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6-4(P56)

俺のところに来るなり、市街地で繰り広げられる巨大生物同士の戦いを見せつけられた司馬さんとワンコさんは茫然となっていた。それはそうだろう。巨大なスライムと火の鳥の大決戦など見ようと思っても見られるものではない。


「なんで怪獣大決戦が始まってんだよ。」


司馬さんの呟きには恐れというよりは若干の呆れが混じっていた。こんな時でも余裕なんだな。誤魔化すわけにはいかないので事の顛末を俺が説明すると司馬さんは沈痛な表情で眉間を指で摘まむようにして押さえた。若干の眩暈でもしているのではなかろうか。俺はそのリアクションに苦笑いで答えるしかなかった。


「お前と違ってあのお姫さんは常識人だと思ったんだがなあ。また事後処理で始末書書かないとならねえと考えると頭が痛いぜ。」


多分今までも俺たちが知らないだけでだいぶ迷惑をかけているんだろうなあ。そう思うとなんだか心が痛んだが、こちらに矛先が来ても怖いのであえて触れないことにした。そんな話をしている間にもシェニックスとデモンズスライムの攻撃の余波で街の高層ビルなどが倒壊していく。長丁場になれば街に甚大な被害をもたらすのは目に見えている。俺でさえそう思うのだ。異世界の被害から人々の生活を守るWMDに所属する司馬さんとワンコさんの危機感は更に大きいだろう。


「あんまり油売っていられねえな。ワンコ。国際魔導協定特別規定第77項だ、覚えてんだろな。」

「はい、異世界間の危機に対して自衛の緊急性が求められる場合、WMDのメンバーは固有装備の封印を解除して戦うことができる、でしたね。」

「さすがは優等生だ。行くぜ。」


瞬間、司馬さんの周囲の空気の流れが変わった。息ができないくらいに張り詰めた空気。それは司馬さんがこれから呼び出そうとしている何かに反応しているのだということが分かった。司馬さんは両手をパンと叩くとそれを眉間の前に構えながら叫んだ。


『かの者の剣は七度わが身を貫かん。されどわが剣、死すれども怨敵の身を八度貫かん。この身に宿りしは復讐の剣。この刃、ひとたび抜き払えば眼前の敵に必定の死をもたらさん。』


な、なんというか不吉すぎる呪文じゃないか。七度やられても八度目で殺すとか怖すぎるだろう。俺がドン引きする中で空間に亀裂が走った。その中から現れたのは禍々しい装飾の鞘に納められた一本の剣であった。鞘は何重もの鎖によって厳重に封印されているようだった。それだけでも不吉すぎるというのに鎖の周りは紅い稲妻によって絶え間なく放電していた。直感的にこの武器はやばいものだと理解した。俺の本能が警告を放っている。この武器と争ったらただでは済まない。俺の怯えが伝わったのだろう。脳内のインフィニティさんも警告を告げる。


『警告。神話級武具が召喚されつつあります。召喚時の衝撃の余波で吹き飛ばされる恐れがあります。一刻も早く離れてください。』


おいおいおい!召喚されただけで衝撃波が巻き起こるってどういう武器だよ。慌ててその場から離れようとする俺に司馬さんが気づいて声をかけてくれた。


「…おう、晴彦。しっかり踏ん張ってないと…あぶねえぞぉ。」


瞬間、司馬さんは剣を鞘から引き放った。同時に荒れ狂う暴風が司馬さんの身体を中心に荒れ狂う。これ駄目だ!あかんやつだ!暴風は周囲の立て看板や瓦礫を次々と吹き飛ばしていく。俺も上空に舞いあげられそうになりながら必死に岩にしがみついて堪えた。吹き荒れたのは一瞬だったが、その威力は凄まじいものだった。

嵐が止んだ後、俺の良く知る司馬さんの姿はそこになかった。代わりにそこにいたのはメタルヒーローを思わせるような真っ黒な光沢のある全身鎧を身に纏った姿に変貌した司馬さんだった。


「し、司馬さん、その姿は。」

(ダインスレイブ。太古の神を屠るために愚かな人間が作り上げた呪われた神話級武具さ。)


フルフェイスの兜に遮られてその表情を見ることはできないが、鎧の内部から響き渡るのは俺の良く知る司馬さんの声だった。兜の奥から真っ赤に発光する目が俺をチラリと見る。状況についていけていない俺を置き去りにして司馬さんは大地を蹴った。瞬間、凄まじい爆風が巻き起こる。まるで一条の光のごとき速さで司馬さんはデモンズスライムの元に飛び去って行った。槍というよりミサイルのような勢いだった。一番自重する必要があるのは実はあの人じゃないんだろうか。引きつる俺に隣にいたワンコさんが茫然と司馬さんが飛んでいった方向を眺めていた。若干放心しているようにも見えたので声をかけてみると我に帰ったようだ。


「ワンコさん、大丈夫ですか。」

「ああ、司馬さんがあれほどとは思っていなかったものでな。なんだ、あれは。まるで人間兵器じゃないか。」

「ワンコさんはそういうの持ってないんですか。」

「ああ、そうか。私も固有装備を解除する必要があるな。おいで、剣狼、虎狼。」


ワンコさんがそう言った瞬間に天空から黒い狼と白い狼を模した闘気の塊が舞い降りる。それらはお互いを追うように空を舞った後に地面に落下した。闘気が晴れた後にそこには鞘に収まった二振りの刀が突き刺さっていた。ワンコさんはそれを無造作に引き抜くと愛おしそうに胸の前で抱きしめた後に呟いた。


「おじいちゃん、師匠、力を貸してください。」


恐らくあの刀はワンコさんのおじいさんとお師匠さんから譲り受けたものなのだろう。ワンコさんは構えを解いた後にアイテムボックスの中から取り出した専用のベルトを腰に身につけると刀をそこに差した。その後でこちらを向いて何かを放り投げた。

落とさないように受け取って手の中を見ると何かのカードのようだった。


「これはなんですか。」

「それは君の専用の装備が入ったギフトカードだ。カードをクリックすると質問が出るから装備すると宣言すればいい。」


言われるままにカードの表面を触ってみるとWMDと書かれたロゴが空中に現れる。

『WMD専用データベースにようこそ。ゲストの方ですね。専用戦闘服をご要望ですか。』


戸惑う俺にワンコさんが黙って頷く。言われるままに俺が頷くと光の粒子が俺の身体を包み込んだ。次の瞬間に俺は絶句した。全身タイツのような真っ赤な戦闘服に身を包んでいたからだ。目と鼻と口に穴が開いている以外はどこにも穴が開いていない。トイレに行く時とかどうするつもりだ。というか、どう見ても悪の戦闘員の姿にしか見えないじゃないか。その上、サイズが合っていないためにお腹のあたりがはみ出てへそと腹の肉がはみ出てしまっている。ワンコさんはそんな俺の姿を見て「予想以上に似合わないな」と呟いてから慌てて口を押えた。どうやら心の声が漏れてしまったのだろう。うう、いいわい。どんな格好をしようと防御力がもらえるならばそれでいい。

服の装備が終わってもデータベース画面は閉じなかった。代わりに表示されたのはどのような武器を使うのかという質問画面だった。膨大な数のあるリストの中から俺は一つの武器を選んだ。その選択にワンコさんが軽く驚く。


「本当にそれを選ぶのか。」


その質問に俺は黙ってうなずいた。




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