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第二十二話 ~ミカヅキさんの銭湯~



***




「まあ………お客さんはいないし、家族同然の弟子だけだから混浴でも問題ないんだけどな………」


弟子に不純な気持ちなんて持ちませんよ?

というか俺の好きな女性はヴィヴィただ一人だ。いや、もちろんその生き方が綺麗な人には惹かれますけども。でもそれは人間的魅力に感じ入っているだけだからな、恋愛感情はぶれないしな。

―――恋愛感情が一人にしか向けられないってことと欲情しないかどうかは別問題だろ、というツッコミは今回はスルーしまーす。


「とはいえ、服を脱ぐのはちょっと抵抗あるなぁ」


あんまり人に肌を見せる習慣自体無かったしな。

ハナさんとサツキちゃんには思いっきり見られたけど、あれはしょうがないというかなんというか。

俺の身体はヴィヴィの模してはいるが、詳細に注目すれば若干ではあるが形状が異なるため、実は意識をし過ぎると初恋の女性によく似た身体になった自分という不思議な感覚を味わう羽目になる。

深く考えすぎると沼に嵌って精神的な苦悩を背負い込むことになるのであまりその辺は考えないようにしているんだけどな。結局姿かたちを似せても、心の違いで完全に別人だってことである。


「よい、しょ………あれ、ルートちゃん。脱がないんですか?」

「あー。んー、ちょっとな」


フィールドワークも終わったためナフェリアはルートちゃん呼びに戻っている。

実は距離の近さを感じるその呼び名は気に入ってたりもするんだがそれはさておき。

流石にな、年頃の少女の裸体を中身おっさんの俺が不用意に見るわけにもいかないし、ちょっと時間をずらしてはいることにしようか。


「よし。ナフェリア、先入ってていいぞ。俺は後から―――」


我ながら良い案だと思ってそう提案し、ナフェリアの顔を見上げると、驚愕の後に段々と涙目になっていく様子が俺の目に飛び込んできた。………え、何故?


「え、えっと………もしかして、わ、私と入るのは………嫌なのでしょうか………」

「うえ?!いや、そういうわけでは無いぞ!」

「じゃ、じゃあ一緒に入りましょう………私、ここの使い方、分からないです………」

「あー。あー、うん」


そういえばナフェリアはこの銭湯に来るの初めてなんだった。そりゃ一人放り出されたらちょっと困るよな。

使い方自体はフェツフグオルに普遍的にある公衆浴場とほぼ一緒………というかミカヅキさんがこのあたりの地域に合わせた規則へと変更している。誰にでも使いやすいようにということだけど、気づかいすごいよなああの人………なので、教えることもあまりないのだが、それでもよく分からない場所にいるっていうのだけでちょっとプレッシャーになるものなのである。俺もその気持ちよくわかる。

―――ええい、男らしく腹をくくらねば。ごめんね!本当は男の俺が一緒の風呂に入ることになって本当にごめんね、ナフェリア!


「とうっ!!」


思い切って服を脱ぎ捨て、脱衣所の籠の中に放り込む。

あまり意識をしないようにしつつ、ナフェリアの手を掴んで曇りガラスの戸を横に開いた。


「………あ、いい匂い、です………」

「香油を入れてあるんだよ。いや、正確には入浴剤だったか?」


ミカヅキさんやハナさんの故郷だと火山活動が活発で自然に温泉が湧き出ているため、それを活用しているらしいんだが、フェツフグオルでは深部の森のような特殊環境下でなければ温泉は湧き出ていない。

街のできる場所が人間がこの世界で普通に暮らせる自然環境に限られているためである。

もちろん街によっては温泉がある所もあるけどな。この街に関してはない、という話。

その代わりフェツフグオルは食糧供給が安定していて、貧民街でも餓死者が少ないという利点がある。農作物の育ちがいいからな。森も近くて命核解者が多いってのも理由の一つ。俺たち命核解者は研究に生きる変人だけど、人に頼まれて物を作ることも意外と多い。

その場合の多くは、農作物の育ちをよくするための肥料だ。研究は最終的に人々を豊かにする―――命核解者が厄介がられても迫害されないのは、そういう側面があるからなのだ。

