第二十一話 ~探索からの帰還とお風呂~
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行きが大変だった分、帰りはサクサク進んだ。
ハナさんたちの故郷だと行きはよいよい帰りは恐いっていう言葉があるそうだが、幸運にも今回は逆だったらしい。ま、帰りは楽な方が良いよな。
「これからはあの洞窟を拠点にして深部の森を探索することになるから、安全ルートの確立もしておかないとな」
「先生もあまり、たくさんフィールドワークをしているわけではない………のですか?」
「ああ。普通に危ないからな、命核解者でもあまりにも頻繁に深部の森の探索をするやつはそうそういないんだよ」
というか、探索ばかりしていると今度は研究が進まないからなぁ。
そして、貴重な素材が多い深部の森であるが、研究とは地道な作業の積み重ねである。貴重な素材だけがあればいいというわけでは無く、塩酸を始めとした基礎素材も必須だ。
そのため命核解者は街の近くの森にも足を運ばなければならず、それで時間を喰われるために尚更、深部の森だけに行くという選択を取れないのである。
………まあ、お金が潤沢な命核解者であれば専用の探検家を雇って素材集めの代行をするらしいけどな。
世界には凄腕の探検家が一定数おり、その中でも一握りの人間が持つ戦力は一都市分に相当するやつもいる。
有り体に言って怪物だな。単純に戦闘技術が凄い人とか、元命核解者とか、亜人種で特に強い力がある人間だとか………各々強い理由は様々だけど、師匠と引き分けるレベルの強さがあるって時点で驚きである。
かつて一度だけ見た、探検家だという亜人の女性の姿を思い出しながら進んでいると、深部の森と近郊の森を分ける境界までたどり着いた。
「帰りは何もなくて良かったです………」
「そうだなぁ。研究素材もたくさんそろったし、しばらくはいい研究が出来そうだ」
街の商人から研究材料を買う、というもの手ではあるんだが、あれって割とリスキーなんだよな。
いや、正確にいえば危険というよりは、ギャンブルに近いところがあるため避けたいというのが本音だ。
魔女の森近くに落ちてたっていう石も調べてみたら本当にただの石だったしな。そういうことが多いので、お金の無駄で終わらないように材料は自分の手で集めるのが良いのである。
さて、近郊の森までくればもう街はすぐそこだ。だが、探索はしっかりと無事に家に帰るまで、である。
気を緩めないようにナフェリアに注意しながら、帰路を辿るのであった。
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「たくさん、とれましたね………」
「これだけあれば一か月は探索に行かなくて良さそうだ。やっぱり二人だと持ち帰れる量が多くて助かる」
「その分、材料消費も二倍ですけどね………」
「それはそれだ。というか、研究は基本時間かかるからな」
師匠とかヴィヴィと同じレベルの天才であるナフェリアならば、もしかしたらすぐに消費しきってしまうかもしれないが。
本人の素質次第………本質を見抜く力の差異によって研究効率って随分と変わるからな。
あ、俺?俺は実はあまりその力はないのだ。特定の事柄においてのみ、積み重ねることによって天才と同レベルの見識を得られる………みたいな感じらしい。師匠曰く、だけどな。
「でも、まずは―――疲れたなぁ~。お風呂はいろ………」
「………お風呂、ですか。お風呂、お風呂………」
「うん?ああ、お風呂だよ」
「家にお風呂。………あったの、ですか………?」
「いや、違う違う。家にはないよ」
その代わり、借家に住んでいる人なら格安で使える温泉施設があるのである。ハナさんの商売仲間の人がやっているお店で、確か銭湯とかいったかな。
銅貨一枚で一日中、温泉入り放題っていうんだからお金のない俺みたいな貧乏人には助かる。
「近くに銭湯っていう所があるんだ。俗にいう公衆浴場っていうやつだな。………興味あるのか?」
「は、はい………でも、公衆浴場………人がたくさんいるのでしょうか………」
「んー」
