の表れだろう。であれば特級狩人は近い。
街へ向かう道は最早見慣れた道だ。
見慣れた道を、見慣れない装備で進む。
高揚した気分をなんとなく抑えつけながら、俺達は街への道をひたすら進む。
いつもどおり数日かけて、街に到着したあとは各自の行動となった。時間が半端だったこともあり、今日からでは狩りにはいけない。
“月の果実”は拠点へ向かったし、女性陣は買い物に出かけた。
残ったのは俺とコウチとミヤだった。
「なんでお前はいるんだよ」
当然のように男2人についてくるミヤに、訊ねると、逆になんで行かなければいけないのかというような視線を向けられた。
まあ、俺達に付いてくるならそれでもいい。
「じゃあ俺達は飯でも食うのはどうだ?がっつりしたやつ」
「そうだな。女性陣がいたら食えないような臭いやつ食おう」
「楽しみ、ですね」
「…」
なんか男の友情に水を差されたような、何か複雑な区分だが、わざわざのけ者にする必要もなし。コウチの言うとおり、何かガッツリしたものを食べに行こう。
昼食を食べられる店を探して昼過ぎの街を歩く。
石畳の上を沢山の人々が忙しそうに歩いている。
…ふと、違和感を感じた。
「なんか、人通り少ないな」
「憲兵も、多い、です」
ミヤに言われて気が付いたが、確かに街の長直属の憲兵が普段よりも多い。
人が少ないからそう感じるのではなく、民間人が減り、憲兵が増えているのだ。さらによく観察すれば全然狩人がいない。
「一回気になると滅茶苦茶気になるっすね。ギルドでも行ったほうがいいか?」
少しだけコウチの目が細められた。確かに情報不足は恐ろしい。
「そうだな、ギルドで情報収集しながら食事としよう」
ミヤはナポリタン!と嬉しそうに飛び跳ねていた。
しかし俺は、どうしても背後に影が迫っているようなイメージが脳裏から消えなかった。
ギルドに向かう最中も、意識すればするほど憲兵の緊張した表情が目に付く。
こちらも浮ついた空気は完全に消えていた。
気づけばギルドに向かう足が速足となり、ついてこれなくなったミヤはおぶった。
ギルドに到着すると、何か悪いことがおこっているのではないかという予感が間違いではなかったことを確信した。
どこよりも賑わっているはずの街のギルドに、狩人がまばらにしかいない。この最も活発であるべき昼過ぎにだ。
「コウチ」
「うっす」
対人能力はミヤには期待していない。
食事用の席を取ってもらい、3人分のナポリタンを注文して待ってもらっている。
その間に俺達は情報収集を行った。
ひとまず依頼掲示板の前に立っていた3人組に声をかけてみる。
「こんにちは。なんか今日ギルド空いてますね」
急に話しかけられることはギルドでは少なくない。
一瞬装備を眺められ、自分より上位の装備であることを値踏みされたあと、相手はにこやかに会話に応じた。
「そうですねえ。何かあったんですかね?」
「どうなんでしょう。たまたま良い依頼がないか、街に来てみたらこの有様で」
「僕ら的には、人がいなくて助かりますけどね。ほら、茸人の討伐依頼なんかが残ってる。ありえないでしょ普通」
この狩人たちは今の状況を好意的に捉えているらしい。そして俺達と同じように状況は知らないようだ。
「おお、それは確かに普段の状況から考えると奇跡みたいなもんだな。気を付けて」
適当に会話を打ち切り、もう少し声をかけるか、席に戻るか考えていると、コウチが親指を立てているのが見えたので、席に戻ることにした。
もう料理も届いていたようで、甘酸っぱい匂いを吸い込みながら席についた。
待ちきれなかったのだろう、ミヤはすぐにナポリタンを食べ始めたので、俺たちも一口ずつ食べてから、コウチの情報収集の成果を待つ。
「なんかさ」
「うん」
「立て続けに狩人が行方不明になってるんだってさ。この1週間くらいの間に」
「へえ。立て続けってのは?」
「そこまでは分かんねえ。でも、こんだけ外出を控える程度にはいなくなったんだろうなあ」
コウチはぱくりとナポリタンを頬張った。
にしても、よりによって狩人が行方不明か。そして怖がって隠れていると。
「情けないな。狩人っていったら個人単位で見れば最強の戦力だろう。そんな存在が揃いも揃って引きこもりとは」
「です、ね。犯人なのか、原因なのかは分かりません、けど。とっととなんとかしてやろうっていう気概が、欲しいです、ね」
ナポリタンで口の周りを真っ赤にしているミヤに賛成する。少しだけ口の周りを拭いてやった。
ただ、よくよく考えると、うちの元暗殺者はこの間特級狩人すらも殺しかけていた。案外そっちの道のプロは狩人など目ではないのかもしれない。
「ま、とりあえず憲兵を増やして犯人の特定を急いでるって感じらしいぜ」
山盛りだったコウチのナポリタンが消えている。水を飲みながら、話をそうまとめた。
「そうだな。街中でひっそりと起きているならそれは俺達の領分じゃない。憲兵に頑張ってもらうしかないな」
自衛はするが、積極的に犯人を見つけ出す気はあまりない。冷たいようだが、俺達は俺達の目的をもって街に来ているのだから。
ギルドを出て、宿を探す。
相も変わらず人通りが少ない街を歩いていると、炸裂音が響いた。聞き覚えのある、炸裂機構の音だ。
…街中でッ!?
「聞こえたよな!?」
「勿論だぜ!」
「あい、間違いなく、狩人武器です。しかも、多分…」
ミヤが珍しく言い淀む。
「なんだ、ミヤ!?」
しかし情報共有は重要。ましてこの何が起こっているか分からない状態ではなおさらだ。
「多分、回転刀の音です」
その武器をこの世で持つ者は1人しかいない。そして、ミヤはそれを聞き間違えるような人間ではない。
カーリに何かあったのだ。
「こっちだ!」
俺は己の聴覚を頼りに、騒ぎの下に駆けつける。
幸いそこまで遠くないようで、徐々に人々の悲鳴や逃げてくる人とすれ違う。
「助けてくれ!」
男の助けを求める声。
「やめて!」
女の悲鳴。
悲鳴を上げた2人は、本来獣に向けられるはずの狩人武器によって容易く両断される。
振り下ろされた回転刀は、その切れ味ゆえに血の一滴も付着していなかった。
「血は…ついていませんわね」
己に返り血が付着していないか、念入りに確認するカーリの姿がそこにはあった。
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