と、話が逸れたかな。

そういうわけで温泉がないこのフェツフグオルで銭湯をするために、ミカヅキさんやハナさんが編み出したのが極東の温泉成分を生み出す特殊な入浴剤を入れるという手法なのである。

香りに関してはこの地域の人に合わせてハーブを調合したものだ。本場だと硫黄の匂いとか強いらしいけど、基本的に硫黄の匂いって好まれないからなぁ。

あ、フェツフグオルの公衆浴場はただお湯を沸かしただけのものなので、健康にいいのは断然こっちである。疲労回復には本当にもってこいなのだ。


「代わりに傷には染みるけど………」


不老不死の身体を手に入れている俺には関係ないけどな。


「えっと、それで………どうすればいいのでしょう………」

「ああ、まずは身体を洗って、あとは普通に湯船につかればオッケーだ。あまり長く浸かると湯あたり起こすから注意な」

「わ、わかりました………」

「あっちのシャワーを使うんだ。一緒に行こうか」


指さしたのは壁からシャワーヘッドが飛び出ている場所。

ホースなどを使ったタイプのものではない。年季の入っているこの銭湯は全体的に構造が古いのである。そこが味が出ていいって人もたくさんいるけどな。俺もその一人だし。


「下にある栓をひねると、上からお湯が出てくるからこれで髪と身体を洗うんだよ。あ、床に置いてあるのが洗髪剤とかね」

「な、なるほどです………よいしょ」

「………う」


屈んで洗剤を手に取ったナフェリアの格好がやっぱりなんというか、えっちなんだよなぁ………。

身体つきが凄い健康的というか、出ている所は出ている女性らしいものなのでどこを見ても目のやり場に困る。

いや、本当にすごいんですよ、うちの弟子。

背は高いし、胸は大きいし、腰は括れていて細いし、お尻も柔らかそうだけど引き締まっているし………普段から気を使っていることが見て取れる。

気を使うことが当たり前になっている、の方が正しいかもだけどな。


「ルートちゃん、どうかしましたか?」

「いや、綺麗な身体だなぁって………あ」


しまった、思わず本音を言ってしまった!

立ち上がったナフェリアが若干恥ずかしそうに頬を染めていた。


「………あ、ありがとうございます………。でも、綺麗さで言ったらルートちゃんも同じです………」

「あはは、まーそう言って貰えるのはお世辞でも嬉しいぞ」


うん、頑張って綺麗に作ったからな、この身体。

製作者目線では褒めて貰えるともちろんうれしい。丹精込めてデザインした甲斐があったというものだ。


「しかし、胸はもうちょっと大きくても良かったかな………背も………うーん………」


不老不死である以上、この身体に成長はない。魂も完全に定着しているため、もう身体の移し替えも不可能だ。

精々、髪や爪などが伸びるくらい。なので、女性らしさにはちょっと憧れる―――って、こういうと俺が心まで女になっているみたいだな。そういうわけでは無くてな。こう、あの、そう。心理的には彫刻を作る感じに近いんですよ。


「いえ、ルートちゃんは………もう、今の時点でとっても綺麗です………背は小さいですけど、頭身はとってもそろってて………足長いですし………」


ナフェリアの洗剤でちょっとぬるっとした指先が、俺の太ももを優しく撫でる。


「ナ、ナフェリア………?」

「腰つきも淡く括れていて………少女らしいのに、艶っぽさも感じさせます………胸は柔らかみを帯びてて………」

「ひぁっ!?」


ちょ、触られたらなんか変な声出た!というか胸触らないでくれナフェリア―――!!


「首から肩のラインも、精緻な彫像みたいです………」


顔を近づけたナフェリアの息が首に当たる。それと同時に大きな胸が俺の腕やら胸やらに当たって、ちょっとこれは、まずいのでは?

なんか息が上がってきたんだけど、えっと、えっと?………段々と混乱してきて、頭の中で変な思考がぐるぐる回る。

―――つまりだな。えっと?!なんだ!この状況………!!?










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[一言] キマシタワー! とまどってるルートちゃん可愛い! ナフェリアいいぞもっとやれ
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