どうだろうか、このフェツフグオル第三外縁には幾つか公衆浴場があるが、俺がいつもお世話になっている所はかなり奥まったところにあり、俗にいう人があまり来ない隠れ家的なものなのだ。
なので、人が多いか少ないかでいえば少ない。
………テルマエ形式のものではなく、ハナさんの出身国の公衆浴場をイメージして作ってあるため雰囲気が独特でとても良い場所なんだけど、店の存在に気が付かない人が多いんだよなぁ。
と、話が逸れたか。
「多分ナフェリアが普通に想像している公衆浴場よりはずっと少ないと思うぞ」
「そ、そうなんですね………そっか………」
「行ってみるか?」
「………の、覗くだけで………」
年頃の少女である、まあ人に裸を見られるのは忌避感あるよな。
顔を若干赤くしているナフェリアに微笑みつつ、提案する。
「じゃあ、店の雰囲気だけ見てみようか」
「は、はい………!」
―――ところで、ふと疑問が沸いたんだけど。
俺って、今はどっちのお風呂に入ればいいんだろうか。
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「いらっしゃい。ハナから話は聞いてるよ、オルトだろ。さっさと女湯に行きな」
「………あ、はーい」
ということで家から出て第三外縁の裏路地へと入り、雑に敷き詰められた御影石による道を辿ること数分。
視えてきた暖簾を超え、横開きの扉をスライドさせれば、正面にいたのは猫耳を持つ妙齢の女性だった。
………亜人種、それも極東に住まう”猫又種”と呼ばれる人種の女性だ。フェツフグオルにも猫耳を持つ亜人種はいるんだが、”猫又種”は尻尾が二本あるのが一番の特徴だな。
「さすが、話が早いっすね………ミカヅキさん」
銅貨を二枚、番台の女性、ミカヅキさんに渡し、苦笑いをする。それに対してふん、と息を吐くと、
「ハナを鍛え上げたのはオレだぞ。あいつの持つ情報程度なら全て認識している」
「………ですよねー」
一つ情報を加えるのを忘れていた。
”猫又種”にはもう一つ種族としての特徴がある。それは、なんと”猫又種”は”エルフ種”と同等の寿命を持つという点だ。つまりはものすごく長生きなのである。
”エルフ種”はその長寿故に不老不死を解き明かすための材料として命核解者………いや、命核解者へと名を変える前の錬金術師たちに刈り取られ、奴隷として扱われた過去があるため人間を嫌っているが、”猫又種”も同じように普通の人間を嫌っている。
理由も同一だ。
彼らの多くは人間との接触を避けるために深部の森の奥深くといった、人間と接触しなくて良い”里”と呼ばれる場所に隠れ住んでいるのだが、稀にその”里”を飛び出し、人間世界を旅する存在もいる。
ミカヅキさんはそんな、”里”を飛び出した”猫又種”の一人なのである。
―――ちなみにだが、かなり強いんだよな、この人。
今の時代でも”猫又種”を始めとした長寿の種族は危険思想を持つ命核解者からはターゲットになるのだが、その悉くを返り討ちにしているのがこのミカヅキさんだ。流石は長いこと商人として世界中を放浪していただけのことはある。
「あ、他にお客さんいます?」
「いない。お前たち二人だけだ」
「ならよかった。この子、ナフェリアっていうんですけど………俺の初弟子なんです」
「知ってる。………ふん、その目は見え過ぎる、注意しろよ」
命核解者に狙われ過ぎたが故に命核解者の事を深く知っているミカヅキさんがナフェリアの瞳を見てそう警告した。
………見え過ぎる、か。
「は、はい………?」
当の本人は首を傾げていたが、まあ仕方がない。ミカヅキさんは多分、ナフェリアに言っているように見せて本当は俺に言っているんだろう。
しっかりと導けよってことだろうな。
頑張ります、と心の中で返しながらお風呂場に入ろうとすると、
「そっちは男湯だ馬鹿。女湯に戻れ。客がいなくても混浴は許さん」
「………あ、はーい」
残念、駄目でした。
―――というか、この場合だと俺がナフェリアと一緒に入る方が混浴判定食らいそうなんですけどね、なんで女湯に通されるんですかね俺!
まあ、ハナさんの師匠であるミカヅキさんには俺なんかが口でも度胸でも勝てる筈もなく、言われた通り女湯に向かったのだった。




