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6-5(P57)




               ◆◇◆◇◆◇            




魔剣ダインスレイブを引き抜いた司馬は魔剣と一体と化していた。その腕は魔剣の柄であり、その体は魔剣の恐るべき魔力を制御する鞘そのものと言えた。そしてその鞘である体内ではその魔力が放たれる瞬間を今か今かと待ち構えていた。

不死鳥と不確定形物の激しい戦いをさらに上空から見下ろしながら司馬は切り込むタイミングを図っていた。神をも屠る自身の力で下手に攻めれば異界の姫の魂の宿るフェニックスまで巻き込む恐れがあるからだ。魔剣自身はすぐにでも怨敵を討ち滅ぼすべく司馬の身体を動かそうとするのだが、司馬はそれに巌の如き意志の強さで逆らった。

ふいに不死鳥にデモンズスライムの巨躯が迫った。不死鳥は飛行の速度を変えることでそれに対応しようとしたがタイミングを見誤り、大きく弾き飛ばされてしまう。頃合いだ、司馬はそう判断して右掌をデモンズスライムに向けた。


(弾けろ――。)


直後、彗星群のごとく放たれた光の剣の群れがデモンズスライムに襲い掛かる。光剣はスライムの身体に容赦なく突き刺さると同時に弾けてその巨躯を穿った。スライムが悲鳴をあげるが司馬は全く表情を変えることなく光剣を放ち続けた。全く容赦がなかった。司馬は攻撃を加えつつも敵の状況を冷静に観察していた。兜越しに映し出されるモニターには凄まじい量のデータ量が高速で羅列されては司馬の鑑定スキル内にフィードバックされていった。

デモンズスライムのHPの数値が凄まじい勢いで減っていた。8600あった体力は司馬の光剣のダメージを喰らうたびに300ずつ減っている。一撃一撃はそこまでの破壊力はないのだが、手数が多すぎる。あっという間に六割を削り切った段階でデモンズスライムは体力3440/8600まで削られていた。だが、司馬は全く油断しなかった。


(もう再生を始めてやがる。再生能力は60秒で1000といったところか。たいした能力だ。間を開ければあっという間に回復されちまうな。)


案の定、時間稼ぎのつもりなのかスライムは体の一部を砲弾のように放つことで司馬に攻撃を放ってきた。やらせるかよ。そう心の中で呟きながら司馬は掌から放つ光剣の嵐で全てを撃ち落としていく。その間に司馬の兜内ではカウントダウンの数字が目減りを続けていた。彼がダインスレイブを装着できる時間は444秒間。約7分の間に決着をつける必要がある。それ以上装着し続ければ自我を失った魔神と化してしまう。

だが、司馬は焦らなかった。焦りは冷静な判断力を失わせる。冷静な判断力の欠落は敗北をもたらす危険性があるのだ。司馬は右腕から生成する光剣の嵐で攻撃を続けながらも左手に凄まじいエネルギーを貯め始めた。黒く光を放つ闇の塊が司馬の掌中心に集まり始める。それはとてつもない熱量を持った純粋な力の塊だった。司馬が力を集約するためにその掌を握りしめるとそれは一振りの黒光りする闇の剣を形成した。


――かの者の剣は七度わが身を貫かん。されどわが剣、死すれども怨敵の身を八度貫かん。この身に宿りしは復讐の剣――


ダインスレイブを召喚する際に唱えた詠唱を司馬は再び開始していた。同時に鎧の内部から膨大な熱と赤い稲妻が司馬の体中から迸る。その身を焼き尽くさんばかりの荒れ狂う力の傍流に耐えながら司馬はその剣に力を集約させた。


――この刃、ひとたび抜き払えば眼前の敵に必定の死をもたらさん――


その詠唱を終えた後で司馬は両手で闇の剣の柄を掴むと右上段に振り上げた。同時に自身が彗星の塊の如き勢いでデモンズスライム目がけて切り掛かった。スライムは自身の巨躯を盾にしてそれを防ごうとするが、あっさりと貫通されていく。


次の瞬間、司馬の斬撃はその大地ごとデモンズスライムの身体を両断した。




                  ◆◇◆◇◆◇        




茫然としながら俺は司馬さんの攻撃を見守っていた。というより見守るしかなかった。下手に介入しようとしたらあの謎の光剣によって命を失う可能性があったからだ。シャレにならないだろう、あの威力は。まるで悪魔を倒しに来た神様か何かにしか見えないよ。人間の形こそしているものの余程俺より人間離れしているじゃないか。

司馬さんとスライムが戦っている間に鐘の音が一つ鳴っていた。先ほどギャル子を助けている時までにも一回鳴っているから合計でこれで合計で三回鳴ったことになる。思ったより余裕はなさそうだ。

インフィニティの能力によって表示されている司馬さんのステータス表示はえらいことになっていた。表示するのも恐ろしい。そんな司馬さんがデモンズスライムを両断して奴の体力が0になった時、俺は思わず「やったかっ!」と叫んだ。直後にインフィニティから注意を受ける。


『マスター!このタイミングでその発言をするのは不用意すぎます。』


はっ!確かにインフィニティのいう通りだ。大抵の場合、こういう発言をした後は何らかの形で敵は生き残り、見方が不利になるお約束だというのに。司馬さんのあまりの強さに気が緩んでいたとしか考えられない。実際、気が緩んでいたのは俺一人だったらしい。司馬さんは攻撃を放った後もまるで油断せずにスライムの残骸を眺めているし、インフィニティも沈黙している。

ふいに頭の中で不気味な鐘の音が木霊した。まだ終わっていない!不穏なものを感じた俺はスライムのステータス表示を凝視した。ゆっくりではあるが、ゼロになっている体力の表示が何やら動いているのが分かった。あれ、おかしいな。表示が変だぞ。何だ、この8が横になったような数字は。


やばいぞ。あの記号はどこかで見たことがある。


それがいつも目にするインフィニティの∞マークだと分かった瞬間に俺は戦慄した。駄目だ、あれは!体力にあの表示はまず過ぎる!焦った俺に合わせるような形でインフィニティが俺にスライムのステータス解析が終わったことを報告してくる。そこに書かれた情報はあまりにも凄まじい内容だった。



デモンズスライム(第二形態)

齢:???

Lv.???

種族:魔神獣

状態:破裂準備中 (残り15秒)

称号:すべてを喰らうもの


体力: ∞/∞

魔力729/729

筋力:821

耐久:2556

器用:81

敏捷:56

智慧:0

精神:200

魔法耐性:2180

ユニークスキル

〈暴飲暴食〉

〈自己再生〉

〈破裂〉

〈分身〉

〈物理吸収〉

〈偽装〉

スキル

捕食

吸収

倍返し

粘液



絶句する俺の目に入ったのは破裂準備中という不穏すぎる単語だった。司馬さんやシェーラに伝えようにも距離が離れてすぎている。背後のワンコさんを守る必要があると思った俺は急いで俺の背後に来るように伝えた。困惑しながらも、ただならない様子に何かを察したのかワンコさんは俺の背後にやってきた。

直後にスライムの肉体が空一面に破裂した。凄まじい勢いで撃ち出されていく破片を俺の防御壁が自動で防いでいく。同時に俺の魔力がガリガリ削れていく。このままでは魔力切れになる。そう思った俺は魔力酔いになる危険性があることを重々承知しながらアイテムボックスから取り出したエリクサーを口にした。強いアルコールを飲んだ後のような喉が焼けるような感覚の後に体の中から力が溢れるような高揚感が溢れていく。だが、それでも降り注ぐスライムの身体の破片の攻撃は止まなかった。二本目に着け終えて俺の魔力が八割持っていかれたところで、ようやくスライムの攻撃が止んだ。エリクサーの飲みすぎであろう。次の瞬間、俺は脳内がグニャグニャになるような強い吐き気を覚えてその場にへたり込んだ。鼻から何か熱いものが溢れる違和感を覚えて掌で拭うとなんと鼻血だった。薬が強すぎるせいだろうか。体に悪いこと極まりない。

なんとか吐き気を堪えて前を見る。そこには表皮の色が不気味な七色に変化した巨大スライムの姿があった。




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